2019
■時代が進んでも
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いつも雨の日にお世話になっているお礼です、ですー。というワケで、俺はバイト明けに諏訪姉妹の部屋にお邪魔して飯をごちそうになることになっていた。雨の日には姉妹を車に乗せてやってたんだよな。濡れるのもかわいそうだし。
姉妹の家に寄って帰るのは俺にとっては回り道だけど、諏訪姉妹の家に行くまでの間にバッティングセンターがあって、そこに行くついでにもなっていた。だから、俺にとってはバイト+雨の日はバッセンの日みたいにもなっていて。
バッセンに行くついでに姉妹を車に乗せているという感じになっていたし、別に見返りを求めてやってたワケじゃないから特段お礼のような物は必要としない。だけど、別にいいんだぞと言っても姉妹たちがそれで引き下がらないのでありがたくごちそうになることにしたんだ。
「越谷さん何が食べたいです? お肉ですか?」
「ですか?」
「ああー、肉いいな」
「お肉って言ってもいろいろありますよ? 牛、豚、鶏、羊」
「そこでナチュラルに羊を出してくるか」
「モールの中とかだと結構普通に売ってますよ。ジンギスカン以外にも、マトンカレーとか美味しいらしいですし」
「へー、マトンカレーか。美味そうだな」
ショッピングモールの中の食料品売場をうろうろしながら、何が食べたいかなあと姉妹たちは肉を物色している。俺はカゴを提げながら、お前たちが食べたい物でいいんじゃないかと進言。結局、肉が食いたいのは姉妹だからだ。いや、俺も肉は好きだけど、かんなとあやめはそれ以上な気がする。
「あーッ! 雄平ッ!」
「うわっ! 急に飛びついてくるな水鈴!」
「どーしたのこんなところでッ! ウソー凄いラッキーッ!」
「ちょっ、だからお前…!」
どうしたのこんなところではこっちのセリフだ。どこからともなく現れた水鈴が飛びついてきて、俺は完全に腕の自由がなくなってしまった。その光景を見たかんなとあやめは完全に引いている。唖然として何も言えなくなってるじゃないか。
「越谷さん、彼女いないって言ってましたよね」
「よね」
「いや、断っ……じて! 彼女ではない!」
「彼女になりたいのに」
「絶対しないからな! いい加減離れろ水鈴!」
「ンもう。あっ、アタシは雄平の彼女候補で友達の岡島水鈴っていいます。今日はこの後そこのレインボーコートでイベントがあって、そのMCの仕事で来ててーッ」
「……まあ、そういうことだ。タレントの仕事をしてる俺の友達だ。彼女ではないからな」
「念押しすると水鈴さんがかわいそうです」
「です」
「雄平、この子たちは? 見た感じ双子ちゃん?」
「ああ。俺のバイト先の後輩だ。これから飯を食うことになってて」
「えーッ! いいなーッ! 仕事じゃなかったらご一緒したかったーッ!」
何かもう一瞬で疲れた。どうやら水鈴は水を買うために食料品コーナーに足を踏み入れたところ、豆粒くらいの大きさにしか見えなかった俺を発見したという。本番前に俺に会えてラッキーだとか何とか言って手をぎゅうぎゅう握りしめてくるものだから、買い物かごは一旦かんなに預けた。
姉妹はと言えば、水鈴の姿に「タレントさんですー」「きれいですー」などと見とれているようだった。まあ、この奇行さえなければ普通にかなりの美人だと思うし、駆け出しのタレントとしての努力はクソ真面目だし言うことはないんだけど。如何せんこの奇行がな。
「水鈴さんのお仕事は今日のここ以外ならどこで見れますか?」
「ですか?」
「イベントだったら一番早いのはファンフェスかなあ」
「水鈴お前、ファンフェス出るのか」
「出るよ。あっでもステージ2ヶ所あるから気をつけてね雄平。北と南があって、アタシが出るのは南だから」
「お前、何で俺が見に行く前提で言ってんだ」
「えっ、裕貴は見に来てくれるって言ってたよ?」
「マジか」
「うん。ほら、星ヶ丘の放送部が北ステージで強行するじゃん、その査察も兼ねてるんだって」
「放送部が強行?」
裕貴が行くなら俺も行こうかな、と思ったときのことだった。水鈴の口から気になる言葉が出てきた。水鈴が仕事で上る南ステージの反対、北ステージで行われることだ。そして、水鈴の顔も一瞬で真面目なモードに切り替わる。
「雄平、最近カオルちゃんに会った?」
「……いや」
「会ってないならいいの」
「朝霞に何かあったのか」
「雄平には言わないでって言われてるから。でも、今のカオルちゃんの辛さをわかってあげられるのは多分雄平だけだから、知ってて欲しいとも思ってる。カオルちゃんに言わないでね。後でLINEするし」
