2019(02)
■walla commentator
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机の上には文字通り山のように積まれたうまい棒。ざっと300本くらいはあリヤすかね。大人買い用でよくある30本パックの袋をひっくり返した結果の山。その味はまばらで、本当にまんべんなく用意されていますよといった感じスね。それを見て、首謀者はケラケラ笑ってヤすわ。
今日これから開かれるのは「胃袋は人類の宝だ! 第1回うまい棒レース」とかいうよくわからない大会スわ。首謀者は4年生の村井サンで、それに巻き込まれたのが圭斗先輩に菜月先輩、それから野坂とこーたスね。自分はそれとなーく存在感を消してたンでエントリーは避けられヤしたわ。
「とりあえずセッティングは出来たな! うんうん。君たち、頑張りたまえ」
「お前後で覚えとけよ、絶対許さないからな」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
「あンだ、やんのか!?」
「やってやらァ! 圭斗テメー俺が誰だかわかってんのか、あァ!?」
「じゃあお前がその席に着けやぶっ潰すぞ!」
「誰がそんなバカみてーなことやるか!」
「ならやらせんなやクソが!」
村井サンがいると普段は優雅な立ち振る舞いをする圭斗先輩が軽くキャラ崩壊するンすよね。まあ、こっちが地なンでしょーけど。村井サンと圭斗先輩の醜い応酬が繰り広げられている中、菜月先輩が後ろから「圭斗がんばれー」とか「ふざけんなー」と援護射撃してヤすわ。まーァ菜月先輩は賞金に釣られたクチすけど、出来るならやりたくないスわね。
このうまい棒レースというのは大食い大会と我慢比べを合わせたような企画スね。水を飲まずにうまい棒を延々と食べ続けるという至極単純なレース。さらに、30本目までは玉入れのカウントよろしく「1本~、2本~」とみんな一斉に食べなければならないという謎ルール。遅れたらその時点で脱落ス。
参加者は村井サンの思いつきとか暇潰しで企画されたレースに先輩からの圧とか悪ノリで参加させられた圭斗先輩。村井サンのポケットマネーから賞金2000円出しヤすよーとわかりやすく金に釣られた菜月先輩。先輩2人がやるんだからお前もやれよと帝王から圧をかけられた野坂に、さらに道連れにされたこーたスね。
「さて、実況解説のりっちゃん、このレースをどう見ますか」
「本命野坂、対抗菜月先輩、大穴圭斗先輩スかね」
「おおー、それはどういう」
「野坂はまァ、デフォルトで大飯喰らいなンで容量で言えば順当かと。菜月先輩は極貧時代にうまい棒でしばらく生活していたッつー……つまり経験がダンチすよね。圭斗先輩は、何やかんや言っても負けず嫌いなんで、このメンバーにこんなクソくだらないレースであっても負けることはプライドに傷が付くんすよ。意地とプライドで戦えばワンチャンって感じスね」
「帝王のプライドとは」
どうやら自分は実況と解説っつーポジションになったらしースわ。アナウンサー席にはマイクを2本。それが自分と村井サンの席ということでこのレースの実況解説を担当しヤす。BGMなどミキサーは奈々が担当。謎にこのレースの様子を録音するっつーンで、実況解説の役割が思う以上に大きくなりそースね。
そしてレース途中にはヒロが中継役として選手たちにインタビューすることなども予定されていて、最早これが作品出展用の番組でいンじゃね? くらいのノリ。うまい棒の山を前に既にげんなりしている選手たちを後目に外野が盛り上がってきヤした。まあ、外野はゆーて外野スからね。
「でも、うまい棒なあ。意外に攻略法が味によって違うよなあ」
「うまい棒に攻略法があるのですか? さすが菜月先輩、うまい棒で生活されていた方は発想が違いますね」
「ほら、味によって固さが違ったり、油分の具合なんかが違うだろ。食べる順番を間違えると大変なことになる。30本目までとそれ以降での戦術も変えていかないと。味によって場にある本数も違うし如何に手元のストックを良くしていくかだな」
「菜月さんがガチすぎて引く」
「2000円あれば2ヶ月分のサークル費に相当するからな。ここで賞金をもらって即会計に流すつもりだ」
「まあ、滞納分を早く払ってもらいたいのは僕も同じだから、ここは菜月さんの不戦勝でいいと思うんだよ」
「何!? それは聞き捨てならねーな! ちゃんとやれよ圭斗! 八百長とか忖度とか絶対すんなよ!」
