2019
■妄想と暗雲の生む疑念
++++
「みんな聞いて! 大ニュースだよ!」
そう言って、呼んでもないその人はアタシたちが会議をしているその場所に駆け込んできた。しまったな、今回会議の場所変えればよかった。何がどう大ニュースなのか、全員その人に目をやる。嫌な予感しかしないなという目で。
最近、向島の三井先輩という人が対策委員の会議に乱入してきていて困っていた。何でも、会議に向かう野坂の後を尾行して来ていたとかで。前回の会議では、急に何を言い出すのかと思いきや自分の理想を語り始めて。最近の温いインターフェイスではいけない、これからはまたプロを目指していかないと、と。
ぶっちゃけアタシたちはそんなスタンスではないし、あの人の演説を聞いている暇もないからスルーしてたよね。自分たちのやることだけに目を向けて。だけど、あの人はアタシたちを無視して1人で話を進め、納得し、対策委員は自分が監督してあげないとね! ……と前回は帰って行った。
「はー、また出た。三井サン邪魔するなら帰ってくんない?」
「邪魔じゃないよつばちゃん、これは本当にみんなビックリする大ニュース!」
「みんなビックリって何、アンタがインターフェイスから出て行く的なこと?」
「出て行かないってば。つばちゃん話聞いて」
「オメーが一番話を聞かねーんだろーがクソが」
「つばめ、三井先輩に構うと長くなるから。さっさと話を聞くだけ聞いてお帰り願おう」
「そーね。ゴメン野坂。で、大ニュースって何」
「そう! 初心者講習会の講師が決まったよ!」
……と、笑顔で自信満々に言うんだけど、正直意味がわかりませんよねー。だって、講師に関してはアタシたちが先輩たちにお願いしてるし。三井サンが講師決まったよって言ってくる理由もないと言うか。さすがにこれにはみんな絶句してるよね、意味が分からなくて。
「やっぱりさ、せっかくの講習会なんだからプロの人の話を聞いた方が現場のこともわかるし、技術のことも聞けて絶対いいんだよ。学生の講師なんてダメ。それで、僕が水面下で調整をしてプロのラジオパーソナリティーの人に講師をお願いして、それで引き受けてもらったから。ねっ、大ニュースでしょ? JINNU-FMでバリバリレギュラー持ってるプロの人だから! すごいよ~。ねえ野坂、嬉しいよね! うん、あんまり嬉しくて言葉が出て来ないんだね! 僕に感謝してよね、対策委員のみんなじゃプロの人に接触なんて出来ないでしょ」
「ちょっと待ってください三井先輩! そんなことを突然言われても困ります!」
「えっ、何が困るの?」
「講習会の講師はもう3年生の先輩にお願いしていますし、そもそもプロの人と言われましても、講習会の趣旨とは外れます。そういうことなので、お気持ちだけ受け取りますからその話はなかったことにしてもらって」
こっちが何を言っても三井サンは一歩も引こうとはしないし、むしろどうしてアタシたちが異を唱えているのか全く理解していないようだった。どうしてプロの人が講師をやってくれるのにそれを遠慮するの、ということしか頭にないらしい。そもそもどうして三井サンが勝手に講習会の話を進めているのかということが問題であって。
三井サンと野坂のやり取りに進展は見られなかった。同じ事の繰り返し。アタシたちは困っていると言っても三井サンは「僕が手伝っているのにどうして困ることがあるの?」ときょとんとしているから。正直、関わられていること自体が迷惑なんだけど、どうしてそれをわかってくれないのか。
「三井先輩、俺たちはプロを目指しているワケではないのであまりそれに拘られても困ります」
「そうだとしてもさ、どうせ話を聞くならプロの方がいいでしょ、どこの馬の骨かわからない学生よりはさ~」
「そんなことはありません。俺たちはきちんと根拠を持って講師候補の先輩たちとお話をさせてもらっています。急に横から入られて、プロだ何だと言われても。大体その人は誰なんですか。それこそどこの馬の骨とも知れない人じゃないですか現段階では」
