2019
■Pen with a dominant hand
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左手ではスプーンを口に運びながら、右手はファイルを開きペンを持つ。この青いファイルには、これまでMMPのサークルやインターフェイスでの活動の中でもらって来た資料やレジュメなんかを挟んである。それをパラパラとめくり、何をどうしたものかと考える。
さっき、カレーを食べようとしたところに電話がかかって来た。ノサカからだ。何の用事かと思えば、対策委員の会議中だと。カレーを食べようとしていた手を止め、話を聞くことに。すると、とんでもないことになってしまったようだった。
いよいよ今週末の土曜に迫った初心者講習会。そこに三井がプロのラジオパーソナリティーとかいう人を講師として連れて来ると豪語して場を荒らしまくっていたんだ。ところがどっこい、そのプロ講師とかいう人の都合がつかないとかで、ドタキャンされたそうだ。
三井はノサカに逆切れメールを送ったきり音信不通になったらしく、さてどうすると対策委員は改めて話し合いを始めた。ただ、プロの講師を連れて来ると三井が言っていたのもあくまで三井の暴走でしかない。対策委員の議長であるノサカがそれを了承していないからだ。
三井の暴走でキレた果林が「高崎を出すまでもない」とアイツを引っ込めたくらいで、元々講師に内定していた伊東とヒビキに関しては普通に準備をしてもらっている。ただ、全体講習をやる人間がいなくなったというのが結構重大な事態で。
「んー、どうふる」
もぐもぐとカレーを食べ進めながら、さてどうしたものかと考える。何かあったら力になると言った手前、全体講習の講師をお願いしますと言われて引けなかった。今の対策委員がどれだけ崖っぷちかもわかるし、インターフェイス全体のこともある。講師不在の講習会だなんて、そんなことがあるかと。
一応、うちも前対策委員だから対策委員がどんなことをやって欲しいかというようなことは何となくわかる。だけど今年の対策委員には今年の考えがあるだろう。だから、どんな講習をするかやミキサー視点のことに関してはまた改めてノサカを話し合いをすることにした。
ファイルを捲る右手の動きに集中すると、まだ食事中なのに左手はスプーンを置いていた。これまでにもらった様々な資料を見返して、どれが要る、どれが要らないなどと取捨選択していくんだ。それをもらった時点から今に至るまでに変わったことなんかを付箋に書いてマークする。
「んー……」
インターフェイスの活動をやる上でよく使う放送用語をまとめたプリントは、丸々借用させてもらうことにする。だけど、印刷された資料に使われているフォントが好きじゃないから、うち好みの丸みを帯びたフォントに直したい。
うちは自分が1年生の頃の初心者講習会には出ていないから、本当にそれらしい講習は運営側として現場にいた去年の物しか知らない。手元にあるのは去年の講習会の資料や、昔はよく行われていた緑ヶ丘との練習会でもらったプリントなど。必要な情報を抜き出してワードに叩き込む。
全体講習に必要なのは技術的な話だけではない。インターフェイスってどんな組織なのということや、学生ラジオってどういうことを目的にしてるのとか、そんなことから始めなければならないんだ。それから、ラジオだけでなく、ステージにも映像にも生きる話である必要がある。
ラジオのことならある程度わかっているけど、ステージや映像のことについてはあまりよくわかっていない。それこそ星ヶ丘や青敬の人間が喋っていた断片的な情報やそれに基づくイメージしかない。いや、うちの場合は授業でやっているメディアを用いて発信する上でのうんたらかんたらというのも使えるかもしれない。
とにかく、これまでにもらった情報にうちの経験だとか知識を加えて今のインターフェイスで使えるようにブラッシュアップしていかなくてはならない。決してメディア論の講義をやろうというつもりもないんだけど、一番最初だから入り口は広くしておく必要がある。
「ん。……もしもし」
『もしもし、菜月先輩お疲れ様です』
「お疲れ。会議は終わったのか?」
『はい。先程終了したところです。この度は講師の話を引き受けてくださり本当にありがとうございます』
「まあ、あれだ、今何となくレジュメ作ってるんだけど、明日出力するからまたそれで確認してくれ」
『はい。明日の打ち合わせもよろしくお願いします。それから、明日必要な作業は見本番組のキューシートの確認ですね』
「ああ、それもあったか。えっと? 先週の番組の再編集版だっけか」
『はい』
「と言うか、お前は今どこにいるんだ。家ではないだろう?」
『夕飯を食べている店ですね。先程の電話で俺もカレーが食べたくなり。ですが、菜月先輩のカレーには敵いませんね』
「ウルサイ。ご飯食べてるなら食べるか電話するかどっちかにしろ」
――と言ったところで、自分がカレーを食べながらレジュメを作っていたことを思い出したけど、言わなければわからないだろう。今は左手に電話、右手はキーボードだ。
「一応、さっきの一連の流れは圭斗にメールで報告したし、明日何かあるだろう。もし三井が暴れても止めてくれるだろうし」
『ありがとうございます』
「と言うか、出先なのに電話出来るほど電池が残ってるとか。お前の電話も珍しいことがあったモンだな」
『いえ、実は結構ギリでして……先程一度通話していますし』
「なら食べる方に集中しろ。じゃあ、明日な」
『はい。お疲れ様です』
end.
