2019(02)
■muggy muggy muggy!
++++
「あー……っつー……」
厳密には、暑いと言うより蒸してると言う方が正しい。肌に湿気がまとわりついてべたべたするし、髪はうねるしいいことがない。いや、眩しくないのはいいけれど、足が濡れるしやっぱりよろしくない。ブーツを濡らしたくないから梅雨時はサンダルとかミュールのことが多いけど、それでも濡れていいというワケじゃない。
蒸し暑いのも嫌だし、何が嫌って徒歩通学だ。大学まで徒歩8分ほどの道のりを上ってこなければならない。上り坂だから雨が上から流れてくるし、どうしたって靴が濡れる。うーん、サンダルよりもレインブーツを採用すべきだったかもしれない。エナメルっぽいいいレインブーツがあったんだよなあ。
2限の授業には余裕を見て大学に来ている。通学で落ちに落ちたコンディションを戻さなければならないからだ。大学に来てからのルーティンは、生協でモナカアイスを買って、向かいのロッカールームでそれを食べる。そうこうしてると体が落ち着いてくるから、掲示板に寄って授業のある教室に向かうんだ。
今もうちの手元にはモナカアイスと水がある。買う物は買ったしロッカールームで朝ご飯……と思いきや、ロッカールームの自動ドアが開かない。惰性で歩いてたからつんのめる。どうしたんだと思えば張り紙がしてあるじゃないか、利用規約の違反者が多いからしばらくロッカーは使えませんって。何だ、迷惑だな。
「どうするかな」
ロッカールームに入れないならどこか別の場所でアイスを食べればいいんじゃないかと思うけど、いつもやっていることを急に変えるのもそれはそれで面倒なんだ。でも、アイスだから早く食べないと溶けるし。仕方なくこの場でアイスの袋を開け、かじりながら歩くことにした。
そもそも、アイスを食べるのがロッカールームなのは冷房の風の当たり方がちょうど良かったからだというのもある。上り坂で疲れた体をクールダウンすると言うか。冷房がかかっている部屋は湿度も外よりは低い。それが何よりも大事なのにこんな蒸し暑いところで歩きながら食べる朝ご飯の嫌な感じだ。
「やァー、菜月先輩はよーごぜーやす」
「ああ、りっちゃん。おはよう」
「どーしたンすか、菜月先輩が大学に来てるなンて」
「いや、うちも来るときは来るぞ」
「それは失礼しヤした」
坂の方からのそのそとやってきたのはりっちゃんだ。りっちゃんは向島環状鉄道の最寄り駅から大学までを歩いてきている。駅からは徒歩7分くらいかな。
「こう、雨が降ってると外に出るのも億劫なのは間違いないんだけど」
「自分らもスクールバスが拾ってくれリャいーンすけどねェー」
「ホントに。帰りは降ろしてもらえるのに行きが乗れないとかおかしいだろ。行きの方が面倒なのに」
大学のスクールバスは、星港鉄道の最寄り駅から向島大学までの往復で運行している。ノサカとかヒロとか、あっち方面に行く奴が使うバスだ。スクールバスは大学から乗ったときには向環の駅前高架で下車出来るけど、その逆は出来ないという欠陥を抱えている。まあ、帰りの徒歩が面倒な時にはその恩恵を受けているけれども。
「まァ、そう考える人が多いから乗せられないンでしょうね」
「そうケチケチしないでもいいじゃないか。って言うか、上り坂を上ってる時点で湿気でベタベタするし、汗もかくしホントにやってられない。そうだ、大学に温浴施設を導入しよう。シャワーでもいい」
「向島大学が緑ヶ丘並の規模になることを期待しヤしょー」
「永久にないヤツ」
「あと、絶対犯罪の温床になりヤすよそれ」
そうなると、やっぱり車が大正義になるのだろうか。どこぞの圭斗がドヤってる顔が浮かんできたから非常に腹が立つ。原付の免許は割とすぐにとれるらしいけど、雨合羽か……それはそれで蒸れそうだし、ヘルメットを被ることを想定した髪型ってどんなのがいいんだ? まあ、答えは今週末に分かるか。
「菜月先輩、そのモナカが朝ご飯スか?」
「そうだな。案外腹持ちがいいんだ」
「朝の牛乳的な感じスか」
「その解釈は斬新だ。それで行こう」
「あ、屋根が終わりヤしたね」
「あーもー、傘差すのめんどくさい」
「菜月先輩の傘って、チェアーズをめっちゃ主張してきヤすよね」
「チェアーズのライトファンは事実だからな」