「それは当日まで内緒だよ。見てビックリするから」
「それでは打ち合わせなども出来ませんね。その時点で対策委員主催の講習会の講師としては意味をなさないのでは」
「平気平気。俺が講習会の詳細を伝えてるし、どんな講習が必要かなんて対策委員から言われなくてもプロの人はわかってるよ。むしろ、対策委員の想像より何倍も上を行くよね」
「それは、俺たちの存在に意味はないと。そういうことですか」
「そうは言ってないじゃない。野坂、卑屈にならないでよ」
三井サンに構うと長くなるという野坂の言葉に嘘はない。話が全く進みも戻りもしないまま時間だけがただ過ぎている。それこそ不毛と言うのが適しているんじゃないかって。この人はアタシたちの邪魔をして何がしたいんだろう。
「このプロの人はね、優しいよ? 俺が講習会の話をしたときも、何をどうすればいいかとか細かいことをちゃんと聞いてくれたし。対策委員の子たちが路頭に迷ってるから僕が助けてるんだって言ったときも、それは大丈夫なのって心配してくれて」
「つーか勝手に路頭に迷ってることにすんなよな。お前が出てくるまでは順調だったんだよ。誰の所為で話が停滞してると思ってんだ」
「でも安心して、今まで名前挙がってた人には俺が断りのメール送ったし」
「ちょっ…! っざけんなクソが!」
「つばめ!」
「止めんな野坂!」
「つばめ、大丈夫だ。もしそれが本当なら俺のところに連絡が入るはずだ。まだ誰からも連絡が来てないし、信じよう」
「……そーだね」
「でも、対策委員の人選も疑うよね。どうして高崎かな。緑ヶ丘なんて過去の栄光だけですごい風に見られてるだけじゃん。今は大したことないでしょ? それどころかインターフェイスをこんな風にした張本人だし責任とってもらわないといけないくらいなのに。高崎は大した実績もないのに威張ってるし、技術にしても高が知れてるじゃない。それならもっといろいろいたでしょ、講師候補を選ぶにしても」
つらつらと、高ピー先輩がディスられているのを黙って聞いていられるほどアタシは気の長い方じゃない。高ピー先輩は言いたい奴には言わせておけというスタンスの人だからこんな人を相手にしないだろうけど、アタシがこの人を許せない。
「自分の思い込みと被害妄想でしか人を見れないアンタよりは、断然アタシたちの方が見る目がありますよねー!」
「果林」
「さっきから黙って聞いてたら何なの? 高ピー先輩は三井サンも出て惨敗したFMむかいじまのパーソナリティーコンテストで審査員特別賞もらってますけど? 講師の先輩誰かいるかなって考えたときに、1番最初に名前が出てきましたけど? 存在さえ忘れられてる三井サンとは実力も人望も比べものにならないけど? でもそこまで言うならプロ講師って人を連れてきてよ。そっちがその気ならこっちも高ピー先輩を出すまでもないですよねー。だけど、1ミリでもこっちの思うことと違うことをした瞬間、その人の首は切るし、謝礼も出さない。それくらいでちょうどですよね? こっちのことを全部わかってくれてるプロなんだから」
「やっとわかってくれたんだね高崎じゃダメだって。任せといてよ! じゃ、当日を楽しみにしといてね!」
「一生わかりませんよねー、そんなの」
打ち合わせしてこなきゃ! と言って三井サンは帰って行った。はー、腹立つ。こないだの付箋の件もそうだけどホントないわあの人。ウチや高ピー先輩の何をわかってるんだって感じ。あの人がウチのサークル室に不法侵入した事件で高ピー先輩が「三井の動きに気をつけろ」って忠告してくれてたけど、本当に来るとはね。
「おい果林、本当にいいのか今の」
「今のって?」
「高崎先輩を出すまでもないって。もし本当にそのプロっていう人の首を切った後のことだ」
「……な、何とかしますよ!」
end.
