2019

■世界を組み上げる歯車

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 朝霞班にゲンゴローが加入して少し。せっかく来てくれた1年生だし仲良くなりたいけど、まだもう少し時間がかかりそうかな、という感じがしていた。それというのも、丸の池の枠をもらえたことで朝霞クンが早々にPのモードに入りそうで、それがゲンゴローの緊張の一番の原因だから。
 そこで、俺とつばちゃんの誕生会を兼ねたゲンゴローの歓迎会が開かれることになった。会場はもちろん俺がバイトしているお店。でもその前に今日の部活をしっかりとやりましょうということで、俺たちがやっているのは朝霞クンの背中の方にそびえ立つ例の山を崩すこと。

「いろいろ出てきたでしょでしょ~」
「マジでいつから積みっぱだったんだこれ」
「山口先輩、これって何かの設定資料とかですか? すごく凝ってますけど」
「あ~、朝霞クンの字だし1年のときのかな?」

 ゲンゴローが見ていた紙には、ステージの企画に関する設定がこれでもかとびっちり詰め込まれていた。企画の元ネタやそれをステージに起こすに至っての変更点、小道具や大道具の絵も細かく書かれていて、この部分がこういう形でこの模様にはどういう意味があって、などとステージの中身とは直接関係のない設定も山盛り。
 俺とつばちゃんはこの細かい設定資料を1年の頃からさすが朝霞Pでしょ~とちょっと呆れたような感じで見ていたんだけど、ゲンゴローは目を輝かせてもっといろいろないんですかと朝霞クンとつばちゃんに詰め寄っている。まさかの反応にみんな驚いてるよね~。

「ナニ、ゲンゴローアンタこんなのが好きなの?」
「はい。作品の設定資料集や小道具や衣装にまで配られたこだわりを見るのが大好きなんです」
「なるほど、オタクだからか」
「はい、そうですね」

 ちなみにゲンゴローはアニメやマンガオタクであるらしい。俺の知る限りこれまでの流刑地班にはいなかった感じのキャラクター。だけど、サブカルに理解の無かった昔ほどオタクの人に対するネガティブイメージもないし、それはゲンゴロー本人の人柄も相まって個性や嗜好として受け入れられているようでもあった。

「資料だったらこのファイルになかったかな」
「えっ、朝霞先輩見ていいんですか」
「ああ、ぜひ見てくれ。もしこれを見て何かが浮かんでくるようであればそれを教えて欲しい」
「やったー、ありがとうございます!」
「こういうのが好きなのは演劇部で裏方をやっていたという事情もあるのか」
「きっとそれもあります。でも、ウチの学校じゃここまで細かくやる人もいませんでしたけど」
「朝霞サンとその辺の凡人を一緒にしちゃダメよゲンゴロー」
「戸田、お前は俺を何だと思ってるんだ」
「えっ、泣く子も黙る鬼のプロデューサーでしょ?」

 朝霞クンから渡された資料集という名前のファイルを1ページ1ページめくるゲンゴローの表情が本当に楽しそう。ページをめくるごとに朝霞クンに対する怖さの感情が薄れているようにも思える。きっかけは何であれ、班員として打ち解けられるのは大事なこと。しかもステージに関わることでそうなれれば最高だよネ。

「朝霞先輩、ちょっと聞いていいですか?」
「どうした」
「これ、企画の世界観のページなんですけど、このスチームパンクとファンタジーが融合したみたいな絵があるじゃないですか。実際のステージでもこういう世界観に基づいた衣装や小道具を作ったりするんですか?」
「いや、これは単純に俺の趣味で書いた設定で、ステージの企画にそれを落とし込もうとすると時間も金も膨大にかかるからかなり難しいだろう。朝霞班は予算も少ないからな。こんな衣装や小道具を作る技術は俺たちにはないし、探そうと思ったこともあったけど、なかなかイメージとは違って」
「えー、残念ですね」
「お前はこういうのが好きなんだな」
「はい! 厨二心をくすぐられると言うか何と言うか」
「お前にダメ元で聞いてみるけど、こういうのも作ろうと思えば作れるのか」
「はい、ある程度は出来ます」
「マジか。参考までに、これまでに作った物の写真なんかはあるか?」
「今出しますねー」

