2019

■come in the morning

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 とうとうファンタジックフェスタ当日を迎えた。集合場所は花栄駅7番出口に8時半。そんな風に定例会から指示されていた。定例会は7時半に現地に集合していて、ブースの中の準備をしているらしい。一般の参加者をまとめて来るのは俺と山口の仕事だ。
 インターフェイスとしてのDJブースが始まるのは10時だが、一応少し早めに集合しておこうということのようだ。何があるかわからねえし、備えは必要だろう。そして、集合時間に関して定例会議長からの通達というものも予め言付かっていた。

「高崎ク~ン、でも本当にいいのかな~?」
「そうしろって定例会議長……もとい向島のトップが言ってるんだからそうするべきだろ」

 俺は諸事情で電車に乗れない。だから例によってビッグスクーターで花栄までやって来た。念には念をと早起きをして、渋滞に捕まっても大変だと早めに家を出たが、思ったよりも早く着き過ぎてしまった。まあ、遅れるよりはいいだろう。
 8時過ぎに集合場所に着いてしまった俺はパン屋で適当な物を買って食いながら誰かが来ないか待っていたんだ。すると、似たようなことを考えていたらしい山口が最初に集合してきた。コイツとは対策委員の解散以来だろう。
 そして最初に確認したのは定例会からの通達だった。俺は圭斗がそう言って来てんだから容赦なくやればいいだろうという考えだ。だけど、山口は少し不安らしい。いくら向島のトップが言って来たからと言って素直にそれを受け止めてよい物かと。

「“向島の遅刻は切り捨てろ”っつーのは、最悪の事態を想定した上で取り得る最大の防衛手段だろ」
「でも、さすがに誰かは待っててあげた方がいいんじゃないかな~って思っちゃうよね~」

 一般参加者を取りまとめる立場の俺たちは、向島の遅刻を切り捨てろという指示を受けていた。菜月も言っていたように思うが、向島の連中はとにかく時間にルーズなんだそうだ。インターフェイスの行事でもやらかさないとは限らないから、もし向島の連中が遅れてきた場合は……ということだ。

「逆に言えば、他の大学の子が遅れちゃった場合? どうすればいいのかな~?」
「俺たちの判断に委ねられると思うが、俺は向島だろうとどこだろうと同じように切り捨てるぞ」
「安定だね~、でしょでしょ~」
「緑ヶ丘の奴が遅れて来てみろ、そん時はぶっ飛ばす以外に何があるっつーんだ」
「でも~、言っちゃえば緑ヶ丘で一番不安なのって伊東クンでしょ~? 伊東クンは定例会でもう集まっちゃてるし~、特に心配ないんジャな~いの~?」
「ぶっちゃけそれな」

 ウチで一番遅刻云々で問題なのは伊東だ。切り捨てられない程のプチ遅刻をしてくる。特に花栄なんかのビル街や地下街だとどこで迷ったとかいう理由で遅れて来るのだ。極度の方向音痴のクセしてナビを信用しないというのがまず問題なのだが。

「あれっ、もういる」
「お、菜月か。うーす」
「議長サンおはよ~。議長サンも朝ごはん買って来たんだね~」
「豊葦からだと電車の本数も限られるからな。早く来るに越したことはないかと思って。こっちの方が美味しいパンも売ってるし」
「でしょでしょ~」
「と言うか、やっぱり班長は早めに集合してたのか」
「俺は渋滞対策だな」
「俺は早い方がいいかと思って~」

 8時10分頃、一般の参加者一番乗りは菜月だ。元々コイツは時間に厳格な方だ。遅れた奴は1分1秒でも切り捨てろというタイプだし、向島の遅刻は切り捨てろという圭斗からの指示の中には含まれていないだろう。

「なんかさ~? 松岡クンからね~? 向島さんの遅刻は切り捨てろっていう指示を受けててね~?」
「あー……」

 例の指示があったことを菜月に伝えると、どこか遠い目をして納得を示した。そして、淡々と自分でも同じ指示をするだろうなと言う。それだけ向島の連中は悪質なのだろう。菜月からも「切り捨てるべきだ」とお墨付きを得たことで、俺たちは何の迷いもなく任務を遂行出来る。

「まあ、ノサカをまともに待ってたら日が暮れるだろうな」
「えっ、さすがにインターフェイスの行事は大丈夫……デショ…?」
「大丈夫じゃないから定例会議長がわざわざそういう指示を出したんじゃないか。ノサカの遅刻を甘く見ない方がいい。2時間3時間は平気で待たされるぞ」
「え~!? 野坂クンに遅れられたら一番困るの俺ジャない!」
「山口、ドンマイ」
「こればっかりは運が悪かったとしか」

 菜月から野坂の武勇伝(?)を聞かされた山口は見るからに焦り、慌てふためいている。今回その野坂を抱えているのは何を隠そう山口の班だ。星ヶ丘の奴が班長の班にはラジオに慣れた緑ヶ丘・向島の奴を入れようということで編成された結果だが、番組以外のところでの心配事が一番デカいとか本末転倒だ。
 だけど、そもそもの寝坊に電車での寝過ごし、その寝過ごしも単純にいくつか駅を通り過ぎていたとかじゃなくて終点まで行った結果折り返してまた同じ駅まで帰って来るとかいうレベルの寝過ごし。……うん、そりゃ時間単位の遅刻にもなるわな。

「おっ、そろそろ一般の奴が来始める頃かね」
「ああ、もう15分か。それくらいなら集まるだろうな。と言うかいくら切り捨てていいって言われるくらい諦められてても、ちゃんと時間通りに来る努力くらいはしてもらわないと。りっちゃん以外は信用ならないからな」
「そうか、律は心配要らねえんだな。なら多少大らかに待てるな」
「えー! 高崎クンばっかりズルい~! えーんえーん不安でしょうがないよ~!」


end.


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ファンフェス前の集合時間帯です。高崎と菜月さんはここで朝ごはんを食べている模様。駅の中って結構パン屋さんあるよね
洋平ちゃんはやっぱり他の大学さんはどうしよ~って考えてたけど、高崎はまあ安定よね。余裕の切り捨て。
そう、そして今回ノサカのやらかしで一番困るのは何を隠そう洋平ちゃんである。班員だし自分の相方だしでそらもう大変よ

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