2019
■名誉だけよりクッキーを下さい
++++
「たかがケーブル、されどケーブル。ケーブル巻き選手権やるぞ」
「ケーブル巻きですか?」
突然高ピー先輩が何を言い出したかと思えば、ケーブル巻き選手権だって。確かに、放送サークルとケーブルは切っても切れない物。マイクも基本的に有線だし、その他機材のケーブルも込み込みで。巻けないよりは巻けた方が断然いいに違いない。
何でも先週、高ピー先輩がいっちー先輩とお昼休みに第1学食の前を通ったときに思いついたとか。食堂の前で軽音部がライブをやってるのはよく見る光景。だけど、フロアのケーブルが大変なコトになっていていっちー先輩がイライラしてたって。
ライブだったら多少はごちゃっとするのは仕方ないような気がしないでもないけど、それを抜きにしても汚くって見ていられなかったって。高ピー先輩によれば、いっちー先輩はエアケーブル巻きなんかをしてたそうだから、よっぽど綺麗にしたくて仕方なかったみたい。
いっちー先輩をイライラさせるほどごちゃっとしていたケーブルに、自分たちはちゃんとしようと上の2人が話し合った結果の大会。大会をやろうと言い出したのは、いっちー先輩。ただの練習よりもみんなで楽しく、切磋琢磨しつつケーブル巻きを極めて欲しいと。
「優勝したらいいことありますか?」
「優勝商品は伊東が作ったクッキーの詰め合わせだ」
「俄然やる気ですよねー!」
この優勝商品に、サークル室が湧く。いっちー先輩のクッキーが美味しいのはみんな知ってること。たまにサークルに作って持ってきてくれるからね。お金が絡むより健全だし、名誉だけなんていらないんですよねー。
ケーブル巻きに問われるのは速さと正確さ。遅すぎてもダメだし、解くときに絡まるようでもダメ。速さと正確さを兼ね備えた美しいケーブル巻きがここでは問われている。今回は、巻くのにかかった時間と解いたときの芸術性を点数化して競う。
「うーん、クッキーは欲しいですけど先輩たちに勝てる気がしませんね」
「タカちゃん諦めたら試合終了ですよ!」
「まあ、なまったるいコトはしたくなかったが、一応ハンデはある。2年はプラス3秒、3年は6秒。1年ミキはプラ2秒、2年ミキは4秒、3年ミキは6秒のハンデだ。つまり、2年アナの果林は3秒、3年ミキの伊東は12秒ハンデな」
「高ピーのハンデが6秒なのは反則じゃないかなあ」
「あ? 俺は3年アナだろうが」
「高ピーの実力なら10秒あってもいいくらいだよね」
「ごたごたうるせえ」
いっちー先輩のクッキーは誰にも渡すつもりはないけど、高ピー先輩もかなり本気。正直、ミキサー陣より高ピー先輩の方が気をつけなきゃいけない存在だと思う。アナだからハンデ少ないし。って言うかそれこそいっちー先輩の言う通りで、高ピー先輩のハンデが6秒なのは反則ですよねー。
得てしてケーブルを触る機会が多いのは一般的にアナウンサーよりもミキサーだから、ミキサーの方が早くきれいに出来るよね? っていうハンデ設定なんだと思う。だけど、高ピー先輩は正直アナとかミキとか関係なく何でも自分でやっちゃうんだから普通のアナと一緒にしちゃダメでしょって。
「エイジはどう? ケーブル巻き」
「俺はバンドの機材とか演劇部の機材触ってたからな! そこらのアナと一緒にしてもらっちゃ困るべ! 1年アナはハンデもないっていう」
「自信があってすごいなあ」
「高木、お前もこないだケーブル巻いて遊んでただろ」
「あれはヒマだったから。でも、やるからにはクッキー欲しいよね。嗜好品だし」
「嗜好品って」
「美味しいクッキーを食べようと思うとそこそこのお金を出さなきゃいけないんだよエイジ」
どうやら1年生たちもやる気満々。これもいっちー先輩のクッキーの魔力なのかもしれない。思ったより敵は多い。だけど、アタシだって負けませんよねー。商品がクッキーじゃなきゃここまで熱くなってないだろうけど。
「岡崎、そのラックの下の段の左のケースにケーブル入ってるから、配ってくれ」
