2019(02)
■夏の情緒と懐かしき日々
++++
「あっ、慧梨夏。ちゃんと来てたのか、珍しい」
「もー、うちだってちゃんと授業に来る日は来ますー」
「たまには一緒に飯でも食うか」
「いいね」
慧梨夏とはどっちかの家では割と常に一緒にいるけど、大学ではあまり会わない。それと言うのも、お世辞にも慧梨夏は授業にちゃんと出ているとは言えないタイプだから。今日は珍しく大学で会ったということで、第2学食でランチをすることに。
俺はネギトロ丼を、慧梨夏はチキンカレーをチョイスし席に座る。7月に入ったけどまだまだテストが迫って切羽詰まるという時期でもないようで、今日は昼休みの学食でも座るのに苦労しなかった。もう少しすれば人が増えて席の争奪戦が始まるはずだ。
「何か、大学でこうやって一緒にいるって新鮮」
「だな。学部も違うし全然会わないよな」
「高校の頃はちょっと歩けばすぐいたのにね。やっぱり規模が違うわ」
「そりゃそうだろ。高校なんて1学年200人じゃんな。緑大の1学科にも満たない人数だもんな」
「緑大の大学の敷地に星高いくつ入るかな」
「何かデカさの表現で東都ドーム何個分とか言うけど、ぶっちゃけあんまりよくわかんねーわ東都ドームで言われても」
「サッカーのスタジアムで言った方がわかりやすい?」
「わかりやすい」
山を切り開いて敷地を作った私立緑ヶ丘大学と、街の片隅にポンと作られたエリア立の星港高校ではそりゃあやっぱ規模なんか比べ物にならないワケで。それから、主に野球やコンサートなんかに使われる遠いエリアのドームよりは、サッカーの試合に使われる地元のスタジアムの方が身近だ。
「昨日ね、車運転してたらさ、カップルみたいな高校生が自転車止めて立ち話しててさ。すごくね、イイ! って思って」
「よくある光景じゃねーの?」
「違う! 何て言うの…? 夏服の高校生が立ち話してるんですよ!? はー……美味しい、美味しすぎて創作意欲を掻き立てるよね!」
「ちなみに、何がどう良かったんだ?」
「長くなりますけど」
「どうぞ」
「まず、自転車を止めて立ち話してるっていう状況ですよ。おおよそ学校から一緒に帰ってるっていう状況で、自転車を止める意味ね。ちょうどその場所が2人のバイバイする地点なんだよ」
「あー、なるほどな」
「学校からずっと楽しく会話してて、それが盛り上がって別れが惜しくなっちゃってさ。でも夏だから夕方でもまだまだ空が明るいじゃん。暗くなるまではこのまま喋っててもいいかな、みたいなこのっ…! 青春! 夏の情緒! 的な?」
「すげー細かいトコまで見てんな」
「え、普通だよ」
俺だったら同じ光景を見ても「高校生がいるなー」くらいにしか思わないけど、その高校生の背景みたいなモンまで一瞬で想像して「いい!」って悶えることが出来るのはオタクならではの特殊能力なのだろうか。見た物から得る情報量が段違いと言うか。
そして慧梨夏は妄想を語り始めた。夕日が本格的に落ちて来て「そろそろ帰らなきゃ」って現実に戻った2人がバイバイした後に男の子が来た道を戻ってったらそれは創作の材料としては非常に素敵なシチュエーションなんだそうだ。嗜好が違えば「また明日ね」と別れた2人を二度と会えなくするパターンもあるとか。
「いや、何でそこで殺すんだよ」
「バッドエンド趣味の人もいるんですよ少なからず。でもうちは基本ハッピーならぶいちゃが好みなので、甘酸っぱい青春のまま推していきたいですね」
「ソウデスカ」
「でも、学校から一緒に帰るのって少なからず憧れるよね」
「それなら今度一緒に帰るか?」
「そーゆーんじゃなくて。制服っていうのが大事」
慧梨夏によれば、制服というのは限られた職業、年齢でしか着られないアイコンなんだそうだ。大学生になってまで中学高校の制服を着ればそれはもうコスプレとして消費するだけの物で、過ぎ去ってしまう物だからこそその中にいる時に経験すべきことはあるらしい。
で、俺と慧梨夏は高校の時に一緒に帰らなかったのかという話だ。実は、俺の家と慧梨夏の家はちょうど真逆の方向なんだ。それこそ星港高校がちょうど中間地点。そんな事情もあって俺が回り道するにも遠すぎるし、ということで一緒に帰ることはなかったんだ。しても体育館脇での立ち話だ。