相変わらず圭斗先輩からの「やってられっか」オーラが凄まじいスね。菜月先輩は金に釣られたとは言え一応は自発的にやるって返事してヤすけど、圭斗先輩には全然モチベーションがないンすよね。このレースに勝って得られる物は妙な称号と賞金2000円。負けたからと言って何があるでもないスからね。
「それじゃあこうするか! このレースで最下位だった奴は「キングオブヘタレ」として今後ずっとこのネタでイジリ倒されるんだ。こんな下らないレースでそんなしょーもない称号がついて、それが今後付きまとい続ける。キングオブヘタレって何ですかーって次の世代の後輩に聞かれてそれはね……と経緯を説明するときの惨めさ!」
「やァー、菜月先輩はともかく、野郎3人をイジリ倒すのはお任せくっださーい」
「うわっ、律がアップを始めた!」
「土田さんがラブ&ピースに気合いを入れるときは要注意ですよ。リアルに死人が出ます」
「りっちゃんにイジられ続けるとか精神的ダメージがとんでもないことになりそうな気しかしないじゃないか」
「うちは負けてもイジられないんだな」
「菜月先輩は金に釣られたとは言え自分から参戦してヤすからね。負けたとしても頑張りましたっつー話で。参加してる経緯がそもそもヘタレの野郎どもは結果が伴わなければそりゃァバカにされても文句言えないっしょ」
「いや、律……お前もやらされてみろ。目が死ぬぞ」
「ヤなこった」
さ、いよいよ試合開始スわ。誰がどンだけ食べてくれるンすかねェー。個人的には大穴の圭斗先輩の逆襲が見たいンすけどね。逆襲ってそりゃァー、自分の隣で余裕ぶっこいてる村井サンに対する逆襲スわ。何だかんだ、この人がエラい目に遭ってぎゃーぎゃー騒いでるのが一番面白いスからね。
end.
++++
夏の恒例行事、うまい棒レースの季節になりました。今年は実況解説りっちゃん視点でレース前の様子をお送りしました。
圭斗さんが村井おじちゃんとぎゃあぎゃあ言い合ってるのが好きなだけのヤツ。いつもより長めにお送りしております。
女子と後輩には優しいりっちゃんだけど、同級生以上の野郎には容赦ないので菜月さん以外のレース参加者にはなかなか辛口でした。
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机の上には文字通り山のように積まれたうまい棒。ざっと300本くらいはあリヤすかね。大人買い用でよくある30本パックの袋をひっくり返した結果の山。その味はまばらで、本当にまんべんなく用意されていますよといった感じスね。それを見て、首謀者はケラケラ笑ってヤすわ。
今日これから開かれるのは「胃袋は人類の宝だ! 第1回うまい棒レース」とかいうよくわからない大会スわ。首謀者は4年生の村井サンで、それに巻き込まれたのが圭斗先輩に菜月先輩、それから野坂とこーたスね。自分はそれとなーく存在感を消してたンでエントリーは避けられヤしたわ。
「とりあえずセッティングは出来たな! うんうん。君たち、頑張りたまえ」
「お前後で覚えとけよ、絶対許さないからな」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
「あンだ、やんのか!?」
「やってやらァ! 圭斗テメー俺が誰だかわかってんのか、あァ!?」
「じゃあお前がその席に着けやぶっ潰すぞ!」
「誰がそんなバカみてーなことやるか!」
「ならやらせんなやクソが!」
村井サンがいると普段は優雅な立ち振る舞いをする圭斗先輩が軽くキャラ崩壊するンすよね。まあ、こっちが地なンでしょーけど。村井サンと圭斗先輩の醜い応酬が繰り広げられている中、菜月先輩が後ろから「圭斗がんばれー」とか「ふざけんなー」と援護射撃してヤすわ。まーァ菜月先輩は賞金に釣られたクチすけど、出来るならやりたくないスわね。
このうまい棒レースというのは大食い大会と我慢比べを合わせたような企画スね。水を飲まずにうまい棒を延々と食べ続けるという至極単純なレース。さらに、30本目までは玉入れのカウントよろしく「1本~、2本~」とみんな一斉に食べなければならないという謎ルール。遅れたらその時点で脱落ス。
参加者は村井サンの思いつきとか暇潰しで企画されたレースに先輩からの圧とか悪ノリで参加させられた圭斗先輩。村井サンのポケットマネーから賞金2000円出しヤすよーとわかりやすく金に釣られた菜月先輩。先輩2人がやるんだからお前もやれよと帝王から圧をかけられた野坂に、さらに道連れにされたこーたスね。
