2019
■ステージバカ一味の実情
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これは絶対的なチャンスだと思った。講習会の時に他校の子としか喋ってなかったあの変な奴、アイツはひょっとしなくても変わり者だと思って声をかけたよね。大事な話があるから講習会の後からちょっと残ってて欲しいって。アタシは対策委員の片付けもそこそこに、その“大事な話”に向かう。
「あっ、いたいた。ゴメンね、ちょっと対策委員の方でいろいろあってさ」
「あっいえ、大丈夫です。それで、大事な話って」
何かのほほんとした雰囲気で背は多分170ないくらい。パートを聞くと、ミキサーに興味があるとの返答。講習会の会場になってた教室では前寄りの真ん中たらへんに他校の子と一緒に座ってた。昼休みの弁当もその大学混合男子グループで食べてたから、これはと思って。
それの何がおかしいんだと思われるかもしれないけど、去年の感じや先輩らの話では、星ヶ丘の連中はインターフェイスの活動に出てきても基本同じ星ヶ丘同士で群れている。今日にしても、星ヶ丘は教室の後ろの方にわらわらと集まって群れていたように思う。そんな中でこの源吾郎、ゲンゴローという1年生がいかに異端か。
「単刀直入に言うと、アンタにミキサーとして朝霞班に来て欲しいんだわ」
「えっ!?」
「アンタ今どっかの班で世話になってんの?」
「えっと、鎌ヶ谷班で、シゲトラ先輩のお世話になってます」
「あー、なるほどね。“ぽい”わ確かに」
幹部系の連中ほど嫌な感じではなく反体制派ほど殺気もない、のほほんとした平和的な空気は鎌ヶ谷班にいると言われて本当に納得した。あそこは永世中立という立場で争いを嫌う連中の集まりだ。あそこにいる奴とかいたことある奴って独特の空気があるんだよな、洋平然りで。
「心配しなくてもミキサーの技術的なことやステージについてはアタシが責任もって教えるし、ちゃんと面倒は見る。何ならシゲトラんトコにいるよりずっと実戦デビューは早いかもね」
「えっと、戸田先輩って確かディレクターさんですよね。Dとしては部で1、2を争う腕前だってシゲトラ先輩から聞いてるんですけど、失礼ですけどミキサーの方って」
「あーね。まあ心配になるよね。ウチの部って基本自分のパート以外の仕事出来ない連中ばっかだから。アタシはDだけど、ミキサーも一応最低限教えれるだけの腕はあるよ」
「あ、そうなんですね。すみません」
「って言うか、自分のパート以外の仕事もやんなきゃステージが出来ないからね。アタシはDもミキもやるし、班長の朝霞サンはPもやるしアナもやる。洋平はアナ専任だけど、朝霞サンの前の班長は全パート出来たし」
「全パート!? えっ、もしかして俺にもそういうことを要求されたり……」
「ミキサーとして来てくれるならその辺は大丈夫。でも、一般的な班ならDがやってるような雑務は全員でやることになるからそういうものだと思って欲しい」
しまった、さすがにいない人の話まで持ち出したのはゲンゴローをビビらせたか。って言うかこっしーが頭おかしいんだよ、あの脳筋が。アナ兼Pからミキ兼Dにパート転向するとか、いくら朝霞サンと洋平がそれぞれPとアナが適材適所だったからってわざわざ1年やってたことを無にして新パートでやるか? 的な。
さすがにそんなイレギュラーな事態は余程のことがないと起きませんよと念押しをして、ゲンゴローがミキサーで来てくれるとするならステージをやってる最中にパートを行き来するような無茶は減るし、ということを一生懸命プレゼンした。まあ、ちょっとしたDの仕事くらいは覚えてもらいたいけど、すぐにとは言わない。
「やっぱり、ミキサーも実戦で上達していくものですか?」
「そうねえ、そうかもね。まあ、アタシとかシゲトラの場合はラジオ局でバイトしてるからってのもあるけど、別に局でバイトしてなくたって真面目に練習すりゃフツーに出来るようになるから心配は要らないよね」
「あと、朝霞班ってどういう班なんですか…? 外からじゃ何してるかわかんなくてちょっと怖いと言うか」
