2019
■キッチンの小麦粉ハニー
++++
「わ、すっごいおいしそうな匂い」
「わかったか? ロールケーキ焼いてるんだ」
作業してたのに、すっごいいい匂いがしてきたから台所を覗いてみますよね。そしたらカズがロールケーキを作ってるところで。でもその規模がすっごい。多分今はスポンジを焼いてるんだろうけど、まだまだスポンジの材料がスタンバイしていて。
カズは家事全般が得意で、本人的に一番得意なのは洗濯らしい。だけど、特筆すべきはお菓子作りのスキルじゃないかなってうちは思ってる。ケーキやクッキーなんて暇さえあれば作ってない? って感じで、作り方なんてきっともう覚えちゃってると思うもん。
レシピなんてネットで調べることも出来るのに、バイト先の本屋で気になるレシピ本があったら「社割使って買った」って言って何冊も買って来ちゃうの。で、どれが食べたいって聞いてくれて、うちは食べたい物を付箋でマークしていく。それでしばらくしたら出て来るもんね、写真通りのそれが。
「どうしたの、突然ロールケーキなんて」
「ほら、こないだから言ってただろ。明日MBCCのミキ飲みだから、そこに持ってく用。6月6日はロールケーキの日だから」
「それって確かカズの誕生会も兼ねてるヤツだよね?」
「ああ、それそれ」
「祝われる人が一番一生懸命準備してるってどーなの」
「まあ、祝われるのは俺だけじゃないしな。それに、飲み会で生き残るための術だからしゃーない。楽しくてやってるんだから」
GREENsが隙あらばイベントをやるように、MBCCは隙あらば飲み会をやってるっていう感じのサークル。明日ある飲み会はポジション別飲み会みたいな感じらしくって、高崎クンはノータッチみたい。メンバーの誕生日にやる飲み会は基本幹事やってるらしいんだけどね。
なんでも、カズと一緒に祝われる6日生まれの子と高崎クンは仲が悪いらしくて、その子が絡むなら自分は一切触れないって。あとはあれですよね。カズの誕生日、7日はうちとのデートが最優先だっていうことを知ってるから、高崎クンはカズの誕生日には敢えて触れないんだって。
で、ロールケーキね。6月6日生まれの子がいるからロールケーキを準備する、そこまではいい。むしろわかる。だけど、明らかに用意する量がおかしいんだよね。って言うかこないだのうどんだって作る量が凄まじかったし。GREENsうどん大会で何とか消費したけどさ。
カズが大量に黙々と何かを作ってる時って大体何かしらストレス抱えてる時だから、ちょっとだけ心配になっちゃったりもする。大量発生したうどんの件を経て浅浦クンや高崎クンを突っついてもあんまりいいレスポンスはなかっただけに、これは絶対何かあるヤツだわって。
「カズ、ケーキ何本作るつもり?」
「5本は作るつもり」
「内訳は?」
「明日持ってくのに2本だろ、あと今サークルの後輩の子? 俺と番組でペア組んでる子なんだけどさ、その子が高ピーの超スパルタ訓練受けててめちゃ頑張ってるからその差し入れに丸1本だろ」
「高崎クンの超スパルタ訓練とか、聞くだけで胃が汗かく」
「それな。でもそれだけ本気だから、俺も少しでも応援しようと思って。後はお前に1本」
「えっ、くれるの?」
「みなもさんと一緒に食ったらいいかと思って」
「最高! わかってる! えっどうしよう、アヤちゃんも呼んで一緒に食べようかなあ」
「あと1本は、明日真上で騒がしくするだろうから高ピーへの差し入れ」
「あー……そういうフォロー大事ね」
そう考えたら必要っちゃ必要なんだねと納得した。それによくよく考えたらMBCCへの差し入れに関してはストレスとか関係なくいつも大量に作ってた。今回の飲み会もMBCC絡みってことは量に関してうちが心配することじゃなかったですね、はい。