++++
三井サンの暴走が始まりました。果林がキレたということは毎年言っているのですが、なかなかそれを実際にやることはなかったですね
現時点でのノサカはまだもう少し落ち着いているようですが、ここからどんどん追い詰められていくのかしら。
三井サンに構うと長くなる。そんなようなことは菜月さんがちょこちょこ言っていましたね。だからノサカも覚えてるのか
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「みんな聞いて! 大ニュースだよ!」
そう言って、呼んでもないその人はアタシたちが会議をしているその場所に駆け込んできた。しまったな、今回会議の場所変えればよかった。何がどう大ニュースなのか、全員その人に目をやる。嫌な予感しかしないなという目で。
最近、向島の三井先輩という人が対策委員の会議に乱入してきていて困っていた。何でも、会議に向かう野坂の後を尾行して来ていたとかで。前回の会議では、急に何を言い出すのかと思いきや自分の理想を語り始めて。最近の温いインターフェイスではいけない、これからはまたプロを目指していかないと、と。
ぶっちゃけアタシたちはそんなスタンスではないし、あの人の演説を聞いている暇もないからスルーしてたよね。自分たちのやることだけに目を向けて。だけど、あの人はアタシたちを無視して1人で話を進め、納得し、対策委員は自分が監督してあげないとね! ……と前回は帰って行った。
「はー、また出た。三井サン邪魔するなら帰ってくんない?」
「邪魔じゃないよつばちゃん、これは本当にみんなビックリする大ニュース!」
「みんなビックリって何、アンタがインターフェイスから出て行く的なこと?」
「出て行かないってば。つばちゃん話聞いて」
「オメーが一番話を聞かねーんだろーがクソが」
「つばめ、三井先輩に構うと長くなるから。さっさと話を聞くだけ聞いてお帰り願おう」
「そーね。ゴメン野坂。で、大ニュースって何」
「そう! 初心者講習会の講師が決まったよ!」
……と、笑顔で自信満々に言うんだけど、正直意味がわかりませんよねー。だって、講師に関してはアタシたちが先輩たちにお願いしてるし。三井サンが講師決まったよって言ってくる理由もないと言うか。さすがにこれにはみんな絶句してるよね、意味が分からなくて。
「やっぱりさ、せっかくの講習会なんだからプロの人の話を聞いた方が現場のこともわかるし、技術のことも聞けて絶対いいんだよ。学生の講師なんてダメ。それで、僕が水面下で調整をしてプロのラジオパーソナリティーの人に講師をお願いして、それで引き受けてもらったから。ねっ、大ニュースでしょ? JINNU-FMでバリバリレギュラー持ってるプロの人だから! すごいよ~。ねえ野坂、嬉しいよね! うん、あんまり嬉しくて言葉が出て来ないんだね! 僕に感謝してよね、対策委員のみんなじゃプロの人に接触なんて出来ないでしょ」
「ちょっと待ってください三井先輩! そんなことを突然言われても困ります!」
「えっ、何が困るの?」
「講習会の講師はもう3年生の先輩にお願いしていますし、そもそもプロの人と言われましても、講習会の趣旨とは外れます。そういうことなので、お気持ちだけ受け取りますからその話はなかったことにしてもらって」
こっちが何を言っても三井サンは一歩も引こうとはしないし、むしろどうしてアタシたちが異を唱えているのか全く理解していないようだった。どうしてプロの人が講師をやってくれるのにそれを遠慮するの、ということしか頭にないらしい。そもそもどうして三井サンが勝手に講習会の話を進めているのかということが問題であって。
三井サンと野坂のやり取りに進展は見られなかった。同じ事の繰り返し。アタシたちは困っていると言っても三井サンは「僕が手伝っているのにどうして困ることがあるの?」ときょとんとしているから。正直、関わられていること自体が迷惑なんだけど、どうしてそれをわかってくれないのか。
「三井先輩、俺たちはプロを目指しているワケではないのであまりそれに拘られても困ります」
「そうだとしてもさ、どうせ話を聞くならプロの方がいいでしょ、どこの馬の骨かわからない学生よりはさ~」
「そんなことはありません。俺たちはきちんと根拠を持って講師候補の先輩たちとお話をさせてもらっています。急に横から入られて、プロだ何だと言われても。大体その人は誰なんですか。それこそどこの馬の骨とも知れない人じゃないですか現段階では」