「なーに、Pがステージバカでアナがただバカなだけの普通の班だよ。確かに班としての扱いは良くないけど、何か悪いことをしたからああなったワケでもない。単純に、愚直にステージだけやってるバカな班だね」
クソ日高からの私怨とかで朝霞サンは嫌がらせを受けてるけど、それでも越谷班時代に比べればまだいい。愚直にステージだけをやっているバカな班という表現に、我ながら苦笑いするしかなかった。ステージバカの班長の下で、それがスムーズに回るようにバタバタ走り回る自分の姿もまた滑稽なものだと。
3人いればステージは出来る。だけど、それが4人になったときにはもっといろんなことが出来るようになると思う。そうなるとあのステージバカはまーた寝る間も食べる間も惜しんで台本を書き殴るようになるんだろうなあ。ま、ヌルい台本じゃ刺激が足りないって思うようになってしまった以上、アタシもそのステージバカの一味か。
「まあ、何にせよちょっと考えてみてくれる? 悪いようにはしないから。アンタ1人じゃ決められないだろうし、シゲトラとかに相談してみてもいいから。返事は早い方が嬉しいけど、いつでもいいし」
「わかりました」
お疲れさまでしたーと帰って行くゲンゴローを見送り、アタシは対策委員のみんながいる教室へと戻る。片付けは粗方終わってしまったようだ。この片付けにほとんど参加していなかったらしいヒロに野坂の雷が落ちているところだった。ヤバい、アタシにも雷が落ちるか。
「あっ、つばめお前、そういやいなかったな」
「ちょっタンマ! 確かに片付けはサボったしそれは申し訳ないけど、アタシはアタシで死活問題だったんだってば!」
end.
++++
つばちゃんからゲンゴローに大事な話をしている現場の話って多分これまでやったことがなかったんじゃないかという風に思います。
この一本釣りが後々すごく効いてくるので、この場で早々に釣っておいてよかったですね。
片付けをサボったヒロはこれまでのことを菜月さんに愚痴ってたんやろなあ。○年前の話参照で。
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これは絶対的なチャンスだと思った。講習会の時に他校の子としか喋ってなかったあの変な奴、アイツはひょっとしなくても変わり者だと思って声をかけたよね。大事な話があるから講習会の後からちょっと残ってて欲しいって。アタシは対策委員の片付けもそこそこに、その“大事な話”に向かう。
「あっ、いたいた。ゴメンね、ちょっと対策委員の方でいろいろあってさ」
「あっいえ、大丈夫です。それで、大事な話って」
何かのほほんとした雰囲気で背は多分170ないくらい。パートを聞くと、ミキサーに興味があるとの返答。講習会の会場になってた教室では前寄りの真ん中たらへんに他校の子と一緒に座ってた。昼休みの弁当もその大学混合男子グループで食べてたから、これはと思って。
それの何がおかしいんだと思われるかもしれないけど、去年の感じや先輩らの話では、星ヶ丘の連中はインターフェイスの活動に出てきても基本同じ星ヶ丘同士で群れている。今日にしても、星ヶ丘は教室の後ろの方にわらわらと集まって群れていたように思う。そんな中でこの源吾郎、ゲンゴローという1年生がいかに異端か。
「単刀直入に言うと、アンタにミキサーとして朝霞班に来て欲しいんだわ」
「えっ!?」
「アンタ今どっかの班で世話になってんの?」
「えっと、鎌ヶ谷班で、シゲトラ先輩のお世話になってます」
「あー、なるほどね。“ぽい”わ確かに」
幹部系の連中ほど嫌な感じではなく反体制派ほど殺気もない、のほほんとした平和的な空気は鎌ヶ谷班にいると言われて本当に納得した。あそこは永世中立という立場で争いを嫌う連中の集まりだ。あそこにいる奴とかいたことある奴って独特の空気があるんだよな、洋平然りで。
「心配しなくてもミキサーの技術的なことやステージについてはアタシが責任もって教えるし、ちゃんと面倒は見る。何ならシゲトラんトコにいるよりずっと実戦デビューは早いかもね」
