2019(02)
■くどい汚れの対抗策
++++
「おーい、いるかー?」
短いインターホンの後で、ドンドンと部屋のドアをノックする音。これだけで誰が来たかわかるのは少し便利だと思う。あまり待たせるとあの人は怒るから、作業をしていたモノを置いて軽く手を拭い、ドアを開ける。
「おう、おせーぞ」
「手が粉だらけだったんすよ」
「とりあえず、これ。冷やしといてくれ」
「あざす」
さも当然だと言わんばかりに高崎先輩は俺に袋いっぱいの缶ビールを預け、部屋へと上がる。あ、チーズも入ってる。これはちょっと嬉しい。そして高崎先輩の手にはピザの箱があった。バイト上がりに焼いて来てくれたのだろう。
今日は俺と高崎先輩との間で久々に部屋でサシ飲みをしようという話になっていた。高崎先輩のバイトが終わってからという話になっていて、俺は台所でちまちまと餃子を作っていたんだ。まあ、どうせ久々にやるならこれくらいはしておかないと。
「高崎先輩、コンロとフライパンセットしといてもらっていいすか。俺もうちょっと皮包まなきゃいけないんで」
「オッケ。その他の道具もあるなら貸してくれ、セットしとく」
「お願いします」
こうして俺の部屋で餃子を焼くときは、部屋に卓上コンロを持ち込んで焼きながら飲み食いをする形式が普通になっている。台所で焼いて部屋に持って行ってもいいんだけど、部屋でやる方が雰囲気が出るし楽しいっていうのもある。
それの問題点を挙げるとすれば部屋が油っぽくなると言うか、しばらく臭いが残ることかな。でも、そんなことは掃除で解決出来るからまあ大した問題ではない。でも、油汚れの対処が面倒なことには変わりないから、何とかしてそれを抑えられないかとは日頃から思っている。
「出来たっすよ。焼きましょうか」
「そうだな、頼む。あ、俺のピザもあるから食っていいぞ」
「あざっす。待ってる間に摘まませてもらいます」
フライパンの上に餃子を並べて焼いて行く。その間に冷蔵庫に入れていたビールを持って来たリ、ご飯をよそったり。案外やることは多い。あー、でもピザも美味しそう。あんま量食えないのが難点だけど、最低でも一切れは食べておきたい。
高崎先輩はピザ屋でバイトをしていて、たまに自分で食べるようのピザを社割価格で作って帰ってくることがある。それをこうやって俺にも差し入れてくれるんだけど、如何せんSサイズと言ってもピザって食ってると結構腹いっぱいになると言うか。飲み物も飲むからかな。だからあんまり量を食えないんだ。美味しいんだけどな。
「ん、うまっ」
「焼いてソッコー持って来たんだ、当たり前だろ」
「何かこの、ごく普通のマルゲリータがめちゃ美味く感じます」
「腹減ってんだろ」
フライパンにお湯を注ぐと、勢いよく一気に音と湯気が立つ。そう、この時に油が外に出て行ってるんじゃないかって気が気じゃない。まあ、掃除はするんだけど。
「それはそうとよ、こないだテレビで見たんだけど、家で焼肉とかやってるとどこでも油跳んだり終わってからも部屋が臭くなったりすんだろ」
「そっすね、マジ勘弁してほしいっす」
「それを防ぐ技っつーのをやってたぞ」
「マジすか! えっ、何すかソレ」
「ホットプレートで肉を焼くときは200度で焼くんだと。250度で焼いてると油のミストみたいになって空気中に浮遊すんだと。それを防げるのが200度らしい。でも、200度で焼いてると火力が足りなくて肉が美味く焼けねえ。だから何かプレートの上を箸で滑らすようにして焼くんだと」
「へー、そんな技があるんすね。でも、温度調節できるようなホットプレートが学生の部屋にあるのかっつー話ですけど」
「まあな。でもそれがあれば餃子もちょっとは焼きやすくならねえかと思う」
部屋が油っぽくなるその原理みたいな話をやってたそうなんだけど、焼く温度を低くすると出来たものの美味さが犠牲になるっていうのはちょっとな。どうせ俺は掃除をするんだから、それなら強い火力で一気に焼き上げて、美味いモンを食べたいかな。