 何か、話がスゴい勢いで動き始めてるでしょ。歯車がビタッとハマったとか、そんな感じ。はいどうぞーとスマホが差し出され、朝霞クンが表示された画像を1枚1枚舐めるように確認している。俺とつばちゃんも朝霞クンの脇からそれを覗き込むけどそこに写っている物が本当にスゴい!
 宝石が埋め込まれた黄金の壷は紙粘土で作りましたーと。それから、不思議な力を湛えたクリスタルと、それが朽ちた後の石ころみたいな写真も。クリスタルの輝きが本当にクリスタルだし石ころが発砲スチロールで作られたとは思えないほど石ころ。それから、ガスマスクを加工したみたいな世紀末風のマスクもスゴい。

「源、この鎧もそうか?」
「この鎧と次のスチパン風の烏マスクは部活じゃなくてレイヤー友達さんからの依頼で作ったヤツなんですけど、結構お気に入りでー」
「レイヤー? 源、コスプレの趣味があるのか」
「あっ、えっと、じ、実は……写るよりカメラ寄りですけど……」

 せっかく緊張が解れてきていたゲンゴローが、アニメとは別の趣味についてつつかれた瞬間またガチガチになっちゃった。って言うか朝霞クンが真顔過ぎるんだって~! ゲンゴローじゃなくても怖いでしょでしょ。

「素晴らしい!」
「えっ?」
「これだけのことが出来るだなんて相当努力したはずだし、ここに至るまでには時間も金も相当かけてきたはずだ。思い描いた物をこうして実際の形に出来る能力は、なかなか誰にでも身につけられるものじゃない。お前の立派な才能だ」
「で、でも、見本のイラストとかがないとなかなかイメージも」
「そんな物は持ちつ持たれつだろう。源、どうかその能力をステージにも生かして欲しい。そして俺たちをビシバシしごいてくれ」
「えっ、そんな!」
「この分野で一番能力があるのはお前だからな。お前が俺たちを指導するんだ」
「あ、えっと……頑張ります。えっと、作る物の資料は朝霞先輩がくれるような感じでいいんですか?」
「ああ、その辺は任せてくれ」
「ゲンゴロー、衣装と小道具だけじゃなくてミキサーもあるんだからね。ミキサーはアタシがビシバシしごくから覚悟しといてよ」
「あっはい、お願いします」

 何か、片付けから思いがけず丸く収まった感じ。ここからそれぞれの得意なことを生かしてステージを作っていくんだネ。ゲンゴローの能力を知った朝霞クンは本当に生き生きし出した。そうだよね、いろんな理由で諦めてたことが出来るようになるかもしれないんだから。こうなると止まんないでしょ~。

「じゃ、片付け再開するよ朝霞サン。さっそくだけどこの没資料集捨てるから」
「戸田、ちょっと待て。考え直さないか」
「つばめ先輩それはちょっと勿体なくないですか…?」
「じゃあ何でもかんでもブースに置くのやめてよね朝霞サン!」


end.


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毎度おなじみゲンゴローの趣味バレ回に今年度らしいお掃除要素を組み込んでみました。最近つばちゃんが片付けにうるさい。
そしてやまよが完全に空気。まあ、やまよさんはステージの上で輝くだけの人だから、ステージから降りればただの人よ。そもそも根暗だし。
ゲンゴローが朝霞Pの書く世界観のファンみたいになってるけど、元々カナコの高校の舞台(脚本・演出朝霞P)に衝撃を受けてるんだから、それもまあ納得か

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