2019(02)
■hidden agenda
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「ところで、作品出展のモニターをしなきゃいけないことを思い出したよ」
「あー、提出期限があるからやらないといけないんだな」
「そういうことなんだよ。というワケで、今日はまず作品出展を聞いていくよ。野坂、再生してくれるかな」
「はい!」
向島インターフェイス放送委員会では作品出展という活動がある。それは、各大学がどのような活動をしているのか、どのような作品を作っているのかを実際に見てみようというもの。活動の様子を収めた映像だったり、実際に作った音声作品だったり、そんなようなものを持ち回りで提出してモニターするんだね。
緑ヶ丘からもらっていた作品のモニターをしていなかったということを思い出して、さっそくこれを今日のMMPの活動のメインに据える。モニターというのは提出された作品を鑑賞してその作品についての感想や批評などをすること。そしてそれは定例会で集めてその大学さんに渡される。
「それでは再生を開始します」
一言でモニターと言ってもMMPのそれはあまり真面目な路線ではない。毎回書いてあることが独特だと他大学さんからツッコまれるまでがテンプレートだ。いや、一応真面目な感想も書いているけどそれを上回る自由さが際立っているんだろうね。
それはそうと、始まった番組の方だ。今回は30分番組が2本収録されているらしい。最初は高崎と伊東が組んだ3年生の番組、そして次は果林と1年生のミキサーの子が組んだという番組だね。この時期の1年生をもう作品出展デビューさせるだなんて、さすが緑ヶ丘だ。
「高崎先輩と伊東先輩の番組ですから、さぞかし凄い番組なんでしょうね」
「まあ、今のところは無難に始まったというような感じだな」
――と、あっという間に30分が過ぎた結果、僕たちが辿り着いた結論は「コメントに困る」というそれだけだった。僕たちのモニターは悪ふざけからの大喜利が基本だ。突けるネタがなければそれらしい感想を捻り出そうにもなかなかない。
高崎と伊東の番組は粗もなければここという突出したポイントもないただただ基本に忠実な30分番組だったのだ。トークの内容にしてもごくごく無難という感じで。これに何とコメントをすればいいやら全員が困っている。
「……さすがと言えばさすがなんでしょうが、上手すぎて俺たちが何を言えるのか」
「ん、本当にそれだね」
「強いて感想を言えば「無難過ぎて面白くない」だな」
「それは菜月先輩だからこそ言えることかと」
「じゃあそのように書いとく。ノサカ、次の番組を流してくれ」
「わかりました」
次の番組を再生すると、いきなりイントロ乗せから始まった。僕たちの中の常識では、30分番組であればオープニングトークから始まるのが定石。先の3年生番組にしてもそうだった。いきなりその構成を崩して来られると「えっ、どうした?」と場がどよめく。
いきなり曲から始まって、1曲終わってようやくオープニング、からのトーク1。コーナーの切り替わりには当然BGMも切り替わっているのだけど、如何せんダブルトークでもないピントークの番組で5分間喋り通すというのはなかなかないこと。気になった点を書き留めるペンは、各自さっきよりよく動いている。
「終わりました」
「やァー、斬新な構成シたね」
「本当だね」
「斬新は斬新ですけど、粗は結構ありましたよ。BGMの切り替わるタイミングで微妙にブランクが長くなったり、テンポが悪くなったりなど」
「その辺はミキサーが1年生らしいからこれからじゃないか? と言うか、この時期の1年生にこれだけのことをやられると俺たちもヤバいんじゃないか」
「菜月さん、この番組を聞いて何かあるかな?」
やいやいと2年生が感じたことを並べ立てる中、菜月さんはペンの頭をリズムよく机に打ちながら何かを考え込んでいるようだった。僕は何かしら感じたことがあるだろう彼女に話を振り、声を引き出す。
「確かにこの番組には粗があるんだ。それを突けばキリはない。だけど、先の番組よりは圧倒的に面白いし楽しいとは思っていて。次は何をしてくるだろうっていうワクワク感? そういうものは確かにあった」
