2017(02)
■足がつかない
++++
「あれっ、あれれなんだ!」
星ヶ丘放送部は丸の池ステージ直前で準備に余念がない。暇さえ見つけて練習をするし大道具や小道具制作、それから台本は適宜調整をしたり。テストもあるからその合間も縫いつつだ。
部が拠点にしているミーティングルームにも頻繁に出入りするから扉は開けっ放……いや、それは俺たち朝霞班の姿を日高の目に入れたくないとかいう理由でいつもだった。そんな事情で割と不用心な部屋ではある。
「どうしよう、事件なんだ! 現場で起きてるんだ!」
ミーティングルームの扉で塞がれた朝霞班ブースのはす向かい、須賀班のブースから何やら大変なことが起きたような叫び。このうるささは姿を見ずともわかる。須賀だ。
「すぐには困らないけど、困ったんだ」
「須賀、どうした」
「ううん、ボクは大丈夫なんだ! 朝霞は自分の班の仕事をするんだ!」
「そうか、じゃあ」
ないんだ、困ったんだと相変わらず須賀はどんがらがっしゃんとおもちゃ箱をひっくり返すような音を立てて、ブースを汚しながら何かを探している。何か、ステージに関わる物か貴重品を無くしてしまったのだろうか。
「星羅ちゃん、どうしたんだろうね~」
「須賀の探し物が何かもわからないし、少なくとも朝霞班のブースにはない以上俺は須賀の言うように自分のやることをやるだけだ」
「も~。朝霞クンらしいけど」
山口はどうしても困ってる須賀を放っておけないのか、星羅ちゃ~んと声を掛けに行ってしまった。それを怒鳴りつけるほど俺は酷い奴じゃないし、少しくらいであれば。
山口と須賀が話し込んでいる様子を見る限り、俺が声を掛けた時より詳細な情報を得られているのだろう。さすがのコミュ力だ。そしてひらひらと手を振って山口が戻って来た。
「何かね~、星羅ちゃん巾着袋を探してるんだって~」
「巾着?」
「水色で、白地の星柄。大きさは俺の手の平くらい。お昼にはあったんだって~」
「昼か。わからないな」
「朝霞クン、ず~っとここに籠ってたもんね~。もし見つけたら教えてあげよ~」
「もし見つけたらな。中身は?」
「大した物じゃないんだ! ……だって」
「大した物じゃなくてそんなに必死になるのか」
「う~ん、話したくないことだってあるかもしれないし、ネ」
「そうだな。お前に話せて俺に話せないのと似たようなことか」
「朝霞クン、もしかして星羅ちゃんに巾着無くしたの話してもらえなくてちょっとヘコんでる?」
「別に」
流刑地の班長だし、ステージの前だ。俺に触れるとどうなるか、などと言われているのは何となく聞こえている。余計なことで手間取らせたら俺が怒るとでも思ったのかもしれない。
山口や鳴尾浜相手ならともかく戸田以外の女子にそこまで短気だった覚えはないが、そう思われているのなら仕方ない。それに、今の俺はステージのことで手一杯。実際力になれる気がしない。
「星羅、どうした」
「泰稚、お薬の巾着が無くなったんだ! ブースに置いてたのにないんだ! 足が生えたんだ?」
「えっ!? それ、病院の診察券とかお薬手帳も入れてるヤツだろ! もう1回探すか?」
「探すのをやめたらひょっこり出て来るかもしれないんだ」
「でも、薬がないと」
「頓服だから今すぐには困らないんだ。それにお薬は家にもあるんだ。でも、診察券とお薬手帳がないのは不便なんだ。どうしようって思ってる方が体には悪いんだ。体は心が作るんだ。ボクは練習に行って来るんだ。泰稚、くれぐれもコトを大きくしないで欲しいんだ」
扉の向こうで、須賀が菅野と話しているのであろう声が聞こえる。山口に言っていたのよりも、もっと核心に触れた事柄。やっぱりちゃんと聞かないと話はわからないし、人というのもわからないのだ。
「山口、聞こえなかったことにした方がいいだろ」
「そうかもね~。むしろ、聞こえてたんだ。朝霞クン、いつもより集中できてない?」
「誰に向かって言ってんだ」
end.