「さて、実況解説のりっちゃん、このレースをどう見ますか」
「本命野坂、対抗菜月先輩、大穴圭斗先輩スかね」
「おおー、それはどういう」
「野坂はまァ、デフォルトで大飯喰らいなンで容量で言えば順当かと。菜月先輩は極貧時代にうまい棒でしばらく生活していたッつー……つまり経験がダンチすよね。圭斗先輩は、何やかんや言っても負けず嫌いなんで、このメンバーにこんなクソくだらないレースであっても負けることはプライドに傷が付くんすよ。意地とプライドで戦えばワンチャンって感じスね」
「帝王のプライドとは」
どうやら自分は実況と解説っつーポジションになったらしースわ。アナウンサー席にはマイクを2本。それが自分と村井サンの席ということでこのレースの実況解説を担当しヤす。BGMなどミキサーは奈々が担当。謎にこのレースの様子を録音するっつーンで、実況解説の役割が思う以上に大きくなりそースね。
そしてレース途中にはヒロが中継役として選手たちにインタビューすることなども予定されていて、最早これが作品出展用の番組でいンじゃね? くらいのノリ。うまい棒の山を前に既にげんなりしている選手たちを後目に外野が盛り上がってきヤした。まあ、外野はゆーて外野スからね。
「でも、うまい棒なあ。意外に攻略法が味によって違うよなあ」
「うまい棒に攻略法があるのですか? さすが菜月先輩、うまい棒で生活されていた方は発想が違いますね」
「ほら、味によって固さが違ったり、油分の具合なんかが違うだろ。食べる順番を間違えると大変なことになる。30本目までとそれ以降での戦術も変えていかないと。味によって場にある本数も違うし如何に手元のストックを良くしていくかだな」
「菜月さんがガチすぎて引く」
「2000円あれば2ヶ月分のサークル費に相当するからな。ここで賞金をもらって即会計に流すつもりだ」
「まあ、滞納分を早く払ってもらいたいのは僕も同じだから、ここは菜月さんの不戦勝でいいと思うんだよ」
「何!? それは聞き捨てならねーな! ちゃんとやれよ圭斗! 八百長とか忖度とか絶対すんなよ!」
相変わらず圭斗先輩からの「やってられっか」オーラが凄まじいスね。菜月先輩は金に釣られたとは言え一応は自発的にやるって返事してヤすけど、圭斗先輩には全然モチベーションがないンすよね。このレースに勝って得られる物は妙な称号と賞金2000円。負けたからと言って何があるでもないスからね。
「それじゃあこうするか! このレースで最下位だった奴は「キングオブヘタレ」として今後ずっとこのネタでイジリ倒されるんだ。こんな下らないレースでそんなしょーもない称号がついて、それが今後付きまとい続ける。キングオブヘタレって何ですかーって次の世代の後輩に聞かれてそれはね……と経緯を説明するときの惨めさ!」
「やァー、菜月先輩はともかく、野郎3人をイジリ倒すのはお任せくっださーい」
「うわっ、律がアップを始めた!」
「土田さんがラブ&ピースに気合いを入れるときは要注意ですよ。リアルに死人が出ます」
「りっちゃんにイジられ続けるとか精神的ダメージがとんでもないことになりそうな気しかしないじゃないか」
「うちは負けてもイジられないんだな」
「菜月先輩は金に釣られたとは言え自分から参戦してヤすからね。負けたとしても頑張りましたっつー話で。参加してる経緯がそもそもヘタレの野郎どもは結果が伴わなければそりゃァバカにされても文句言えないっしょ」
「いや、律……お前もやらされてみろ。目が死ぬぞ」
「ヤなこった」
さ、いよいよ試合開始スわ。誰がどンだけ食べてくれるンすかねェー。個人的には大穴の圭斗先輩の逆襲が見たいンすけどね。逆襲ってそりゃァー、自分の隣で余裕ぶっこいてる村井サンに対する逆襲スわ。何だかんだ、この人がエラい目に遭ってぎゃーぎゃー騒いでるのが一番面白いスからね。
end.
++++
夏の恒例行事、うまい棒レースの季節になりました。今年は実況解説りっちゃん視点でレース前の様子をお送りしました。
圭斗さんが村井おじちゃんとぎゃあぎゃあ言い合ってるのが好きなだけのヤツ。いつもより長めにお送りしております。
女子と後輩には優しいりっちゃんだけど、同級生以上の野郎には容赦ないので菜月さん以外のレース参加者にはなかなか辛口でした。
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