でも、温度調節の出来るタイプの大きなホットプレートは確かにあると便利そうだ。普通の平たい鉄板の他にも波打った焼き肉プレートだとか、穴の開いたたこ焼きプレートとかいろいろ付いたのがあるんだよな。それらがあればやれることも増えるんだろうけど、学生の部屋に置く物かって。
いや、たこ焼き器は1人暮らしだと持っている率がまあまあ高い物らしい。俺と高崎先輩は持ってないけど、なっち先輩は持ってるって言ってたし。小さいホットプレートなら本当に簡単なので良ければ2000円も出せば買えてしまうもんな。ちょっと肉焼きながら飲む、とかが楽しそうだ。
「掃除が嫌いならその200度で滑らせながら焼くっつーのもまあアリなんでしょうね」
「でも俺はどうせ食うなら美味いのがいいし、ベーコンはカリカリにしたい」
「カリカリのベーコンを崇める宗教、でしたっけ」
「ああ、それだ」
「言って俺は掃除するんで多少の汚れはまあ」
「ぶっちゃけうちも既にヤニで結構アレだからな」
「高崎先輩、それ、ちょっとやらせてもらえません?」
「やらせてって、掃除をか」
「俺タバコ吸わないんでヤニ汚れとか付かないじゃないすか。ちょっとやってみたかったんすよね。掃除動画とか見てて俺もやってみたいなーって」
「まあ、掃除すんならやってくれていいんだけどよ。掃除動画…?」
「いろいろあるんすよ、動画サイトとかって。その中でお掃除チャンネルとかやってる人もいるんで、そういうので勉強したり」
とか何とか話していたら、餃子がいい感じに焼けていた。家に帰るまでが遠足ですよじゃないけれど、掃除を終えるまでがパーティーですよ、的なそんな。
end.
++++
毎度お馴染みL誕の小規模無制限飲みですね。高崎がピザを焼いて持って来たリ、Lが餃子を包んだりしています。
さて、今回の本題が恐らく油汚れのあれこれなんでしょうが、Lには「まあ俺は掃除するし」で片付く問題だったようです
たこ焼き器やホットプレートは小さいのが1000円から売っているので便利だなあと思います。
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「おーい、いるかー?」
短いインターホンの後で、ドンドンと部屋のドアをノックする音。これだけで誰が来たかわかるのは少し便利だと思う。あまり待たせるとあの人は怒るから、作業をしていたモノを置いて軽く手を拭い、ドアを開ける。
「おう、おせーぞ」
「手が粉だらけだったんすよ」
「とりあえず、これ。冷やしといてくれ」
「あざす」
さも当然だと言わんばかりに高崎先輩は俺に袋いっぱいの缶ビールを預け、部屋へと上がる。あ、チーズも入ってる。これはちょっと嬉しい。そして高崎先輩の手にはピザの箱があった。バイト上がりに焼いて来てくれたのだろう。
今日は俺と高崎先輩との間で久々に部屋でサシ飲みをしようという話になっていた。高崎先輩のバイトが終わってからという話になっていて、俺は台所でちまちまと餃子を作っていたんだ。まあ、どうせ久々にやるならこれくらいはしておかないと。
「高崎先輩、コンロとフライパンセットしといてもらっていいすか。俺もうちょっと皮包まなきゃいけないんで」
「オッケ。その他の道具もあるなら貸してくれ、セットしとく」
「お願いします」
こうして俺の部屋で餃子を焼くときは、部屋に卓上コンロを持ち込んで焼きながら飲み食いをする形式が普通になっている。台所で焼いて部屋に持って行ってもいいんだけど、部屋でやる方が雰囲気が出るし楽しいっていうのもある。
それの問題点を挙げるとすれば部屋が油っぽくなると言うか、しばらく臭いが残ることかな。でも、そんなことは掃除で解決出来るからまあ大した問題ではない。でも、油汚れの対処が面倒なことには変わりないから、何とかしてそれを抑えられないかとは日頃から思っている。
「出来たっすよ。焼きましょうか」
「そうだな、頼む。あ、俺のピザもあるから食っていいぞ」
「あざっす。待ってる間に摘まませてもらいます」
フライパンの上に餃子を並べて焼いて行く。その間に冷蔵庫に入れていたビールを持って来たリ、ご飯をよそったり。案外やることは多い。あー、でもピザも美味しそう。あんま量食えないのが難点だけど、最低でも一切れは食べておきたい。