「これ?」
「ああ、それだ。でも、一斉にやるときはサークル室じゃ狭いな。外に移動するぞ」
「高崎、西日が強いけど外でやる? 外でやるなら俺のハンデちょっと緩めてもらっていい?」
「あー、ミーティングAにするか。岡崎、屋内だからハンデは緩めねえぞ」
「あら。クッキーに近付けると思ったんだけど」
ユノ先輩からケーブルが配られると、なかなか本格的な大会の様相になっていく。みんな一斉にやれる広さを求めるなんて。もちろん、ストップウォッチも忘れずに。って言うかユノ先輩身を削ってまで勝とうとしてたとか。意外と負けず嫌いですよね。
ミーティングルームに移動中、開け広げた防音室のドアから見えるのは軽音部の練習風景。って言うか練習するなら扉閉めなきゃ防音室の意味なんてないんだけどね。いっちー先輩があれあれって指さすから何かと思えば、床には乱雑に散らばり絡み合うケーブル。なるほど、あれは確かに。
「よーしお前ら、準備はいいな。競技はアナウンサーとミキサーに分けて行う。ハンデ表はホワイトボードに書いた通りだ」
ケーブル巻きの技術向上を目的とした大会なんだけど、みんなの顔つきがいつもより真剣。商品のかかった大会だからかな。サークル室での様子を見てる限りみんないっちー先輩のクッキーを本気で狙いに来てたみたいだから。でも、アタシも負けませんよねー。
「誰が勝っても恨みっこなし。正々堂々やる。それだけだ」
end.
++++
実は3年前に書いていてずっとお蔵入りにも出来ず溜まっていたお話を現代風にリメイク。バレなければセーフ。
ケーブル巻き云々っていう件は多分3年前以前にやってたということですね。そろそろ掘り起こしてもよさそう。それかMMPでの選手権など
そして安定のいっちークッキーよ。潔癖っぽいエージもいち氏の作った物に関してはちゃんとしてるんだなって判定してるけど、その件もやりたいね
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「たかがケーブル、されどケーブル。ケーブル巻き選手権やるぞ」
「ケーブル巻きですか?」
突然高ピー先輩が何を言い出したかと思えば、ケーブル巻き選手権だって。確かに、放送サークルとケーブルは切っても切れない物。マイクも基本的に有線だし、その他機材のケーブルも込み込みで。巻けないよりは巻けた方が断然いいに違いない。
何でも先週、高ピー先輩がいっちー先輩とお昼休みに第1学食の前を通ったときに思いついたとか。食堂の前で軽音部がライブをやってるのはよく見る光景。だけど、フロアのケーブルが大変なコトになっていていっちー先輩がイライラしてたって。
ライブだったら多少はごちゃっとするのは仕方ないような気がしないでもないけど、それを抜きにしても汚くって見ていられなかったって。高ピー先輩によれば、いっちー先輩はエアケーブル巻きなんかをしてたそうだから、よっぽど綺麗にしたくて仕方なかったみたい。
いっちー先輩をイライラさせるほどごちゃっとしていたケーブルに、自分たちはちゃんとしようと上の2人が話し合った結果の大会。大会をやろうと言い出したのは、いっちー先輩。ただの練習よりもみんなで楽しく、切磋琢磨しつつケーブル巻きを極めて欲しいと。
「優勝したらいいことありますか?」
「優勝商品は伊東が作ったクッキーの詰め合わせだ」
「俄然やる気ですよねー!」
この優勝商品に、サークル室が湧く。いっちー先輩のクッキーが美味しいのはみんな知ってること。たまにサークルに作って持ってきてくれるからね。お金が絡むより健全だし、名誉だけなんていらないんですよねー。
ケーブル巻きに問われるのは速さと正確さ。遅すぎてもダメだし、解くときに絡まるようでもダメ。速さと正確さを兼ね備えた美しいケーブル巻きがここでは問われている。今回は、巻くのにかかった時間と解いたときの芸術性を点数化して競う。
「うーん、クッキーは欲しいですけど先輩たちに勝てる気がしませんね」
