2019(02)
■再起 ~抜け駆けの月曜日~
++++
「あ~さ~か~ク~ン、お~は~よ~」
金曜日に熱中症をやらかして、休養に充てた土日を経て今日に至る。ステージ前最後の一週間。星ヶ丘大学では先週の金曜からテスト期間に入っていて、今週も引き続きテスト週間だ。とは言え俺と山口はテストのない講義ばかり履修しているから、レポート提出を除けばあとは自由だ。
俺たちはテスト期間中の日中に動く作戦を取ることになっている。俺たちのテストがないのと、俺たちの妨害をしてくる日高がテストで手一杯なのと、という事情だ。日高の目さえなければ俺たちに対する監視網や妨害の手は緩まる。その隙にやることをやってしまうのだ。
戸田と源は1、2年だから授業コマ数もまだまだ多い。だけど使う音や道具などは今日に至るまでにほぼほぼ揃えてくれたし、後は台本に沿った練習が主になる。源に大きく影響を及ぼすような台本の変更はするなと戸田から釘を刺されているし、俺もそれには納得をして変更は些細な点に収めるつもりだ。
「ああ、山口。本当に8時半に迎えに来たな」
「朝霞クン、体調はどう?」
「まあ、現状何ともないとは。ただ、いきなり長時間屋外での活動って言われると少し怖いな」
「大丈夫、ちゃんと休憩も挟むし」
「――って、何で俺が采配されてんだ。しっかりしろ」
両の手で挟み込むようにパチンと頬を叩く。それにしたって俺は本当にPとして、班長として本当に未熟だ。ファンフェスの件で学習したはずなのに、また席を空けてしまった。年度に2回も離脱する班長なんかいるか? そういないだろう。それも自滅で。
「ところで朝霞クン」
「ん?」
「丸の池の現地に行く? 何だかんだ金曜日リハ出来てないんだ」
「ああ、そうだな。簡単に流れを掴むだけでもやっとくか」
「それじゃあ行こうか」
「チャリで行くか? ハブあるし2ケツで」
「電車にしとこうよ。いくら15分くらいしかかからないって言っても朝霞クン病み上がりだし、冷房の効いた地下鉄の方がいいでしょ、帰りのことを考えたら。それに、2人乗りなんかしてケーサツのお世話になってもイヤだし」
「それもそうか」
丸の池公園までは何気に距離があるし、体力のことを考えたら確かに山口の言うことが正しい。一度握ったハブステップを引き出しに戻して、カバンの支度をする。家から出て、駅はすぐそこだ。地下へ潜ると生温い風が吹き抜ける。
電車の待ち時間や地下鉄に乗っている間も無駄にはしない。俺がいなかった間に何があったかなどを確認する時間に充てていく。金曜日のリハはそこまでガチガチにやらないとは聞いていたけど、それでもどんなことをやっていたのかは把握しておかないといけない。
「金曜のリハで何か変わったことはあったか?」
「朝霞クンが倒れたこと以外に?」
「お前……」
「ゴメンゴメン。えっとねえ……あっ、そうそう。金曜日じゃなくて土曜日の話になるんだけど、スガノ君がね、基本俺たちがやるような仕事を手伝ってくれてたな~。みんなで飲むスポドリとか運んでくれたり、PA用のテント立ててくれたり」
「菅野が? 幹部系の班長が雑用をやってたっていうのか」
「うん。理由とかはわかんない。俺たちも仕事の後は買い出しとか、人の目のないところで活動してたから」
「一応警戒、するべきか…?」
「ううん、スガノ君に悪意はないよ。部では立場が違うけど、IFサッカー部で一緒にやってる仲間だもん、保証する」
「まあ、悪意があったら俺を介抱してくれたりはしないか。人を疑ってかかるのは悪い癖だな」
「疑わないと生きられない世界だからしょうがないよ。外へのいい顔は俺がやるから、朝霞クンはステージに集中して」
「それを言うなら、外への応対は俺がやるからお前はステージに集中しろ」
菅野の動きが若干気になるところではあるが、今回のところは純粋な善意か心変わりだと思っておくことにしよう。この週末で俺たちの進捗は遅れている。他の班や他の奴のことに気を取られている場合でもない。ステージに集中だ。
地下鉄で6駅、11分。丸の池公園駅に降り立つ。駅の中は蒸し暑いけど、外は本気で暑い。帽子は被ってるし、その上さっき山口から日傘を持たされ、携帯扇風機を首にかけられたけれどもだ。と言うかコイツどんだけ用意してんだ。でも悪くないなこれ。とは言え部の全体活動の時にしてたら没収されるな。
