2019(02)
■after midsummer day of the ox
++++
「菜月さん、いるかい?」
「ああ、圭斗。どうしたんだ、実家に帰ってたんじゃないのか」
「ちょうど戻って来たところでね。頼まれていた物を買って来たから、それを渡しに来たんだよ」
「明日でもよかったのに」
「なるだけ早い方がいいと思ったんだよ。一応賞味期限のあるものだしね」
「それはお気遣いどーも」
圭斗がうちを訪ねて来た。うちはと言えば、圭斗が来るなんて思ってもないから髪は手櫛でざっくり結んだ上にメガネのままだ。それでもって、寝て起きたまま着替えてないから青い部屋着のまんまで。まあ、圭斗はそこまで肩肘張る間柄じゃないけども、さすがにラフ過ぎるとも思う。
うちに手渡されたのは“うなぎのたれ”だ。話せば長くなるけど、圭斗は無駄にウナギに気合を入れている。アイツの地元、山羽エリア湖西市は全国でも有数のウナギの産地だ。それが誇りなのだろう、せめて丑の日だけでもとわざわざウナギを食べるためだけに実家に帰るのだ。
スーパーを見歩いていても、土用の丑の日だ何だとウナギならびにその代用品が所狭しと並んでいた。うちはウナギをあまり食べないから、そのコーナーはスルーしていたんだけど。ウナギってかば焼きの他に調理法がないような気がする。うちの知識が貧弱なだけかもしれないけど。
でも、あのたれは本当に美味しいと思う。甘くどくて、ご飯に合う。うちはあまり白いご飯を食べないけど、味が変われば話も全く変わって来るんだ。さすがに「白飯を食わねえと飯を食った気にならない」とかいう大飯喰らいどものようにはいかないけど、丼一杯くらいなら食べられるようになるんだ。
「1本税込み108円です」
「えーと、3本だから324円だな。財布持ってくる。ちょっと待っててくれ」
圭斗には「ウナギを食べに行くならたれを買って来てくれ」と頼んでいた。去年お土産でもらったのが本当に美味しくて。去年は1本しかもらえなかったから、今年は3本頼んだ。たれに324円払うことでしばらくはご飯だけで食べて行けそうだな。買い物にも行かなくて済みそうだ。
「はい、324円」
「確かに」
「ウナギはどうだった」
「ん、変わらずに美味しかったよ。これでテストも乗り切れるような気がするね」
「うちはウナギよりアナゴの方が好きだなあ」
「穴子が好きで鰻は敬遠というのはまた意味がわからないね」
「何だろうな、何か違うんだよな」
「生物学的分類でも似てるはずなんだけどね。でも、味なんかは結構違うかもね。鰻は脂が乗って濃い感じがするし、穴子はあっさり系と言うか」
「へー」
栄養も豊富なんだよ、などと圭斗はウナギを食べることの利点を語る。でもうちにはウナギそのものよりもたれのほうが魅力的だ。それならウナギとアナゴの栄養面での違いも調べてみようとスマホをすいすいと操作する。アナゴもそこまで悪くないことがわかる。
「あー、そんなことを調べてたらアナゴが食べたくなってきた」
「まさか、僕のたれをアナゴに使わないよね」
「えっ、それすら許されないのか!?」
「白いご飯にかけるならともかく、鰻のたれを穴子に使うのはどうかと思うんだよ僕は。鰻に合うように作られている物だよ? 先に調べたように、味も結構違うじゃないか。穴子に使うのはお勧めしないよ」
「ええー……そこまでのこだわりとか、引くわー……」
「それは菜月さんが以前熱く語っていた緑風の二大おかき勢力の話に通じるところがあるよ」
「いや、おかきの銘柄は大事だろ」
「それと似たようなことだよ」
アナゴは覚えてたら明日スーパーとかに買いに行くことにして(今日はもう外に出たくない)、そうか、たれの使い道まで縛られてるのか。でも形から入りたがる圭斗が行く店ということはそれなりにいい店だろうし、指示通り白いご飯にかけとくか。
「でも、本当によくやるよな。ウナギを食べるためだけに実家に帰るとか」
「まあ、そこまで時間がかかるワケじゃないからね。高速なら1時間半もあれば着くし」
「1時間半ならちょっと行こうと思えば行けるな」
