2019
■初夏のプレおいも祭
++++
「すっかり人が少なくなりましたねー」
「6月はそんなものだ」
ゴールデンウィークが過ぎれば繁忙期が終わるという風に聞いていた情報センターは、その言葉通りゆったりとした時間が流れていた。連休終わりの頃はまだもう少し人がいたように思うけど、6月に入ってからは……うん。きっと大学自体に来なくなってるんだろうなあ。
でも、俺もバイトをしてなかったら曜日感覚も無くなって昼夜も完全にひっくり返ってたと思うから、早い段階で決めておいてよかったと思う。将来の目標があるから勉強をしっかりしなきゃいけないとは思ってるけど、バイトもあるから大学には来なきゃって感覚になってるのもウソじゃないから。
7月中旬から下旬くらいになるとテストが近くなってこれまではサボっていた人も戻って来るそうだから、あとひと月ほどこのゆったりとした時間を過ごそうと思う。あまりに人が来なさすぎて、普段は自習室にいる林原さんも事務所でお茶を飲んでいるくらいだ。
「ひい、ひい」
「ん」
「はーどっこいせーっと。ィよーうお前ら!」
どすんと大きな段ボール箱を抱えて春山さんがやってきた。どすんって机に箱が置かれたときの衝撃からすると、結構重たそうな感じ。コピー用紙とかではなさそうだよなあ。そういうのだったら春山さんがわざわざ抱えて来るものでもないし。
「ではオレはそろそろ自習室に」
「誰もいねーのはわかってんだぞリン。逃げるな」
「いてっ」
「えーと……ジャガイモ?」
ごすっという鈍い音を立てて林原さんの背中に跳ね返ったジャガイモ。床に転がったそれを拾い上げて、林原さんは春山さんに向かっていく。あわわ、またケンカが始まっちゃうんじゃ。って言うかどこからジャガイモが出て来たのかもわかんないから怖いですよね!
「やめんか、芋を投げるなと何度言えば理解する」
「足を止めようと思ってついな」
「何が「つい」だ。縁起でもない物を持ち込みやがって」
「と言うか、どうしてジャガイモが事務所に…?」
「よく聞いてくれた川北!」
「あーあ。オレは知らんぞ」
春山さんが勢いよく例の箱を開けると、中からゴロゴロと出て来たのはきれいなジャガイモ。何個ぐらいあるかなあ、とにかくいっぱいあるけどゴールデンウィークとかのお土産大会とはまた別枠ですよね?
「よし川北、お前は何個持って行く?」
「はい?」
「今日はジャガイモ配布祭だからな。最低10個からスタートな」
「えーと、事情を聞かせてもらっていいですか…?」
「私の親戚が南の方でジャガイモ農園をやっててな。送って来やがったんだよ。でも1人じゃ食えないからこうやって配り回ってるっつーワケだ」
「ちなみにこの人の関係筋は北辰でも農園をやっていて、北辰の芋の季節になるとこれの比でない量の芋を押し付けて来るとだけは言っておこう」
ゴールデンウィークのお土産大会で思ったんだけど、春山さんのバラまきと言うか、行動の規模はかなり大きいんだよなあって。今は段ボール1箱しかないけど、林原さんが言ってたみたく北辰の芋がかなり多いとすればどれくらいの量なんだろうっていう恐怖が先に来ると言うか。
だけど、1人暮らしをしている以上ジャガイモは貴重な食材であることには違いなくて。あっても困るものではないからいただけるんであればいただいておきたいという気持ちもある。あくまで、自分できっちり使い切れる量だけ欲しいんだけど、どうかなー…? 無理かなー…?
