2019
■blindly following
++++
「みなさーんッ! 愛鳥週間ですよーッ!」
サークル室に来るやいなや、奈々が高らかに宣言をする。だけどどうして唐突に愛鳥週間なのかがわからないし、2年生は完全に「お前は何を言っているのだ」という状態だ。いや、りっちゃんはまだあからさまに引いてないな。さすが後輩と女性には紳士だぜ!
本来なら奈々を可愛がっている菜月が奈々の話をきゃっきゃと聞いてあげられればいいんだろうけど、今日の菜月はそれどころではないんだ。それというのも、僕が定例会で持ち帰ってきた超絶急ぎの超絶重大な仕事にある。僕と菜月が奈々の相手をしてあげられないので、畜生どもに任せるしかないんだよ。
「あれっ、机が端っこに行っちゃってますけど何が始まるんですか?」
「今からここでファンフェスの装飾を神様仏様菜月様に作ってもらうところなんだよ。奈々、悪いけど今日はアナウンサー席とか菜月の作業に支障がない場所に陣取ってくれるかな」
「うっすうっす」
奈々がアナウンサー席に陣取ったところで、今日のサークルが始まる。とは言えファンフェス前日ともなれば各々番組の最終確認くらいしかすることがないんだけれども。そうなると1年生でファンフェスには参加しない奈々には暇極まりないだろうね。2年生が誰か話し相手になってくれるといいのだけれど。
「ところで菜月先輩が描いてるこれは何ですか?」
「ファンフェスや大学祭などでDJブースを出すときにはね、足下の配線なんかを隠すための目隠しボードを用意したりするんだよ」
「あー、スッキリ見せたいですもんねッ」
「ん、そういうことだね。で、定例会がそれを準備しなければならないことをすっかり忘れていてね。我らが菜月様にお願いをして作ってもらっているところだよ」
この手の作業で困ったら菜月に、というのはMMPに脈々と受け継がれる流れだね。如何せん1年生の頃から即戦力で装飾を作り続けて来た彼女だけに、1日でも何とかしてくれるのではないかと期待をしてしまったのだよ。彼女の働きには大きな期待がかかっている。
「え……それ大丈夫なんですか? 明日ですよね? インターフェイスが菜月先輩1人にこの作業を押しつけたみたいですけど」
「いいぞ奈々、もっと言うんだ。定例会はその権力を傘にうちという平民をこれでもかといいように使ってだな」
「酷い言いようだね」
「事実じゃないか」
「菜月先輩~…! 奈々は何の力にもなれませんし応援するくらいしか出来ませんけど~…! あッ、それとも菜月先輩を酷い目に遭わす定例会とやらの偉い奴をぶちのめしますかッ!」
「ん、奈々、暴力沙汰は勘弁してほしいかな」
「はっ…! そうですよねッ! すみません圭斗先輩ッ! うちが問題を起こすと圭斗先輩が処理に追われますもんねッ! 穏便に済ませますッ! それか跡形もなくやっちまいますんで」
「あーっはっはっは! ひー、いいぞ奈々」
菜月を酷い目に遭わせる定例会の偉い奴をぶちのめすという奈々の宣言には戦々恐々とするしかないし、それでいて僕に迷惑をかけまいとする奈々の姿勢に菜月さんは笑いが堪えられなくなってしまったようだ。だけど、僕が定例会議長であるとはまだ名乗ってなかったっけか。まあいいか、今日は黙っておこう。
と言うか、定例会の偉い奴=僕が跡形もなくぶちのめされると奈々のそれを処理するMMPの代表会計も同時に消えてしまうので大変なことになってしまう。MMPはともかくインターフェイスでは見えないところできちんと仕事をしているからね。IFの支援企業サマと話すのは専ら僕の仕事だ。
「無知とは恐ろしいですね、野坂さん」
「ホントに。いくら菜月先輩を酷い目に遭わすからと言っても、普通に考えれば先輩であろうその人をぶちのめすって宣言するか?」
「ヤ、それだけ奈々が菜月先輩思いだっつーコトじゃないスか? 実際今日になっての装飾制作作業は無茶振りもいートコすわ。ねェ圭斗先輩」
「僕に振らないでいただけますか!」
「黒幕スもんねー」
「やめて下さい僕が塵になってしまいます!」
「奈々ー、菜月先輩に無茶振りをしてる圭斗先輩こそが定例会議長なンすよー。インターフェイスで一番偉い人スよー」
