2019(02)

■オートセーブは過保護なのか

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「あ、あ……あー……ああああああああああっ!」
「うわっ、ビックリしたぁー」
「ウソでしょ!? ねえ! ちょっと待って!?」

 ベッドでゴロゴロしながらゲームをしていた慧梨夏が突然奇声を上げた。完全に予期していなかったから本当にビックリしてめっちゃビクッてしたよな。それはそれで恥ずかしいわ慧梨夏は俺なんか相手にしないわでどうしたんだと。
 これはゲームの方で何か大変なことでもあったな。今はスマホもパソコンも見てないから、何か慧梨夏の界隈でビッグニュースがあったとかでもなさそうだ。ゲームの展開で何かあったかな、推しが死んだとか。まあ、この状態の慧梨夏はほっとくに限る。
 相変わらず奇声を上げながらベッドの上でのた打ち回っているけど、本当に大丈夫かこれ。よっぽど衝撃的なことがあったんだろうけど、俺にはどうしようもないからな。触れてもゲームのことはあんま理解出来ないし。ボフッとベッドの上にゲーム機が落ちて、慧梨夏本人もボフッと倒れ込む。

「あー……ヘコむわー……カ~ズ~、紅茶淹れてくださ~い……」
「つかテンションの落差ヤバくないか」
「あのね、聞いて」
「俺でもわかる話か?」
「うん、大丈夫、わかるように話します」

 とりあえずはアイスティーを淹れて、慧梨夏の話を聞く体勢に。くにゃりとうな垂れた様子からすると本当にショックだったんだろう。俺はゲームの話はあんまりわからないんだけど、それでもいいからとにかく話を聞いて欲しいんだろう。

「今うち昔のRPGやってるんですよ」
「あー、何かセールで落としたっつってたな」
「そう! RPGって主人公がいて、旅の中でどんどん仲間を増やしていって……って感じで冒険を進めて行くのね?」
「さすがにそれはわかるから大丈夫」
「仲間になるキャラクターの中には、必ずしも仲間にしなくてもいいキャラクターとか、普通にやってたんじゃ仲間にならない所謂隠しキャラっていうのもいるんですよ」
「へー、何か条件がある的な?」
「そうそう、シミュゲーとかでもあるけどマップ上で敵として登場したそのキャラクターに主人公で話しかけるとか、会話コマンドで正しい選択肢を選び続けるとかいろいろあるんですよ。それで、その隠しキャラを仲間にしたところだったんですよ!」
「おっ、良かったじゃんか」
「でもね……」
「うん」
「フリーズした……フリーズして、リセットして……そしたら……」
「仲間に出来てなかった」
「いやああああああっ! ウソ! 本当にウソ!」
「あー……」

 まあ、昔のゲームだからと言えばそうなのかもしれないし、昔のゲームを何か微妙にシステム足したりいろんなハードで出来るようにしたりってしてる間に不具合なんかも出たりするのかもしれないな、知らないけど。
 慧梨夏はその隠しキャラを仲間にした後、さあストーリーを進めようと結構な距離を進んでいたらしい。だけどその道中でセーブをするのをすっかり忘れていたようで、仲間にしたキャラクターがいなくなったのと、結構進めたそれが全部巻き戻ってしまったことにショックを受けたっぽい。

「最近のゲームって結構オートセーブのヤツが多いでしょ? うちも完全にそのノリでやっちゃってたよね」
「でもお前普段から絵描いたり文字書いたりしてるんだから保存の大事さってわかってそうなモンだけど」
「ワードはオートセーブあるから」
「あっはいそうですね」
「うちとしたことが……まめにレポート書いたりお化け屋敷に入ることの大切さを完全に忘れてたよね」
「リセットさんもクビになる時代だしな」
「それ!」

 どうぶつの森はちょっとやったことがあるんだけど、セーブしないでリセットすると怒られるってヤツな。でも次出るのではとうとうオートセーブが採用されるらしい。いちいちセーブしなきゃってしなくていいのはラクなんだろうけど、リセットさんの再就職に関してはちょっとした話題になったようだ。

「でもやっぱオートセーブの方がいいモンなのか?」
「うーん、一概には言えないかな」
「手動セーブの利点って何かあるか?」
「特にRPGとかになるけど、ダンジョンで急にセーブポイントが出て来た時の「うわこれボス来る!?」みたいなテンションの高揚」
「あー」
「それから個体値厳選でしょ、うちはやらないけど。俗に言うリセマラ。あと何だろ、そろそろやめようかなっていうメリハリが出来る」
「確かに止め時って難しいんだろうな、お前を見てると」

 ずずずとアイスティーを飲み干して、慧梨夏は再びゲーム機を手にした。どうやら失った時間を取り戻しに行くようだ。いっそ先にやってた時より早い段階で隠しキャラを開放してめっちゃ強くしてやると意気込んでいる。転んでもタダじゃ起きないなあ。
 こうなるとなかなかゲームを終わってくれないだろうから、せめてさっさと寝るように促しておかないと。ゲームにのめり込むと徹夜とか平気でやるからな。キリのいいところでやめてくれるように祈るだけだ。いい感じのところにセーブポイントがあるといいんだけど。

「カーズー、紅茶おかわり下さーい」
「それはいいけど、キリのいいところで終わってちゃんと寝ろよ」
「多分ね」
「多分?」


end.


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いちえりちゃんです。慧梨夏がゲームをやってるのをいち氏が単に見てるだけ。
オートセーブのゲームもちょこちょこありますし、リセットさんはクビになるわでちょっと話題ですね
何やかんやわからん話でも聞いてあげるいち氏よ。ただ話を聞いてうん、うんってやってるだけでも慧梨夏にはいいんだろうな。共感を求めない。

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