2019(02)
■ヘルプミー・コール
++++
「おい、石川」
「ん?」
「情報センターにグミが大量発生した。消費を手伝え」
「お前と違って俺に砂糖菓子を食う習慣はないが」
「いいから食え」
リンが大量にグミの入った袋を寄こしてきた。見るからに輸入菓子という感じのパッケージで、どこの国の物かもよくわからない。ハリボーとかメジャーな物なら見ればわかるけど、そういう感じでもない。
奴は常日頃からポケットの中にチュッパチャプスを携帯している程度には砂糖菓子を好む。タバコを吸っていなければ飴を咥えているという感じで、絶対将来糖尿になるだろう。まあ、奴の健康はどうでもいいけど、問題はこの大量のグミだ。
俺は常日頃からチョコレートを携帯している程度にはチョコを食べるけど、正直甘いものが特別好きなわけではない。チョコレートにしたってミルクよりもビターやダークの方がよく食べてるし。甘いチョコならともかく、グミだなんて。
「お前のそれはソーダ味だ。センターで味を見たが、程よい酸味があって美味いぞ。ちなみにオレのはライム味だ」
「フレーバーの種類は聞いてない」
「多種多様な味があって飽きんぞ」
「はいはい、食えばいいんだろう」
美奈は甘いものが食べられない。それをリンもわかっているから大量のグミの消費をさせられることもなく、ただただこの光景を俺たちの後ろで眺めているだけだ。しかし、軽く10袋はあるけどどうせコイツのことだからこれで終わりじゃないんだろう。
渋々グミの袋を開けて、口の中にひとつ水色のそれを放り込む。弾力が強めで、噛み応えを楽しむタイプの物だろうか。味は奴の言うように程よい酸味があってまあ美味い。ただ、俺は砂糖菓子を頻繁に食うタイプではないから、どう消費するのかと。
「美味いか」
「まあ、悪くはない」
「そうか、それではさらにおまけも付けてやろう」
「ふざけるな」
――と、グミを食べながら奴の相手をしていた時のことだった。口の中でガリッと、グミとは明らかに違う硬質な物を噛んだような音がしたのだ。何がどうしたとグミをその辺にあったキムワイプの上に吐き出せば、青いそれに歯の詰め物が刺さっている。
「うわ、最悪だ…!」
「徹、大丈夫…?」
「詰め物が取れた。え、これいつ治療したヤツだ? 中学とか、それくらいか? いや、マジか」
「歯医者さんに、電話したら……」
「そうだ、どこか捻じ込めるところはないか聞いてみよう」
こんな時に電話をするのは、家から車で10分もかからないところにある西海市内の歯医者だ。建物も綺麗だし清潔感がある。それから、沙也を定期検診に行かせる度に思うのが、設備がどんどん進んでいるんだ。モニターがパソコンからタブレットになっていたり、削る範囲が最低限になっていたり。
沙也の話では治療にしても全く痛くないそうだし、なんなら定期検診で歯周ポケットの深さを測るのが一番痛いとのこと。自分は定期検診なんて全然やっていなかったけど、時すでに遅しと言った状態か。詰め物が取れてから慌てることになるとは。
歯医者に電話をしてみると、先生の空きがなかなかないらしく、捻じ込むにしても最短で2週間先になるそうだ。平日でどこか無いかダメ元で聞いてみれば、来週金曜日の11時を指定される。うーん……来週金曜か。でも、2週間はさすがに待てない。
「来週金曜で妥協した」
「……でも、予約を入れられて、よかった……」
「まあ、良かったと言えば良かったのか」
「瀬尾歯科医院は、定期検診の予約をするにも、1ヶ月待ちが普通……」
「え、そんなにかかったっけ」
「曜日や時間にこだわれば、さらに取れない……」
それだけ繁盛している医院だということなのだろう。美奈の話を聞いている限りでは、そんな歯医者にいきなり電話して来週の金曜日に滑り込めたことを幸運に思わないといけないようだ。でも、詰め物が取れた箇所が落ち着かない。
「美奈、お前は歯科の定期検診に行くのか」
「……虫歯や、歯周病の予防……それから、定期的なクリーニングを……今後は、ホワイトニングもしてみたい……」
「ほう、漂白か」
「煙草を吸うし、コーヒーも飲む……着色汚れは、強くなりがち……」
「審美歯科ってヤツか。俺もビジネスいい人をやるからには調べてみるのもありだな」
「……ビジネスいい人…?」
「オレは歯科より眼科の検診に行かねばな。やたら目が疲れる」
「それは、大変……」
「正直、俺も歯医者よりは整体かマッサージに行きたかった」
詰め物が取れてしまったのとは逆側で、硬いグミをまたひとつ噛む。しかしまあ、どうしたものか。救いは痛みがないことだけど、これで痛み出したらどうする。来週の金曜日までも待っていられなくなる可能性は十二分にある。歯痛に効く薬を検索しておくだけしておこう。
「と言うか、しばらく硬いものを食べるのが怖いな」
「詰め物が取れた側を庇って逆側が妙なことにならんとも限らんからな」
「それな」
「細かいものを食べると、空いたところに詰まったり、それが残りそう……」
「それも怖い」
「まあ、しばらくはこのグミを口の中で溶かしながら食らうといい」
「それなら俺はチョコを食う。砂糖の塊よりはチョコの方がいくらか体にはいい」
「……けど、どちらも歯には、良くなさそう……」
「ご尤も」
end.