「それと、今回の一時帰省は鰻を食べるのもあったけど、実家の様子を見に行くというのもあってね。こないだ雨で避難勧告が出たし、顔でも出しとこうと思って」
「そっか、そう言えば。大変だったな。家や家族は大丈夫だったのか?」
「何ともなかったよ。お気遣いどうも。強いて言えば犬が一匹怖がってたくらいで、他には特に被害らしいそれもなかったよ」
「そう言えば動物屋敷だったな、お前の実家って。家に動物がいっぱいいたら、避難所とかに行くときはどうなるんだ?」
「犬が3匹に猫が7匹、他には……」
「あーもういい」
「ところで菜月さん、明日からテストだし、景気づけにラーメンでも食べに行かないかい?」
「お、いいな」
……と返事をしたところで思い出す。今の自分の格好だ。絶対に外に出ない、出たくないと思っていたから完全な休日ルックだ。でもラーメンは食べたい。それに、圭斗の車に乗れるならスーパーにも連れてってもらおう。アナゴのかば焼きでも売ってないかなあ。
「とりあえず、着替えるからちょっと待っててくれないか」
「車で待っていた方がいいかな?」
「あー……そうだな。顔を洗うところからスタートだし、悪いけど車で待っててくれ」
「顔まで洗ってなかったのかい? 休日とは言えさすがにだらしなさすぎないかな」
「休みだぞ。気合を入れる必要がどこにある。休みに人と話すことでも体力と気力が削がれるんだ」
「菜月さんには穴子よりも鰻で精を付ける必要があると思うけどね」
「何かしら苦手な要素があるんだろ。さ、出た出た。着替えられないじゃないか」
end.
++++
土用の丑の日関係の行事ならやはりこの人の話だろうと圭斗さんです。しかし台風大丈夫なんか向島は
夏とにょろにょろと言えば、菜月さんがサークル室でヘビを掴んでる話が思い出されますね。アナゴをうまうまする菜月さんの話もやりたい
にょろにょろの話をしてたのに菜圭の食事って結局ラーメンに落ち着くからどうしようもないねこの人たち
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「菜月さん、いるかい?」
「ああ、圭斗。どうしたんだ、実家に帰ってたんじゃないのか」
「ちょうど戻って来たところでね。頼まれていた物を買って来たから、それを渡しに来たんだよ」
「明日でもよかったのに」
「なるだけ早い方がいいと思ったんだよ。一応賞味期限のあるものだしね」
「それはお気遣いどーも」
圭斗がうちを訪ねて来た。うちはと言えば、圭斗が来るなんて思ってもないから髪は手櫛でざっくり結んだ上にメガネのままだ。それでもって、寝て起きたまま着替えてないから青い部屋着のまんまで。まあ、圭斗はそこまで肩肘張る間柄じゃないけども、さすがにラフ過ぎるとも思う。
うちに手渡されたのは“うなぎのたれ”だ。話せば長くなるけど、圭斗は無駄にウナギに気合を入れている。アイツの地元、山羽エリア湖西市は全国でも有数のウナギの産地だ。それが誇りなのだろう、せめて丑の日だけでもとわざわざウナギを食べるためだけに実家に帰るのだ。
スーパーを見歩いていても、土用の丑の日だ何だとウナギならびにその代用品が所狭しと並んでいた。うちはウナギをあまり食べないから、そのコーナーはスルーしていたんだけど。ウナギってかば焼きの他に調理法がないような気がする。うちの知識が貧弱なだけかもしれないけど。
でも、あのたれは本当に美味しいと思う。甘くどくて、ご飯に合う。うちはあまり白いご飯を食べないけど、味が変われば話も全く変わって来るんだ。さすがに「白飯を食わねえと飯を食った気にならない」とかいう大飯喰らいどものようにはいかないけど、丼一杯くらいなら食べられるようになるんだ。
「1本税込み108円です」
「えーと、3本だから324円だな。財布持ってくる。ちょっと待っててくれ」
圭斗には「ウナギを食べに行くならたれを買って来てくれ」と頼んでいた。去年お土産でもらったのが本当に美味しくて。去年は1本しかもらえなかったから、今年は3本頼んだ。たれに324円払うことでしばらくはご飯だけで食べて行けそうだな。買い物にも行かなくて済みそうだ。
