2019
■印象を盛りに行く
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世の中では10連休最終日。だけど大学生にはそんなことはあまり関係ない。星港大学では通常授業ということで、長い休みがとうとう終わってしまった。休みが終わっても私は日頃から生活リズムが一定だし、そこまで日常に戻るのに苦労はしなかった。でも、苦労する人はするんだろうと思う。
心なしか人が少なくなった授業を難なくこなしてからは、アルバイトへと向かう。大学に入って私が始めたのは、写真スタジオでの仕事。写真の現像やカメラ用品の販売、それからスタジオでの写真撮影が主な仕事になる。高校の頃から写真部だったこともあって、写真やカメラに対する興味は元々強い。楽しいかなと思って。
「はー、子どもの日の写真も一段落したねアオキちゃん」
「“あ”にアクセントを置いてください」
今日一緒にシフトに入っているのは同じ星大の4年生、青山和泉さんと、星ヶ丘大学の3年生、菅野泰稚さん。青山さんは180センチをゆうに超える長身に人当たりのいい笑顔と接客技術で子どもや孫の写真を撮りに来たお母さんやお婆さんにとても人気がある。社員さんからはマダムキラーとも呼ばれる人たらし。
菅野さんは青山さんと比べると落ち着いた雰囲気の人で、私には写真の加工技術の方をよく教えてくれる。一応私はフォトショップであればある程度不自由なく扱えるのだけど、仕事としてのそれは趣味のそれとはまた別。どういう依頼にはどういう対応をするのか、という程度を教えてくれている。
「たいっちゃんのでんでん太鼓がしばらく聞けないと思うと寂しいけど」
「不思議ですよね。何やっても泣き止まない子が菅野さんのでんでん太鼓を聞くとピタッと泣き止むって」
「何やっても泣かれるアオキちゃんには確かに不思議だろうね」
「だから“あ”にアクセントを置いてくださいと何度言えば」
多分、菅野さんの特殊能力か何かだと思う。青山さんは子どもの親以上の人を手の上で転がすことが出来るけど、子どもの扱いは並程度だと思う。親や祖父母、それから子どもの扱いも苦手な私には青山さんもすごいと思うけれど、菅野さんのでんでん太鼓は本当に魔法か何かかと思う。非科学的だとは思うけれど。
「太鼓の扱いが上手なのってやっぱドラマーだから?」
「その理屈で言えば青山さんもそうじゃないですか」
「まあね」
「菅野さんには子どもが安心する何かがあるんですかね」
「何だろうね~。でも、将来パパになったときは安心だね!」
「本当ですね」
「まあ、それはまだ先だと思いますけど」
「でも、今の彼女さんと結婚したいんでしょ?」
「ちょっ……青山さん仕事中に何言わそうとしてるんですか」
菅野さんには付き合って1年半ほどになる彼女がいるそうだ。同じ星ヶ丘大学の3年生で、日頃から仲良くしていると。私と青山さんはその話を聞く度何かしら冷やかしている。私もそういう話は嫌いじゃないし。仕事に支障が出ない程度に幸せなのはいいことだと思う。不機嫌や不幸なオーラを周りにばら撒くよりは。
カレンダーに乗るような行事の前後には記念の写真を撮ろうとお客さんが増える傾向にある。最近では端午の節句ということで、兜をかぶった男の子の撮影が多かったように思うけれど、それが過ぎれば人の入りも何となく落ち着いた。それでこんなお喋りをする余裕もあるのだ。
私は本当に子どもに泣かれるから、スタジオに入ってもあまり役には立たない。だからレジ前で販売や写真の加工、VHSテープのDVDへの変換といった仕事を主にこなしていた。青山さんには顔がキツいと言われるけれど、これでも一応ちゃんと笑おうとはしている。自分が思うほど笑えていないのは、表情筋が堅いのかもしれない。
「青山さん、端午の節句が終わると何が増えますか?」
「就活の証明写真だね。その加工」
「あ、子どもではないんですね」
「同年代だね。写真を盛りたい人が来るようになるよ。アオキちゃんの得意分野だね、加工だから」
「でも、言うほど来ます? アプリでの就活なんかも増えてきてますし、それに使う写真なら自分で盛れますよね」
「アプリでの就活もあるけど、今まで通りの就活が終わったワケでもないからね」
それは確かにそうだった。アプリでのネット就活が始まっているとは言え、求人をしている全企業がそんな物に対応しているわけじゃない。紙の履歴書に紙の写真を貼って、手書きの履歴書を送るスタイルもまだまだ健在。証明写真の加工は、印象を盛るということなのだろう。