「ああ、わかった」
朝霞班は、流刑地と呼ばれはみ出し者が押し込められる場所だ。朝霞は何か悪いことをしたではなく自分で選んでこの班に来た変わり者だが、その前の班長だった俺は、幹部に楯突いて流刑に遭ったという経緯がある。以来、俺は部の表舞台に立つことを許されず、事実上幽閉状態にあった。
流刑地と呼ばれる班は、代々肩身が狭い。越谷班の時は、幹部に楯突いた俺が班長だった班だからという理由がある。朝霞班はそうではない。しかし、現部長の日高が一方的に朝霞に私怨を抱いて嫌がらせをしているという話は聞く。朝霞に何かあったとするなら、日高が絡んでいると考えるのが自然だろう。
「あと、裕貴はお忍びでインターフェイスのブースも見てみたいとかで」
「インターフェイスは俺もちょっと見たいな。裕貴に声かけてみるか」
「越谷さん、私も水鈴さんのMC見たいです」
「ですー」
「引率してくださいです」
「ですー」
「ええー…?」
「雄平、2人も連れて来てあげてよ。何ちゃんだっけ」
「赤い髪留めの方がかんなで、紫の方があやめ」
「花の名前でかわいいねッ!」
「ありがとうございます」
「です」
「越谷さーん、連れてってくださーい」
「ですー」
「ったく、仕方ないな」
「やったー!」
「それより水鈴、時間はいいのか。本番前だろ」
「あーッ! いけないッ! それじゃあまた今度ねッ!」
何だか慌ただしかったなと思う。水鈴一人いるだけでこんなにも場が、空気がブワッと動くものかと。そして俺はかんなに預けていた買い物かごを引き取り、買い物へと戻っていく。何が食べたいかな。
「かんな、チキンソテーが食べたい。ガーリック利かせて」
「越谷さん、それでいいです?」
「ああ。美味そうだな」
end.
++++
こっしーさんと諏訪姉妹です。水鈴さんは安定の様相。水鈴さんはやっぱりこうでないとね! そして彼女候補と堂々と言う様よ
こっしーさんもお肉は好きだけど、諏訪姉妹は多分もっと好き。物理的に肉食系なのよね姉妹は。
さて、現時点でまだ朝霞Pにデコピンしてない時間軸です。いろいろ思うところはありそうなあれこれ。
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いつも雨の日にお世話になっているお礼です、ですー。というワケで、俺はバイト明けに諏訪姉妹の部屋にお邪魔して飯をごちそうになることになっていた。雨の日には姉妹を車に乗せてやってたんだよな。濡れるのもかわいそうだし。
姉妹の家に寄って帰るのは俺にとっては回り道だけど、諏訪姉妹の家に行くまでの間にバッティングセンターがあって、そこに行くついでにもなっていた。だから、俺にとってはバイト+雨の日はバッセンの日みたいにもなっていて。
バッセンに行くついでに姉妹を車に乗せているという感じになっていたし、別に見返りを求めてやってたワケじゃないから特段お礼のような物は必要としない。だけど、別にいいんだぞと言っても姉妹たちがそれで引き下がらないのでありがたくごちそうになることにしたんだ。
「越谷さん何が食べたいです? お肉ですか?」
「ですか?」
「ああー、肉いいな」
「お肉って言ってもいろいろありますよ? 牛、豚、鶏、羊」
「そこでナチュラルに羊を出してくるか」
「モールの中とかだと結構普通に売ってますよ。ジンギスカン以外にも、マトンカレーとか美味しいらしいですし」
「へー、マトンカレーか。美味そうだな」
ショッピングモールの中の食料品売場をうろうろしながら、何が食べたいかなあと姉妹たちは肉を物色している。俺はカゴを提げながら、お前たちが食べたい物でいいんじゃないかと進言。結局、肉が食いたいのは姉妹だからだ。いや、俺も肉は好きだけど、かんなとあやめはそれ以上な気がする。
「あーッ! 雄平ッ!」
「うわっ! 急に飛びついてくるな水鈴!」
「どーしたのこんなところでッ! ウソー凄いラッキーッ!」
「ちょっ、だからお前…!」
どうしたのこんなところではこっちのセリフだ。どこからともなく現れた水鈴が飛びついてきて、俺は完全に腕の自由がなくなってしまった。その光景を見たかんなとあやめは完全に引いている。唖然として何も言えなくなってるじゃないか。
「越谷さん、彼女いないって言ってましたよね」
「よね」
「いや、断っ……じて! 彼女ではない!」
「彼女になりたいのに」
「絶対しないからな! いい加減離れろ水鈴!」
