2019
■セルフではじめてとリベンジ戦
++++
「かんなさんすみません、10分も遅れてしまって」
「10分なら誤差の範囲ですよ、大丈夫です」
文化会の会議が思った以上に長引いて、急いで来たものの待ち合わせの時間には10分も遅れてしまった。それくらいなら誤差だとかんなさんは言ってくれるが、自分では納得がいかないし申し訳が立たない。
今日はかんなさんと一緒に量り売りのアイスクリーム店に行くことになっている。先日、ファミレスのドリンクバーで大層な失敗をしてしまった際、今度はアイスクリームを自分で作ってみませんかとお誘いを受けたのだ。
俺は甘いものが好きだし、世俗的な事に詳しくないことで恥をかくのもと思いその誘いを二つ返事で受けた。ファミレスのドリンクバーでの失敗は今思い出しても恥ずかしい。グラスを置く位置がわからず思い切り液体を零してしまうなど。
「このお店なんですけど」
「意外にシンプルな店ですね」
「全部がセルフサービスなので、まずは手洗いをします」
「はい」
丁寧に手洗いと消毒をして、次の指示を仰ぐ。次はカップを手に取り、アイスクリームを盛り付けていくようだ。フレーバーがいくつもあって、好きな物を好きなだけ自分で持って行くという形態が俺にとってはなかなか新鮮だ。
そのフレーバーもバニラやチョコレートといった定番から、スイカやパイナップルといったフルーツ系、それからフローズンヨーグルトなるものもいくらか用意されている。フローズンヨーグルトは食べたことがない。これにしてみようか。
「かんなさん」
「はい」
「フローズンヨーグルトにしてみようと思うのですが、何をどうすればいいやら」
「この機械の、このレバーを引くとこんな風にアイスが出て来るので、食べたい量で止めてください。あっ、多分慣れないとアイスが言うこと聞かなくて大変だと思いますけど、慣れですね」
「ちょっと、やってみますね」
どこからアイスが出て来るのかをしっかり確認し、カップをその場所にきちんと持って行った上で恐る恐る銀色のレバーを引いてみる。思ったよりもレバーは重い。一度グッとフローズンヨーグルトが出て来たが、それを受けるので精一杯で綺麗に成形は出来ない。
とても不細工になってしまったが、こぼさなかっただけマシだと思おう。重さで値段が決まるそうだけど、俺が盛ったのは多いのか少ないのか。かんなさんと比べると、俺の方がいくらか少ないようだ。……もう少し追加しようか。
「萩さん、次はトッピングですよ」
「いろいろありますね」
「そうなんですよ。お菓子とかフルーツがいっぱいあって、私なんかは良い写真が取れるように盛り付けたいなって思うんですよね」
「それは作品制作という意味合いでですか」
「あっ、えっと、単純に記念撮影ですね」
「すみません、勘違いをしてしまい」
俺はチョコシャワーを軽くトッピングして会計へ。100グラム350円だそうで、俺の会計は800円程になった。一方、トッピングを凝っていたかんなさんは1000円オーバー。ただし、それはもうフォトジェニックな仕上がりになっていると思う。
「それでは、いただきます」
「いただきまーす。その前に1枚。オッケー、かわいい」
「見せてもらっていいですか」
「スマホで撮った普通の写真ですよ?」
「かんなさんはやはり、本当に作品として撮影をするときはちゃんとした機材で撮っているんですか」
「そうですね。一応今もカメラは持ってるんですけど、アイスは本当に記念撮影で」
「作品制作の合間の息抜きとしての撮影のような感じですか」
「そんな感じなんですかね、ただの記録ですし。萩さん、もし良かったら一口味見させてもらっていいですか?」
「ああ、いいですよ」
「私のもどうぞ。果物と一緒に食べちゃってください」
「ありがとうございます」
互いのアイスを交換し合って、一口。うん、俺のフローズンヨーグルトはあっさりしているが、それと比べてやはりアイスクリームは濃厚だ。フルーツの甘みや酸味と合わさってもなお美味しい。うーん、フローズンヨーグルトにもキウイなどのフルーツをトッピングするべきだったか。また来ることがあればやってみよう。