「えーッ!?」
ああ、終わった……今日が僕の命日か。もう! りっちゃんのバカ! せっかく今日はこのまま黙っておこうと思ったのに! ……なんてことは心の中でしか言えないんですよね。今日はひたすら下手に出るしか出来ないんだよ、定例会全員が装飾のことをすっかり忘れてた手前。
「あの、奈々…?」
「さすが圭斗先輩ですッ!」
「はい?」
「菜月先輩にお願いするのが一番早くて確実だっていう判断だったんすねッ! そうとも知らずうちは失礼なことばっかり…!」
「あ、いや、わかってもらえたならいいんだよ」
「でも次からは菜月先輩ばっかりに仕事を投げないで下さいね、いくら菜月先輩が素敵だからと言っても菜月先輩にも自分のことがありますし」
「ん、わかったよ」
何だこれ。いや、ぶちのめされなくてホッとはしているんだけど。まあ、何にせよ日頃から奈々と仲良くしていてよかったよ。何か、訳も分からないけど僕は奈々から信用されているようだし。でも僕だけじゃなくて、この場にいる2・3年生は全員訳がわかっていないよね。
「やァー、奈々はモウシン的すわァー」
「律、どの“モウシン”だ?」
「自分の語彙にある3つ4つは全部当てはまりヤすわ。ま、奈々は今までのMMPにはいなかったタイプの良くも悪くも純でまっすぐな女子っつーコトでいーじャないスか」
「春風の似合う(略)女子ではないのな」
「りっちゃんせんぱーいッ! 今日のピー子ちゃん動画を紹介しますッ!」
「遠慮しヤーす」
end.
++++
圭斗さんが自分はぶちのめされるのかとヒヤヒヤしてるだけのヤツ。この時期ならまだこんな感じかな。奈々がきゃっきゃしてるだけ。
もしこれでノサカのアレが始まってたらもれなくノサカと奈々のバトルが勃発してたけど、菜月さんを酷い目に遭わせるなという意見は同じだからなあ、どうなる
そういや奈々は番組で参加こそしないけど見には来るんですね。水鈴さんの応援とインターフェイスの見学と。
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「みなさーんッ! 愛鳥週間ですよーッ!」
サークル室に来るやいなや、奈々が高らかに宣言をする。だけどどうして唐突に愛鳥週間なのかがわからないし、2年生は完全に「お前は何を言っているのだ」という状態だ。いや、りっちゃんはまだあからさまに引いてないな。さすが後輩と女性には紳士だぜ!
本来なら奈々を可愛がっている菜月が奈々の話をきゃっきゃと聞いてあげられればいいんだろうけど、今日の菜月はそれどころではないんだ。それというのも、僕が定例会で持ち帰ってきた超絶急ぎの超絶重大な仕事にある。僕と菜月が奈々の相手をしてあげられないので、畜生どもに任せるしかないんだよ。
「あれっ、机が端っこに行っちゃってますけど何が始まるんですか?」
「今からここでファンフェスの装飾を神様仏様菜月様に作ってもらうところなんだよ。奈々、悪いけど今日はアナウンサー席とか菜月の作業に支障がない場所に陣取ってくれるかな」
「うっすうっす」
奈々がアナウンサー席に陣取ったところで、今日のサークルが始まる。とは言えファンフェス前日ともなれば各々番組の最終確認くらいしかすることがないんだけれども。そうなると1年生でファンフェスには参加しない奈々には暇極まりないだろうね。2年生が誰か話し相手になってくれるといいのだけれど。
「ところで菜月先輩が描いてるこれは何ですか?」
「ファンフェスや大学祭などでDJブースを出すときにはね、足下の配線なんかを隠すための目隠しボードを用意したりするんだよ」
「あー、スッキリ見せたいですもんねッ」
「ん、そういうことだね。で、定例会がそれを準備しなければならないことをすっかり忘れていてね。我らが菜月様にお願いをして作ってもらっているところだよ」
この手の作業で困ったら菜月に、というのはMMPに脈々と受け継がれる流れだね。如何せん1年生の頃から即戦力で装飾を作り続けて来た彼女だけに、1日でも何とかしてくれるのではないかと期待をしてしまったのだよ。彼女の働きには大きな期待がかかっている。