「え、えーと……10個ください」
「そうかそうか、それじゃあおまけに5個付けてやろう」
「えーっ!?」
「ほら出たぞ、おまけと言う名の押し売りが」
「川北がトータル15個だし、お前は最低30だな」
「ふざけるな」
「はい川北、15個な」
「ありがとうございますー」
15個だから2週間はイケるかな。ダメにしないように保存の方法を調べとこう。何にしようかなあ。そのまま食べても美味しいし、味噌汁に入れても絶対間違いない。定番のカレーもあるから何だかんだ消費できそうかな。他に何か簡単に出来そうなメニューはあるかなあ。
「春山さん、おすすめの食べ方ってありますかー?」
「そりゃお前、そのまま茹でて塩辛よ」
「塩辛ですか!? 聞いたことないですー。でも、ジャガイモってそのまま食べようと思っても茹でるのが大変そうですよねー、お鍋準備したりー」
「いや、1人でちょっと食うくらいなら洗ってラップで包んで3分レンチンでオッケーだぞ」
「ほう」
「えっ、そんなに簡単でいいんですか」
「ちなみに2個なら6分な。おかずに使うなら切ってからレンチン、そのまま食うなら丸ごとな」
「へー、それはいいことを聞きました」
「じゃああと5個増やすか?」
「いえいえいえいえ15個で十分です!」
このジャガイモの話をしている間、林原さんがとにかく静かなんだよなあ。きっと存在感を消すことで少しでもジャガイモを引き取る個数を減らしたいのかな。さっきの感じだと林原さんは俺の倍が最低ラインみたいだし。もしかしたら去年もたくさん押し付けられたのかな。
でもラップに包んでチンで蒸かし芋が簡単に出来るという話には林原さんも感心していたみたいだ。やっぱりゆでるのって面倒だし、ジャガイモは茹でてそのまま塩やバターだけで十分美味しいから、それをひとつ知ってるか知らないかで消費ペースが全然変わりそうだ。最悪ご飯を炊くより速いし。
「いいか川北、これはまだ序章に過ぎん。北辰の芋農園が本番だ。しばらくしたらこんなものは比にならん量の芋が襲って来るとは再度言っておくぞ」
「はい~……」
end.
++++
毎度お馴染み情報センターのおいも祭りです。今回はまだまだ人が少ないので小規模な大会ですね。
そしてレンチンでジャガイモは蒸かせるよっていうお話もありありで。1人暮らしだと本当にレンチン有能を実感する
ミドリにしっかりと忠告していくリン様である。去年とかどれだけ酷い目にあったんだろうなあリン様
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「すっかり人が少なくなりましたねー」
「6月はそんなものだ」
ゴールデンウィークが過ぎれば繁忙期が終わるという風に聞いていた情報センターは、その言葉通りゆったりとした時間が流れていた。連休終わりの頃はまだもう少し人がいたように思うけど、6月に入ってからは……うん。きっと大学自体に来なくなってるんだろうなあ。
でも、俺もバイトをしてなかったら曜日感覚も無くなって昼夜も完全にひっくり返ってたと思うから、早い段階で決めておいてよかったと思う。将来の目標があるから勉強をしっかりしなきゃいけないとは思ってるけど、バイトもあるから大学には来なきゃって感覚になってるのもウソじゃないから。
7月中旬から下旬くらいになるとテストが近くなってこれまではサボっていた人も戻って来るそうだから、あとひと月ほどこのゆったりとした時間を過ごそうと思う。あまりに人が来なさすぎて、普段は自習室にいる林原さんも事務所でお茶を飲んでいるくらいだ。
「ひい、ひい」
「ん」
「はーどっこいせーっと。ィよーうお前ら!」
どすんと大きな段ボール箱を抱えて春山さんがやってきた。どすんって机に箱が置かれたときの衝撃からすると、結構重たそうな感じ。コピー用紙とかではなさそうだよなあ。そういうのだったら春山さんがわざわざ抱えて来るものでもないし。
「ではオレはそろそろ自習室に」
「誰もいねーのはわかってんだぞリン。逃げるな」
「いてっ」
「えーと……ジャガイモ?」
ごすっという鈍い音を立てて林原さんの背中に跳ね返ったジャガイモ。床に転がったそれを拾い上げて、林原さんは春山さんに向かっていく。あわわ、またケンカが始まっちゃうんじゃ。って言うかどこからジャガイモが出て来たのかもわかんないから怖いですよね!