「青山さんはどういう業界に進もうとしてるんですか?」
「俺? 一応ツーリズム、旅行かなとは思ってるよ」
「代理店とかですか?」
「まあそっち方面かなとは」
「高山さんてどんな学部だっけ」
「私は理工学部の都市環境学科ですね」
「都市環境。そのまんまの印象でいい?」
「まあ大体は」
「じゃあ将来は市役所とかに行くのかな」
「そうですね、候補としてはあります」
「さすがアオキちゃん、真面目」
「うんうん」
私は堅いという印象があるのか、勉強していることを言うと大体次には「将来は市役所?」と聞かれる。確かに市役所への就職は候補としてはあるけれど、そこまで私はお堅い人間でもない。悪ふざけも大好きだし。それもこれも顔や性格が原因なのか。だとすると、私も印象を少し盛りたいと思う。
「でも、言うほど真面目な動機ではないですよ。都市環境に進もうと思ったのはシムシティにハマったからですし」
「えっ、高山さん、シムシティってシミュレーションゲームのあれ?」
「あれです。高校の先輩にシムシティを教えてもらってハマりました。それでこの分野に興味を持って本格的に勉強がしたいなと」
「何か、高山さんがゲームするって聞いて意外だった。他にも何かやってる?」
「基本シミュレーションが多いですね。Cities skylines、A列車」
「ANNOは?」
「やりました」
「あー、いいね」
「菅野さんもゲームやるんですか?」
「俺は結構やるよ」
「アオキちゃん、たいっちゃんのバンドはゲーム系インストバンドだからね。そのリーダーがゲームやってないってことはないよね」
「あ、そうなんですね」
end.
++++
青山誕ということで後にヴィ・ラ・タントンとなる写真屋トリオのお話です。スガPが何気に初登場? 星ヶ丘の方じゃ控えめだったよね
蒼希がちょこちょこ顔や性格を気にしてるのが今回はかわいい。印象を盛りたいとか。確かに悪ふざけ大好きだもんなwww 見た目ほど堅くない。
スガPにゲームの話を振るといろいろ広がりそうだなあ。ゆーてSDXだしな。SDXの話もやりたいけどその前に星ヶ丘菅野班でスガカンを揃えようぜ!
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世の中では10連休最終日。だけど大学生にはそんなことはあまり関係ない。星港大学では通常授業ということで、長い休みがとうとう終わってしまった。休みが終わっても私は日頃から生活リズムが一定だし、そこまで日常に戻るのに苦労はしなかった。でも、苦労する人はするんだろうと思う。
心なしか人が少なくなった授業を難なくこなしてからは、アルバイトへと向かう。大学に入って私が始めたのは、写真スタジオでの仕事。写真の現像やカメラ用品の販売、それからスタジオでの写真撮影が主な仕事になる。高校の頃から写真部だったこともあって、写真やカメラに対する興味は元々強い。楽しいかなと思って。
「はー、子どもの日の写真も一段落したねアオキちゃん」
「“あ”にアクセントを置いてください」
今日一緒にシフトに入っているのは同じ星大の4年生、青山和泉さんと、星ヶ丘大学の3年生、菅野泰稚さん。青山さんは180センチをゆうに超える長身に人当たりのいい笑顔と接客技術で子どもや孫の写真を撮りに来たお母さんやお婆さんにとても人気がある。社員さんからはマダムキラーとも呼ばれる人たらし。
菅野さんは青山さんと比べると落ち着いた雰囲気の人で、私には写真の加工技術の方をよく教えてくれる。一応私はフォトショップであればある程度不自由なく扱えるのだけど、仕事としてのそれは趣味のそれとはまた別。どういう依頼にはどういう対応をするのか、という程度を教えてくれている。
「たいっちゃんのでんでん太鼓がしばらく聞けないと思うと寂しいけど」
「不思議ですよね。何やっても泣き止まない子が菅野さんのでんでん太鼓を聞くとピタッと泣き止むって」
「何やっても泣かれるアオキちゃんには確かに不思議だろうね」
「だから“あ”にアクセントを置いてくださいと何度言えば」
多分、菅野さんの特殊能力か何かだと思う。青山さんは子どもの親以上の人を手の上で転がすことが出来るけど、子どもの扱いは並程度だと思う。親や祖父母、それから子どもの扱いも苦手な私には青山さんもすごいと思うけれど、菅野さんのでんでん太鼓は本当に魔法か何かかと思う。非科学的だとは思うけれど。
「太鼓の扱いが上手なのってやっぱドラマーだから?」
「その理屈で言えば青山さんもそうじゃないですか」