高崎先輩はピザ屋でバイトをしていて、たまに自分で食べるようのピザを社割価格で作って帰ってくることがある。それをこうやって俺にも差し入れてくれるんだけど、如何せんSサイズと言ってもピザって食ってると結構腹いっぱいになると言うか。飲み物も飲むからかな。だからあんまり量を食えないんだ。美味しいんだけどな。
「ん、うまっ」
「焼いてソッコー持って来たんだ、当たり前だろ」
「何かこの、ごく普通のマルゲリータがめちゃ美味く感じます」
「腹減ってんだろ」
フライパンにお湯を注ぐと、勢いよく一気に音と湯気が立つ。そう、この時に油が外に出て行ってるんじゃないかって気が気じゃない。まあ、掃除はするんだけど。
「それはそうとよ、こないだテレビで見たんだけど、家で焼肉とかやってるとどこでも油跳んだり終わってからも部屋が臭くなったりすんだろ」
「そっすね、マジ勘弁してほしいっす」
「それを防ぐ技っつーのをやってたぞ」
「マジすか! えっ、何すかソレ」
「ホットプレートで肉を焼くときは200度で焼くんだと。250度で焼いてると油のミストみたいになって空気中に浮遊すんだと。それを防げるのが200度らしい。でも、200度で焼いてると火力が足りなくて肉が美味く焼けねえ。だから何かプレートの上を箸で滑らすようにして焼くんだと」
「へー、そんな技があるんすね。でも、温度調節できるようなホットプレートが学生の部屋にあるのかっつー話ですけど」
「まあな。でもそれがあれば餃子もちょっとは焼きやすくならねえかと思う」
部屋が油っぽくなるその原理みたいな話をやってたそうなんだけど、焼く温度を低くすると出来たものの美味さが犠牲になるっていうのはちょっとな。どうせ俺は掃除をするんだから、それなら強い火力で一気に焼き上げて、美味いモンを食べたいかな。
でも、温度調節の出来るタイプの大きなホットプレートは確かにあると便利そうだ。普通の平たい鉄板の他にも波打った焼き肉プレートだとか、穴の開いたたこ焼きプレートとかいろいろ付いたのがあるんだよな。それらがあればやれることも増えるんだろうけど、学生の部屋に置く物かって。
いや、たこ焼き器は1人暮らしだと持っている率がまあまあ高い物らしい。俺と高崎先輩は持ってないけど、なっち先輩は持ってるって言ってたし。小さいホットプレートなら本当に簡単なので良ければ2000円も出せば買えてしまうもんな。ちょっと肉焼きながら飲む、とかが楽しそうだ。
「掃除が嫌いならその200度で滑らせながら焼くっつーのもまあアリなんでしょうね」
「でも俺はどうせ食うなら美味いのがいいし、ベーコンはカリカリにしたい」
「カリカリのベーコンを崇める宗教、でしたっけ」
「ああ、それだ」
「言って俺は掃除するんで多少の汚れはまあ」
「ぶっちゃけうちも既にヤニで結構アレだからな」
「高崎先輩、それ、ちょっとやらせてもらえません?」
「やらせてって、掃除をか」
「俺タバコ吸わないんでヤニ汚れとか付かないじゃないすか。ちょっとやってみたかったんすよね。掃除動画とか見てて俺もやってみたいなーって」
「まあ、掃除すんならやってくれていいんだけどよ。掃除動画…?」
「いろいろあるんすよ、動画サイトとかって。その中でお掃除チャンネルとかやってる人もいるんで、そういうので勉強したり」
とか何とか話していたら、餃子がいい感じに焼けていた。家に帰るまでが遠足ですよじゃないけれど、掃除を終えるまでがパーティーですよ、的なそんな。
end.
++++
毎度お馴染みL誕の小規模無制限飲みですね。高崎がピザを焼いて持って来たリ、Lが餃子を包んだりしています。
さて、今回の本題が恐らく油汚れのあれこれなんでしょうが、Lには「まあ俺は掃除するし」で片付く問題だったようです
たこ焼き器やホットプレートは小さいのが1000円から売っているので便利だなあと思います。
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