「ンもう。あっ、アタシは雄平の彼女候補で友達の岡島水鈴っていいます。今日はこの後そこのレインボーコートでイベントがあって、そのMCの仕事で来ててーッ」
「……まあ、そういうことだ。タレントの仕事をしてる俺の友達だ。彼女ではないからな」
「念押しすると水鈴さんがかわいそうです」
「です」
「雄平、この子たちは? 見た感じ双子ちゃん?」
「ああ。俺のバイト先の後輩だ。これから飯を食うことになってて」
「えーッ! いいなーッ! 仕事じゃなかったらご一緒したかったーッ!」
何かもう一瞬で疲れた。どうやら水鈴は水を買うために食料品コーナーに足を踏み入れたところ、豆粒くらいの大きさにしか見えなかった俺を発見したという。本番前に俺に会えてラッキーだとか何とか言って手をぎゅうぎゅう握りしめてくるものだから、買い物かごは一旦かんなに預けた。
姉妹はと言えば、水鈴の姿に「タレントさんですー」「きれいですー」などと見とれているようだった。まあ、この奇行さえなければ普通にかなりの美人だと思うし、駆け出しのタレントとしての努力はクソ真面目だし言うことはないんだけど。如何せんこの奇行がな。
「水鈴さんのお仕事は今日のここ以外ならどこで見れますか?」
「ですか?」
「イベントだったら一番早いのはファンフェスかなあ」
「水鈴お前、ファンフェス出るのか」
「出るよ。あっでもステージ2ヶ所あるから気をつけてね雄平。北と南があって、アタシが出るのは南だから」
「お前、何で俺が見に行く前提で言ってんだ」
「えっ、裕貴は見に来てくれるって言ってたよ?」
「マジか」
「うん。ほら、星ヶ丘の放送部が北ステージで強行するじゃん、その査察も兼ねてるんだって」
「放送部が強行?」
裕貴が行くなら俺も行こうかな、と思ったときのことだった。水鈴の口から気になる言葉が出てきた。水鈴が仕事で上る南ステージの反対、北ステージで行われることだ。そして、水鈴の顔も一瞬で真面目なモードに切り替わる。
「雄平、最近カオルちゃんに会った?」
「……いや」
「会ってないならいいの」
「朝霞に何かあったのか」
「雄平には言わないでって言われてるから。でも、今のカオルちゃんの辛さをわかってあげられるのは多分雄平だけだから、知ってて欲しいとも思ってる。カオルちゃんに言わないでね。後でLINEするし」
「ああ、わかった」
朝霞班は、流刑地と呼ばれはみ出し者が押し込められる場所だ。朝霞は何か悪いことをしたではなく自分で選んでこの班に来た変わり者だが、その前の班長だった俺は、幹部に楯突いて流刑に遭ったという経緯がある。以来、俺は部の表舞台に立つことを許されず、事実上幽閉状態にあった。
流刑地と呼ばれる班は、代々肩身が狭い。越谷班の時は、幹部に楯突いた俺が班長だった班だからという理由がある。朝霞班はそうではない。しかし、現部長の日高が一方的に朝霞に私怨を抱いて嫌がらせをしているという話は聞く。朝霞に何かあったとするなら、日高が絡んでいると考えるのが自然だろう。
「あと、裕貴はお忍びでインターフェイスのブースも見てみたいとかで」
「インターフェイスは俺もちょっと見たいな。裕貴に声かけてみるか」
「越谷さん、私も水鈴さんのMC見たいです」
「ですー」
「引率してくださいです」
「ですー」
「ええー…?」
「雄平、2人も連れて来てあげてよ。何ちゃんだっけ」
「赤い髪留めの方がかんなで、紫の方があやめ」
「花の名前でかわいいねッ!」
「ありがとうございます」
「です」
「越谷さーん、連れてってくださーい」
「ですー」
「ったく、仕方ないな」
「やったー!」
「それより水鈴、時間はいいのか。本番前だろ」
「あーッ! いけないッ! それじゃあまた今度ねッ!」
何だか慌ただしかったなと思う。水鈴一人いるだけでこんなにも場が、空気がブワッと動くものかと。そして俺はかんなに預けていた買い物かごを引き取り、買い物へと戻っていく。何が食べたいかな。
「かんな、チキンソテーが食べたい。ガーリック利かせて」
「越谷さん、それでいいです?」
「ああ。美味そうだな」
end.
++++
こっしーさんと諏訪姉妹です。水鈴さんは安定の様相。水鈴さんはやっぱりこうでないとね! そして彼女候補と堂々と言う様よ
こっしーさんもお肉は好きだけど、諏訪姉妹は多分もっと好き。物理的に肉食系なのよね姉妹は。
さて、現時点でまだ朝霞Pにデコピンしてない時間軸です。いろいろ思うところはありそうなあれこれ。
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