「やめんか、芋を投げるなと何度言えば理解する」
「足を止めようと思ってついな」
「何が「つい」だ。縁起でもない物を持ち込みやがって」
「と言うか、どうしてジャガイモが事務所に…?」
「よく聞いてくれた川北!」
「あーあ。オレは知らんぞ」
春山さんが勢いよく例の箱を開けると、中からゴロゴロと出て来たのはきれいなジャガイモ。何個ぐらいあるかなあ、とにかくいっぱいあるけどゴールデンウィークとかのお土産大会とはまた別枠ですよね?
「よし川北、お前は何個持って行く?」
「はい?」
「今日はジャガイモ配布祭だからな。最低10個からスタートな」
「えーと、事情を聞かせてもらっていいですか…?」
「私の親戚が南の方でジャガイモ農園をやっててな。送って来やがったんだよ。でも1人じゃ食えないからこうやって配り回ってるっつーワケだ」
「ちなみにこの人の関係筋は北辰でも農園をやっていて、北辰の芋の季節になるとこれの比でない量の芋を押し付けて来るとだけは言っておこう」
ゴールデンウィークのお土産大会で思ったんだけど、春山さんのバラまきと言うか、行動の規模はかなり大きいんだよなあって。今は段ボール1箱しかないけど、林原さんが言ってたみたく北辰の芋がかなり多いとすればどれくらいの量なんだろうっていう恐怖が先に来ると言うか。
だけど、1人暮らしをしている以上ジャガイモは貴重な食材であることには違いなくて。あっても困るものではないからいただけるんであればいただいておきたいという気持ちもある。あくまで、自分できっちり使い切れる量だけ欲しいんだけど、どうかなー…? 無理かなー…?
「え、えーと……10個ください」
「そうかそうか、それじゃあおまけに5個付けてやろう」
「えーっ!?」
「ほら出たぞ、おまけと言う名の押し売りが」
「川北がトータル15個だし、お前は最低30だな」
「ふざけるな」
「はい川北、15個な」
「ありがとうございますー」
15個だから2週間はイケるかな。ダメにしないように保存の方法を調べとこう。何にしようかなあ。そのまま食べても美味しいし、味噌汁に入れても絶対間違いない。定番のカレーもあるから何だかんだ消費できそうかな。他に何か簡単に出来そうなメニューはあるかなあ。
「春山さん、おすすめの食べ方ってありますかー?」
「そりゃお前、そのまま茹でて塩辛よ」
「塩辛ですか!? 聞いたことないですー。でも、ジャガイモってそのまま食べようと思っても茹でるのが大変そうですよねー、お鍋準備したりー」
「いや、1人でちょっと食うくらいなら洗ってラップで包んで3分レンチンでオッケーだぞ」
「ほう」
「えっ、そんなに簡単でいいんですか」
「ちなみに2個なら6分な。おかずに使うなら切ってからレンチン、そのまま食うなら丸ごとな」
「へー、それはいいことを聞きました」
「じゃああと5個増やすか?」
「いえいえいえいえ15個で十分です!」
このジャガイモの話をしている間、林原さんがとにかく静かなんだよなあ。きっと存在感を消すことで少しでもジャガイモを引き取る個数を減らしたいのかな。さっきの感じだと林原さんは俺の倍が最低ラインみたいだし。もしかしたら去年もたくさん押し付けられたのかな。
でもラップに包んでチンで蒸かし芋が簡単に出来るという話には林原さんも感心していたみたいだ。やっぱりゆでるのって面倒だし、ジャガイモは茹でてそのまま塩やバターだけで十分美味しいから、それをひとつ知ってるか知らないかで消費ペースが全然変わりそうだ。最悪ご飯を炊くより速いし。
「いいか川北、これはまだ序章に過ぎん。北辰の芋農園が本番だ。しばらくしたらこんなものは比にならん量の芋が襲って来るとは再度言っておくぞ」
「はい~……」
end.
++++
毎度お馴染み情報センターのおいも祭りです。今回はまだまだ人が少ないので小規模な大会ですね。
そしてレンチンでジャガイモは蒸かせるよっていうお話もありありで。1人暮らしだと本当にレンチン有能を実感する
ミドリにしっかりと忠告していくリン様である。去年とかどれだけ酷い目にあったんだろうなあリン様
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