「そうだね」
「うちはこういうことをやってきたのが緑ヶ丘だっていうことに一定の意味を感じてて」
「――というのは?」
「緑ヶ丘はザ・正統派っていう感じの大学で、基本中の基本のことを全員が高いレベルでやってる大学じゃないか。悪く言えばお堅い。よく言えば硬派かな。同じラジオメインの大学でも緩くて軟派なMMPはその対極にいると言うか」
「そうだね」
「これが緑ヶ丘だというのを一言で表したのが1トラック目の高崎と伊東の番組で、2トラック目の果林の番組は緑ヶ丘から出てる作品ではあるんだけど個人の特色を前面に押し出してきてるなと。「開発段階だけどとりあえず意見をもらってみるか?」っていう風にも見えて来たんだ」
モニターで問われるのは作品の質もそうだけど、その大学さんの活動のスタンスもある。新しいことに挑戦していて凄いですねとか、さすが伝統のシリーズは安定のクオリティですねとか。菜月さんによれば、緑ヶ丘は緑大比で革新的な番組への挑戦を始めているのではないか、とのことだ。
そういうことであれば僕たちは2トラック目の番組の方をこれでもかと突く準備を始まるんだ。野坂にもう一度再生するよう指示して、それを聞きながらリアルタイムでのツッコミだ。多分、僕たちの悪ふざけという名の直観的な感想でもないよりはいいはずだ。
「圭斗、ところでウチの作品出展はいつなんだ?」
「ん、ウチの作品出展はこの次だよ。7月提出の回だね」
「ちょっと待て、これから作らなきゃいけないってことか!?」
「まあ、1本は火曜ペアの昼放送でいいとして、残り半分をどうするかだね」
「――って何ナチュラルにうちの番組を出そうとしてるんだ」
end.
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MMPの面々がきゃいきゃいとモニターをしてるだけのお話。この話も久し振り。
だけど今年度のこのお話では菜月さんがこのディスクにまた新たな意味を見出しているようです。菜月さん流解釈。
そして向島の作品出展な。果たしてどうなる! 来週くらいにちょっと出来ればいいんだけどなあその話
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「ところで、作品出展のモニターをしなきゃいけないことを思い出したよ」
「あー、提出期限があるからやらないといけないんだな」
「そういうことなんだよ。というワケで、今日はまず作品出展を聞いていくよ。野坂、再生してくれるかな」
「はい!」
向島インターフェイス放送委員会では作品出展という活動がある。それは、各大学がどのような活動をしているのか、どのような作品を作っているのかを実際に見てみようというもの。活動の様子を収めた映像だったり、実際に作った音声作品だったり、そんなようなものを持ち回りで提出してモニターするんだね。
緑ヶ丘からもらっていた作品のモニターをしていなかったということを思い出して、さっそくこれを今日のMMPの活動のメインに据える。モニターというのは提出された作品を鑑賞してその作品についての感想や批評などをすること。そしてそれは定例会で集めてその大学さんに渡される。
「それでは再生を開始します」
一言でモニターと言ってもMMPのそれはあまり真面目な路線ではない。毎回書いてあることが独特だと他大学さんからツッコまれるまでがテンプレートだ。いや、一応真面目な感想も書いているけどそれを上回る自由さが際立っているんだろうね。
それはそうと、始まった番組の方だ。今回は30分番組が2本収録されているらしい。最初は高崎と伊東が組んだ3年生の番組、そして次は果林と1年生のミキサーの子が組んだという番組だね。この時期の1年生をもう作品出展デビューさせるだなんて、さすが緑ヶ丘だ。
「高崎先輩と伊東先輩の番組ですから、さぞかし凄い番組なんでしょうね」
「まあ、今のところは無難に始まったというような感じだな」
――と、あっという間に30分が過ぎた結果、僕たちが辿り着いた結論は「コメントに困る」というそれだけだった。僕たちのモニターは悪ふざけからの大喜利が基本だ。突けるネタがなければそれらしい感想を捻り出そうにもなかなかない。
