2019(02)
■大人の事情と草の根運動
++++
夏合宿の班割りが発表されて、これから始まるのは班員の顔合わせだ。班長から「これからよろしくお願いします」という連絡が最初に入って、そこから顔合わせはいつにしましょうか、という感じで日程調整をするんだ。果林が班長を務める4班の初顔合わせは、無難に花栄のいつものコーヒーショップで。
「――というワケで、これからこんな感じの班でやっていきたいと思います。よろしくお願いしまーす」
「おなしゃーす」
4班は班長が果林、副班長にりっちゃんがいて、あとはうちと3人の1年生という編成になっている。1年生を含めて緑ヶ丘と向島から4人も出ているというのは、6人班としてはかなり異例なんだ。基本、この2校は上手いこと散りばめるのが班編成の基本だったから。
しかも、2・3年が全員この2校から出てるんだ。今年は青敬や星ヶ丘かからもちょこちょこ出てるからそういう連中とミックスするかと予想してたら。さすがにちょっとやりすぎじゃないかと思ったけど、対策委員には対策委員なりの考えや事情があったんだろうとグッと飲み込む。
「いろいろ大人の事情ってヤツがあったんですよ」
「大人の事情ね。どんな事情かはともかく事情があるというのは察するところだ」
「と言うか、ぶっちゃけなっち先輩へのラブコールが山のように来てたんですよ」
「ら、ラブコール…? うちが何をしたって言うんだ」
「初心者講習会の講師だったじゃないですか。あそこでファンがたくさん出来たんですよ。ラブコールを出してる人となっち先輩を同じ班にしちゃうと「どうしてあの人ばっかりー」ってなる可能性があったのと、野坂がキレたっていうのと」
「ノサカが?」
「ラブコールの扱いがめんどくさくなって「菜月先輩と同じ班にするのはラブコールを出してない人間に限る!」って」
「で、この集まった3人が野坂風に言ヤ邪念を持ってなかった精鋭たちスかァー」
「そーゆーコトだね」
りっちゃん風に言うところの“精鋭”たちは青女のアナウンサー・ユキ、星ヶ丘のミキサー・ゲンゴロー。そして、先の作品出展で一足早いインターフェイスデビューを果たしていた緑ヶ丘のミキサー・高木だ。コイツの名前を見た瞬間、これは面白く出来るぞと思ったんだ。
「ああ、そうだりっちゃん」
「なンすか?」
「ゲンゴローに関して星ヶ丘からメールが届いてて」
「えっ、俺ですか?」
「ってーと、どンな内容スか?」
「えーと……」
山口からのメールは『議長サンお久し振り~。夏合宿に出るって聞いたよ~。ゲンゴローをよろしくね~。で、ゲンゴローはこっちの都合でまだあまり機材にも触らせてあげられてないんだ~、だから基本的なことからいろいろ教えてもらえると嬉しいな~』という内容だ。
「あ、文体からすると山口先輩ですかね」
「だな」
「――的なお願いはアタシもつばめからされてますね」
「まあ、そんな内容だったけど、ラジオのことだったらうちも果林もいるし、ミキサーのことならりっちゃんがいる。だから心配しなくてもいいぞ。実際の機材で練習したければ向島のサークル室を開放しよう」
「わ、ありがとうございますー」
星ヶ丘の事情については何かいろいろめんどくさいとかややこしいというようなことを聞いた。特に山口やゲンゴローのいる朝霞班は部内でも扱いがあまりよろしくないとか、迫害されているという風にも聞いている。如何せんそんな話が前面に出てきているから星ヶ丘は修羅の国だとか、そんな噂はちらほらと。
自分たちがいるからラジオやミキサーのことについては心配しなくていいぞと言えば、ゲンゴローはホッとしたような顔をして「よろしくお願いします!」とぺこり。もちろんゲンゴローばかり贔屓していてはいけないので、ユキと高木にもきちんとフォローを。
「でも、タカティはこないだの作品出展の番組を聞いてる感じだと既にすごく上手いよね!」
「俺はまだまだだよ。実際モニターでも結構辛口の評価もらっちゃったし」
「俺はラジオのことはまだ全然やったことないから、ドキドキしてるよー」
「でも、ステージの練習はやってるんでしょ?」
「まだ少しだよ」
「高木、お前もラジオとステージの違いを勉強するいい機会だ。同じミキサーだし、いろいろ情報交換したりして仲良くな」
「はい」
