2019(02)
■幸せのふかふかタオル
++++
「あーっ! タオル忘れて来ちゃったー! ウソだー! 夏なのにタオルがないとか、えー!?」
「うるせーぞ三浦」
「だって鵠沼クン、タオルがないんだよ!」
バスケサークルGREENsは、日曜日も隔週で活動している。ちょっと重めの捻挫から松葉杖が取れたさっちゃんも、最近では軽快に走り回っている。だけど、梅雨とか夏とか、そんな季節だけに体育館の中ではジッとしてるだけでも蒸し暑い。動かなくてもタオルは必須。
タオルを忘れたーと喚くさっちゃんにまとわりつかれてる鵠っち、鬱陶しいっていうのを隠さないなあ。まあ、この蒸し暑い中でそんなふうに周りでぴょんぴょんと絡まれたら、人によってはイライラしちゃうかも。しかもタオル忘れたとか「知らんがな」って返すしかないよね大体の人は。
「さっちゃん、うちのタオル使う?」
「えっ! いーんですか慧梨夏サン!」
「うちタオル2本持ってるから。はい」
「ありがとうございます! 洗って返しますね!」
「あっ、いいよ。サークル終わったらそのまま袋に入れて持ち帰るし」
「良くないです! 鵠沼クン! 慧梨夏サンのタオルだよ!」
「あーはいはい、よかったじゃんな」
「何でそんなそっけないのー!」
うちは汗をかきやすいのか、タオル1本じゃ足りなくなることもまああるよね。普通に座ってても床とかイスにお尻の跡がべったりと付いちゃうの。汗でさ、くっきりついちゃうんだよね。それで、お尻に敷く用のタオルを持ってる。やっぱりね、夏はタオルが何本あってもいいね。
さて、これで今日は座ることが出来なくなっちゃったよ。何だかんだ言ってもお尻の跡がくっきり付いちゃうのは恥ずかしいからね。首からかけてるタオルは普通に汗だくでお尻の下に敷ける状態じゃないし。今度からタオル3本常備しなきゃかな。首用、お尻用、予備用って。
「ん~、慧梨夏サンのタオル~。……はっ…! 鵠沼クン!」
「今度は何だ」
「慧梨夏サンのタオルめっちゃいい匂いするし、めっちゃふかふか! ねえ触って! ふかふかだから!」
「はあ?」
うちのタオルに顔をうずめていたさっちゃんが、何かに目覚めたような顔をしてる。うちのタオルに感動してるみたい。それを鵠っちにも激しく勧めている。まあ、気持ちはわかるよね。実際うちのタオルはいい匂いするし、ふかふかだから。
「うわっ、マジふかふかじゃん!?」
「でしょー!?」
「いや三浦お前、これ絶対ブランド物か新品だろ。何普通に借りてんだ」
「そう言われたらそんな気がしてきた」
「おい三浦、ここ見ろよロゴが刺繍されてるだろ」
「はっ。ちなみに慧梨夏サン、これってブランド物とかおニューだったりします…?」
「あははっ! それは普通にタオルの模様で、ブランド物でもおニューでもないから大丈夫だよ。なんなら3年モノ」
「その割にはふかふかじゃないすか? 3年も使ってたらバリバリになってきません?」
「ホントに」
「そりゃぁーお2人さん、慧梨夏ちゃんには最強の洗濯マイスターがついてるからね!」
「美弥子さん! ンもう!」
「もしやかれぴっぴさん!」
「確かに、家事全般ダメっつー慧梨夏サンが洗濯だけやたら上手いはずもなかったじゃん?」
「鵠っち、それはさすがに失礼じゃないかな。洗濯なら出来なくはないから」
「すんませんっした」
美弥子さんからネタばらしされちゃったけど、うちのタオルをふかふかでいい匂いにしてくれているのは何を隠そうカズですよ。カズと言えば、泣く子も黙る洗濯マニアで、日頃から洗濯と物干しの技術を極めようとしてますよね。
それと言うのもカズの体質にあった。カズは花粉症だから春は本当に外に出ないし窓を開けるだけで生活にならなくなるから、洗濯物は基本部屋干しになる。だけど、部屋干しをすると乾きは遅いし生乾きの臭いがヤな感じだし、って。そこで、極め始めたんですよね。
部屋には空気清浄機と加湿器の機能の付いた乾燥機が導入されてるし、洗濯機のカビ予防だとか洗濯槽の掃除も徹底してる。干すときにも何か細かい技を使ってますよね、うちはよくわかんないけど。それから、柔軟剤に関しては本当にいろいろ試してて、新しいのが出る度「1回使い切りパックが欲しい」って嘆いてる。
