2019(02)
■傘ひとつでは守れない
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放送サークルなんかをやっていると、番組収録時の音が気になって来る。例えば、窓の外から聞こえる雨の音とか。ちょっと降ってるくらいなら窓を閉じれば部屋が蒸し暑くなるだけだけど、土砂降りになるとザアアアという激しい音もマイクが拾ってしまうんじゃないかって。
別に今は何を収録してるワケじゃないからいいんだけど、窓を開けておくと機材の方に雫がばしゃばしゃ跳ねそうで怖さがある。だから窓は閉めて。でも、やだなあ。サークル棟の入り口には傘立てがあるんだけど、それを無視してみんな建物の中に傘を持ち込むから通路もびしゃびしゃだし。
「おはようございます」
「おざーっす」
「タカシ、エージ、おはよー」
「ひー、雨ひでーっすね」
「あ、やっぱ酷い?」
「カズ先輩バイクっすよね? ガチでこんな中帰るんすかってくらいには酷いっていう」
「あー……マジか。俺あんま酷い時乗らない主義なんだけど、どうしよっかな。帰りまでには晴れてくれてればいいんだけど」
今サークル室にやってきた1年生にしても、服の裾やカバンがすっかり色濃くなってしまっている。傘は差していたようだけど、それでも全身はなかなか守り切れないレベルの雨が降っているみたいだ。でも、マジでバイクどーしよ。
「うーす」
「あっ、高ピーおはよー」
「おはようございます」
「おいエージ、山浪の方なんか雨酷いみたいだけど、お前ン家の方は大丈夫なのか」
「えっ、そんな酷いっすか!? あーっ! マジか!」
「どうしたのエイジ」
「母ちゃんから「今日は帰って来ない方が安全です」って連絡が入ってた。マジかよ、そんなヤバいんかっていう」
「そしたらエイジ、うちに来なよ」
「わりー高木、サンキュ」
最近じゃゲリラ豪雨とかで本当にピンポイントですっごい雨が降ることも多くなったなあって思う。ここでは凄い雨だったけど、家に帰ってみたら降ってた形跡すらないとかもザラ。短時間ナントカ情報みたいなのも結構出るし、梅雨とか夏はいつ雨に降られてもおかしくないよなあって。
エージの住んでいる山浪エリアは向島エリアの北隣だけど、一応は同じ地域で括られるお隣さん。だけどちょっとしたことで天気なんか全然違う。エージの家の方は本当に大変なことになっているようで、帰って来るなって言われるってどんなレベルだよって。
「でも、大雨で厳重警戒って言われるとちょっと不安になるよね。えっ、エイジ不安にならない?」
「そうか? まあ、バスが止まると困るけど」
「言ってちょこちょこあるだろ」
「そうなんですけど、俺の実家が紅社じゃないですか。実家にいた頃からも豪雨災害が結構あったので、またいつ大変なことになるかって」
「あー……そうか、紅社はな。確かに」
自然相手のことは、その土地の人にしかわからないこともあるのかもしれない。タカシの実家がある紅社エリアは雨による災害に度々見舞われてきたし、それらは最近のことでもあるから俺たちの記憶にもしっかり残っている。タカシの実家は難を逃れたそうだけど、それでも身近なところであったことだけに不安になるそうだ。
「星港って豪雨になるとどんな感じになるんですか?」
「まあ、普通に浸水とかはあるし、星港駅の地下が沈むとか」
「えっ、そんなレベルになるんですか」
「でもお前ン家6階だろ、ジッとしてる分には大丈夫じゃねえか」
「そうですよね、さすがに6階までは浸水しませんよね」
「雨ならさすがに大丈夫だろ、津波は知らねえけどな。そんなに心配ならハザードマップでも確認しとけ」
そう考えると俺のマンションの部屋も3階だし、雨を凌ぐという点においてはまあまあなのかな。非常食……ああ、慧梨夏が前にもらってきた乾パン。何かアレンジレシピでどうとかって言ってたけど、非常食として置いとくのもアリかな、このご時世。