「って言うかタカティとは初心者講習会で喋ってもう結構仲良くなったよね」
「そうだね」
「ホント、班に知ってる子がいてよかったよ。タカティと一緒だよかったーって思って」
「ゲンゴローなら知ってる人がいなくてもすぐ打ち解けられたと思うよ」
果林は大人しくてちょっと人見知りの高木のことを心配していたようだけど、知ってる子がいて良かったという風な感想を抱いたそうだ。先の講習会でも教室の真ん中の方で仲良くしていた1年男子は高木以外のコミュ力が高かった結果ああなっていたそうだから。実際果林は高木の保護者ポジションとして同じ班になったそうだ。
「でだ、初心者どうこうの話をしてたのに申し訳ないんだけど、正直うちはちょっと遊んだ番組をやりたいと思うんだ」
「遊びですか?」
「いや、腐っても前対策委員だし、どういうペアになるかは名簿を見た瞬間わかると言うか。どうせ高木とやるならあの作品出展の番組を踏襲じゃないけど、アップデートしたい」
「ってーと、そのアソビを菜月先輩とタカティのペアだけじゃなくて班全体のカラーにするっつーコトすね」
「班長、ダメか?」
「アタシは全然アリだと思いますけど、ユキちゃんとゲンゴローですよねー」
「や、タカティスタイルの番組だったらミキサーが頑張ればどーとでもなりヤす。ユキちゃんに関しては自分に任せてもらって」
「りっちゃん先輩お願いしまーす」
「……となると、ゲンゴローか」
「あ、えっと、いろいろ教えてもらえれば頑張ります!」
end.
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洋つばちゃんからそれぞれゲンゴローについてお願いされていたようですね。「ゲンゴローを鍛えてもらってあわよくばステージにも!」的な。
そういやインターフェイスの1年生は男子が少ないという話だけど、うち2人が4班に来たんだね。まあラブコールの結果なんやろな
そして今回のりっちゃんはやっぱり頼もしい。まあ、元々女子と後輩にはラブピしないから今回の班では文句のつけようのない紳士なんだな!
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夏合宿の班割りが発表されて、これから始まるのは班員の顔合わせだ。班長から「これからよろしくお願いします」という連絡が最初に入って、そこから顔合わせはいつにしましょうか、という感じで日程調整をするんだ。果林が班長を務める4班の初顔合わせは、無難に花栄のいつものコーヒーショップで。
「――というワケで、これからこんな感じの班でやっていきたいと思います。よろしくお願いしまーす」
「おなしゃーす」
4班は班長が果林、副班長にりっちゃんがいて、あとはうちと3人の1年生という編成になっている。1年生を含めて緑ヶ丘と向島から4人も出ているというのは、6人班としてはかなり異例なんだ。基本、この2校は上手いこと散りばめるのが班編成の基本だったから。
しかも、2・3年が全員この2校から出てるんだ。今年は青敬や星ヶ丘かからもちょこちょこ出てるからそういう連中とミックスするかと予想してたら。さすがにちょっとやりすぎじゃないかと思ったけど、対策委員には対策委員なりの考えや事情があったんだろうとグッと飲み込む。
「いろいろ大人の事情ってヤツがあったんですよ」
「大人の事情ね。どんな事情かはともかく事情があるというのは察するところだ」
「と言うか、ぶっちゃけなっち先輩へのラブコールが山のように来てたんですよ」
「ら、ラブコール…? うちが何をしたって言うんだ」
「初心者講習会の講師だったじゃないですか。あそこでファンがたくさん出来たんですよ。ラブコールを出してる人となっち先輩を同じ班にしちゃうと「どうしてあの人ばっかりー」ってなる可能性があったのと、野坂がキレたっていうのと」
「ノサカが?」
「ラブコールの扱いがめんどくさくなって「菜月先輩と同じ班にするのはラブコールを出してない人間に限る!」って」
「で、この集まった3人が野坂風に言ヤ邪念を持ってなかった精鋭たちスかァー」
「そーゆーコトだね」