「美弥子サンも慧梨夏サンのタオルどーぞ」
「わ、ホントにふかふか。我が弟ながらこの技術はすごいわ。個人的にはバスタオルで体感したいね」
「あー、いいですねー!」
「バスタオルだったらしっかり水分も吸ってほしいっすね」
「美弥子さん、カズに死角なしです」
「でしょうね」
「バスタオルにフェイスタオル、肌着や靴下に至るまで布という布製品はみんないい匂いだし生乾きという単語はないですから!」
「ワイドハイターEXパワーについて熱く語られた時は引いたもんね。液体とか粉末とかさ。何だっけ、洗濯槽を洗うのは」
「粉末ですね。それから、脱いだ服に除菌スプレーをするっていうルールがあるんですよ」
「えっナニそれ!?」
「洗濯物をカゴに入れて、洗うまでの間に菌が繁殖し過ぎるのを防ぐんですって」
「ほ~……えっ、カズって潔癖ではないよね?」
「潔癖ではないですね。洗濯に熱いだけの、ただの人です」
カズの作る幸せのふかふかタオルにはいろいろな努力や技術が詰まってることを、いつも見てるから知ってるよね。それでいざこうやってタオルを使うとふかふかでいい匂いだから、カズが洗ってくれたヤツだーって幸せになるんだよね。自分じゃ同じ洗剤でもこうはならないから。
「――とまあ、そういうことなんでさっちゃん、使い終わったらうちのランドリーバッグにポーンと入れちゃってください」
「え、三浦は除菌スプレー持ってないですよ?」
「あの、さすがにうちも外出先ではそこまでやらないから、うん、平気」
end.
++++
慧梨夏が惚気てるだけのお話でした。お尻の跡がどうこうっていうのは遠い昔に言ってた記憶がちょっとある。
GREENsの話が最近では慧梨夏と鵠さちで回るので姉ちゃんがここまでガッツリ喋ってるのは何か久し振りな感じ。うん、姉ちゃん久し振りだな!?
で、いち氏の洗濯に関するこだわりはここで語られていることが全てでもないのである……
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「あーっ! タオル忘れて来ちゃったー! ウソだー! 夏なのにタオルがないとか、えー!?」
「うるせーぞ三浦」
「だって鵠沼クン、タオルがないんだよ!」
バスケサークルGREENsは、日曜日も隔週で活動している。ちょっと重めの捻挫から松葉杖が取れたさっちゃんも、最近では軽快に走り回っている。だけど、梅雨とか夏とか、そんな季節だけに体育館の中ではジッとしてるだけでも蒸し暑い。動かなくてもタオルは必須。
タオルを忘れたーと喚くさっちゃんにまとわりつかれてる鵠っち、鬱陶しいっていうのを隠さないなあ。まあ、この蒸し暑い中でそんなふうに周りでぴょんぴょんと絡まれたら、人によってはイライラしちゃうかも。しかもタオル忘れたとか「知らんがな」って返すしかないよね大体の人は。
「さっちゃん、うちのタオル使う?」
「えっ! いーんですか慧梨夏サン!」
「うちタオル2本持ってるから。はい」
「ありがとうございます! 洗って返しますね!」
「あっ、いいよ。サークル終わったらそのまま袋に入れて持ち帰るし」
「良くないです! 鵠沼クン! 慧梨夏サンのタオルだよ!」
「あーはいはい、よかったじゃんな」
「何でそんなそっけないのー!」
うちは汗をかきやすいのか、タオル1本じゃ足りなくなることもまああるよね。普通に座ってても床とかイスにお尻の跡がべったりと付いちゃうの。汗でさ、くっきりついちゃうんだよね。それで、お尻に敷く用のタオルを持ってる。やっぱりね、夏はタオルが何本あってもいいね。
さて、これで今日は座ることが出来なくなっちゃったよ。何だかんだ言ってもお尻の跡がくっきり付いちゃうのは恥ずかしいからね。首からかけてるタオルは普通に汗だくでお尻の下に敷ける状態じゃないし。今度からタオル3本常備しなきゃかな。首用、お尻用、予備用って。
「ん~、慧梨夏サンのタオル~。……はっ…! 鵠沼クン!」
「今度は何だ」
「慧梨夏サンのタオルめっちゃいい匂いするし、めっちゃふかふか! ねえ触って! ふかふかだから!」
「はあ?」