公園を少し歩いて辿り着いたのが、俺たちがイベントを行う野外ステージだ。ここではアマチュアバンドがライブをやっていたり、その他にも様々なイベントが行われている。今だと夏休みの期間だから、何もやってない時の方が少ないかもしれない。
「確認すべきことは去年からの変更点、各位置からのステージの見え方、音の聞こえ方。それから、座った時にどう見えるか。あとは」
「アナウンサーがどうやって人を巻き込んでいくか」
「だな」
「ステージの大きさは変わることじゃないから問題ないが、音の聞こえ方が確認出来ないのが辛いな」
「朝霞クン、ちょっとそこのベンチに座ってて」
「ああ」
俺に木陰のベンチに座るよう指示すると、山口はステージに向けて駆けていく。「いよっ」という声とともに軽やかに壇上に降り立つ。今は舞台設置もされていないから、音もなく、人もいない。だけど、山口は人のいないステージでもその場所に立つと気分が高揚するんだそうだ。
「朝霞ク~ン! ど~お~!?」
後ろの方の席から見ていても、ブンブンと大きく手を振る山口の姿はよくわかる。元々動きがオーバーなタイプのアナウンサーだから、距離があっても何をしているのかはよくわかる。声に関しては、当日はマイクがあるから問題ない。
「ああ、問題ないぞ!」
「それはそれで、つまんないよね~!」
「それじゃあ、そのまま流れの確認に行くか」
「待ってました!」
end.
++++
今年は朝霞Pが熱中症で倒れた件をスガPの語りだけでサクッと済ませてしまったのですが、復帰はしっかりとしていくよ!
というワケで洋朝の2人リハーサルです。でも実際金曜日に正規のリハがあってもやらせてもらえなかっただろうから、抜け駆けするくらいでちょうどいい
本当は2人乗りの洋朝が見たかったんだけど、洋平ちゃんがまともな感性をしていたので止めてくれました……くっ
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「あ~さ~か~ク~ン、お~は~よ~」
金曜日に熱中症をやらかして、休養に充てた土日を経て今日に至る。ステージ前最後の一週間。星ヶ丘大学では先週の金曜からテスト期間に入っていて、今週も引き続きテスト週間だ。とは言え俺と山口はテストのない講義ばかり履修しているから、レポート提出を除けばあとは自由だ。
俺たちはテスト期間中の日中に動く作戦を取ることになっている。俺たちのテストがないのと、俺たちの妨害をしてくる日高がテストで手一杯なのと、という事情だ。日高の目さえなければ俺たちに対する監視網や妨害の手は緩まる。その隙にやることをやってしまうのだ。
戸田と源は1、2年だから授業コマ数もまだまだ多い。だけど使う音や道具などは今日に至るまでにほぼほぼ揃えてくれたし、後は台本に沿った練習が主になる。源に大きく影響を及ぼすような台本の変更はするなと戸田から釘を刺されているし、俺もそれには納得をして変更は些細な点に収めるつもりだ。
「ああ、山口。本当に8時半に迎えに来たな」
「朝霞クン、体調はどう?」
「まあ、現状何ともないとは。ただ、いきなり長時間屋外での活動って言われると少し怖いな」
「大丈夫、ちゃんと休憩も挟むし」
「――って、何で俺が采配されてんだ。しっかりしろ」
両の手で挟み込むようにパチンと頬を叩く。それにしたって俺は本当にPとして、班長として本当に未熟だ。ファンフェスの件で学習したはずなのに、また席を空けてしまった。年度に2回も離脱する班長なんかいるか? そういないだろう。それも自滅で。
「ところで朝霞クン」
「ん?」
「丸の池の現地に行く? 何だかんだ金曜日リハ出来てないんだ」
「ああ、そうだな。簡単に流れを掴むだけでもやっとくか」
「それじゃあ行こうか」
「チャリで行くか? ハブあるし2ケツで」
「電車にしとこうよ。いくら15分くらいしかかからないって言っても朝霞クン病み上がりだし、冷房の効いた地下鉄の方がいいでしょ、帰りのことを考えたら。それに、2人乗りなんかしてケーサツのお世話になってもイヤだし」
