2019

■空振りの周年記念祭

++++

「今日は世界のシゲトラ周年記念祭だ!」
「……周年記念祭? っすか?」
「相手にしなくていいよ、1年振り3回目だから」
「ちくしょう! 響人のバーカ! もうまんじゅう買って来てやらねーからな!」

 うわああ、と勢いよくミーティングルームから飛び出せば、まあ、周りをちゃんと見てなかった俺が悪いんだけど、思いっ切り人に体当たりをしてしまうっていうな。つーか人を間違えると大変なことになってたヤツだ。

「わわっ、ビックリした~。シゲトラ、急いでるの~?」
「悪い洋平。いや? 別に急いでねーけど、つか聞いてくれよ、響人のヤツがひでーんだよ」
「またシゲトラが大きなこと言ったんじゃないの~?」
「ちげーよ! 今日は俺の誕生日でめでたいなーってだけの話を響人のヤツは「相手にしなくていい」なんて言うんだぜ?」

 別に大きなことを言ったつもりはない。本当にそれだけのこと。やっぱりさ、誕生日は何かしらいいことがあった方が嬉しいじゃんな。だからせめて班のメンバーには祝ってほしかった、簡単に祝ってくれるだけでよかったのにこの仕打ちだ。

「あ~、あるよね~」
「わかってくれるか洋平」
「うんうん~。俺もさ~、今度の土曜日じゃんね~誕生日~」
「おっ、めでたいな!」
「でもさ~、それを班でアピッたらどうなると思う~?」
「朝霞にボコられる」
「せいか~い」
「マジかよ、ネタで言ったのに」
「うん。ウルサイってボコられて「それがステージに何の役に立つ」って言って相手にしてもらえないからね~。挙句、台本書くのに邪魔だから出てけって言われる始末で~」
「……まあ、それはお前、朝霞だし多少はしょうがなくないか」
「え~? でもさ~、班員のモチベーションを上げたり鼓舞するのも班長でPの仕事ジャな~い? ねえシゲトラ」

 一見俺からすれば「朝霞だからしょうがない」と思うようなことでも洋平にとっては全然しょうがなくないし、なんなら俺が響人から邪険にされて何だよってなってるのと全く同じ話らしい。いや、でも朝霞は異常にしても響人はもうちょっと人のことを気に掛けてくれるかと思ってたのにな!
 洋平は朝霞から別に何をして欲しいワケでもなく、単純に「誕生日か、よかったな」とか「浮かれていいのは今日までだぞ」という窘めでも何でもいいからそれについて触れてもらえればまた頑張ろうとモチベーションが上がるらしい。何にせよ、無視が一番しんどいという意見は一致した。

「ウチの場合はさ~、朝霞クンが台本を書いてる限り人の誕生日とかそんなことは関係ないんだよ~」
「まあそうだろうな」
「そうだとわかっててもシカトはしんどいけどね~」
「でもよ、俺は単に世界のシゲトラ周年記念祭をアピッてただけだぞ? 別に響人が台本書くのを邪魔してたワケでもなく、むしろ俺がしてるのはサポート! まんじゅう食いたいと言われれば買いに走るし、ネタがないと言われれば一緒に考えてる。それなのにだな!」
「結局、世界のシゲトラって何って話だからね~」
「ぐっ…! 世界のシゲトラは世界のシゲトラ以外の何物でもねーよ…! 毎年この日を迎える度に俺は世界のシゲトラとしてまた気を引き締めて、世界を狙うとか背負って立つとかそーゆーほら、アレだよ、ほら」
「鎌ヶ谷クン、その話を聞き飽きてるんじゃないの~?」
「うるせー! お前までそんなこと言いやがってー!」

 世界のシゲトラはそりゃあ最初は語感っつーか言いやすさとかノリ重視で言ってたけど、そのうちガチになってきたヤツじゃんな。つーかそれっくらいのデカいスケールの男でいたいじゃんな、やっぱり。夢とか器はデカい方がいいよそりゃ。
 確かに意味がわからないとはよく言われるし、実際何かしらワールドワイドに活動するかっつったらしないとは思うけどだ! それでもやっぱりデカいこと言って自分を盛り立てておきたいじゃんな。班員を鼓舞するのも班長の仕事だっつーけど、それじゃあ班長は誰が鼓舞すんだよ。自分しかいねーんだよ。

「でも、俺もアピり方は考えとかないとな~。あんまりくど過ぎても怒られるし、でも薄すぎても相手にしてもらえないし。無視されるよりは殴られた方がまだマシかも」
「それはそれでどうかと思うぞ」

 まあ、何にせよもうしばらくは班に戻るのも気まずいと言うか何と言うか。それはそれで響人が「ほらね」みたいな感じでいそうで腹が立つと言うか。何とかこう、響人の予想を裏切る新生・世界のシゲトラっぽい感じでの華々しい帰還を演出しないと。

「そうだ、お前が祝ってくれても全然いいんだぞ洋平」
「おめでと~」
「わかってたけど軽いなー」
「俺にガチなの期待する方がどうかしてると思うよ。それに、シゲトラも本来祝われたいのは俺ジャないでしょ?」
「祝ってくれるなら正直誰でもフルオープンに受け入れるけどな」
「でも、そうジャナイでしょ」
「何だお前、さっさとブースに帰れって言ってんのか」
「そ~ゆ~コトでしょでしょ~」
「クソッ、帰ってやるよそこまで言うなら」

 まだもやもやしたままだけど、行くところもないしとりあえずは鎌ヶ谷班ブースに戻ることに。ちくしょう。どーせ響人のヤツはすました顔ですぐ帰って来たとか何とかってバカにするんだ。知ってるんだぞ、3年目の付き合いにもなればわかるんだよちくしょう。

「おいお前ら、この世界のシゲトラが戻って来てやったぞ!」


end.


++++

これも何年か前にやったシゲトラの誕生日がどうしたとかいう話ですね。今回はかまひびからの扱いが酷い模様。
結局世界のシゲトラって何やねんって話だけど、最初は大した意味がなかったけど今はそれに見合うスケールがどうしたとかいう感じになってるみたいです
そして洋平ちゃんも何気に自分の誕生日を班長にアピりたい様子。ボコボコにされる覚悟で頑張れ

.
89/100ページ