そうこうしている間にスポンジにクリームを塗り広げて巻いてっていう一連の行程が終わっちゃってた。手際良すぎでしょ。ロールケーキは高校の調理実習で作った覚えがあるけど、例によって失敗したしなあ。って言うかその頃から考えると本当にカズのスキルが上がり過ぎてて。高校の時はそこまで上手じゃなかったはずなんだけどなあ。
「慧梨夏、端っこ食ってみるか?」
「食べる!」
「はい。ついでに味のレビューよろしく」
「いただきまーす」
断面を整えて出た切れ端を味見。あ~……さすがカズ、おいっしい。スポンジはふかふかでほんのり甘いし、生クリームのホイップ具合も最高。甘いんだけど甘すぎず、濃厚だけどくど過ぎずで本当に美味しい。
「カズ、最高」
「そっか、よかった。よーし、あと4本がんばるぞー」
1本30分くらいで出来るそうだから、あと2時間くらいはこの甘い誘惑の香りと闘わなきゃいけないのねうちは。作業どころじゃないよねこれは。ロールケーキの甘い匂いもいいけど、これが終わったら香ばしい匂いも嗅ぎたいなあって。
「カズ、ロールケーキ終わったら、別に今日じゃなくてもいいんだけどパン焼かない?」
「パン?」
「うん。ここのところうどんがあって、ロールケーキが来て、そしたらそろそろパンでしょ。食パンが食べたいなー」
「わかった。今度作るし後で材料あるか見とくわ」
「やったー! えっ、どうしようそのままトーストもいいけどトッピングがあってもいいよね、どうしようどうしよう楽しみ~!」
「変なの。食パンってそこまでニヤつくことか?」
「カズは食パンの焼ける匂いがどれだけ幸せを演出するかを知らないんだ」
「何だそれ」
「トッピングにアイスとハチミツ」
end.
++++
いち氏がロールケーキを作っています。高崎に差し入れしてるとかっていう話は前にやっていたのですが、作ってる話はね。
と言うか作ってる量が多いんだけど、内訳を聞いたらあーってなってしまうのがMBCCクオリティなんだろうなあ
慧梨夏も慧梨夏でいち氏のことをいろいろ察してはいるんだけど、敢えて触れずにうどんを食べる、と……
.
++++
「わ、すっごいおいしそうな匂い」
「わかったか? ロールケーキ焼いてるんだ」
作業してたのに、すっごいいい匂いがしてきたから台所を覗いてみますよね。そしたらカズがロールケーキを作ってるところで。でもその規模がすっごい。多分今はスポンジを焼いてるんだろうけど、まだまだスポンジの材料がスタンバイしていて。
カズは家事全般が得意で、本人的に一番得意なのは洗濯らしい。だけど、特筆すべきはお菓子作りのスキルじゃないかなってうちは思ってる。ケーキやクッキーなんて暇さえあれば作ってない? って感じで、作り方なんてきっともう覚えちゃってると思うもん。
レシピなんてネットで調べることも出来るのに、バイト先の本屋で気になるレシピ本があったら「社割使って買った」って言って何冊も買って来ちゃうの。で、どれが食べたいって聞いてくれて、うちは食べたい物を付箋でマークしていく。それでしばらくしたら出て来るもんね、写真通りのそれが。
「どうしたの、突然ロールケーキなんて」
「ほら、こないだから言ってただろ。明日MBCCのミキ飲みだから、そこに持ってく用。6月6日はロールケーキの日だから」
「それって確かカズの誕生会も兼ねてるヤツだよね?」
「ああ、それそれ」
「祝われる人が一番一生懸命準備してるってどーなの」
「まあ、祝われるのは俺だけじゃないしな。それに、飲み会で生き残るための術だからしゃーない。楽しくてやってるんだから」
GREENsが隙あらばイベントをやるように、MBCCは隙あらば飲み会をやってるっていう感じのサークル。明日ある飲み会はポジション別飲み会みたいな感じらしくって、高崎クンはノータッチみたい。メンバーの誕生日にやる飲み会は基本幹事やってるらしいんだけどね。
なんでも、カズと一緒に祝われる6日生まれの子と高崎クンは仲が悪いらしくて、その子が絡むなら自分は一切触れないって。あとはあれですよね。カズの誕生日、7日はうちとのデートが最優先だっていうことを知ってるから、高崎クンはカズの誕生日には敢えて触れないんだって。