「え……それ大丈夫なんですか? 明日ですよね? インターフェイスが菜月先輩1人にこの作業を押しつけたみたいですけど」
「いいぞ奈々、もっと言うんだ。定例会はその権力を傘にうちという平民をこれでもかといいように使ってだな」
「酷い言いようだね」
「事実じゃないか」
「菜月先輩~…! 奈々は何の力にもなれませんし応援するくらいしか出来ませんけど~…! あッ、それとも菜月先輩を酷い目に遭わす定例会とやらの偉い奴をぶちのめしますかッ!」
「ん、奈々、暴力沙汰は勘弁してほしいかな」
「はっ…! そうですよねッ! すみません圭斗先輩ッ! うちが問題を起こすと圭斗先輩が処理に追われますもんねッ! 穏便に済ませますッ! それか跡形もなくやっちまいますんで」
「あーっはっはっは! ひー、いいぞ奈々」
菜月を酷い目に遭わせる定例会の偉い奴をぶちのめすという奈々の宣言には戦々恐々とするしかないし、それでいて僕に迷惑をかけまいとする奈々の姿勢に菜月さんは笑いが堪えられなくなってしまったようだ。だけど、僕が定例会議長であるとはまだ名乗ってなかったっけか。まあいいか、今日は黙っておこう。
と言うか、定例会の偉い奴=僕が跡形もなくぶちのめされると奈々のそれを処理するMMPの代表会計も同時に消えてしまうので大変なことになってしまう。MMPはともかくインターフェイスでは見えないところできちんと仕事をしているからね。IFの支援企業サマと話すのは専ら僕の仕事だ。
「無知とは恐ろしいですね、野坂さん」
「ホントに。いくら菜月先輩を酷い目に遭わすからと言っても、普通に考えれば先輩であろうその人をぶちのめすって宣言するか?」
「ヤ、それだけ奈々が菜月先輩思いだっつーコトじゃないスか? 実際今日になっての装飾制作作業は無茶振りもいートコすわ。ねェ圭斗先輩」
「僕に振らないでいただけますか!」
「黒幕スもんねー」
「やめて下さい僕が塵になってしまいます!」
「奈々ー、菜月先輩に無茶振りをしてる圭斗先輩こそが定例会議長なンすよー。インターフェイスで一番偉い人スよー」
「えーッ!?」
ああ、終わった……今日が僕の命日か。もう! りっちゃんのバカ! せっかく今日はこのまま黙っておこうと思ったのに! ……なんてことは心の中でしか言えないんですよね。今日はひたすら下手に出るしか出来ないんだよ、定例会全員が装飾のことをすっかり忘れてた手前。
「あの、奈々…?」
「さすが圭斗先輩ですッ!」
「はい?」
「菜月先輩にお願いするのが一番早くて確実だっていう判断だったんすねッ! そうとも知らずうちは失礼なことばっかり…!」
「あ、いや、わかってもらえたならいいんだよ」
「でも次からは菜月先輩ばっかりに仕事を投げないで下さいね、いくら菜月先輩が素敵だからと言っても菜月先輩にも自分のことがありますし」
「ん、わかったよ」
何だこれ。いや、ぶちのめされなくてホッとはしているんだけど。まあ、何にせよ日頃から奈々と仲良くしていてよかったよ。何か、訳も分からないけど僕は奈々から信用されているようだし。でも僕だけじゃなくて、この場にいる2・3年生は全員訳がわかっていないよね。
「やァー、奈々はモウシン的すわァー」
「律、どの“モウシン”だ?」
「自分の語彙にある3つ4つは全部当てはまりヤすわ。ま、奈々は今までのMMPにはいなかったタイプの良くも悪くも純でまっすぐな女子っつーコトでいーじャないスか」
「春風の似合う(略)女子ではないのな」
「りっちゃんせんぱーいッ! 今日のピー子ちゃん動画を紹介しますッ!」
「遠慮しヤーす」
end.
++++
圭斗さんが自分はぶちのめされるのかとヒヤヒヤしてるだけのヤツ。この時期ならまだこんな感じかな。奈々がきゃっきゃしてるだけ。
もしこれでノサカのアレが始まってたらもれなくノサカと奈々のバトルが勃発してたけど、菜月さんを酷い目に遭わせるなという意見は同じだからなあ、どうなる
そういや奈々は番組で参加こそしないけど見には来るんですね。水鈴さんの応援とインターフェイスの見学と。
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