「懐かしいな、高校の頃か」
「うちらがよく喋ってたトコの裏に高崎クンが原付隠してたりね」
「今思うと高ピーってよくあれで生徒会長やってたよな。茶髪にピアスで一応校則で禁止されてる原付乗り回してたりバイトしてたり、受験に要らないからっつって生物の授業フケたり」
「ホントに。でも高崎クンこそ見た目と能力は一致しないっていうのの象徴みたいだったからね」
「確かに。校則は違反してたけどやることはきっちりやってたし、校則自体を時代に合うよう改正したりな」
「だからこそ高崎政権が異例の2期連続になったワケだし」
「でも、どう見ても高ピーより俺の方が校則には違反してなかったと思うのに、服装検査での引っかかり方が酷いのは今でも納得行ってない」
「それは着こなしの問題。腰パン+靴のかかと踏みはダメでしょ、うちも好きじゃなかったし。高崎クンはズボンも靴もちゃんとしてたよ」
意図せず始まった思い出話はちょっと愚痴っぽくなりつつも。あんなことやこんなことがあったなあとあの頃を懐かしむ。きっと、学校から一緒に帰る高校生なんかも話していることはこんな感じなのかもしれない。
「今日の晩飯何にしよう」
「カズ、高校と高崎クンで思いついたけど、肉じゃが食べたい」
「うわあ……」
「ちょっと、何で引くの!」
「俺が作るから食えるモンにはするけど、お前×肉じゃが+高ピーとか、縁起でもないんだよなあ……」
end.
++++
いちえりちゃんと夏の情緒のお話。制服+帰り道のちょっとしたおいしい話。
それから制服時代の懐かしいお話になりましたね。高崎の高校時代のあれこれとか。生徒会長の割に素行はそこまで良くなかった様子。
あとは伝説の肉じゃがである……高崎が2日間寝込んだ伝説のアレ。当時いちえりちゃんと高崎は同じクラスだったのでそれはもう大事件よ
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「あっ、慧梨夏。ちゃんと来てたのか、珍しい」
「もー、うちだってちゃんと授業に来る日は来ますー」
「たまには一緒に飯でも食うか」
「いいね」
慧梨夏とはどっちかの家では割と常に一緒にいるけど、大学ではあまり会わない。それと言うのも、お世辞にも慧梨夏は授業にちゃんと出ているとは言えないタイプだから。今日は珍しく大学で会ったということで、第2学食でランチをすることに。
俺はネギトロ丼を、慧梨夏はチキンカレーをチョイスし席に座る。7月に入ったけどまだまだテストが迫って切羽詰まるという時期でもないようで、今日は昼休みの学食でも座るのに苦労しなかった。もう少しすれば人が増えて席の争奪戦が始まるはずだ。
「何か、大学でこうやって一緒にいるって新鮮」
「だな。学部も違うし全然会わないよな」
「高校の頃はちょっと歩けばすぐいたのにね。やっぱり規模が違うわ」
「そりゃそうだろ。高校なんて1学年200人じゃんな。緑大の1学科にも満たない人数だもんな」
「緑大の大学の敷地に星高いくつ入るかな」
「何かデカさの表現で東都ドーム何個分とか言うけど、ぶっちゃけあんまりよくわかんねーわ東都ドームで言われても」
「サッカーのスタジアムで言った方がわかりやすい?」
「わかりやすい」
山を切り開いて敷地を作った私立緑ヶ丘大学と、街の片隅にポンと作られたエリア立の星港高校ではそりゃあやっぱ規模なんか比べ物にならないワケで。それから、主に野球やコンサートなんかに使われる遠いエリアのドームよりは、サッカーの試合に使われる地元のスタジアムの方が身近だ。
「昨日ね、車運転してたらさ、カップルみたいな高校生が自転車止めて立ち話しててさ。すごくね、イイ! って思って」
「よくある光景じゃねーの?」
「違う! 何て言うの…? 夏服の高校生が立ち話してるんですよ!? はー……美味しい、美味しすぎて創作意欲を掻き立てるよね!」
「ちなみに、何がどう良かったんだ?」
「長くなりますけど」
「どうぞ」
