2019
■明日には閑話休題
++++
「それでは、今日はお疲れさまでしたーッ! かんぱーいッ!」
「かんぱーい」
「ですー」
水鈴の音頭でグラスを合わせ、炭酸水を一口。これはファミレスのドリンクバーで行われている簡易的な打ち上げのようなものだ。
今日はファンタジックフェスタが行われていた。水鈴はステージMCの仕事、俺と裕貴はインターフェイスや部活、それぞれの様子を覗くこと。そして何か興味があるとかでついて来た諏訪姉妹の5人でテーブルを囲んでいる。
「水鈴の仕事は今日だけなのか?」
「うん、ファンフェスは今日だけ。明日はイブラボの取材」
「忙しいようだな」
「有り難いことですよ、週1でもレギュラー持たせてもらえてるっていうのは」
タレントとして本格的に活動を始めた水鈴は夕方の情報番組にレギュラー出演している。スタジオに行くのは週1だけど、その他にも特集コーナーなどのVTRに登場したりと何気に露出が上がってきているそうだ。今日のステージでもMCとしてステージに立った水鈴を知っているという声がちらほら。
「妹さんも見に来ていたんだろう、一緒に来れば良かったのでは」
「アタシの仕事終わるの待ってられなかったみたいだね。インターフェイスのラジオ終わったら買い物するーッて言って帰っちゃったよ」
水鈴の妹の奈々ちゃんは、向島の放送サークルに入ったそうだ。水鈴から「向島のサークルはどんな感じなんだ」と聞かれたから、ミキサー志望であるなら上手くなるし、キャラの濃い連中ばかりだという風に答えておいた。……うん、悪の道に染まらなければいいが。
俺は一応インターフェイスの方も軽く覗き見て、ちょうどそのときやっていた朝霞の番組を少し聞いていた。裕貴と一緒に回ってたけど、俺たち(……と言うかIF的に言えば俺)の存在に気付いたのは洋平くらいの物で、そっと、邪魔しない程度に見られて良かったとも思う。
そして裕貴の方は星ヶ丘の放送部が強行したステージを見ていた。まあ、これについては何とも言えないんだけど、裕貴が厳しい顔をしていたからきっとそういうことなのだろう。クソ甘いタピオカミルクティーを飲ませてやっとクレバス級だった眉間の皺がちょっと取れたからな。
「かんなさんとあやめさんはどうでしたか? 楽しめましたか」
「楽しかったです!」
「です」
「水鈴さんすごいです! あの人が今目の前にいるんだと思って」
「です」
「2人ともありがとーッ! かわいいなあ」
かんなとあやめは俺たちと一緒に会場を回ったりもしていたけれど、各々の興味の赴くままに歩き回り、写真や動画を撮るのに忙しくしていた。今もカメラを取り出してはこんなのが撮れましたと楽しそうにしている。
「水鈴さん水鈴さん」
「えっと、……雄平、この子どっちだっけ」
「紫はあやめな」
「うん、あやめちゃん」
「こんなのも撮りました。見て下さい」
そう言ってあやめが表示させたのは、ステージ上でまさにMCとして場を作っている水鈴の姿。あやめの腕かカメラの性能か、それとも被写体か。それを覗き込んだ全員が「おー」と唸り、納得している。もちろん、俺も素直に感心している。なかなかこういう写真で見ることはないから新鮮だ。
今日はぎらぎらと日差しが照りつけて暑いくらいだったけど、そのギラつく日差しさえもスポットライトかのように受ける水鈴だ。俺は額に汗が滲んでいたけど、この写真の水鈴は汗ひとつかかずに爽やかな初夏の様相。駆け出しとは言えプロとはこういうものなのかと素人ながらに思う。
「えー、いいなあ。あやめちゃんアタシこの写真欲しいなあ」
「いいですよ。すぐにでも送ります」
「こんなに良く撮ってもらっちゃったらいくらか払わないと割に合わないよ。えー、これホントにいいなあ」
「越谷さんにも送りますね」
「いい写真だけどどうしてそうなる」
「あやめさん、他にも写真はありますか?」
「さっき撮った萩さんと越谷さんの写真もありますよ。これなんですけど」
「えーッ! あやめちゃんこれいいねッ! タピオカと雄平と裕貴とかえーッ、これももらえるかなッ!」
「どうぞどうぞ」
「ここ、姉妹2人の分奢ります」
それは、クレバス級の皺を眉間に刻んでいた裕貴を気晴らしに連れ出した時の写真だ。甘いタピオカミルクティーを飲ませて休憩させたんだけど、そこにあやめがやってきて1枚お願いしまーすと要求してきたんだ。しかしまあ裕貴の笑顔が下手なこと。まあ、それまでがビキビキだっただけによくやっているとも言えるけど。