「まあね」
「菅野さんには子どもが安心する何かがあるんですかね」
「何だろうね~。でも、将来パパになったときは安心だね!」
「本当ですね」
「まあ、それはまだ先だと思いますけど」
「でも、今の彼女さんと結婚したいんでしょ?」
「ちょっ……青山さん仕事中に何言わそうとしてるんですか」
菅野さんには付き合って1年半ほどになる彼女がいるそうだ。同じ星ヶ丘大学の3年生で、日頃から仲良くしていると。私と青山さんはその話を聞く度何かしら冷やかしている。私もそういう話は嫌いじゃないし。仕事に支障が出ない程度に幸せなのはいいことだと思う。不機嫌や不幸なオーラを周りにばら撒くよりは。
カレンダーに乗るような行事の前後には記念の写真を撮ろうとお客さんが増える傾向にある。最近では端午の節句ということで、兜をかぶった男の子の撮影が多かったように思うけれど、それが過ぎれば人の入りも何となく落ち着いた。それでこんなお喋りをする余裕もあるのだ。
私は本当に子どもに泣かれるから、スタジオに入ってもあまり役には立たない。だからレジ前で販売や写真の加工、VHSテープのDVDへの変換といった仕事を主にこなしていた。青山さんには顔がキツいと言われるけれど、これでも一応ちゃんと笑おうとはしている。自分が思うほど笑えていないのは、表情筋が堅いのかもしれない。
「青山さん、端午の節句が終わると何が増えますか?」
「就活の証明写真だね。その加工」
「あ、子どもではないんですね」
「同年代だね。写真を盛りたい人が来るようになるよ。アオキちゃんの得意分野だね、加工だから」
「でも、言うほど来ます? アプリでの就活なんかも増えてきてますし、それに使う写真なら自分で盛れますよね」
「アプリでの就活もあるけど、今まで通りの就活が終わったワケでもないからね」
それは確かにそうだった。アプリでのネット就活が始まっているとは言え、求人をしている全企業がそんな物に対応しているわけじゃない。紙の履歴書に紙の写真を貼って、手書きの履歴書を送るスタイルもまだまだ健在。証明写真の加工は、印象を盛るということなのだろう。
「青山さんはどういう業界に進もうとしてるんですか?」
「俺? 一応ツーリズム、旅行かなとは思ってるよ」
「代理店とかですか?」
「まあそっち方面かなとは」
「高山さんてどんな学部だっけ」
「私は理工学部の都市環境学科ですね」
「都市環境。そのまんまの印象でいい?」
「まあ大体は」
「じゃあ将来は市役所とかに行くのかな」
「そうですね、候補としてはあります」
「さすがアオキちゃん、真面目」
「うんうん」
私は堅いという印象があるのか、勉強していることを言うと大体次には「将来は市役所?」と聞かれる。確かに市役所への就職は候補としてはあるけれど、そこまで私はお堅い人間でもない。悪ふざけも大好きだし。それもこれも顔や性格が原因なのか。だとすると、私も印象を少し盛りたいと思う。
「でも、言うほど真面目な動機ではないですよ。都市環境に進もうと思ったのはシムシティにハマったからですし」
「えっ、高山さん、シムシティってシミュレーションゲームのあれ?」
「あれです。高校の先輩にシムシティを教えてもらってハマりました。それでこの分野に興味を持って本格的に勉強がしたいなと」
「何か、高山さんがゲームするって聞いて意外だった。他にも何かやってる?」
「基本シミュレーションが多いですね。Cities skylines、A列車」
「ANNOは?」
「やりました」
「あー、いいね」
「菅野さんもゲームやるんですか?」
「俺は結構やるよ」
「アオキちゃん、たいっちゃんのバンドはゲーム系インストバンドだからね。そのリーダーがゲームやってないってことはないよね」
「あ、そうなんですね」
end.
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青山誕ということで後にヴィ・ラ・タントンとなる写真屋トリオのお話です。スガPが何気に初登場? 星ヶ丘の方じゃ控えめだったよね
蒼希がちょこちょこ顔や性格を気にしてるのが今回はかわいい。印象を盛りたいとか。確かに悪ふざけ大好きだもんなwww 見た目ほど堅くない。
スガPにゲームの話を振るといろいろ広がりそうだなあ。ゆーてSDXだしな。SDXの話もやりたいけどその前に星ヶ丘菅野班でスガカンを揃えようぜ!
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