2019(02)

■学業と部活動のバランス

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「朝霞ー、助けてくれー!」

 平常授業がテスト前最後になる今週は、ステージの準備をしたいのをグッとこらえて授業に出席している。いくら丸の池に全てを懸けていると言っても、一応は授業もきちんとやらなければならないという意識がどこかで働いている。それに、レポートのテーマが発表されるのも大体1週か2週前だからだ。
 対人関係の心理学という授業の教室で、いつものようにノートとネタ用、2枚のルーズリーフを広げて座っていると、隣に鳴尾浜が滑り込んで来た。鳴尾浜とは同じ学科で、とは言え日頃から一緒に行動しているとかではないが、テスト前になるとこんな感じですり寄られることもある。
 放送部にはステージに熱を上げすぎるあまり学業が疎かになって、単位数がかなり怪しくなる奴が一定数存在する。鳴尾浜はその典型だ。ちなみに俺は「3年のステージに懸けたいなら単位は1、2年のうちに取れるだけ取れ」と越谷さんから教わった通りにしてある。そう言うと、大体意外がられる。

「うるさい、俺の周りでチョロチョロすんな。頭に響く」
「なんだ、まーた徹夜かよぉ」
「来週は台本を直すつもりはほとんどないんだ。今週のうちに詰めとかないと」
「はー、Pも大変だな」
「で、用がないなら間を開けてもらおうか」
「いや? 用事ならある。足りないプリントとノート貸してもらいたくてさ」
「どうせ対人関係の心理学以外も足りないんだろ」
「いよっ! さすが朝霞! わかってる!」

 正直、徹夜明けで人がこんなに多い空間にもいたくないのに鳴尾浜は人の真横でぎゃあぎゃあと。これが山口なら殴って黙らせるけど、鳴尾浜だとそういうワケにはいかない。他人様の班の班長だしな。まあ、ちょっと小突いたぐらいで黙るようなタマでもないだろうが。

「で、何のノートが足りないんだ」
「ジャーナリズム論だろー、環境人間学だろー、それから……」
「ちょっと待て、俺は環境人間学取ってないぞ」
「えっ! マジかよ! じゃあ誰を頼ればいいんだよ!」
「つか、お前なら別に俺じゃなくても他に友達くらいいるだろ」
「朝霞、類は友を呼ぶって知ってるか」
「お前の周りには期待出来ないんだな。じゃあ、最後の賭けで日高にでも当たってみろよ」
「いや? アイツは誰よりもダメだろ。むしろ近付いた瞬間俺のノートとプリントが毟り取られた上にそれを返して欲しければコピー代寄こせとか言う奴だ」
「まるで過去に被害に遭ったみたいな言い方だな」
「被害に遭ってんだよ」

 放送部の3年で人間学部と言えば俺と鳴尾浜と部長の日高になるが、正直お世辞にもいい成績とは言えない俺がその中ではまだまともな方になるのだから割と真面目に笑いごとではないだろう。だから他の学部連中から人間学部は大丈夫なのかみたいな感じに言われるんだ。
 別に学部の看板を背負っているワケではないが、これだから文系は、人間学部は、みたいに言われるのも癪だったりする。単位自体は可であったとしても取れればいいという内容なのは否定しないが、興味のあることを突き詰めさせたら俺は強いぞ。……とは無意味な宣言をしておこう。

「大体な、俺とお前じゃ履修コマ数が違うはずだろ」
「えっ、朝霞お前授業ギチギチじゃねーの」
「普通に全休もあるし、割と余裕ある」
「なんだよ! 裏切り者!」
「お前と徒党を組んだ覚えもないけどな」

 普通にやっていれば3年の文系は授業も少ないし全休だって普通にある。それが星ヶ丘大学での一般的な感じになっている。鳴尾浜のように今になって授業がパンパンに詰まっているというのは、これまでのツケが回ってきているだけなのだ。

「つかテストマジでだりーわ、ステージの準備しなきゃなのに。つかテスト前の金曜にリハでテスト週間の土日にステージとか地獄過ぎね? 今年スケジュールキツキツだわ」
「その気持ちには全くもって同意するけど、俺はテストないから来週は抜け駆けさせてもらう」
「えっ、つかマジかよ! 何だよテストないって!」
「春学期は出席かレポートの講義しか履修してないからな。それ以前に、単位なんか内容はどうあれ1、2年のうちに取るだろ常識的に考えて」
「マジかよー…! 何だよ出席かレポートしか履修してないってよぉー」
「ステージ前にテストなんかで時間を取られるのが勿体ないからな。それなら出席していれば終わる授業や、4000字ぽっちのレポートをサッと書いて終わった方が時間を有効に使えるだろ」
「つかレポートを「4000字ぽっち」なんて言えないしな俺は」
「4000字だぞ? 原稿用紙たった10枚じゃないか」
「俺はお前みたく無尽蔵には書けねーの」

 4000字くらいなら、あくまで授業のレポートだから調べながらになることを考えても1時間半もあればそれらしい物にはなるだろう。それを2、3教科で4時間半。それを済ませてしまえばあとは自由だと考えると圧倒的にレポートの方がいいと履修登録時には思った。

「ま、俺は単位はさっ、4年になってから本気出すし!」
「とか言ってたら卒業が怪しくなるぞ」
「それなー。火事場のクソ力みたいなモンでどうにかならねーかなー」
「他力本願の時点でムリだろ。諦めて今悪足掻くんだな」
「それで朝霞、ノートなんですけどぉ~……」
「今週だからまだ許すけど、来週それ言って来たら真面目にぶん殴るからな」
「あざす! 来週レッドブル差し入れます!」


end.


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シゲトラが朝霞Pに助けを求めているようです。タイミングが良かったなシゲトラよ
朝霞Pとシゲトラはステージに熱を上げているという共通点がありますが、学業に関するスタンスは真逆の模様。
シゲトラが日高に酷い目に遭わされた件は何年か前にやってるんですが、何年前だったかなー

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