「タカちゃん諦めたら試合終了ですよ!」
「まあ、なまったるいコトはしたくなかったが、一応ハンデはある。2年はプラス3秒、3年は6秒。1年ミキはプラ2秒、2年ミキは4秒、3年ミキは6秒のハンデだ。つまり、2年アナの果林は3秒、3年ミキの伊東は12秒ハンデな」
「高ピーのハンデが6秒なのは反則じゃないかなあ」
「あ? 俺は3年アナだろうが」
「高ピーの実力なら10秒あってもいいくらいだよね」
「ごたごたうるせえ」
いっちー先輩のクッキーは誰にも渡すつもりはないけど、高ピー先輩もかなり本気。正直、ミキサー陣より高ピー先輩の方が気をつけなきゃいけない存在だと思う。アナだからハンデ少ないし。って言うかそれこそいっちー先輩の言う通りで、高ピー先輩のハンデが6秒なのは反則ですよねー。
得てしてケーブルを触る機会が多いのは一般的にアナウンサーよりもミキサーだから、ミキサーの方が早くきれいに出来るよね? っていうハンデ設定なんだと思う。だけど、高ピー先輩は正直アナとかミキとか関係なく何でも自分でやっちゃうんだから普通のアナと一緒にしちゃダメでしょって。
「エイジはどう? ケーブル巻き」
「俺はバンドの機材とか演劇部の機材触ってたからな! そこらのアナと一緒にしてもらっちゃ困るべ! 1年アナはハンデもないっていう」
「自信があってすごいなあ」
「高木、お前もこないだケーブル巻いて遊んでただろ」
「あれはヒマだったから。でも、やるからにはクッキー欲しいよね。嗜好品だし」
「嗜好品って」
「美味しいクッキーを食べようと思うとそこそこのお金を出さなきゃいけないんだよエイジ」
どうやら1年生たちもやる気満々。これもいっちー先輩のクッキーの魔力なのかもしれない。思ったより敵は多い。だけど、アタシだって負けませんよねー。商品がクッキーじゃなきゃここまで熱くなってないだろうけど。
「岡崎、そのラックの下の段の左のケースにケーブル入ってるから、配ってくれ」
「これ?」
「ああ、それだ。でも、一斉にやるときはサークル室じゃ狭いな。外に移動するぞ」
「高崎、西日が強いけど外でやる? 外でやるなら俺のハンデちょっと緩めてもらっていい?」
「あー、ミーティングAにするか。岡崎、屋内だからハンデは緩めねえぞ」
「あら。クッキーに近付けると思ったんだけど」
ユノ先輩からケーブルが配られると、なかなか本格的な大会の様相になっていく。みんな一斉にやれる広さを求めるなんて。もちろん、ストップウォッチも忘れずに。って言うかユノ先輩身を削ってまで勝とうとしてたとか。意外と負けず嫌いですよね。
ミーティングルームに移動中、開け広げた防音室のドアから見えるのは軽音部の練習風景。って言うか練習するなら扉閉めなきゃ防音室の意味なんてないんだけどね。いっちー先輩があれあれって指さすから何かと思えば、床には乱雑に散らばり絡み合うケーブル。なるほど、あれは確かに。
「よーしお前ら、準備はいいな。競技はアナウンサーとミキサーに分けて行う。ハンデ表はホワイトボードに書いた通りだ」
ケーブル巻きの技術向上を目的とした大会なんだけど、みんなの顔つきがいつもより真剣。商品のかかった大会だからかな。サークル室での様子を見てる限りみんないっちー先輩のクッキーを本気で狙いに来てたみたいだから。でも、アタシも負けませんよねー。
「誰が勝っても恨みっこなし。正々堂々やる。それだけだ」
end.
++++
実は3年前に書いていてずっとお蔵入りにも出来ず溜まっていたお話を現代風にリメイク。バレなければセーフ。
ケーブル巻き云々っていう件は多分3年前以前にやってたということですね。そろそろ掘り起こしてもよさそう。それかMMPでの選手権など
そして安定のいっちークッキーよ。潔癖っぽいエージもいち氏の作った物に関してはちゃんとしてるんだなって判定してるけど、その件もやりたいね
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