高崎と伊東の番組は粗もなければここという突出したポイントもないただただ基本に忠実な30分番組だったのだ。トークの内容にしてもごくごく無難という感じで。これに何とコメントをすればいいやら全員が困っている。
「……さすがと言えばさすがなんでしょうが、上手すぎて俺たちが何を言えるのか」
「ん、本当にそれだね」
「強いて感想を言えば「無難過ぎて面白くない」だな」
「それは菜月先輩だからこそ言えることかと」
「じゃあそのように書いとく。ノサカ、次の番組を流してくれ」
「わかりました」
次の番組を再生すると、いきなりイントロ乗せから始まった。僕たちの中の常識では、30分番組であればオープニングトークから始まるのが定石。先の3年生番組にしてもそうだった。いきなりその構成を崩して来られると「えっ、どうした?」と場がどよめく。
いきなり曲から始まって、1曲終わってようやくオープニング、からのトーク1。コーナーの切り替わりには当然BGMも切り替わっているのだけど、如何せんダブルトークでもないピントークの番組で5分間喋り通すというのはなかなかないこと。気になった点を書き留めるペンは、各自さっきよりよく動いている。
「終わりました」
「やァー、斬新な構成シたね」
「本当だね」
「斬新は斬新ですけど、粗は結構ありましたよ。BGMの切り替わるタイミングで微妙にブランクが長くなったり、テンポが悪くなったりなど」
「その辺はミキサーが1年生らしいからこれからじゃないか? と言うか、この時期の1年生にこれだけのことをやられると俺たちもヤバいんじゃないか」
「菜月さん、この番組を聞いて何かあるかな?」
やいやいと2年生が感じたことを並べ立てる中、菜月さんはペンの頭をリズムよく机に打ちながら何かを考え込んでいるようだった。僕は何かしら感じたことがあるだろう彼女に話を振り、声を引き出す。
「確かにこの番組には粗があるんだ。それを突けばキリはない。だけど、先の番組よりは圧倒的に面白いし楽しいとは思っていて。次は何をしてくるだろうっていうワクワク感? そういうものは確かにあった」
「そうだね」
「うちはこういうことをやってきたのが緑ヶ丘だっていうことに一定の意味を感じてて」
「――というのは?」
「緑ヶ丘はザ・正統派っていう感じの大学で、基本中の基本のことを全員が高いレベルでやってる大学じゃないか。悪く言えばお堅い。よく言えば硬派かな。同じラジオメインの大学でも緩くて軟派なMMPはその対極にいると言うか」
「そうだね」
「これが緑ヶ丘だというのを一言で表したのが1トラック目の高崎と伊東の番組で、2トラック目の果林の番組は緑ヶ丘から出てる作品ではあるんだけど個人の特色を前面に押し出してきてるなと。「開発段階だけどとりあえず意見をもらってみるか?」っていう風にも見えて来たんだ」
モニターで問われるのは作品の質もそうだけど、その大学さんの活動のスタンスもある。新しいことに挑戦していて凄いですねとか、さすが伝統のシリーズは安定のクオリティですねとか。菜月さんによれば、緑ヶ丘は緑大比で革新的な番組への挑戦を始めているのではないか、とのことだ。
そういうことであれば僕たちは2トラック目の番組の方をこれでもかと突く準備を始まるんだ。野坂にもう一度再生するよう指示して、それを聞きながらリアルタイムでのツッコミだ。多分、僕たちの悪ふざけという名の直観的な感想でもないよりはいいはずだ。
「圭斗、ところでウチの作品出展はいつなんだ?」
「ん、ウチの作品出展はこの次だよ。7月提出の回だね」
「ちょっと待て、これから作らなきゃいけないってことか!?」
「まあ、1本は火曜ペアの昼放送でいいとして、残り半分をどうするかだね」
「――って何ナチュラルにうちの番組を出そうとしてるんだ」
end.
++++
MMPの面々がきゃいきゃいとモニターをしてるだけのお話。この話も久し振り。
だけど今年度のこのお話では菜月さんがこのディスクにまた新たな意味を見出しているようです。菜月さん流解釈。
そして向島の作品出展な。果たしてどうなる! 来週くらいにちょっと出来ればいいんだけどなあその話
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