「えっと、戸田先輩って確かディレクターさんですよね。Dとしては部で1、2を争う腕前だってシゲトラ先輩から聞いてるんですけど、失礼ですけどミキサーの方って」
「あーね。まあ心配になるよね。ウチの部って基本自分のパート以外の仕事出来ない連中ばっかだから。アタシはDだけど、ミキサーも一応最低限教えれるだけの腕はあるよ」
「あ、そうなんですね。すみません」
「って言うか、自分のパート以外の仕事もやんなきゃステージが出来ないからね。アタシはDもミキもやるし、班長の朝霞サンはPもやるしアナもやる。洋平はアナ専任だけど、朝霞サンの前の班長は全パート出来たし」
「全パート!? えっ、もしかして俺にもそういうことを要求されたり……」
「ミキサーとして来てくれるならその辺は大丈夫。でも、一般的な班ならDがやってるような雑務は全員でやることになるからそういうものだと思って欲しい」
しまった、さすがにいない人の話まで持ち出したのはゲンゴローをビビらせたか。って言うかこっしーが頭おかしいんだよ、あの脳筋が。アナ兼Pからミキ兼Dにパート転向するとか、いくら朝霞サンと洋平がそれぞれPとアナが適材適所だったからってわざわざ1年やってたことを無にして新パートでやるか? 的な。
さすがにそんなイレギュラーな事態は余程のことがないと起きませんよと念押しをして、ゲンゴローがミキサーで来てくれるとするならステージをやってる最中にパートを行き来するような無茶は減るし、ということを一生懸命プレゼンした。まあ、ちょっとしたDの仕事くらいは覚えてもらいたいけど、すぐにとは言わない。
「やっぱり、ミキサーも実戦で上達していくものですか?」
「そうねえ、そうかもね。まあ、アタシとかシゲトラの場合はラジオ局でバイトしてるからってのもあるけど、別に局でバイトしてなくたって真面目に練習すりゃフツーに出来るようになるから心配は要らないよね」
「あと、朝霞班ってどういう班なんですか…? 外からじゃ何してるかわかんなくてちょっと怖いと言うか」
「なーに、Pがステージバカでアナがただバカなだけの普通の班だよ。確かに班としての扱いは良くないけど、何か悪いことをしたからああなったワケでもない。単純に、愚直にステージだけやってるバカな班だね」
クソ日高からの私怨とかで朝霞サンは嫌がらせを受けてるけど、それでも越谷班時代に比べればまだいい。愚直にステージだけをやっているバカな班という表現に、我ながら苦笑いするしかなかった。ステージバカの班長の下で、それがスムーズに回るようにバタバタ走り回る自分の姿もまた滑稽なものだと。
3人いればステージは出来る。だけど、それが4人になったときにはもっといろんなことが出来るようになると思う。そうなるとあのステージバカはまーた寝る間も食べる間も惜しんで台本を書き殴るようになるんだろうなあ。ま、ヌルい台本じゃ刺激が足りないって思うようになってしまった以上、アタシもそのステージバカの一味か。
「まあ、何にせよちょっと考えてみてくれる? 悪いようにはしないから。アンタ1人じゃ決められないだろうし、シゲトラとかに相談してみてもいいから。返事は早い方が嬉しいけど、いつでもいいし」
「わかりました」
お疲れさまでしたーと帰って行くゲンゴローを見送り、アタシは対策委員のみんながいる教室へと戻る。片付けは粗方終わってしまったようだ。この片付けにほとんど参加していなかったらしいヒロに野坂の雷が落ちているところだった。ヤバい、アタシにも雷が落ちるか。
「あっ、つばめお前、そういやいなかったな」
「ちょっタンマ! 確かに片付けはサボったしそれは申し訳ないけど、アタシはアタシで死活問題だったんだってば!」
end.
++++
つばちゃんからゲンゴローに大事な話をしている現場の話って多分これまでやったことがなかったんじゃないかという風に思います。
この一本釣りが後々すごく効いてくるので、この場で早々に釣っておいてよかったですね。
片付けをサボったヒロはこれまでのことを菜月さんに愚痴ってたんやろなあ。○年前の話参照で。
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