「皆さん何か飲み物でも入れてきますか? 私行くので良ければ入れてきますけど」
「じゃあかんな、オレンジジュース」
「あやめは自分で行ってよ」
「えー!?」
「さすがにかんなさん1人では大変だろうし、俺も行きます。雄平、水鈴、何か飲むか」
「じゃあ俺紅茶の炭酸割り」
「アタシウーロン茶」
ドリンクバーの機械の前で、裕貴とかんながそれぞれのドリンクを作ってくれている。どのボタンで何が出てくるんだと苦戦している様子の裕貴にかんなが指南している。そんな様子を眺めながら俺は、ここで裕貴がド天然をやらかさないかと少しヒヤヒヤしていたりもする。一見真面目で堅いけど抜けてるからなコイツ。
「むう」
「大丈夫ですよ萩さん、誰にでもありますって」
「雄平、炭酸割りだ」
「ああ。サンキュ。って、どうした裕貴」
「いや、炭酸水のボタンを押したのはよかったが、コップを置く位置がズレていたのかコップに一滴も入らず流れ落ちていってだな」
「あっはっはっは! お前アレだ、ちゃんと奥に置かないとこぼれるぞドリバーの機械は」
「これで学習した。次は失敗しないぞ」
「萩さん、一緒にいたのが私で良かったですね。あやめだったら動画撮られてましたよ」
「なんでそんなこと言うのかんな!」
今日に至るまでそれぞれにくすぶる何かがあって、それが解決していないにせよ、こうやって合間合間に笑うことが出来ている。それがせめてもの救いだろう。一呼吸おいて、また次へと向かっていける。
「萩さん、今度は一緒にソフトクリームでも巻いてみますか? 自分で器に巻いてトッピングして食べるお店があるんですよ」
「ソフトクリーム。それは興味深いです。かんなさん、ぜひ教えていただきたいです」
end.
++++
萩さんがだんだん甘い物が大好きなキャラになりつつある。実際好きだけどね。ゆくゆくデパ地下のお菓子を食べるようになるし。
というワケでファンフェス終わりのわちゃわちゃ。あやめが少しずつ始まってきてるのかな? あとかんなと萩さんのあれこれ。
内容がなくてわちゃわちゃしてるだけで着地点もない話が好きよねやっぱり。着地点がないからぐだりやすいけど
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「それでは、今日はお疲れさまでしたーッ! かんぱーいッ!」
「かんぱーい」
「ですー」
水鈴の音頭でグラスを合わせ、炭酸水を一口。これはファミレスのドリンクバーで行われている簡易的な打ち上げのようなものだ。
今日はファンタジックフェスタが行われていた。水鈴はステージMCの仕事、俺と裕貴はインターフェイスや部活、それぞれの様子を覗くこと。そして何か興味があるとかでついて来た諏訪姉妹の5人でテーブルを囲んでいる。
「水鈴の仕事は今日だけなのか?」
「うん、ファンフェスは今日だけ。明日はイブラボの取材」
「忙しいようだな」
「有り難いことですよ、週1でもレギュラー持たせてもらえてるっていうのは」
タレントとして本格的に活動を始めた水鈴は夕方の情報番組にレギュラー出演している。スタジオに行くのは週1だけど、その他にも特集コーナーなどのVTRに登場したりと何気に露出が上がってきているそうだ。今日のステージでもMCとしてステージに立った水鈴を知っているという声がちらほら。
「妹さんも見に来ていたんだろう、一緒に来れば良かったのでは」
「アタシの仕事終わるの待ってられなかったみたいだね。インターフェイスのラジオ終わったら買い物するーッて言って帰っちゃったよ」
水鈴の妹の奈々ちゃんは、向島の放送サークルに入ったそうだ。水鈴から「向島のサークルはどんな感じなんだ」と聞かれたから、ミキサー志望であるなら上手くなるし、キャラの濃い連中ばかりだという風に答えておいた。……うん、悪の道に染まらなければいいが。
俺は一応インターフェイスの方も軽く覗き見て、ちょうどそのときやっていた朝霞の番組を少し聞いていた。裕貴と一緒に回ってたけど、俺たち(……と言うかIF的に言えば俺)の存在に気付いたのは洋平くらいの物で、そっと、邪魔しない程度に見られて良かったとも思う。
そして裕貴の方は星ヶ丘の放送部が強行したステージを見ていた。まあ、これについては何とも言えないんだけど、裕貴が厳しい顔をしていたからきっとそういうことなのだろう。クソ甘いタピオカミルクティーを飲ませてやっとクレバス級だった眉間の皺がちょっと取れたからな。
「かんなさんとあやめさんはどうでしたか? 楽しめましたか」