「まず、自転車を止めて立ち話してるっていう状況ですよ。おおよそ学校から一緒に帰ってるっていう状況で、自転車を止める意味ね。ちょうどその場所が2人のバイバイする地点なんだよ」
「あー、なるほどな」
「学校からずっと楽しく会話してて、それが盛り上がって別れが惜しくなっちゃってさ。でも夏だから夕方でもまだまだ空が明るいじゃん。暗くなるまではこのまま喋っててもいいかな、みたいなこのっ…! 青春! 夏の情緒! 的な?」
「すげー細かいトコまで見てんな」
「え、普通だよ」
俺だったら同じ光景を見ても「高校生がいるなー」くらいにしか思わないけど、その高校生の背景みたいなモンまで一瞬で想像して「いい!」って悶えることが出来るのはオタクならではの特殊能力なのだろうか。見た物から得る情報量が段違いと言うか。
そして慧梨夏は妄想を語り始めた。夕日が本格的に落ちて来て「そろそろ帰らなきゃ」って現実に戻った2人がバイバイした後に男の子が来た道を戻ってったらそれは創作の材料としては非常に素敵なシチュエーションなんだそうだ。嗜好が違えば「また明日ね」と別れた2人を二度と会えなくするパターンもあるとか。
「いや、何でそこで殺すんだよ」
「バッドエンド趣味の人もいるんですよ少なからず。でもうちは基本ハッピーならぶいちゃが好みなので、甘酸っぱい青春のまま推していきたいですね」
「ソウデスカ」
「でも、学校から一緒に帰るのって少なからず憧れるよね」
「それなら今度一緒に帰るか?」
「そーゆーんじゃなくて。制服っていうのが大事」
慧梨夏によれば、制服というのは限られた職業、年齢でしか着られないアイコンなんだそうだ。大学生になってまで中学高校の制服を着ればそれはもうコスプレとして消費するだけの物で、過ぎ去ってしまう物だからこそその中にいる時に経験すべきことはあるらしい。
で、俺と慧梨夏は高校の時に一緒に帰らなかったのかという話だ。実は、俺の家と慧梨夏の家はちょうど真逆の方向なんだ。それこそ星港高校がちょうど中間地点。そんな事情もあって俺が回り道するにも遠すぎるし、ということで一緒に帰ることはなかったんだ。しても体育館脇での立ち話だ。
「懐かしいな、高校の頃か」
「うちらがよく喋ってたトコの裏に高崎クンが原付隠してたりね」
「今思うと高ピーってよくあれで生徒会長やってたよな。茶髪にピアスで一応校則で禁止されてる原付乗り回してたりバイトしてたり、受験に要らないからっつって生物の授業フケたり」
「ホントに。でも高崎クンこそ見た目と能力は一致しないっていうのの象徴みたいだったからね」
「確かに。校則は違反してたけどやることはきっちりやってたし、校則自体を時代に合うよう改正したりな」
「だからこそ高崎政権が異例の2期連続になったワケだし」
「でも、どう見ても高ピーより俺の方が校則には違反してなかったと思うのに、服装検査での引っかかり方が酷いのは今でも納得行ってない」
「それは着こなしの問題。腰パン+靴のかかと踏みはダメでしょ、うちも好きじゃなかったし。高崎クンはズボンも靴もちゃんとしてたよ」
意図せず始まった思い出話はちょっと愚痴っぽくなりつつも。あんなことやこんなことがあったなあとあの頃を懐かしむ。きっと、学校から一緒に帰る高校生なんかも話していることはこんな感じなのかもしれない。
「今日の晩飯何にしよう」
「カズ、高校と高崎クンで思いついたけど、肉じゃが食べたい」
「うわあ……」
「ちょっと、何で引くの!」
「俺が作るから食えるモンにはするけど、お前×肉じゃが+高ピーとか、縁起でもないんだよなあ……」
end.
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いちえりちゃんと夏の情緒のお話。制服+帰り道のちょっとしたおいしい話。
それから制服時代の懐かしいお話になりましたね。高崎の高校時代のあれこれとか。生徒会長の割に素行はそこまで良くなかった様子。
あとは伝説の肉じゃがである……高崎が2日間寝込んだ伝説のアレ。当時いちえりちゃんと高崎は同じクラスだったのでそれはもう大事件よ
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