2019
■collect information
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圭斗の後について、普段入ることのない情報知能センターへと進入した。何やら大事な話があるからと昼放送をやっているときに圭斗が食堂の事務所にやってきたのだ。今じゃダメなのかと聞くと、とても重大な話だから、とその場での明言を避けた。これはよほどのことなのだろう。
そもそも、大事な話があるからとわざわざこんなところまで来る理由だ。ただ話すだけならそれこそ食堂でもいい。事務所で話せない理由は時間が短いからか、それともノサカがいたからかはわからない。飲み物を片手にロビーのソファに腰掛ける。圭斗は、腰を下ろした瞬間大きな溜め息を漏らす。
「菜月、相当マズいことになった」
「何がどうしたって言うんだ」
「これを見てほしい」
圭斗から差し出されたスマホには、メールが表示されていた。送信者は高崎。本文よりも添付画像の方がマズいのだろう。写っていたのは、緑ヶ丘のサークル室と思しき場所。それから、付箋の貼られたノートの写真。よくよく見ると、部屋の写真の方にもノートの写真の方にあった付箋と思しき青い物がドット柄のように貼られていた。
「これが何だって」
「画像を開いて、拡大表示して見てくれないか」
「こう?」
「ん、そうだね」
圭斗の言うように拡大表示してみると、ノートの方には「5/25(土)三井参上! ※三井裕生誕記念日」と書かれていた。それが視認出来た瞬間緑ヶ丘で何があったかを、そしてこの画像の意味を察した。そして「これはどういうことだ」とだけ本文に記した高崎の怒りも。だけど言葉が見つからず、長い溜め息を吐くだけだ。
「アイツ、やらかしやがったか」
「やらかしとしては性質が悪すぎるんだよ」
「三井が緑ヶ丘を荒らしたことに対して高崎がキレてるってことか」
「大体そんな感じだね。一応機材や金品に対する被害はなかったそうだけど、それでも他校のサークル室に勝手に侵入するのは問題だというのが緑ヶ丘サイドの言い分だね。そしてそれには僕も同意するんだよ」
「まあ、一般論でしかないからな。ちょっと、高崎とコンタクト取ってみるか」
「頼むよ」
何がどうしてこんなことになっていたのか、現地で調べてわかったことなどを教えてほしいと高崎にメールを送る。添付画像だけでは読み取れない情報を何かくれないかという意味合いで。それがわかればこっちで三井に事情を聞くときの証拠に出来る。情報はないよりあった方がいい。
これは三井が勝手にやったこととは言え、高崎個人ではなく緑ヶ丘のサークルに迷惑がかかっているという理由で高崎は圭斗にこういうことがあったと報告しているのだろう。そしてそれはうちも圭斗もわかっている。うちらがここでいくら話しても、三井が事の重大さを理解していなければ全く意味がないということも。
「それでわざわざこんなところで話をしようだなんて」
「わかったかな」
「余程のことがない限り文系の人間はここに来ないからな。三井除けってことか」
「そうだね」
「確かに誕生日を祝われたければ緑ヶ丘にでも行って来いとは言ったけど、本当に行くなと」
「ん、そんなことを言ったのかい?」
「先週の水曜、やたら誕生日をアピールしてきたから腹が立って。そんなに祝われたきゃ緑ヶ丘に行けと。意訳すれば「潰されて死んでこい」って意味だったんだけど」
「それはわかる」
「あー、それであのメールだったのか。走りに行ったとか何とかっていう」
「あったね、そんなことも」
そんなようなことを話していると、うちの方にメールが来た。高崎だ。内容を見ると、先週金曜日には確かにきちんと鍵を閉めて来たので本人の記載通り土曜に侵入したことに間違いなさそうなこと、そしてその侵入には正規の鍵ではなく、玄関先に隠してある合い鍵を使ったであろうことなどが書かれていた。
「圭斗、今度定例会に領収書持たせるって」
「領収書?」
「付箋の分って」
「あー……はい、わかりました」
「それから」
「まだ何かあるのかな」