「楽しかったです!」
「です」
「水鈴さんすごいです! あの人が今目の前にいるんだと思って」
「です」
「2人ともありがとーッ! かわいいなあ」
かんなとあやめは俺たちと一緒に会場を回ったりもしていたけれど、各々の興味の赴くままに歩き回り、写真や動画を撮るのに忙しくしていた。今もカメラを取り出してはこんなのが撮れましたと楽しそうにしている。
「水鈴さん水鈴さん」
「えっと、……雄平、この子どっちだっけ」
「紫はあやめな」
「うん、あやめちゃん」
「こんなのも撮りました。見て下さい」
そう言ってあやめが表示させたのは、ステージ上でまさにMCとして場を作っている水鈴の姿。あやめの腕かカメラの性能か、それとも被写体か。それを覗き込んだ全員が「おー」と唸り、納得している。もちろん、俺も素直に感心している。なかなかこういう写真で見ることはないから新鮮だ。
今日はぎらぎらと日差しが照りつけて暑いくらいだったけど、そのギラつく日差しさえもスポットライトかのように受ける水鈴だ。俺は額に汗が滲んでいたけど、この写真の水鈴は汗ひとつかかずに爽やかな初夏の様相。駆け出しとは言えプロとはこういうものなのかと素人ながらに思う。
「えー、いいなあ。あやめちゃんアタシこの写真欲しいなあ」
「いいですよ。すぐにでも送ります」
「こんなに良く撮ってもらっちゃったらいくらか払わないと割に合わないよ。えー、これホントにいいなあ」
「越谷さんにも送りますね」
「いい写真だけどどうしてそうなる」
「あやめさん、他にも写真はありますか?」
「さっき撮った萩さんと越谷さんの写真もありますよ。これなんですけど」
「えーッ! あやめちゃんこれいいねッ! タピオカと雄平と裕貴とかえーッ、これももらえるかなッ!」
「どうぞどうぞ」
「ここ、姉妹2人の分奢ります」
それは、クレバス級の皺を眉間に刻んでいた裕貴を気晴らしに連れ出した時の写真だ。甘いタピオカミルクティーを飲ませて休憩させたんだけど、そこにあやめがやってきて1枚お願いしまーすと要求してきたんだ。しかしまあ裕貴の笑顔が下手なこと。まあ、それまでがビキビキだっただけによくやっているとも言えるけど。
「皆さん何か飲み物でも入れてきますか? 私行くので良ければ入れてきますけど」
「じゃあかんな、オレンジジュース」
「あやめは自分で行ってよ」
「えー!?」
「さすがにかんなさん1人では大変だろうし、俺も行きます。雄平、水鈴、何か飲むか」
「じゃあ俺紅茶の炭酸割り」
「アタシウーロン茶」
ドリンクバーの機械の前で、裕貴とかんながそれぞれのドリンクを作ってくれている。どのボタンで何が出てくるんだと苦戦している様子の裕貴にかんなが指南している。そんな様子を眺めながら俺は、ここで裕貴がド天然をやらかさないかと少しヒヤヒヤしていたりもする。一見真面目で堅いけど抜けてるからなコイツ。
「むう」
「大丈夫ですよ萩さん、誰にでもありますって」
「雄平、炭酸割りだ」
「ああ。サンキュ。って、どうした裕貴」
「いや、炭酸水のボタンを押したのはよかったが、コップを置く位置がズレていたのかコップに一滴も入らず流れ落ちていってだな」
「あっはっはっは! お前アレだ、ちゃんと奥に置かないとこぼれるぞドリバーの機械は」
「これで学習した。次は失敗しないぞ」
「萩さん、一緒にいたのが私で良かったですね。あやめだったら動画撮られてましたよ」
「なんでそんなこと言うのかんな!」
今日に至るまでそれぞれにくすぶる何かがあって、それが解決していないにせよ、こうやって合間合間に笑うことが出来ている。それがせめてもの救いだろう。一呼吸おいて、また次へと向かっていける。
「萩さん、今度は一緒にソフトクリームでも巻いてみますか? 自分で器に巻いてトッピングして食べるお店があるんですよ」
「ソフトクリーム。それは興味深いです。かんなさん、ぜひ教えていただきたいです」
end.
++++
萩さんがだんだん甘い物が大好きなキャラになりつつある。実際好きだけどね。ゆくゆくデパ地下のお菓子を食べるようになるし。
というワケでファンフェス終わりのわちゃわちゃ。あやめが少しずつ始まってきてるのかな? あとかんなと萩さんのあれこれ。
内容がなくてわちゃわちゃしてるだけで着地点もない話が好きよねやっぱり。着地点がないからぐだりやすいけど
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