2019(02)

■一歩踏み出す世界も内側

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「ああ、いたいた。かんな、あやめ、こっちだ」
「越谷さんおはようございます」
「ますー」
「この辺にはあまり来ないと思うけど、大丈夫だったか」
「地下鉄の乗り換えくらいは出来ますよ、大丈夫です」
「ですよ」

 今日は越谷さんにお呼ばれして、かんなと一緒に初めて降り立つ駅へ。地下鉄の丸の池線なんて普段は使わないから、路線が違えば電車や駅の雰囲気もちょっと変わって来るんだなって不思議な気分になった。
 これからどこに行くのかと言うと、越谷さんの住んでいるアパートからほど近い居酒屋さん。焼き鳥や他の鶏料理がメインで、お酒を飲まない日でもご飯だけ食べに行ったりもしてるんだって。よっぽど美味しいお店みたい。居酒屋にもなかなか行かないからこれも楽しみ。
 それにどうして私たちが呼ばれたのかと言うと、今日が萩さんの誕生日で一緒にご飯を食べるから私たちも良かったら一緒にどうかーってことだったみたい。水鈴さんも仕事が終わったら来るしって。私たちは星ヶ丘の4年生同士水入らずでと思ったけど、私たちを呼ぶことに萩さんが好感触だったみたくて。それはそれで嬉しい。

「雄平」
「おっ、裕貴。来たか」
「かんなさんあやめさん、こんばんは」
「こんばんはー」
「ですー」
「さ、行こうぜ。水鈴は後から合流するから」
「萩さん今日お誕生日なんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。それと言って何かが変わったという実感はまだありませんが、それに見合う経験を積んでいければと」
「おーい裕貴、今日はそういう硬いのは抜きだ」
「すまない」

 少し歩いて、細い路地に入ったところにその店はあった。玄という紺色の暖簾がかかっていて、商い中という板も立てかかっている。大通りには面していないけど、そこまで路地の奥まで行かなきゃいけないワケでもないから怖いなって感じは薄い。

「いらっしゃいませ~。あっ、裕貴さんの会ですね~、5名様で!」
「水鈴は後から来るからとりあえず4人な」
「はいは~い。小上がりの奥の席にどうぞ~」

 はじめてのことばかりでずっときょろきょろしてる。差し出されたメニューは見てるけど、厨房の奥やカウンターに並ぶお酒の瓶に目が行く。そうこうしている間に越谷さんがトントンと頼む食べ物を決めていて、とりあえずそれに乗っておけば大丈夫そう。

「洋平、注文いいか?」
「は~い。ご注文伺いま~す」
「とりあえず5種盛りが4、枝豆と唐揚げとだし巻きとたたきと……生が2。かんなあやめ、お前ら何飲む」
「私はカルピスで」
「すご~い、声が揃ってる~。見た目通り双子ですよね~。カルピスが2~」
「とりあえずそんな感じで」

 注文を終えて、金メッシュが入った髪の店員さんが厨房に戻っていった。越谷さんが本当に慣れてるなって感じで、本当にいつも来てるんだなって。するとほんの少しの間を経て注文した飲み物が出て来る。

「お待たせしました~、生とカルピスと、枝豆で~す」
「サンキュ。それじゃあ乾杯」
「――って雄平さん、あっさりし過ぎじゃないですか~? せっかく裕貴さんの誕生会なのに~」
「言ってそこまで大規模な集まりでもないし、俺と裕貴で今更そこまで改まらなくてもいいかなって」
「せっかく女の子もいるんですし~」
「萩さん、越谷さんとこの店員さんて知り合いとか仲良しなんですか?」
「ああ、そう言えば紹介が遅れました。この店員は俺たちと同じ放送部の3年生で、さらに雄平とは班の後輩に当たります」
「俺はお三方の後輩で~、ステージスターの山口洋平っていいま~す。あっ、ちなみに裕貴さんとはゼミでもお世話になってて~」
「洋平、この2人は俺のバイト先の後輩だけど、青敬の放送サークルらしい」
「え~! 青敬さんだったらハマちゃんの後輩の子ってこと~!?」

 唐突に知ってる人の名前が出て来て驚いた。そう言えば、ハマちゃん先輩もインターフェイス云々の話をしてたときに星ヶ丘の先輩に良くしてもらったって言ってたっけ。ハマちゃん先輩を知ってるってことは、多分この人がそうなんだろうな。

「世間の狭さマジパねえです!」
「です!」
「ど、どうした?」
「ウチのサークルの先輩が、星ヶ丘の3年生の先輩に病院で会ってインターフェイスの活動に誘ってもらったって言ってたんですよ」
「です」
「ちなみにマジパねえってその先輩の口癖です」
「です」
「つか、病院? 洋平、お前がどっか悪いワケじゃないよな? せめて朝霞を無理矢理引き摺ってったとかで頼む」
「俺でもギリギリ朝霞クンでもないですよ~。朝霞クンと一緒に長野っちのお見舞いに行ったんですけど~、その時に2年生のハマちゃんと会って、ちょっと。サークルに人が来なくて寂しいって悩んでるみたいでしたし~」

 世間って本当に狭いですよね~と言って洋平さんはまたお仕事へと戻って行った。越谷さんによれば、水鈴さんの妹さんも向島大学で放送サークルに入っていて、インターフェイスの活動にも参加しているそうだから夏合宿で会えるかもしれないと。それも楽しみ。やっぱり一歩踏み出してみて良かったかも。
 一歩踏み出すっていうのはインターフェイスのことだけじゃなくて、こうやっていろんなところに出歩いてみるっていうこと。普通に大学生活を送ってるだけだったら越谷さんはともかく萩さんや水鈴さんとは知り合えなかったと思うし。

「5種盛りで~す」
「サンキュ」
「ちなみに裕貴さんと双子のお2人は今日が初対面なんですか~?」
「いや、4人か水鈴込みの5人でちょこちょこ会ってるぞ」
「かんなに限って言えば萩さんと2人でよくお出掛けしてますよ」
「あやめマジか」
「マジですよ」

 アイスを食べに行ったり、服を見て歩いたりしたとは聞いてますよね。傍から見れば完全にデートってヤツ。

「いや、以前ドリンクバーで派手にやらかした件を引き摺っていてな……かんなさんに練習に付き合ってもらったりしたんだ」
「裕貴お前……何だその変な真面目さ。ドリバーの練習…?」
「先日はセルフ式のアイスクリーム店に行って、自分でレバーを引いて器に盛るというスタイルで――」
「裕貴さん甘い物好きですもんね~。よかったら食後に俺持ちでプリンお出ししま~す」
「洋平、本当か」
「プリンなんてあるんですか!?」
「ですか!?」
「……洋平、人数分プリンありそうか?」
「今ならまだ大丈夫で~す」


end.


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萩さんのお誕生日なので、こっしーさんがちょっと食べに行こうぜって言ってるであろう光景がとてもよきかな
で、かんなあやめ。意図せず山口洋平さんとの接点がちょっと出来たけど、ハマちゃんね
ところで萩さんとかんなって今年度はどういう感じになっていくんやろか。楽しみねえ

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