「しかし、冷たいものを食べているからか少し体が冷えますね」
「あっ、コーヒーなんかもあるんであったかいのを飲んでもいいと思います」
「コーヒーもセルフですか?」
「セルフですね。あそこに紙コップがあって、ドリンクバーの要領でボタンを押してーって感じで」
「ドリンクバーの要領ですか……」
「だっ、大丈夫ですよ萩さん! 簡単ですから! あっ、私、萩さんの淹れたコーヒーが飲みたいです」
「それでは、淹れてきます」
「お願いします!」
紙コップを手に取り、それをコーヒーの機械のここだという場所にセットしてボタンを押す。ちょうどそれらしいカプチーノが2人分。それを席まで持ち帰り、かんなさんの前に出す。前回のファミレスでは大失態を晒してしまったが、同じ失敗を二度は繰り返さない。
「かんなさん、カプチーノで良かったですか」
「ありがとうございます。ん、甘いの食べてるから苦みがちょうどよくて美味しい」
「それはよかった」
「萩さんはこの後何かしたいとかありますか?」
「特に考えていなかったのですが、かんなさんと一緒に街歩きをしたいです」
「えっ、街歩きですか?」
「はい。かんなさんといると、俺が知らない新しいことと出会えてとても楽しいので。俺の身勝手な考えで申し訳ないのですが」
「きっと、萩さんも私の知らないことをたくさん知ってると思いますよ。今日は私の街歩きに付き合ってもらいますけど、今度は萩さんの街歩きに連れてってくださいね」
「かんなさんには面白くないかもしれませんが、それでもよければ是非」
end.
++++
萩さんとかんなです。萩さんとかんなが付き合ってた時間軸のお話は多分2年前?だったかと思うのですが、今年はどうなるやら。
本当は萩さんがアイスの機械のハンドル操作ミスってベチャッてなるような感じで想像していましたが、さすがにやり過ぎかなと
萩さんは基本的に甘いものが好きなのね。そらカステラ生地でカスタードをくるんで蒸したお菓子が好きですわ
.
++++
「かんなさんすみません、10分も遅れてしまって」
「10分なら誤差の範囲ですよ、大丈夫です」
文化会の会議が思った以上に長引いて、急いで来たものの待ち合わせの時間には10分も遅れてしまった。それくらいなら誤差だとかんなさんは言ってくれるが、自分では納得がいかないし申し訳が立たない。
今日はかんなさんと一緒に量り売りのアイスクリーム店に行くことになっている。先日、ファミレスのドリンクバーで大層な失敗をしてしまった際、今度はアイスクリームを自分で作ってみませんかとお誘いを受けたのだ。
俺は甘いものが好きだし、世俗的な事に詳しくないことで恥をかくのもと思いその誘いを二つ返事で受けた。ファミレスのドリンクバーでの失敗は今思い出しても恥ずかしい。グラスを置く位置がわからず思い切り液体を零してしまうなど。
「このお店なんですけど」
「意外にシンプルな店ですね」
「全部がセルフサービスなので、まずは手洗いをします」
「はい」
丁寧に手洗いと消毒をして、次の指示を仰ぐ。次はカップを手に取り、アイスクリームを盛り付けていくようだ。フレーバーがいくつもあって、好きな物を好きなだけ自分で持って行くという形態が俺にとってはなかなか新鮮だ。
そのフレーバーもバニラやチョコレートといった定番から、スイカやパイナップルといったフルーツ系、それからフローズンヨーグルトなるものもいくらか用意されている。フローズンヨーグルトは食べたことがない。これにしてみようか。
「かんなさん」
「はい」
「フローズンヨーグルトにしてみようと思うのですが、何をどうすればいいやら」
「この機械の、このレバーを引くとこんな風にアイスが出て来るので、食べたい量で止めてください。あっ、多分慣れないとアイスが言うこと聞かなくて大変だと思いますけど、慣れですね」
「ちょっと、やってみますね」