「なあ高木、今日はお前の部屋で泊めてもらうだろっていう」
「そうだね」
「ガチで着替え欲しいんだけどお前ン家の近くにどっか服買えるトコあるか?」
「えっとね、遠い方のスーパーの2階にちょっとした服とか肌着とか売ってる店が入ってるよ」
「マジか! そこに行きたいっていう! えっ、パンツは?」
「あるよ。って言うか部屋着だったら貸すのに」
「いや、欲しいのは部屋着じゃなくて明日着る服だ。2日連続同じ服とか耐えられんべ、しかも夏に。洗濯したってこの調子じゃ乾かんだろっていう。はー、でもパンツとかも売ってるならマジで助かる! いやー、一式揃えれるべ」
Lの陰に隠れてるけど、このエージがなかなかの綺麗好きなんじゃないかっていう説が浮上しつつあるんだ。サークル室ではいつだってコロコロをカーペットの上に転がしてるし。だけど、これはきっとただの綺麗好きじゃなさそうだね。神経質か、軽度の潔癖症かって感じ。
タカシの部屋に急にお邪魔することになったエージは、星港に着いて何が必要かをメモしてる。明日着る服と下着が第一で、次にタカシの部屋で食べる物と飲む物だ。きっとこの感じだと星港でも雨が降っている。最短距離で必要な買い物を済ませられる順路を。
「高ピー、豊葦のこれからの天気ってわかる?」
「この辺のか」
「うん。帰るまでに小降りにならないかなって」
「バイクで帰れるか的なことか」
「そうだね。ホント、10分でいいんだけど」
end.
++++
今はどこでどんな大雨が降るかわからないので向島エリアでもきっとそわそわすることがあるんだろうなあ
それこそ育って来た場所やら環境やらが違うので、天気やその他自然災害に対する意識の違いもあろうかと
で、エイジね。多分今期これだけ喋ったのって初めてくらいじゃないかな。気付いたらタカエイがちゃんとタカエイしてた。
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放送サークルなんかをやっていると、番組収録時の音が気になって来る。例えば、窓の外から聞こえる雨の音とか。ちょっと降ってるくらいなら窓を閉じれば部屋が蒸し暑くなるだけだけど、土砂降りになるとザアアアという激しい音もマイクが拾ってしまうんじゃないかって。
別に今は何を収録してるワケじゃないからいいんだけど、窓を開けておくと機材の方に雫がばしゃばしゃ跳ねそうで怖さがある。だから窓は閉めて。でも、やだなあ。サークル棟の入り口には傘立てがあるんだけど、それを無視してみんな建物の中に傘を持ち込むから通路もびしゃびしゃだし。
「おはようございます」
「おざーっす」
「タカシ、エージ、おはよー」
「ひー、雨ひでーっすね」
「あ、やっぱ酷い?」
「カズ先輩バイクっすよね? ガチでこんな中帰るんすかってくらいには酷いっていう」
「あー……マジか。俺あんま酷い時乗らない主義なんだけど、どうしよっかな。帰りまでには晴れてくれてればいいんだけど」
今サークル室にやってきた1年生にしても、服の裾やカバンがすっかり色濃くなってしまっている。傘は差していたようだけど、それでも全身はなかなか守り切れないレベルの雨が降っているみたいだ。でも、マジでバイクどーしよ。
「うーす」
「あっ、高ピーおはよー」
「おはようございます」
「おいエージ、山浪の方なんか雨酷いみたいだけど、お前ン家の方は大丈夫なのか」
「えっ、そんな酷いっすか!? あーっ! マジか!」
「どうしたのエイジ」
「母ちゃんから「今日は帰って来ない方が安全です」って連絡が入ってた。マジかよ、そんなヤバいんかっていう」
「そしたらエイジ、うちに来なよ」
「わりー高木、サンキュ」
最近じゃゲリラ豪雨とかで本当にピンポイントですっごい雨が降ることも多くなったなあって思う。ここでは凄い雨だったけど、家に帰ってみたら降ってた形跡すらないとかもザラ。短時間ナントカ情報みたいなのも結構出るし、梅雨とか夏はいつ雨に降られてもおかしくないよなあって。
