2019(02)

■ギブ&テイクの大清算

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 さすがにテスト前ともなると、これまでサボっていた奴が復帰してきて学内に人が増える。飯を食おうと学食で座ろうにも一苦労だ。そんな中、テスト前恒例の作業をするため第2学食にやって来ていた俺と宮ちゃんは、丁度空いた2人掛けの席に滑り込んだ。
 机の上が若干汚かったが、宮ちゃんが台拭きを持って来て拭いてくれた。これでこれから始まる作業に向けての準備は出来た。学食に来たのは学食内のメニューを食べるためもあるが。それを誰がどのように負担するのかを決めるための作業がこれから始まる。

「さて! 高崎クン! 欲しいものを言ってください!」
「少年非行の社会学3回分」
「3回分でいいの?」
「それまでの分はその都度もらってたからな」
「ああそう。それじゃあ直近の3回分ね」
「それじゃあ、欲しい物を言ってみろ」
「仕事と自由時間の社会学直近3回分と、ストレスと健康の社会学まるっと全部」
「まるっと全部かよ」
「テスト100%だから直前で頑張ればどうにかなると思いました」

 今行われているのはテスト前のノート交換だ。俺と宮ちゃんの間にある暗黙の契約というヤツで、履修が被っているとか過去に取ったことがある講義で足りないノートやプリントがあればそれを埋めるために助け合う、という物だ。ちなみにレートは1回につき第2学食カフェテリアのサンデー1個、160円だ。
 学生であるからには勉学に励む必要はあるが、諸般の事情で授業に出ていないということも少なくない。当然そんなことをするのは出席が評価に影響しないタイプの講義であることがほとんどだ。しかし、授業に出ていなければテストやレポートに備えることはとても難しくなる。

「少年非行3回分は仕事と自由時間で相殺されたな」
「そうですね」
「問題はストレスと健康の社会学まるっと全部だが。講義にして14回とか15回だろ。それを160で掛けると」
「2400円」
「時期が時期だしうな重でも食いに連れてってもらうかな。確か定食屋でそれくらいの値段で食えたな」
「わかったよ、うなぎね」
「マジか。言ってみるモンだな」
「まあ、うちと高崎クンの間の契約だからね。授業1コマ分160円っていうのは」

 とりあえずうな重に関してはまた後でということで、今はとりあえずサンデーを買い、それを食いながらのテスト対策だ。ノートやプリントが揃っていたとしても、授業の内容を誰がどのように覚えているのかはまた異なる。それを刷り合わせ、テストやレポートの題材に関して喋るだけの作業だ。
 こうして見ている分には真面目にテストに向けた勉強だし、レポートの題材についてあれやこれやと喋っているのはある種の討議と言うか議論と言うか。書くこともそれなりにまとまりそうでまあ有意義な話になった。授業はサボりがちだが宮ちゃんの語彙っつーか、視点は俺にはない。

「って言うか高崎クンてテスト少ないよね? ちょっとズルくない?」
「ズルくねえ。つか、3年でそんなにテスト残してる方が異常なんだ」
「だって気付いたら単位取れてないんだもん!」
「そりゃお前、引き籠もってるからだろ」

 俺はごく普通に単位を取得しているから全休も普通にあるし、履修コマも少ない。しかし宮ちゃんは本人の言うように単位はあまり取れていないし授業コマも結構キツキツだ。如何せん大学の講義は出席するしないも本人の裁量に任せられるところが強い。1人暮らしの堕落度合いは単位習得状況に比例するだろう。

「社学の3年で履修残してるって、メディ文ならともかく現社でそれはねえだろ」
「あるんですよ……」
「まあ、お前の他にもそんな奴は知ってるけどな」
「でもだよ高崎クン、原稿落とすか単位落とすかって言ったらそれは単位落とすでしょ?」
「知らねえよ」
「単位はリテイク出来るけど、原稿はその瞬間瞬間の熱を! 命を! 拭きこんで殴り書く物じゃないですか」
「だから知らねえっつってるだろ」
「その結果落としまくってますよね」
「単位をな」

 授業に出ていないのにはその人ごとの事情があるが、宮ちゃんの場合は趣味に充てる時間にし過ぎているというのが主な原因だ。新作ゲームが発売されればそれをやるのに引き籠もるし、同人活動にも精を出している。
 一方で俺はと言えば、木曜日だけは何故かなかなか起きることが出来ずに「まあいいか」と授業をスルーしてしまうのだ。他の曜日では頑張って起きているが、本当に、木曜日はダメだ。14時40分から始まるゼミにすら寝坊で遅刻もザラだ。徒歩5分、バイク2分の距離なのが救いだ。

「そういやアイツ、まだノートもらいに来ねえな」
「高崎クン、もしやうちの他にもノートをもらいに来る友達が…?」
「大祭実行の奴だけどよ、そいつはなんならお前よりも酷い。だからギブ&テイクの規模もとんでもねえことになるんだよな」
「って言うかそこまでいったらギブ&テイクの域を越えてそう」
「いや、だからっつってタダでノートだの何だのをやるほど俺は優しくねえぞ」
「知ってる」

 大体テスト前になると飯野も俺のところに駆け込んで来るが、今回はまだだな。アイツに限ってまともに授業に出てるとも考えにくいんだけどな。まあいい。集られないならその方が静かでいい。


end.


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高崎と慧梨夏の間のギブ&テイクはどうやらこんな感じでテスト前に平らにしているようですね
しかし2400円分の権利があるからってうな重を食べさせてもらおうとする高崎よ。定食屋さんに行くのね
そういやうな重と言えばあの人が今年は静かですね。土用の丑の日は27日の土曜日らしいよ!

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