りっちゃん風に言うところの“精鋭”たちは青女のアナウンサー・ユキ、星ヶ丘のミキサー・ゲンゴロー。そして、先の作品出展で一足早いインターフェイスデビューを果たしていた緑ヶ丘のミキサー・高木だ。コイツの名前を見た瞬間、これは面白く出来るぞと思ったんだ。
「ああ、そうだりっちゃん」
「なンすか?」
「ゲンゴローに関して星ヶ丘からメールが届いてて」
「えっ、俺ですか?」
「ってーと、どンな内容スか?」
「えーと……」
山口からのメールは『議長サンお久し振り~。夏合宿に出るって聞いたよ~。ゲンゴローをよろしくね~。で、ゲンゴローはこっちの都合でまだあまり機材にも触らせてあげられてないんだ~、だから基本的なことからいろいろ教えてもらえると嬉しいな~』という内容だ。
「あ、文体からすると山口先輩ですかね」
「だな」
「――的なお願いはアタシもつばめからされてますね」
「まあ、そんな内容だったけど、ラジオのことだったらうちも果林もいるし、ミキサーのことならりっちゃんがいる。だから心配しなくてもいいぞ。実際の機材で練習したければ向島のサークル室を開放しよう」
「わ、ありがとうございますー」
星ヶ丘の事情については何かいろいろめんどくさいとかややこしいというようなことを聞いた。特に山口やゲンゴローのいる朝霞班は部内でも扱いがあまりよろしくないとか、迫害されているという風にも聞いている。如何せんそんな話が前面に出てきているから星ヶ丘は修羅の国だとか、そんな噂はちらほらと。
自分たちがいるからラジオやミキサーのことについては心配しなくていいぞと言えば、ゲンゴローはホッとしたような顔をして「よろしくお願いします!」とぺこり。もちろんゲンゴローばかり贔屓していてはいけないので、ユキと高木にもきちんとフォローを。
「でも、タカティはこないだの作品出展の番組を聞いてる感じだと既にすごく上手いよね!」
「俺はまだまだだよ。実際モニターでも結構辛口の評価もらっちゃったし」
「俺はラジオのことはまだ全然やったことないから、ドキドキしてるよー」
「でも、ステージの練習はやってるんでしょ?」
「まだ少しだよ」
「高木、お前もラジオとステージの違いを勉強するいい機会だ。同じミキサーだし、いろいろ情報交換したりして仲良くな」
「はい」
「って言うかタカティとは初心者講習会で喋ってもう結構仲良くなったよね」
「そうだね」
「ホント、班に知ってる子がいてよかったよ。タカティと一緒だよかったーって思って」
「ゲンゴローなら知ってる人がいなくてもすぐ打ち解けられたと思うよ」
果林は大人しくてちょっと人見知りの高木のことを心配していたようだけど、知ってる子がいて良かったという風な感想を抱いたそうだ。先の講習会でも教室の真ん中の方で仲良くしていた1年男子は高木以外のコミュ力が高かった結果ああなっていたそうだから。実際果林は高木の保護者ポジションとして同じ班になったそうだ。
「でだ、初心者どうこうの話をしてたのに申し訳ないんだけど、正直うちはちょっと遊んだ番組をやりたいと思うんだ」
「遊びですか?」
「いや、腐っても前対策委員だし、どういうペアになるかは名簿を見た瞬間わかると言うか。どうせ高木とやるならあの作品出展の番組を踏襲じゃないけど、アップデートしたい」
「ってーと、そのアソビを菜月先輩とタカティのペアだけじゃなくて班全体のカラーにするっつーコトすね」
「班長、ダメか?」
「アタシは全然アリだと思いますけど、ユキちゃんとゲンゴローですよねー」
「や、タカティスタイルの番組だったらミキサーが頑張ればどーとでもなりヤす。ユキちゃんに関しては自分に任せてもらって」
「りっちゃん先輩お願いしまーす」
「……となると、ゲンゴローか」
「あ、えっと、いろいろ教えてもらえれば頑張ります!」
end.
++++
洋つばちゃんからそれぞれゲンゴローについてお願いされていたようですね。「ゲンゴローを鍛えてもらってあわよくばステージにも!」的な。
そういやインターフェイスの1年生は男子が少ないという話だけど、うち2人が4班に来たんだね。まあラブコールの結果なんやろな
そして今回のりっちゃんはやっぱり頼もしい。まあ、元々女子と後輩にはラブピしないから今回の班では文句のつけようのない紳士なんだな!
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