エージの住んでいる山浪エリアは向島エリアの北隣だけど、一応は同じ地域で括られるお隣さん。だけどちょっとしたことで天気なんか全然違う。エージの家の方は本当に大変なことになっているようで、帰って来るなって言われるってどんなレベルだよって。
「でも、大雨で厳重警戒って言われるとちょっと不安になるよね。えっ、エイジ不安にならない?」
「そうか? まあ、バスが止まると困るけど」
「言ってちょこちょこあるだろ」
「そうなんですけど、俺の実家が紅社じゃないですか。実家にいた頃からも豪雨災害が結構あったので、またいつ大変なことになるかって」
「あー……そうか、紅社はな。確かに」
自然相手のことは、その土地の人にしかわからないこともあるのかもしれない。タカシの実家がある紅社エリアは雨による災害に度々見舞われてきたし、それらは最近のことでもあるから俺たちの記憶にもしっかり残っている。タカシの実家は難を逃れたそうだけど、それでも身近なところであったことだけに不安になるそうだ。
「星港って豪雨になるとどんな感じになるんですか?」
「まあ、普通に浸水とかはあるし、星港駅の地下が沈むとか」
「えっ、そんなレベルになるんですか」
「でもお前ン家6階だろ、ジッとしてる分には大丈夫じゃねえか」
「そうですよね、さすがに6階までは浸水しませんよね」
「雨ならさすがに大丈夫だろ、津波は知らねえけどな。そんなに心配ならハザードマップでも確認しとけ」
そう考えると俺のマンションの部屋も3階だし、雨を凌ぐという点においてはまあまあなのかな。非常食……ああ、慧梨夏が前にもらってきた乾パン。何かアレンジレシピでどうとかって言ってたけど、非常食として置いとくのもアリかな、このご時世。
「なあ高木、今日はお前の部屋で泊めてもらうだろっていう」
「そうだね」
「ガチで着替え欲しいんだけどお前ン家の近くにどっか服買えるトコあるか?」
「えっとね、遠い方のスーパーの2階にちょっとした服とか肌着とか売ってる店が入ってるよ」
「マジか! そこに行きたいっていう! えっ、パンツは?」
「あるよ。って言うか部屋着だったら貸すのに」
「いや、欲しいのは部屋着じゃなくて明日着る服だ。2日連続同じ服とか耐えられんべ、しかも夏に。洗濯したってこの調子じゃ乾かんだろっていう。はー、でもパンツとかも売ってるならマジで助かる! いやー、一式揃えれるべ」
Lの陰に隠れてるけど、このエージがなかなかの綺麗好きなんじゃないかっていう説が浮上しつつあるんだ。サークル室ではいつだってコロコロをカーペットの上に転がしてるし。だけど、これはきっとただの綺麗好きじゃなさそうだね。神経質か、軽度の潔癖症かって感じ。
タカシの部屋に急にお邪魔することになったエージは、星港に着いて何が必要かをメモしてる。明日着る服と下着が第一で、次にタカシの部屋で食べる物と飲む物だ。きっとこの感じだと星港でも雨が降っている。最短距離で必要な買い物を済ませられる順路を。
「高ピー、豊葦のこれからの天気ってわかる?」
「この辺のか」
「うん。帰るまでに小降りにならないかなって」
「バイクで帰れるか的なことか」
「そうだね。ホント、10分でいいんだけど」
end.
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今はどこでどんな大雨が降るかわからないので向島エリアでもきっとそわそわすることがあるんだろうなあ
それこそ育って来た場所やら環境やらが違うので、天気やその他自然災害に対する意識の違いもあろうかと
で、エイジね。多分今期これだけ喋ったのって初めてくらいじゃないかな。気付いたらタカエイがちゃんとタカエイしてた。
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