「三井は対策委員の会議にも乱入しているらしい」
「対策委員?」
これも高崎からのメールにあったことだ。高崎は果林から聞いたそうだ。三井が対策委員の会議に乱入して好き勝手していると。初心者講習会の話し合いを引っかき回し、自分が段取りをするんだと鼻息を荒くしているそうだ。その話は、現議長のヤツを借りれば「意味がわからない」というそれに尽きた。
そして、うちへのメールにも1枚の画像が添付されていたんだ。この付箋の存在は自分以外知らないと添えて。緑ヶ丘の書記ノートと思われるそれに書かれた講習会についての記述の上に貼られた青い付箋。後からこのページの写真を撮ることを思いついたらしくその付箋はしわくちゃになっていたけど、内容は読み取れた。
「素人なのに調子に乗らない方がいいよ、か」
「初心者講習会のミキサー講師とアナ講師候補に矢印を指して言っているところからすると、三井の対策委員への介入も本当なんだろうなと。この付箋の存在は、高崎とうちらしか知らないらしい。伊東には敢えて言ってないって」
「ん、高崎の判断は正しいと思うよ」
だけども、ここからうちらはどうするという話なのだ。三井に事情聴取をするのか、それとも緑ヶ丘サイドと話をするのか。初心者講習会の準備を邪魔されているとするなら、対策委員は大丈夫なのかなどなど、心配は尽きない。
「菜月、とりあえず明日にでも野坂をつついてみてくれるかい?」
「対策委員の現状を聞き出せばいいんだな」
「そういうことだね」
end.
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例の事案の向島ツートップサイドです。高崎の扱いはやっぱり圭斗さんよりも菜月さんですね。
いち氏の扱いが結構デリケートなんですねこの件に関しては。でもそれだけヤバい案件だったんだろうし、それを向島サイドも理解している模様。
菜月さんは高崎担当だったりノサカ担当だったりして忙しいですね。今年度は情報戦なの?
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圭斗の後について、普段入ることのない情報知能センターへと進入した。何やら大事な話があるからと昼放送をやっているときに圭斗が食堂の事務所にやってきたのだ。今じゃダメなのかと聞くと、とても重大な話だから、とその場での明言を避けた。これはよほどのことなのだろう。
そもそも、大事な話があるからとわざわざこんなところまで来る理由だ。ただ話すだけならそれこそ食堂でもいい。事務所で話せない理由は時間が短いからか、それともノサカがいたからかはわからない。飲み物を片手にロビーのソファに腰掛ける。圭斗は、腰を下ろした瞬間大きな溜め息を漏らす。
「菜月、相当マズいことになった」
「何がどうしたって言うんだ」
「これを見てほしい」
圭斗から差し出されたスマホには、メールが表示されていた。送信者は高崎。本文よりも添付画像の方がマズいのだろう。写っていたのは、緑ヶ丘のサークル室と思しき場所。それから、付箋の貼られたノートの写真。よくよく見ると、部屋の写真の方にもノートの写真の方にあった付箋と思しき青い物がドット柄のように貼られていた。
「これが何だって」
「画像を開いて、拡大表示して見てくれないか」
「こう?」
「ん、そうだね」
圭斗の言うように拡大表示してみると、ノートの方には「5/25(土)三井参上! ※三井裕生誕記念日」と書かれていた。それが視認出来た瞬間緑ヶ丘で何があったかを、そしてこの画像の意味を察した。そして「これはどういうことだ」とだけ本文に記した高崎の怒りも。だけど言葉が見つからず、長い溜め息を吐くだけだ。
「アイツ、やらかしやがったか」
「やらかしとしては性質が悪すぎるんだよ」
「三井が緑ヶ丘を荒らしたことに対して高崎がキレてるってことか」
「大体そんな感じだね。一応機材や金品に対する被害はなかったそうだけど、それでも他校のサークル室に勝手に侵入するのは問題だというのが緑ヶ丘サイドの言い分だね。そしてそれには僕も同意するんだよ」