++++
久々に星大組。兄さんがちょっと大変なことに遭っているようです。
と言うか大量発生したグミの出所よ。そんなことをするのは明らかに春山さんなんだけど、そんな件やったことないですね今まで
昨今はサロン感覚で歯医者に通うということも出来るようになっているようです。美奈がホワイトニングとかいうとガチっぽさを感じる
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「おい、石川」
「ん?」
「情報センターにグミが大量発生した。消費を手伝え」
「お前と違って俺に砂糖菓子を食う習慣はないが」
「いいから食え」
リンが大量にグミの入った袋を寄こしてきた。見るからに輸入菓子という感じのパッケージで、どこの国の物かもよくわからない。ハリボーとかメジャーな物なら見ればわかるけど、そういう感じでもない。
奴は常日頃からポケットの中にチュッパチャプスを携帯している程度には砂糖菓子を好む。タバコを吸っていなければ飴を咥えているという感じで、絶対将来糖尿になるだろう。まあ、奴の健康はどうでもいいけど、問題はこの大量のグミだ。
俺は常日頃からチョコレートを携帯している程度にはチョコを食べるけど、正直甘いものが特別好きなわけではない。チョコレートにしたってミルクよりもビターやダークの方がよく食べてるし。甘いチョコならともかく、グミだなんて。
「お前のそれはソーダ味だ。センターで味を見たが、程よい酸味があって美味いぞ。ちなみにオレのはライム味だ」
「フレーバーの種類は聞いてない」
「多種多様な味があって飽きんぞ」
「はいはい、食えばいいんだろう」
美奈は甘いものが食べられない。それをリンもわかっているから大量のグミの消費をさせられることもなく、ただただこの光景を俺たちの後ろで眺めているだけだ。しかし、軽く10袋はあるけどどうせコイツのことだからこれで終わりじゃないんだろう。
渋々グミの袋を開けて、口の中にひとつ水色のそれを放り込む。弾力が強めで、噛み応えを楽しむタイプの物だろうか。味は奴の言うように程よい酸味があってまあ美味い。ただ、俺は砂糖菓子を頻繁に食うタイプではないから、どう消費するのかと。
「美味いか」
「まあ、悪くはない」
「そうか、それではさらにおまけも付けてやろう」
「ふざけるな」
――と、グミを食べながら奴の相手をしていた時のことだった。口の中でガリッと、グミとは明らかに違う硬質な物を噛んだような音がしたのだ。何がどうしたとグミをその辺にあったキムワイプの上に吐き出せば、青いそれに歯の詰め物が刺さっている。
「うわ、最悪だ…!」
「徹、大丈夫…?」
「詰め物が取れた。え、これいつ治療したヤツだ? 中学とか、それくらいか? いや、マジか」
「歯医者さんに、電話したら……」
「そうだ、どこか捻じ込めるところはないか聞いてみよう」
こんな時に電話をするのは、家から車で10分もかからないところにある西海市内の歯医者だ。建物も綺麗だし清潔感がある。それから、沙也を定期検診に行かせる度に思うのが、設備がどんどん進んでいるんだ。モニターがパソコンからタブレットになっていたり、削る範囲が最低限になっていたり。
沙也の話では治療にしても全く痛くないそうだし、なんなら定期検診で歯周ポケットの深さを測るのが一番痛いとのこと。自分は定期検診なんて全然やっていなかったけど、時すでに遅しと言った状態か。詰め物が取れてから慌てることになるとは。
歯医者に電話をしてみると、先生の空きがなかなかないらしく、捻じ込むにしても最短で2週間先になるそうだ。平日でどこか無いかダメ元で聞いてみれば、来週金曜日の11時を指定される。うーん……来週金曜か。でも、2週間はさすがに待てない。
「来週金曜で妥協した」
「……でも、予約を入れられて、よかった……」
「まあ、良かったと言えば良かったのか」
「瀬尾歯科医院は、定期検診の予約をするにも、1ヶ月待ちが普通……」
「え、そんなにかかったっけ」
「曜日や時間にこだわれば、さらに取れない……」
それだけ繁盛している医院だということなのだろう。美奈の話を聞いている限りでは、そんな歯医者にいきなり電話して来週の金曜日に滑り込めたことを幸運に思わないといけないようだ。でも、詰め物が取れた箇所が落ち着かない。
「美奈、お前は歯科の定期検診に行くのか」
「……虫歯や、歯周病の予防……それから、定期的なクリーニングを……今後は、ホワイトニングもしてみたい……」
「ほう、漂白か」
「煙草を吸うし、コーヒーも飲む……着色汚れは、強くなりがち……」
「審美歯科ってヤツか。俺もビジネスいい人をやるからには調べてみるのもありだな」
「……ビジネスいい人…?」
「オレは歯科より眼科の検診に行かねばな。やたら目が疲れる」
「それは、大変……」
「正直、俺も歯医者よりは整体かマッサージに行きたかった」
詰め物が取れてしまったのとは逆側で、硬いグミをまたひとつ噛む。しかしまあ、どうしたものか。救いは痛みがないことだけど、これで痛み出したらどうする。来週の金曜日までも待っていられなくなる可能性は十二分にある。歯痛に効く薬を検索しておくだけしておこう。
「と言うか、しばらく硬いものを食べるのが怖いな」
「詰め物が取れた側を庇って逆側が妙なことにならんとも限らんからな」
「それな」
「細かいものを食べると、空いたところに詰まったり、それが残りそう……」
「それも怖い」
「まあ、しばらくはこのグミを口の中で溶かしながら食らうといい」
「それなら俺はチョコを食う。砂糖の塊よりはチョコの方がいくらか体にはいい」
「……けど、どちらも歯には、良くなさそう……」
「ご尤も」
end.
++++
久々に星大組。兄さんがちょっと大変なことに遭っているようです。
と言うか大量発生したグミの出所よ。そんなことをするのは明らかに春山さんなんだけど、そんな件やったことないですね今まで
昨今はサロン感覚で歯医者に通うということも出来るようになっているようです。美奈がホワイトニングとかいうとガチっぽさを感じる
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