++++
1年に1回あればマシな1人のお話。最後電話はしてるけど、菜月さんが1人でご飯を食べているところからスタートです。
菜月先輩にまだ1回も声かけてなかったよという件は結構やっているのですが、電話を受けた後の菜月さんの動きはあまりやらないので、やってみました
と言うか左手にスプーン、右手にペンって似たようなのどこかで聞いたな。いや、その人は右も左もペン持ってたわ
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左手ではスプーンを口に運びながら、右手はファイルを開きペンを持つ。この青いファイルには、これまでMMPのサークルやインターフェイスでの活動の中でもらって来た資料やレジュメなんかを挟んである。それをパラパラとめくり、何をどうしたものかと考える。
さっき、カレーを食べようとしたところに電話がかかって来た。ノサカからだ。何の用事かと思えば、対策委員の会議中だと。カレーを食べようとしていた手を止め、話を聞くことに。すると、とんでもないことになってしまったようだった。
いよいよ今週末の土曜に迫った初心者講習会。そこに三井がプロのラジオパーソナリティーとかいう人を講師として連れて来ると豪語して場を荒らしまくっていたんだ。ところがどっこい、そのプロ講師とかいう人の都合がつかないとかで、ドタキャンされたそうだ。
三井はノサカに逆切れメールを送ったきり音信不通になったらしく、さてどうすると対策委員は改めて話し合いを始めた。ただ、プロの講師を連れて来ると三井が言っていたのもあくまで三井の暴走でしかない。対策委員の議長であるノサカがそれを了承していないからだ。
三井の暴走でキレた果林が「高崎を出すまでもない」とアイツを引っ込めたくらいで、元々講師に内定していた伊東とヒビキに関しては普通に準備をしてもらっている。ただ、全体講習をやる人間がいなくなったというのが結構重大な事態で。
「んー、どうふる」
もぐもぐとカレーを食べ進めながら、さてどうしたものかと考える。何かあったら力になると言った手前、全体講習の講師をお願いしますと言われて引けなかった。今の対策委員がどれだけ崖っぷちかもわかるし、インターフェイス全体のこともある。講師不在の講習会だなんて、そんなことがあるかと。
一応、うちも前対策委員だから対策委員がどんなことをやって欲しいかというようなことは何となくわかる。だけど今年の対策委員には今年の考えがあるだろう。だから、どんな講習をするかやミキサー視点のことに関してはまた改めてノサカを話し合いをすることにした。
ファイルを捲る右手の動きに集中すると、まだ食事中なのに左手はスプーンを置いていた。これまでにもらった様々な資料を見返して、どれが要る、どれが要らないなどと取捨選択していくんだ。それをもらった時点から今に至るまでに変わったことなんかを付箋に書いてマークする。
「んー……」
インターフェイスの活動をやる上でよく使う放送用語をまとめたプリントは、丸々借用させてもらうことにする。だけど、印刷された資料に使われているフォントが好きじゃないから、うち好みの丸みを帯びたフォントに直したい。
うちは自分が1年生の頃の初心者講習会には出ていないから、本当にそれらしい講習は運営側として現場にいた去年の物しか知らない。手元にあるのは去年の講習会の資料や、昔はよく行われていた緑ヶ丘との練習会でもらったプリントなど。必要な情報を抜き出してワードに叩き込む。
全体講習に必要なのは技術的な話だけではない。インターフェイスってどんな組織なのということや、学生ラジオってどういうことを目的にしてるのとか、そんなことから始めなければならないんだ。それから、ラジオだけでなく、ステージにも映像にも生きる話である必要がある。
ラジオのことならある程度わかっているけど、ステージや映像のことについてはあまりよくわかっていない。それこそ星ヶ丘や青敬の人間が喋っていた断片的な情報やそれに基づくイメージしかない。いや、うちの場合は授業でやっているメディアを用いて発信する上でのうんたらかんたらというのも使えるかもしれない。
とにかく、これまでにもらった情報にうちの経験だとか知識を加えて今のインターフェイスで使えるようにブラッシュアップしていかなくてはならない。決してメディア論の講義をやろうというつもりもないんだけど、一番最初だから入り口は広くしておく必要がある。
「ん。……もしもし」
『もしもし、菜月先輩お疲れ様です』
「お疲れ。会議は終わったのか?」
『はい。先程終了したところです。この度は講師の話を引き受けてくださり本当にありがとうございます』
「まあ、あれだ、今何となくレジュメ作ってるんだけど、明日出力するからまたそれで確認してくれ」
『はい。明日の打ち合わせもよろしくお願いします。それから、明日必要な作業は見本番組のキューシートの確認ですね』
「ああ、それもあったか。えっと? 先週の番組の再編集版だっけか」
『はい』
「と言うか、お前は今どこにいるんだ。家ではないだろう?」
『夕飯を食べている店ですね。先程の電話で俺もカレーが食べたくなり。ですが、菜月先輩のカレーには敵いませんね』
「ウルサイ。ご飯食べてるなら食べるか電話するかどっちかにしろ」
――と言ったところで、自分がカレーを食べながらレジュメを作っていたことを思い出したけど、言わなければわからないだろう。今は左手に電話、右手はキーボードだ。
「一応、さっきの一連の流れは圭斗にメールで報告したし、明日何かあるだろう。もし三井が暴れても止めてくれるだろうし」
『ありがとうございます』
「と言うか、出先なのに電話出来るほど電池が残ってるとか。お前の電話も珍しいことがあったモンだな」
『いえ、実は結構ギリでして……先程一度通話していますし』
「なら食べる方に集中しろ。じゃあ、明日な」
『はい。お疲れ様です』
end.
++++
1年に1回あればマシな1人のお話。最後電話はしてるけど、菜月さんが1人でご飯を食べているところからスタートです。
菜月先輩にまだ1回も声かけてなかったよという件は結構やっているのですが、電話を受けた後の菜月さんの動きはあまりやらないので、やってみました
と言うか左手にスプーン、右手にペンって似たようなのどこかで聞いたな。いや、その人は右も左もペン持ってたわ
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