うちのタオルに顔をうずめていたさっちゃんが、何かに目覚めたような顔をしてる。うちのタオルに感動してるみたい。それを鵠っちにも激しく勧めている。まあ、気持ちはわかるよね。実際うちのタオルはいい匂いするし、ふかふかだから。
「うわっ、マジふかふかじゃん!?」
「でしょー!?」
「いや三浦お前、これ絶対ブランド物か新品だろ。何普通に借りてんだ」
「そう言われたらそんな気がしてきた」
「おい三浦、ここ見ろよロゴが刺繍されてるだろ」
「はっ。ちなみに慧梨夏サン、これってブランド物とかおニューだったりします…?」
「あははっ! それは普通にタオルの模様で、ブランド物でもおニューでもないから大丈夫だよ。なんなら3年モノ」
「その割にはふかふかじゃないすか? 3年も使ってたらバリバリになってきません?」
「ホントに」
「そりゃぁーお2人さん、慧梨夏ちゃんには最強の洗濯マイスターがついてるからね!」
「美弥子さん! ンもう!」
「もしやかれぴっぴさん!」
「確かに、家事全般ダメっつー慧梨夏サンが洗濯だけやたら上手いはずもなかったじゃん?」
「鵠っち、それはさすがに失礼じゃないかな。洗濯なら出来なくはないから」
「すんませんっした」
美弥子さんからネタばらしされちゃったけど、うちのタオルをふかふかでいい匂いにしてくれているのは何を隠そうカズですよ。カズと言えば、泣く子も黙る洗濯マニアで、日頃から洗濯と物干しの技術を極めようとしてますよね。
それと言うのもカズの体質にあった。カズは花粉症だから春は本当に外に出ないし窓を開けるだけで生活にならなくなるから、洗濯物は基本部屋干しになる。だけど、部屋干しをすると乾きは遅いし生乾きの臭いがヤな感じだし、って。そこで、極め始めたんですよね。
部屋には空気清浄機と加湿器の機能の付いた乾燥機が導入されてるし、洗濯機のカビ予防だとか洗濯槽の掃除も徹底してる。干すときにも何か細かい技を使ってますよね、うちはよくわかんないけど。それから、柔軟剤に関しては本当にいろいろ試してて、新しいのが出る度「1回使い切りパックが欲しい」って嘆いてる。
「美弥子サンも慧梨夏サンのタオルどーぞ」
「わ、ホントにふかふか。我が弟ながらこの技術はすごいわ。個人的にはバスタオルで体感したいね」
「あー、いいですねー!」
「バスタオルだったらしっかり水分も吸ってほしいっすね」
「美弥子さん、カズに死角なしです」
「でしょうね」
「バスタオルにフェイスタオル、肌着や靴下に至るまで布という布製品はみんないい匂いだし生乾きという単語はないですから!」
「ワイドハイターEXパワーについて熱く語られた時は引いたもんね。液体とか粉末とかさ。何だっけ、洗濯槽を洗うのは」
「粉末ですね。それから、脱いだ服に除菌スプレーをするっていうルールがあるんですよ」
「えっナニそれ!?」
「洗濯物をカゴに入れて、洗うまでの間に菌が繁殖し過ぎるのを防ぐんですって」
「ほ~……えっ、カズって潔癖ではないよね?」
「潔癖ではないですね。洗濯に熱いだけの、ただの人です」
カズの作る幸せのふかふかタオルにはいろいろな努力や技術が詰まってることを、いつも見てるから知ってるよね。それでいざこうやってタオルを使うとふかふかでいい匂いだから、カズが洗ってくれたヤツだーって幸せになるんだよね。自分じゃ同じ洗剤でもこうはならないから。
「――とまあ、そういうことなんでさっちゃん、使い終わったらうちのランドリーバッグにポーンと入れちゃってください」
「え、三浦は除菌スプレー持ってないですよ?」
「あの、さすがにうちも外出先ではそこまでやらないから、うん、平気」
end.
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慧梨夏が惚気てるだけのお話でした。お尻の跡がどうこうっていうのは遠い昔に言ってた記憶がちょっとある。
GREENsの話が最近では慧梨夏と鵠さちで回るので姉ちゃんがここまでガッツリ喋ってるのは何か久し振りな感じ。うん、姉ちゃん久し振りだな!?
で、いち氏の洗濯に関するこだわりはここで語られていることが全てでもないのである……
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