2019

■forward forward forward

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「野坂、起きろ」
「うーん……」
「起きろ野坂、収録に遅れるぞ」
「ふあっ…!? 圭斗先輩おはようございます!」
「いいからさっさと支度をしろ。僕もバイトに行く支度をしたいんだ」
「すみません!」

 さて、僕の部屋で野坂が寝ていた理由だね。昨日、MMPのカレーパーティーという行事が開催された。三井の誕生日アピールが激しかったから、金曜日にでも何かしないと面倒なことになるぞ、菜月から忠告があったんだ。そこで、三井の誕生日アピールは無視しつつ、突発的にカレーパーティーをやりたくなったことにして開催したんだ。
 実際最近カレーパーティーはご無沙汰だったし、趣旨が趣旨だけに全員強制参加。木曜日のうちから僕と菜月で秘密裏に準備と連絡をして昨日の開催に至った。それで、野坂だね。どうせ金曜夜にカレパなら、僕の部屋に泊まれば土曜日の昼放送収録に遅れなくて済むのでは、という結論に達した。つまりそういうことだ。

「ええと……1時前ですか」
「僕の部屋からならこの時間の起床でも余裕だ」
「なんと素晴らしい……」
「いいからさっさと顔を洗え」
「すみません!」

 実は僕もさっき起きたところなので、野坂が洗面台を使っている間に昨夜の名残を片付ける。みんなを駅や家まで送り届けた後、僕と野坂はジブリ大会などを開催していた。僕の所有するDVDを見たり、ゲームをやったり。趣味の話が出来て充実した時間を過ごすことが出来たよ。実は、野坂とは結構趣味が重なってるんだ。
 酒を入れつついろいろな話もした。勉強や将来のこと、インターフェイスのあれやこれや。人の噂話なんかもいろいろ。対策委員や定例会のことも少し話したけど、如何せん酒の入った深夜だけに下世話な話もたくさんしてね。ムラマリさんとはまた違う猥談はとても楽しかったです。またしたいです。
 恋愛の話もいろいろ引き出したいと思ったけれど、趣味の話と猥談が楽しすぎてそっちは意外に全然話さなかったね。でも、野坂の恋模様なんか見ていれば手に取るようにわかるし、改めて聞かなくてもという感じかな。如何せん相手が相手だけに慎重になりすぎるようだけど。毎週土曜が楽しみだろうね、2人きりのアクティビティが。

「洗面台をお借りしました。タオルはどうしましょうか」
「ん、洗濯機の中に入れといてくれ。ああ、腹が減ってるなら炊飯器にご飯が炊いてあるから好きに食べたらいい。昨日のカレーもまだ少し残してあるから」
「ありがとうございます! では遠慮なくいただきます」

 昨日も見たけど、この山盛りの丼カレーは何度見てもマジかよ、と思う。野坂はMMPで一番の大飯食らいだ。代謝がいいのか食べる割に太らないようだけど、食べる量は本当に凄まじい。昨日のパーティーでも菜月特製カレーを丼に山盛り3杯おかわりをして、さらに菜月特製ケーキを実質ホールで完食した。
 カレーパーティーのついでに三井の誕生日も祝ってやるか、というお情けの体で菜月が用意したケーキだ。出来合いのスポンジを生クリームと果物でデコレーションした物だけど、この生クリームがまたえげつない糖度で。何を隠そう三井を祝うテーマが「自分は楽しいけど相手の好みは知ーらない」だ。言わずもがな、嫌がらせだね。
 カレーは三井がとても食べられない量の山盛りを「ノサカはこれくらい一瞬で消すぞ」と食べさせ、その上生クリームが苦手な三井に「誕生日と言えばケーキ、ケーキと言えば生クリームだろう」と食べさせた。ただ、この劇甘生クリームに関しては菜月・野坂以外の全員が胸焼けするレベル。味見だけでみんな辞退したため実質2人で山分けすることになったんだ。

「お前は起きたばかりでよくそんなに食べるな」
「圭斗先輩は朝ご飯を食べない生活を送ってるんですか?」
「いや、食べるけど、起きたばかりではこんなに食べられないよという話だね」
「と言うか、収録前にこんなにゆったりと食事が出来ることが奇跡です」
「普段は食事をする時間もないくらいにギリギリなのかな?」
「お恥ずかしながら……はい。たまにちゃんと起きて食事をしてから電車に乗るんですけど、そうなるといい感じに眠くなってですね」
「あー……」

 野坂が結構やらかす終点折り返しパターンのヤツか。ちなみに、ギリギリに起きて電車に飛び乗ったときは、寝直した結果終点で折り返すらしい。結局、何をしても電車では寝てしまうようだ。そのレベルの遅刻を繰り返すから菜月がキレるワケだし、原因が違うにしてもファンフェスでもやらかすんだ。

「さて、僕も鬼ではないしバイトまでは暇だから、お前をサークル棟まで送ってやろうじゃないか」
「なんと至れり尽くせり!」
「菜月の機嫌がいいことがサークルの平和にも繋がるからね」
「ああ……それは確かに」
「ん、誰の遅刻の所為で菜月の機嫌が悪くなるのかな?」
「すみませんでした!」
「ちょっと、スマホをチェックしてからだね」

 ハンドルを握る前に、何か通知がないかスマホをチェックする。特にこれと言って重要な通知はなさそうだ。通知を一気に全部消そうとした瞬間のことだった。Eメールが届いたという通知が届く。その相手は菜月だ。もしかしたら野坂の心配をしているのかもしれない。野坂ならもう起きているよ。そう返信しようとメールを開く。

「ん?」
「圭斗先輩?」
「……いや、何でもない」

 件名が、このメールが転送されたものであることを意味するFw:だ。そのメールにはとある場所の風景写真と「昨日菜月にたくさん食べさせられたから消費するために走りに来たよ」という文面。このメールの元の送り主は、内容とアドレスから推測するに三井だろう。ただ、菜月がこれを僕に転送する意味だ。何だ? 嫌がらせが成功したことに対する何かかな? とりあえず、今から野坂をサークル室に送り届けるよと返信をする。

「野坂、そろそろ行こうか?」
「はい、お願いします」

 僕のバイトまでにはまだ少し時間がある。野坂を送り届けるついでに菜月がこのメールを転送した意図なんかも聞ければいいのだけど。


end.


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三井誕カレパの翌日の話です。カレパについては前年度より前に何回かやっていると思う。
さて、今回はカレパの翌日に昼放送の収録ということで、ノサカが最終手段を採ったようですね。こうでもしなければ、なのよねえ
そして菜月さんから転送されてきたメールが少し不穏な感じ。杞憂に終わるといいのだけれど。

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