「それもそうか」
丸の池公園までは何気に距離があるし、体力のことを考えたら確かに山口の言うことが正しい。一度握ったハブステップを引き出しに戻して、カバンの支度をする。家から出て、駅はすぐそこだ。地下へ潜ると生温い風が吹き抜ける。
電車の待ち時間や地下鉄に乗っている間も無駄にはしない。俺がいなかった間に何があったかなどを確認する時間に充てていく。金曜日のリハはそこまでガチガチにやらないとは聞いていたけど、それでもどんなことをやっていたのかは把握しておかないといけない。
「金曜のリハで何か変わったことはあったか?」
「朝霞クンが倒れたこと以外に?」
「お前……」
「ゴメンゴメン。えっとねえ……あっ、そうそう。金曜日じゃなくて土曜日の話になるんだけど、スガノ君がね、基本俺たちがやるような仕事を手伝ってくれてたな~。みんなで飲むスポドリとか運んでくれたり、PA用のテント立ててくれたり」
「菅野が? 幹部系の班長が雑用をやってたっていうのか」
「うん。理由とかはわかんない。俺たちも仕事の後は買い出しとか、人の目のないところで活動してたから」
「一応警戒、するべきか…?」
「ううん、スガノ君に悪意はないよ。部では立場が違うけど、IFサッカー部で一緒にやってる仲間だもん、保証する」
「まあ、悪意があったら俺を介抱してくれたりはしないか。人を疑ってかかるのは悪い癖だな」
「疑わないと生きられない世界だからしょうがないよ。外へのいい顔は俺がやるから、朝霞クンはステージに集中して」
「それを言うなら、外への応対は俺がやるからお前はステージに集中しろ」
菅野の動きが若干気になるところではあるが、今回のところは純粋な善意か心変わりだと思っておくことにしよう。この週末で俺たちの進捗は遅れている。他の班や他の奴のことに気を取られている場合でもない。ステージに集中だ。
地下鉄で6駅、11分。丸の池公園駅に降り立つ。駅の中は蒸し暑いけど、外は本気で暑い。帽子は被ってるし、その上さっき山口から日傘を持たされ、携帯扇風機を首にかけられたけれどもだ。と言うかコイツどんだけ用意してんだ。でも悪くないなこれ。とは言え部の全体活動の時にしてたら没収されるな。
公園を少し歩いて辿り着いたのが、俺たちがイベントを行う野外ステージだ。ここではアマチュアバンドがライブをやっていたり、その他にも様々なイベントが行われている。今だと夏休みの期間だから、何もやってない時の方が少ないかもしれない。
「確認すべきことは去年からの変更点、各位置からのステージの見え方、音の聞こえ方。それから、座った時にどう見えるか。あとは」
「アナウンサーがどうやって人を巻き込んでいくか」
「だな」
「ステージの大きさは変わることじゃないから問題ないが、音の聞こえ方が確認出来ないのが辛いな」
「朝霞クン、ちょっとそこのベンチに座ってて」
「ああ」
俺に木陰のベンチに座るよう指示すると、山口はステージに向けて駆けていく。「いよっ」という声とともに軽やかに壇上に降り立つ。今は舞台設置もされていないから、音もなく、人もいない。だけど、山口は人のいないステージでもその場所に立つと気分が高揚するんだそうだ。
「朝霞ク~ン! ど~お~!?」
後ろの方の席から見ていても、ブンブンと大きく手を振る山口の姿はよくわかる。元々動きがオーバーなタイプのアナウンサーだから、距離があっても何をしているのかはよくわかる。声に関しては、当日はマイクがあるから問題ない。
「ああ、問題ないぞ!」
「それはそれで、つまんないよね~!」
「それじゃあ、そのまま流れの確認に行くか」
「待ってました!」
end.
++++
今年は朝霞Pが熱中症で倒れた件をスガPの語りだけでサクッと済ませてしまったのですが、復帰はしっかりとしていくよ!
というワケで洋朝の2人リハーサルです。でも実際金曜日に正規のリハがあってもやらせてもらえなかっただろうから、抜け駆けするくらいでちょうどいい
本当は2人乗りの洋朝が見たかったんだけど、洋平ちゃんがまともな感性をしていたので止めてくれました……くっ
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