「まあ、一般論でしかないからな。ちょっと、高崎とコンタクト取ってみるか」
「頼むよ」
何がどうしてこんなことになっていたのか、現地で調べてわかったことなどを教えてほしいと高崎にメールを送る。添付画像だけでは読み取れない情報を何かくれないかという意味合いで。それがわかればこっちで三井に事情を聞くときの証拠に出来る。情報はないよりあった方がいい。
これは三井が勝手にやったこととは言え、高崎個人ではなく緑ヶ丘のサークルに迷惑がかかっているという理由で高崎は圭斗にこういうことがあったと報告しているのだろう。そしてそれはうちも圭斗もわかっている。うちらがここでいくら話しても、三井が事の重大さを理解していなければ全く意味がないということも。
「それでわざわざこんなところで話をしようだなんて」
「わかったかな」
「余程のことがない限り文系の人間はここに来ないからな。三井除けってことか」
「そうだね」
「確かに誕生日を祝われたければ緑ヶ丘にでも行って来いとは言ったけど、本当に行くなと」
「ん、そんなことを言ったのかい?」
「先週の水曜、やたら誕生日をアピールしてきたから腹が立って。そんなに祝われたきゃ緑ヶ丘に行けと。意訳すれば「潰されて死んでこい」って意味だったんだけど」
「それはわかる」
「あー、それであのメールだったのか。走りに行ったとか何とかっていう」
「あったね、そんなことも」
そんなようなことを話していると、うちの方にメールが来た。高崎だ。内容を見ると、先週金曜日には確かにきちんと鍵を閉めて来たので本人の記載通り土曜に侵入したことに間違いなさそうなこと、そしてその侵入には正規の鍵ではなく、玄関先に隠してある合い鍵を使ったであろうことなどが書かれていた。
「圭斗、今度定例会に領収書持たせるって」
「領収書?」
「付箋の分って」
「あー……はい、わかりました」
「それから」
「まだ何かあるのかな」
「三井は対策委員の会議にも乱入しているらしい」
「対策委員?」
これも高崎からのメールにあったことだ。高崎は果林から聞いたそうだ。三井が対策委員の会議に乱入して好き勝手していると。初心者講習会の話し合いを引っかき回し、自分が段取りをするんだと鼻息を荒くしているそうだ。その話は、現議長のヤツを借りれば「意味がわからない」というそれに尽きた。
そして、うちへのメールにも1枚の画像が添付されていたんだ。この付箋の存在は自分以外知らないと添えて。緑ヶ丘の書記ノートと思われるそれに書かれた講習会についての記述の上に貼られた青い付箋。後からこのページの写真を撮ることを思いついたらしくその付箋はしわくちゃになっていたけど、内容は読み取れた。
「素人なのに調子に乗らない方がいいよ、か」
「初心者講習会のミキサー講師とアナ講師候補に矢印を指して言っているところからすると、三井の対策委員への介入も本当なんだろうなと。この付箋の存在は、高崎とうちらしか知らないらしい。伊東には敢えて言ってないって」
「ん、高崎の判断は正しいと思うよ」
だけども、ここからうちらはどうするという話なのだ。三井に事情聴取をするのか、それとも緑ヶ丘サイドと話をするのか。初心者講習会の準備を邪魔されているとするなら、対策委員は大丈夫なのかなどなど、心配は尽きない。
「菜月、とりあえず明日にでも野坂をつついてみてくれるかい?」
「対策委員の現状を聞き出せばいいんだな」
「そういうことだね」
end.
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例の事案の向島ツートップサイドです。高崎の扱いはやっぱり圭斗さんよりも菜月さんですね。
いち氏の扱いが結構デリケートなんですねこの件に関しては。でもそれだけヤバい案件だったんだろうし、それを向島サイドも理解している模様。
菜月さんは高崎担当だったりノサカ担当だったりして忙しいですね。今年度は情報戦なの?
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