「ヘッドホンもチェアーズ仕様の日がありヤすもんね」
うちの傘はチェアーズというプロ野球チームの公式グッズとして出ているビニール傘だ。通販で買ったけど、送料って結構高いよな。まあ、向島でこんな傘を差しているというのはある意味喧嘩を売る行為なのかもしれないけど、暴徒にはまだ会ったことがないから大丈夫だろう。
ちなみに学内では基本的にヘッドホンをしているけど、日によってはCDショップとチェアーズとのコラボヘッドホンをしていることもある。ノーチェアーズ、ノーライフってヤツだ。そっちは傘よりシンプルだし傍目にもわかりにくい……けれど、りっちゃんはさすがに余裕で気付いている。
「あーあ、早く梅雨明けしないかな。そしたら授業にも出やすくなると思うんだ」
「や、菜月先輩の場合は梅雨明けしたところで今度は暑いし眩しいから来たくないっつって来ないと思いヤす」
「暑いし眩しいし、日焼けもするからな」
「日傘でも買ったらどースか。日差し除けとしてはモチロン、武器としても携帯出来ヤすよ。野坂が妙なコトをしでかしたら、手元の傘でパァン! やるンすわ」
「持ち手で首根っこ引っかけて引き寄せたりな」
「そーそーソレすわ」
「そもそもアイツは情報系の教室が寒いとかいう理由で夏でも長袖を着てるという重い罪があるからな。うん、思い出したらむしゃくしゃしてきた。後で殴ってやる」
じめじめするし、足下は濡れるし。家では食べ物がどんどん悪くなるし。家でも外でも不快指数ばかりが上がっていく。早く梅雨明けしないかなと家に籠もっていたいけど、さすがにずっとは籠もっていられないから長い上り坂を歩くんだ。……それにしても、ロッカールームが使えない間の朝ご飯をどうするか考えないと。
end.
++++
菜月さんと朝ご飯について、ウィズりっちゃん。昔はこのテの話もよくやってたので、久しぶりですね。
ひたすら菜月さんとりっちゃんがうだうだ話してるだけのヤツ。いつかナツリツの夕飯の話とかもやりたい。
そしてむしゃくしゃしたとかいう理由で殴られそうになるノサカである。がんばれ
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「あー……っつー……」
厳密には、暑いと言うより蒸してると言う方が正しい。肌に湿気がまとわりついてべたべたするし、髪はうねるしいいことがない。いや、眩しくないのはいいけれど、足が濡れるしやっぱりよろしくない。ブーツを濡らしたくないから梅雨時はサンダルとかミュールのことが多いけど、それでも濡れていいというワケじゃない。
蒸し暑いのも嫌だし、何が嫌って徒歩通学だ。大学まで徒歩8分ほどの道のりを上ってこなければならない。上り坂だから雨が上から流れてくるし、どうしたって靴が濡れる。うーん、サンダルよりもレインブーツを採用すべきだったかもしれない。エナメルっぽいいいレインブーツがあったんだよなあ。
2限の授業には余裕を見て大学に来ている。通学で落ちに落ちたコンディションを戻さなければならないからだ。大学に来てからのルーティンは、生協でモナカアイスを買って、向かいのロッカールームでそれを食べる。そうこうしてると体が落ち着いてくるから、掲示板に寄って授業のある教室に向かうんだ。
今もうちの手元にはモナカアイスと水がある。買う物は買ったしロッカールームで朝ご飯……と思いきや、ロッカールームの自動ドアが開かない。惰性で歩いてたからつんのめる。どうしたんだと思えば張り紙がしてあるじゃないか、利用規約の違反者が多いからしばらくロッカーは使えませんって。何だ、迷惑だな。
「どうするかな」
ロッカールームに入れないならどこか別の場所でアイスを食べればいいんじゃないかと思うけど、いつもやっていることを急に変えるのもそれはそれで面倒なんだ。でも、アイスだから早く食べないと溶けるし。仕方なくこの場でアイスの袋を開け、かじりながら歩くことにした。
そもそも、アイスを食べるのがロッカールームなのは冷房の風の当たり方がちょうど良かったからだというのもある。上り坂で疲れた体をクールダウンすると言うか。冷房がかかっている部屋は湿度も外よりは低い。それが何よりも大事なのにこんな蒸し暑いところで歩きながら食べる朝ご飯の嫌な感じだ。
「やァー、菜月先輩はよーごぜーやす」
