2017(02)
■scheme tornado
++++
「回せー! 風を通せー!」
「あーっつー! むさっ!」
いつからあるのかわからないロートルの扇風機がけたたましい音を上げて回っている。窓も全開。夏だというのに締め切っていたサークル室から、蒸された空気が一気に放たれる。
机の上には大量のゴミ。うまい棒の袋だ。それらをゴミ袋に回収しながら、祭りなのか戦いなのか……その余韻を消していく。思えば随分くだらないイベントだった。ホワイトボードにあった大会要項などの文字も、圭斗がばっさりと消してしまった。
「菜月先輩圭斗先輩、お茶がまだ残っていますが飲まれますか?」
「飲む」
「ん、いただくよ」
ノサカが紙コップに緑茶を注いでくれる。それを一気に飲み干して、コップと空になった紙パックもゴミ袋へ。飲んでも飲んでも渇く気がする。今までずっと締め切った部屋の中で汗を流しながら戦っていたから。
今日ここで行われていたのは村井サンの持ち込み企画、うまい棒レース。ルールは至って単純、水分を取らずにうまい棒を一番食べた人の勝ち。これがなかなかにしんどい戦いだった。
30本まではみんな同時にカウントアップしていく。20本から30本目くらいまでが一番しんどい。30本目を過ぎてからは思い思いのペースで食べることが許されて、気持ちの面で多少楽になったと言うか。
結果としては、圭斗が53本だかそれくらいを食べて優勝。村井サンのポケットマネーから賞金の2000円が授与された。うちも51くらいを食べたんだけど、納豆味を食べてついうっかり口直しにお茶を飲んでしまったんだ。
「ゴミはこれくらいでいいかな。圭斗、そのコップも入れてくれ」
「ん、悪いね」
「圭斗」
「なんだい?」
「村井サンにも同じ目に遭ってもらわないと納得できない」
「確かにね。僕たちは完全に村井サンの余興に付き合わされてしまったワケだから。何らかの仕返しをしないと割に合わないね」
村井サンがウェーイとは大きな紙袋を提げてサークル室に入ってきた光景を思い出すと、今にも殴りたくなる。よくよく考えたら、村井サンがはしゃいでるときにロクなことがあった試しがないんだけど。
ナンダカンダ言いながらもバカバカしいことが好きなうちと圭斗が乗ってしまったというのが敗因のひとつだろう。茶番とわかっているのに、村井サンしか得をしないとわかっているのに乗ってしまうのはMMPの風土病だ。
「どうやって仕返しをしようか」
「それがなかなか思いつかない。どうにかしてぎゃふんと言わせたいんだけど」
「ぎゃふん」
「菜月さんが言ってどうするのかな?」
「言ってみたかっただけだ。次点はガッデム」
4年生のムライズムとか2年生のラブ&ピースに比べるとどうにも真面目で地味で人畜無害な3年生だ。そんな大人しい3年生のうちと圭斗が凶悪な4年生にぎゃふんとかガッデムなどと言わせることが出来るだろうか。
「村井サンの悪行ならある程度は情報として持ってるけど、その程度じゃこの人は屁でもないし」
「決定的な弱みでもあればなー」
「それを切り返す技があるからこその村井おじちゃんなんじゃないかい」
「確かに。器がデカいのかザルなのかがわかんないな」
うちと圭斗がやれやれという顔で会話をする視線の先には、2年生と同じレベルでぎゃあぎゃあと騒ぐ村井おじちゃん。って言うかいるなら片付け手伝って欲しいんだけど。今回の主犯だし。
「おーい圭斗、この後飯行くぞー!」
「どちらへ?」
「肉だろ肉! 夏こそ肉だ!」
「マジで言ってんのか、正気の沙汰じゃない」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
さーて、どうやって村井サンに一泡吹かせようか。そんな3年生会議は盛り上がるのか、否か。
end.
++++
かのうまい棒レースが終わった直後の菜月さんと圭斗さんである。やっぱりこの2人は村井サンにもぎゃふんと言わせたい模様。
しかし梅雨明けもして本格的な夏に入ったのに部屋を閉め切った上で水分補給禁止ってのはなかなかにアレ。しかも扇風機はロートル。
村井おじちゃんに悪ふざけをさせたかったんだけど、おじちゃんこの話じゃ全然大人しいし、また別の機会にムライズムさせないとね!