で、ロールケーキね。6月6日生まれの子がいるからロールケーキを準備する、そこまではいい。むしろわかる。だけど、明らかに用意する量がおかしいんだよね。って言うかこないだのうどんだって作る量が凄まじかったし。GREENsうどん大会で何とか消費したけどさ。
カズが大量に黙々と何かを作ってる時って大体何かしらストレス抱えてる時だから、ちょっとだけ心配になっちゃったりもする。大量発生したうどんの件を経て浅浦クンや高崎クンを突っついてもあんまりいいレスポンスはなかっただけに、これは絶対何かあるヤツだわって。
「カズ、ケーキ何本作るつもり?」
「5本は作るつもり」
「内訳は?」
「明日持ってくのに2本だろ、あと今サークルの後輩の子? 俺と番組でペア組んでる子なんだけどさ、その子が高ピーの超スパルタ訓練受けててめちゃ頑張ってるからその差し入れに丸1本だろ」
「高崎クンの超スパルタ訓練とか、聞くだけで胃が汗かく」
「それな。でもそれだけ本気だから、俺も少しでも応援しようと思って。後はお前に1本」
「えっ、くれるの?」
「みなもさんと一緒に食ったらいいかと思って」
「最高! わかってる! えっどうしよう、アヤちゃんも呼んで一緒に食べようかなあ」
「あと1本は、明日真上で騒がしくするだろうから高ピーへの差し入れ」
「あー……そういうフォロー大事ね」
そう考えたら必要っちゃ必要なんだねと納得した。それによくよく考えたらMBCCへの差し入れに関してはストレスとか関係なくいつも大量に作ってた。今回の飲み会もMBCC絡みってことは量に関してうちが心配することじゃなかったですね、はい。
そうこうしている間にスポンジにクリームを塗り広げて巻いてっていう一連の行程が終わっちゃってた。手際良すぎでしょ。ロールケーキは高校の調理実習で作った覚えがあるけど、例によって失敗したしなあ。って言うかその頃から考えると本当にカズのスキルが上がり過ぎてて。高校の時はそこまで上手じゃなかったはずなんだけどなあ。
「慧梨夏、端っこ食ってみるか?」
「食べる!」
「はい。ついでに味のレビューよろしく」
「いただきまーす」
断面を整えて出た切れ端を味見。あ~……さすがカズ、おいっしい。スポンジはふかふかでほんのり甘いし、生クリームのホイップ具合も最高。甘いんだけど甘すぎず、濃厚だけどくど過ぎずで本当に美味しい。
「カズ、最高」
「そっか、よかった。よーし、あと4本がんばるぞー」
1本30分くらいで出来るそうだから、あと2時間くらいはこの甘い誘惑の香りと闘わなきゃいけないのねうちは。作業どころじゃないよねこれは。ロールケーキの甘い匂いもいいけど、これが終わったら香ばしい匂いも嗅ぎたいなあって。
「カズ、ロールケーキ終わったら、別に今日じゃなくてもいいんだけどパン焼かない?」
「パン?」
「うん。ここのところうどんがあって、ロールケーキが来て、そしたらそろそろパンでしょ。食パンが食べたいなー」
「わかった。今度作るし後で材料あるか見とくわ」
「やったー! えっ、どうしようそのままトーストもいいけどトッピングがあってもいいよね、どうしようどうしよう楽しみ~!」
「変なの。食パンってそこまでニヤつくことか?」
「カズは食パンの焼ける匂いがどれだけ幸せを演出するかを知らないんだ」
「何だそれ」
「トッピングにアイスとハチミツ」
end.
++++
いち氏がロールケーキを作っています。高崎に差し入れしてるとかっていう話は前にやっていたのですが、作ってる話はね。
と言うか作ってる量が多いんだけど、内訳を聞いたらあーってなってしまうのがMBCCクオリティなんだろうなあ
慧梨夏も慧梨夏でいち氏のことをいろいろ察してはいるんだけど、敢えて触れずにうどんを食べる、と……
.