「ああ、りっちゃん。おはよう」
「どーしたンすか、菜月先輩が大学に来てるなンて」
「いや、うちも来るときは来るぞ」
「それは失礼しヤした」
坂の方からのそのそとやってきたのはりっちゃんだ。りっちゃんは向島環状鉄道の最寄り駅から大学までを歩いてきている。駅からは徒歩7分くらいかな。
「こう、雨が降ってると外に出るのも億劫なのは間違いないんだけど」
「自分らもスクールバスが拾ってくれリャいーンすけどねェー」
「ホントに。帰りは降ろしてもらえるのに行きが乗れないとかおかしいだろ。行きの方が面倒なのに」
大学のスクールバスは、星港鉄道の最寄り駅から向島大学までの往復で運行している。ノサカとかヒロとか、あっち方面に行く奴が使うバスだ。スクールバスは大学から乗ったときには向環の駅前高架で下車出来るけど、その逆は出来ないという欠陥を抱えている。まあ、帰りの徒歩が面倒な時にはその恩恵を受けているけれども。
「まァ、そう考える人が多いから乗せられないンでしょうね」
「そうケチケチしないでもいいじゃないか。って言うか、上り坂を上ってる時点で湿気でベタベタするし、汗もかくしホントにやってられない。そうだ、大学に温浴施設を導入しよう。シャワーでもいい」
「向島大学が緑ヶ丘並の規模になることを期待しヤしょー」
「永久にないヤツ」
「あと、絶対犯罪の温床になりヤすよそれ」
そうなると、やっぱり車が大正義になるのだろうか。どこぞの圭斗がドヤってる顔が浮かんできたから非常に腹が立つ。原付の免許は割とすぐにとれるらしいけど、雨合羽か……それはそれで蒸れそうだし、ヘルメットを被ることを想定した髪型ってどんなのがいいんだ? まあ、答えは今週末に分かるか。
「菜月先輩、そのモナカが朝ご飯スか?」
「そうだな。案外腹持ちがいいんだ」
「朝の牛乳的な感じスか」
「その解釈は斬新だ。それで行こう」
「あ、屋根が終わりヤしたね」
「あーもー、傘差すのめんどくさい」
「菜月先輩の傘って、チェアーズをめっちゃ主張してきヤすよね」
「チェアーズのライトファンは事実だからな」
「ヘッドホンもチェアーズ仕様の日がありヤすもんね」
うちの傘はチェアーズというプロ野球チームの公式グッズとして出ているビニール傘だ。通販で買ったけど、送料って結構高いよな。まあ、向島でこんな傘を差しているというのはある意味喧嘩を売る行為なのかもしれないけど、暴徒にはまだ会ったことがないから大丈夫だろう。
ちなみに学内では基本的にヘッドホンをしているけど、日によってはCDショップとチェアーズとのコラボヘッドホンをしていることもある。ノーチェアーズ、ノーライフってヤツだ。そっちは傘よりシンプルだし傍目にもわかりにくい……けれど、りっちゃんはさすがに余裕で気付いている。
「あーあ、早く梅雨明けしないかな。そしたら授業にも出やすくなると思うんだ」
「や、菜月先輩の場合は梅雨明けしたところで今度は暑いし眩しいから来たくないっつって来ないと思いヤす」
「暑いし眩しいし、日焼けもするからな」
「日傘でも買ったらどースか。日差し除けとしてはモチロン、武器としても携帯出来ヤすよ。野坂が妙なコトをしでかしたら、手元の傘でパァン! やるンすわ」
「持ち手で首根っこ引っかけて引き寄せたりな」
「そーそーソレすわ」
「そもそもアイツは情報系の教室が寒いとかいう理由で夏でも長袖を着てるという重い罪があるからな。うん、思い出したらむしゃくしゃしてきた。後で殴ってやる」
じめじめするし、足下は濡れるし。家では食べ物がどんどん悪くなるし。家でも外でも不快指数ばかりが上がっていく。早く梅雨明けしないかなと家に籠もっていたいけど、さすがにずっとは籠もっていられないから長い上り坂を歩くんだ。……それにしても、ロッカールームが使えない間の朝ご飯をどうするか考えないと。
end.
++++
菜月さんと朝ご飯について、ウィズりっちゃん。昔はこのテの話もよくやってたので、久しぶりですね。
ひたすら菜月さんとりっちゃんがうだうだ話してるだけのヤツ。いつかナツリツの夕飯の話とかもやりたい。
そしてむしゃくしゃしたとかいう理由で殴られそうになるノサカである。がんばれ
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