どこからアイスが出て来るのかをしっかり確認し、カップをその場所にきちんと持って行った上で恐る恐る銀色のレバーを引いてみる。思ったよりもレバーは重い。一度グッとフローズンヨーグルトが出て来たが、それを受けるので精一杯で綺麗に成形は出来ない。
とても不細工になってしまったが、こぼさなかっただけマシだと思おう。重さで値段が決まるそうだけど、俺が盛ったのは多いのか少ないのか。かんなさんと比べると、俺の方がいくらか少ないようだ。……もう少し追加しようか。
「萩さん、次はトッピングですよ」
「いろいろありますね」
「そうなんですよ。お菓子とかフルーツがいっぱいあって、私なんかは良い写真が取れるように盛り付けたいなって思うんですよね」
「それは作品制作という意味合いでですか」
「あっ、えっと、単純に記念撮影ですね」
「すみません、勘違いをしてしまい」
俺はチョコシャワーを軽くトッピングして会計へ。100グラム350円だそうで、俺の会計は800円程になった。一方、トッピングを凝っていたかんなさんは1000円オーバー。ただし、それはもうフォトジェニックな仕上がりになっていると思う。
「それでは、いただきます」
「いただきまーす。その前に1枚。オッケー、かわいい」
「見せてもらっていいですか」
「スマホで撮った普通の写真ですよ?」
「かんなさんはやはり、本当に作品として撮影をするときはちゃんとした機材で撮っているんですか」
「そうですね。一応今もカメラは持ってるんですけど、アイスは本当に記念撮影で」
「作品制作の合間の息抜きとしての撮影のような感じですか」
「そんな感じなんですかね、ただの記録ですし。萩さん、もし良かったら一口味見させてもらっていいですか?」
「ああ、いいですよ」
「私のもどうぞ。果物と一緒に食べちゃってください」
「ありがとうございます」
互いのアイスを交換し合って、一口。うん、俺のフローズンヨーグルトはあっさりしているが、それと比べてやはりアイスクリームは濃厚だ。フルーツの甘みや酸味と合わさってもなお美味しい。うーん、フローズンヨーグルトにもキウイなどのフルーツをトッピングするべきだったか。また来ることがあればやってみよう。
「しかし、冷たいものを食べているからか少し体が冷えますね」
「あっ、コーヒーなんかもあるんであったかいのを飲んでもいいと思います」
「コーヒーもセルフですか?」
「セルフですね。あそこに紙コップがあって、ドリンクバーの要領でボタンを押してーって感じで」
「ドリンクバーの要領ですか……」
「だっ、大丈夫ですよ萩さん! 簡単ですから! あっ、私、萩さんの淹れたコーヒーが飲みたいです」
「それでは、淹れてきます」
「お願いします!」
紙コップを手に取り、それをコーヒーの機械のここだという場所にセットしてボタンを押す。ちょうどそれらしいカプチーノが2人分。それを席まで持ち帰り、かんなさんの前に出す。前回のファミレスでは大失態を晒してしまったが、同じ失敗を二度は繰り返さない。
「かんなさん、カプチーノで良かったですか」
「ありがとうございます。ん、甘いの食べてるから苦みがちょうどよくて美味しい」
「それはよかった」
「萩さんはこの後何かしたいとかありますか?」
「特に考えていなかったのですが、かんなさんと一緒に街歩きをしたいです」
「えっ、街歩きですか?」
「はい。かんなさんといると、俺が知らない新しいことと出会えてとても楽しいので。俺の身勝手な考えで申し訳ないのですが」
「きっと、萩さんも私の知らないことをたくさん知ってると思いますよ。今日は私の街歩きに付き合ってもらいますけど、今度は萩さんの街歩きに連れてってくださいね」
「かんなさんには面白くないかもしれませんが、それでもよければ是非」
end.
++++
萩さんとかんなです。萩さんとかんなが付き合ってた時間軸のお話は多分2年前?だったかと思うのですが、今年はどうなるやら。
本当は萩さんがアイスの機械のハンドル操作ミスってベチャッてなるような感じで想像していましたが、さすがにやり過ぎかなと
萩さんは基本的に甘いものが好きなのね。そらカステラ生地でカスタードをくるんで蒸したお菓子が好きですわ
.