「はい、324円」
「確かに」
「ウナギはどうだった」
「ん、変わらずに美味しかったよ。これでテストも乗り切れるような気がするね」
「うちはウナギよりアナゴの方が好きだなあ」
「穴子が好きで鰻は敬遠というのはまた意味がわからないね」
「何だろうな、何か違うんだよな」
「生物学的分類でも似てるはずなんだけどね。でも、味なんかは結構違うかもね。鰻は脂が乗って濃い感じがするし、穴子はあっさり系と言うか」
「へー」
栄養も豊富なんだよ、などと圭斗はウナギを食べることの利点を語る。でもうちにはウナギそのものよりもたれのほうが魅力的だ。それならウナギとアナゴの栄養面での違いも調べてみようとスマホをすいすいと操作する。アナゴもそこまで悪くないことがわかる。
「あー、そんなことを調べてたらアナゴが食べたくなってきた」
「まさか、僕のたれをアナゴに使わないよね」
「えっ、それすら許されないのか!?」
「白いご飯にかけるならともかく、鰻のたれを穴子に使うのはどうかと思うんだよ僕は。鰻に合うように作られている物だよ? 先に調べたように、味も結構違うじゃないか。穴子に使うのはお勧めしないよ」
「ええー……そこまでのこだわりとか、引くわー……」
「それは菜月さんが以前熱く語っていた緑風の二大おかき勢力の話に通じるところがあるよ」
「いや、おかきの銘柄は大事だろ」
「それと似たようなことだよ」
アナゴは覚えてたら明日スーパーとかに買いに行くことにして(今日はもう外に出たくない)、そうか、たれの使い道まで縛られてるのか。でも形から入りたがる圭斗が行く店ということはそれなりにいい店だろうし、指示通り白いご飯にかけとくか。
「でも、本当によくやるよな。ウナギを食べるためだけに実家に帰るとか」
「まあ、そこまで時間がかかるワケじゃないからね。高速なら1時間半もあれば着くし」
「1時間半ならちょっと行こうと思えば行けるな」
「それと、今回の一時帰省は鰻を食べるのもあったけど、実家の様子を見に行くというのもあってね。こないだ雨で避難勧告が出たし、顔でも出しとこうと思って」
「そっか、そう言えば。大変だったな。家や家族は大丈夫だったのか?」
「何ともなかったよ。お気遣いどうも。強いて言えば犬が一匹怖がってたくらいで、他には特に被害らしいそれもなかったよ」
「そう言えば動物屋敷だったな、お前の実家って。家に動物がいっぱいいたら、避難所とかに行くときはどうなるんだ?」
「犬が3匹に猫が7匹、他には……」
「あーもういい」
「ところで菜月さん、明日からテストだし、景気づけにラーメンでも食べに行かないかい?」
「お、いいな」
……と返事をしたところで思い出す。今の自分の格好だ。絶対に外に出ない、出たくないと思っていたから完全な休日ルックだ。でもラーメンは食べたい。それに、圭斗の車に乗れるならスーパーにも連れてってもらおう。アナゴのかば焼きでも売ってないかなあ。
「とりあえず、着替えるからちょっと待っててくれないか」
「車で待っていた方がいいかな?」
「あー……そうだな。顔を洗うところからスタートだし、悪いけど車で待っててくれ」
「顔まで洗ってなかったのかい? 休日とは言えさすがにだらしなさすぎないかな」
「休みだぞ。気合を入れる必要がどこにある。休みに人と話すことでも体力と気力が削がれるんだ」
「菜月さんには穴子よりも鰻で精を付ける必要があると思うけどね」
「何かしら苦手な要素があるんだろ。さ、出た出た。着替えられないじゃないか」
end.
++++
土用の丑の日関係の行事ならやはりこの人の話だろうと圭斗さんです。しかし台風大丈夫なんか向島は
夏とにょろにょろと言えば、菜月さんがサークル室でヘビを掴んでる話が思い出されますね。アナゴをうまうまする菜月さんの話もやりたい
にょろにょろの話をしてたのに菜圭の食事って結局ラーメンに落ち着くからどうしようもないねこの人たち
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