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「回せー! 風を通せー!」
「あーっつー! むさっ!」
いつからあるのかわからないロートルの扇風機がけたたましい音を上げて回っている。窓も全開。夏だというのに締め切っていたサークル室から、蒸された空気が一気に放たれる。
机の上には大量のゴミ。うまい棒の袋だ。それらをゴミ袋に回収しながら、祭りなのか戦いなのか……その余韻を消していく。思えば随分くだらないイベントだった。ホワイトボードにあった大会要項などの文字も、圭斗がばっさりと消してしまった。
「菜月先輩圭斗先輩、お茶がまだ残っていますが飲まれますか?」
「飲む」
「ん、いただくよ」
ノサカが紙コップに緑茶を注いでくれる。それを一気に飲み干して、コップと空になった紙パックもゴミ袋へ。飲んでも飲んでも渇く気がする。今までずっと締め切った部屋の中で汗を流しながら戦っていたから。
今日ここで行われていたのは村井サンの持ち込み企画、うまい棒レース。ルールは至って単純、水分を取らずにうまい棒を一番食べた人の勝ち。これがなかなかにしんどい戦いだった。
30本まではみんな同時にカウントアップしていく。20本から30本目くらいまでが一番しんどい。30本目を過ぎてからは思い思いのペースで食べることが許されて、気持ちの面で多少楽になったと言うか。
結果としては、圭斗が53本だかそれくらいを食べて優勝。村井サンのポケットマネーから賞金の2000円が授与された。うちも51くらいを食べたんだけど、納豆味を食べてついうっかり口直しにお茶を飲んでしまったんだ。
「ゴミはこれくらいでいいかな。圭斗、そのコップも入れてくれ」
「ん、悪いね」
「圭斗」
「なんだい?」
「村井サンにも同じ目に遭ってもらわないと納得できない」
「確かにね。僕たちは完全に村井サンの余興に付き合わされてしまったワケだから。何らかの仕返しをしないと割に合わないね」
村井サンがウェーイとは大きな紙袋を提げてサークル室に入ってきた光景を思い出すと、今にも殴りたくなる。よくよく考えたら、村井サンがはしゃいでるときにロクなことがあった試しがないんだけど。
ナンダカンダ言いながらもバカバカしいことが好きなうちと圭斗が乗ってしまったというのが敗因のひとつだろう。茶番とわかっているのに、村井サンしか得をしないとわかっているのに乗ってしまうのはMMPの風土病だ。
「どうやって仕返しをしようか」
「それがなかなか思いつかない。どうにかしてぎゃふんと言わせたいんだけど」
「ぎゃふん」
「菜月さんが言ってどうするのかな?」
「言ってみたかっただけだ。次点はガッデム」
4年生のムライズムとか2年生のラブ&ピースに比べるとどうにも真面目で地味で人畜無害な3年生だ。そんな大人しい3年生のうちと圭斗が凶悪な4年生にぎゃふんとかガッデムなどと言わせることが出来るだろうか。
「村井サンの悪行ならある程度は情報として持ってるけど、その程度じゃこの人は屁でもないし」
「決定的な弱みでもあればなー」
「それを切り返す技があるからこその村井おじちゃんなんじゃないかい」
「確かに。器がデカいのかザルなのかがわかんないな」
うちと圭斗がやれやれという顔で会話をする視線の先には、2年生と同じレベルでぎゃあぎゃあと騒ぐ村井おじちゃん。って言うかいるなら片付け手伝って欲しいんだけど。今回の主犯だし。
「おーい圭斗、この後飯行くぞー!」
「どちらへ?」
「肉だろ肉! 夏こそ肉だ!」
「マジで言ってんのか、正気の沙汰じゃない」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
さーて、どうやって村井サンに一泡吹かせようか。そんな3年生会議は盛り上がるのか、否か。
end.
++++
かのうまい棒レースが終わった直後の菜月さんと圭斗さんである。やっぱりこの2人は村井サンにもぎゃふんと言わせたい模様。
しかし梅雨明けもして本格的な夏に入ったのに部屋を閉め切った上で水分補給禁止ってのはなかなかにアレ。しかも扇風機はロートル。
村井おじちゃんに悪ふざけをさせたかったんだけど、おじちゃんこの話じゃ全然大人しいし、また別の機会にムライズムさせないとね!
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