「それは当日まで内緒だよ。見てビックリするから」
「それでは打ち合わせなども出来ませんね。その時点で対策委員主催の講習会の講師としては意味をなさないのでは」
「平気平気。俺が講習会の詳細を伝えてるし、どんな講習が必要かなんて対策委員から言われなくてもプロの人はわかってるよ。むしろ、対策委員の想像より何倍も上を行くよね」
「それは、俺たちの存在に意味はないと。そういうことですか」
「そうは言ってないじゃない。野坂、卑屈にならないでよ」
三井サンに構うと長くなるという野坂の言葉に嘘はない。話が全く進みも戻りもしないまま時間だけがただ過ぎている。それこそ不毛と言うのが適しているんじゃないかって。この人はアタシたちの邪魔をして何がしたいんだろう。
「このプロの人はね、優しいよ? 俺が講習会の話をしたときも、何をどうすればいいかとか細かいことをちゃんと聞いてくれたし。対策委員の子たちが路頭に迷ってるから僕が助けてるんだって言ったときも、それは大丈夫なのって心配してくれて」
「つーか勝手に路頭に迷ってることにすんなよな。お前が出てくるまでは順調だったんだよ。誰の所為で話が停滞してると思ってんだ」
「でも安心して、今まで名前挙がってた人には俺が断りのメール送ったし」
「ちょっ…! っざけんなクソが!」
「つばめ!」
「止めんな野坂!」
「つばめ、大丈夫だ。もしそれが本当なら俺のところに連絡が入るはずだ。まだ誰からも連絡が来てないし、信じよう」
「……そーだね」
「でも、対策委員の人選も疑うよね。どうして高崎かな。緑ヶ丘なんて過去の栄光だけですごい風に見られてるだけじゃん。今は大したことないでしょ? それどころかインターフェイスをこんな風にした張本人だし責任とってもらわないといけないくらいなのに。高崎は大した実績もないのに威張ってるし、技術にしても高が知れてるじゃない。それならもっといろいろいたでしょ、講師候補を選ぶにしても」
つらつらと、高ピー先輩がディスられているのを黙って聞いていられるほどアタシは気の長い方じゃない。高ピー先輩は言いたい奴には言わせておけというスタンスの人だからこんな人を相手にしないだろうけど、アタシがこの人を許せない。
「自分の思い込みと被害妄想でしか人を見れないアンタよりは、断然アタシたちの方が見る目がありますよねー!」
「果林」
「さっきから黙って聞いてたら何なの? 高ピー先輩は三井サンも出て惨敗したFMむかいじまのパーソナリティーコンテストで審査員特別賞もらってますけど? 講師の先輩誰かいるかなって考えたときに、1番最初に名前が出てきましたけど? 存在さえ忘れられてる三井サンとは実力も人望も比べものにならないけど? でもそこまで言うならプロ講師って人を連れてきてよ。そっちがその気ならこっちも高ピー先輩を出すまでもないですよねー。だけど、1ミリでもこっちの思うことと違うことをした瞬間、その人の首は切るし、謝礼も出さない。それくらいでちょうどですよね? こっちのことを全部わかってくれてるプロなんだから」
「やっとわかってくれたんだね高崎じゃダメだって。任せといてよ! じゃ、当日を楽しみにしといてね!」
「一生わかりませんよねー、そんなの」
打ち合わせしてこなきゃ! と言って三井サンは帰って行った。はー、腹立つ。こないだの付箋の件もそうだけどホントないわあの人。ウチや高ピー先輩の何をわかってるんだって感じ。あの人がウチのサークル室に不法侵入した事件で高ピー先輩が「三井の動きに気をつけろ」って忠告してくれてたけど、本当に来るとはね。
「おい果林、本当にいいのか今の」
「今のって?」
「高崎先輩を出すまでもないって。もし本当にそのプロっていう人の首を切った後のことだ」
「……な、何とかしますよ!」
end.
++++
三井サンの暴走が始まりました。果林がキレたということは毎年言っているのですが、なかなかそれを実際にやることはなかったですね
現時点でのノサカはまだもう少し落ち着いているようですが、ここからどんどん追い詰められていくのかしら。
三井サンに構うと長くなる。そんなようなことは菜月さんがちょこちょこ言っていましたね。だからノサカも覚えてるのか
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