++++
ステージ前なんだけど、まだもうほんの少しだけ余裕があるらしい朝霞P。星羅のことが少し気になったようです。
ステージ前じゃなきゃ朝霞Pも巾着袋がなくなったんだっていうところまでは聞けたかもしれないけど、やっぱりステージ前だからねえ
朝霞Pと関わると部長に何をされるかわからないんだけど、星羅はそんなことを気にするタイプではなさそうなので純粋に事を大きくしたくなかったんだろうなあ
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「あれっ、あれれなんだ!」
星ヶ丘放送部は丸の池ステージ直前で準備に余念がない。暇さえ見つけて練習をするし大道具や小道具制作、それから台本は適宜調整をしたり。テストもあるからその合間も縫いつつだ。
部が拠点にしているミーティングルームにも頻繁に出入りするから扉は開けっ放……いや、それは俺たち朝霞班の姿を日高の目に入れたくないとかいう理由でいつもだった。そんな事情で割と不用心な部屋ではある。
「どうしよう、事件なんだ! 現場で起きてるんだ!」
ミーティングルームの扉で塞がれた朝霞班ブースのはす向かい、須賀班のブースから何やら大変なことが起きたような叫び。このうるささは姿を見ずともわかる。須賀だ。
「すぐには困らないけど、困ったんだ」
「須賀、どうした」
「ううん、ボクは大丈夫なんだ! 朝霞は自分の班の仕事をするんだ!」
「そうか、じゃあ」
ないんだ、困ったんだと相変わらず須賀はどんがらがっしゃんとおもちゃ箱をひっくり返すような音を立てて、ブースを汚しながら何かを探している。何か、ステージに関わる物か貴重品を無くしてしまったのだろうか。
「星羅ちゃん、どうしたんだろうね~」
「須賀の探し物が何かもわからないし、少なくとも朝霞班のブースにはない以上俺は須賀の言うように自分のやることをやるだけだ」
「も~。朝霞クンらしいけど」
山口はどうしても困ってる須賀を放っておけないのか、星羅ちゃ~んと声を掛けに行ってしまった。それを怒鳴りつけるほど俺は酷い奴じゃないし、少しくらいであれば。
山口と須賀が話し込んでいる様子を見る限り、俺が声を掛けた時より詳細な情報を得られているのだろう。さすがのコミュ力だ。そしてひらひらと手を振って山口が戻って来た。
「何かね~、星羅ちゃん巾着袋を探してるんだって~」
「巾着?」
「水色で、白地の星柄。大きさは俺の手の平くらい。お昼にはあったんだって~」
「昼か。わからないな」
「朝霞クン、ず~っとここに籠ってたもんね~。もし見つけたら教えてあげよ~」
「もし見つけたらな。中身は?」
「大した物じゃないんだ! ……だって」
「大した物じゃなくてそんなに必死になるのか」
「う~ん、話したくないことだってあるかもしれないし、ネ」
「そうだな。お前に話せて俺に話せないのと似たようなことか」
「朝霞クン、もしかして星羅ちゃんに巾着無くしたの話してもらえなくてちょっとヘコんでる?」
「別に」
流刑地の班長だし、ステージの前だ。俺に触れるとどうなるか、などと言われているのは何となく聞こえている。余計なことで手間取らせたら俺が怒るとでも思ったのかもしれない。
山口や鳴尾浜相手ならともかく戸田以外の女子にそこまで短気だった覚えはないが、そう思われているのなら仕方ない。それに、今の俺はステージのことで手一杯。実際力になれる気がしない。
「星羅、どうした」
「泰稚、お薬の巾着が無くなったんだ! ブースに置いてたのにないんだ! 足が生えたんだ?」
「えっ!? それ、病院の診察券とかお薬手帳も入れてるヤツだろ! もう1回探すか?」
「探すのをやめたらひょっこり出て来るかもしれないんだ」
「でも、薬がないと」
「頓服だから今すぐには困らないんだ。それにお薬は家にもあるんだ。でも、診察券とお薬手帳がないのは不便なんだ。どうしようって思ってる方が体には悪いんだ。体は心が作るんだ。ボクは練習に行って来るんだ。泰稚、くれぐれもコトを大きくしないで欲しいんだ」
扉の向こうで、須賀が菅野と話しているのであろう声が聞こえる。山口に言っていたのよりも、もっと核心に触れた事柄。やっぱりちゃんと聞かないと話はわからないし、人というのもわからないのだ。
「山口、聞こえなかったことにした方がいいだろ」
「そうかもね~。むしろ、聞こえてたんだ。朝霞クン、いつもより集中できてない?」
「誰に向かって言ってんだ」
end.
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ステージ前なんだけど、まだもうほんの少しだけ余裕があるらしい朝霞P。星羅のことが少し気になったようです。
ステージ前じゃなきゃ朝霞Pも巾着袋がなくなったんだっていうところまでは聞けたかもしれないけど、やっぱりステージ前だからねえ
朝霞Pと関わると部長に何をされるかわからないんだけど、星羅はそんなことを気にするタイプではなさそうなので純粋に事を大きくしたくなかったんだろうなあ
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