2019

■不本意では終われない

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 ファンフェスが終わって1週間、しばらくバタバタしていたミーティングルームも本来の落ち着きを取り戻していた。それまではどこの班とか関係なくバタバタ走り回っていたんだ、それこそ普段なら余裕を持って行動出来ている班ですらも。
 これでしばらくはゆっくりと活動が出来る、そんな風に俺がホッとしていたのも束の間だった。俺と響人は個別に部室に呼び出され、監査の宇部からお叱りを受けた。その内容はファンフェスのステージのこと。いくら何でも完成度が低すぎではないか、と。
 反論はしようと思えばいくらでも出来る。そんなモンお前、日高が急にステージをやるとか言うからこっちだって準備出来なかったんだーとか何とか。だけど、俺がそれを言うことはなかった。何故なら、宇部が先回りしてこちらの事情まで酌んだ上でのお叱りだったからだ。
 響人が遅筆であること、班に台本を書ける人間がほぼいないこと、そもそもステージの話が降って湧いたのが3週間前であったことなどを加味してももう少し何とか出来たのではないか、と。俺はそれに「もしまたこんなことになったらある物を使って時短出来るようにする」と返事をした。

「あー……お腹痛い」
「俺も久々に胃がキリキリした。まー俺らがよっぽど酷かったんだろうな、班長とPを呼び出すっつー事は。ちょっと悪かったくらいなら班長をチクッと刺すだけだし」
「俺は出来る限りのことはしたよ」
「それは当然わかってる。なんならそれは宇部もわかってたじゃんな」
「でも、頑張ったのをわかられた上で内容が酷いって言われる方がしんどくない…?」

 頑張った上で内容が酷い。つまりそれが俺たちの実力、現在の鎌ヶ谷班の力だということだ。次のステージは、よっぽどこないだみたいなことがない限り8月アタマの丸の池だ。今からなら2ヶ月ちょいある。そこまでに戦力分析をして準備を進めて行かなきゃならない。

「いや? 俺らは短期決戦には向いてないっつーことが改めてわかった! それだけでも収穫だ! いや? 収穫はもっとあるぞ響人!」
「なに」
「ある物を使ってもいいということがわかった。何もかもを新しく生み出し続けなくてもいいっつーことだ」
「なるほどね。でも、それはそれで固定概念に囚われないかな」
「固定概念に囚われないかなっていうのがまず固定概念だ。そう思っとこうぜ」
「うーん」
「何にせよ、夏のためのネタを使っちまったしそれを補充しないとな」

 ぶっちゃけ3週間で1時間枠のステージをゼロから作るのはほぼムチャ振りだ。しかも、過去に出たことのないイベントで、現場の様子も全く分からないのにだ。丸の池や学祭なら過去の例があるから観客層なんかも何となくわかるから狙っていけるんだけど。
 他の班もそれぞれ苦労していたようで、何とか枠を埋めることでいっぱいいっぱいだったように思う。他に比べてPが弱い魚里班なんかも結構しんどそうだったし。エリート集団の宇部班とか、裏技を使える菅野班はまあ何とか立ち回ってたけど他はぶっちゃけ俺らとそう変わんなかったぞ。
 ただ、そうは言っても俺たちのステージに「やっつけ感」が出過ぎていたのは事実だ。お叱りはそれとして素直に受け止める。他の班は羽を伸ばしてるけどお前たちは時間がかかるんだからさっさと動けよという激励と捉えて動き出すしかない。
 重ねて言われたのは「夏の枠は実力だけで決める」ということだ。逆に言えばファンフェスはそうではなかったということか。そんな大人の事情はさておき、宇部がわざわざそう言うということは、仮に日高が横槍を入れてもそれは覆らないはずだ。
 夏には今回出ていなかった朝霞班も復帰してくる。朝霞班は個の能力がズバ抜けた化け物集団だしそこそこの時間を持って行くと仮定すると、果たして俺たちに割り振られる時間はあるのかという話になる。冗談じゃない、最後の夏に枠なしとかマジでねーよ。

「でもさ、ネタってどうやったら湧いて来るんだろう」
「いや? それはお前、やっぱインプットじゃないか?」
「本とか映画とか?」
「ああ、そーゆーのそーゆーの。洋平なんか朝霞に丸1日徹夜で映画見せられて腰痛めたとか言ってたぞ」
「でも、本や映画とかのコンテンツって、あくまでコンテンツだから。それを元ネタとかアイディアとしてステージに落とし込むことは俺には出来ないんだよ」
「言いたいことは何となくわかる。あー、そしたら他の班がどういうやり方してるか分析してみるか。菅野班と朝霞班以外は参考になると思うし」

 周りと比べて自分たちは何が出来ていて何が出来ていないのか。何が強みで何が弱いのかを知る必要がある。でも、菅野班と朝霞班は良くも悪くもイレギュラー過ぎるから、分析はするけど俺たちがリスペクトだのインスパイアだのっていう風にはならないんだよな。

「やり方変えるの?」
「いや、俺たちは俺たちのやり方で行く。だけど、たまには客観的に自分たちを見ないとダメだ。その手段のひとつだ、他の班の分析をするのは。分析をして比べるっつーのは、どっちかっつーとお前の分野だろ」
「そうだね、まさかシゲトラにデータで分析することの重要さを諭されるとは思わなかったよ」
「今日は分析の日で、それで分かったことを明日から生かしていこうぜ! ま、ミキサーが強いっつーのはこの世界のシゲトラの存在があるからして当然だけどな!」
「はいはい。無駄な自信があって結構」
「とりあえずさ、お茶でも飲みながらのんびりやろうぜ。息抜きついでに買いに出るか」
「うん、俺も行く」

 夏に向かって歩き出すために、一度立ち止まってぐるりと周りを見渡してみる。それで見えて来たものを何かこう上手いことわちゃわちゃしていい感じにしていけたらそれはもう最高よ。出来れば、枠が決まる前までに俺たちも伸びたぞってトコをアピれるくらいにはな。


end.


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ファンフェス後の鎌ヶ谷班です。頑張ったようですが、結果としてはあまり良くなかったようで。
そして、この話でちょこちょこ言われているのが菅野班の形態ですね。音楽をメインに置いて自分たちも演者として場を盛り上げるスタイル。裏技か。
世界のシゲトラとかまひびが2人でもちもちステージを作る姿が何気に好き。ゲンゴローやマロ、ベルなどの班員もそろそろみんなでわちゃわちゃしたい。

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