2019
■繋いで結んで競い合おう
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ファンタジックフェスタに向けた班の打ち合わせは、多分この連休中に精力的に行われるんだと思う。この大連休で実家に帰る人もいるにはいるんだろうけど、うちはそんな予定ないし。って言うか実家は観光地が近いし人でごった返す。そんなところに帰るよりはこっちでのんびりしたい。
定例会の大人の事情とやらで班長を回避できたうちは、大石が班長を務める班に属することになった。ミキサーの決め方こそ伊東の職権濫用が激しかったとは圭斗が言っていた。緑ヶ丘の機材部長に代々伝わる「ミキサーは実践で育てる」の一環だとか。
班長の大石とうちがアナウンサー。そして緑ヶ丘の2年生ミキサーのLこと浅田類とかいう朝に弱そうな名前の縦に長くてひょろい男で構成された班だ。今年のインターフェイスは3年がアナに、2年はミキに人数が偏っている。その都合で能力があるとか鍛えたい2年生ミキサーは1人で1時間番組を回すことになるそうだ。
「それじゃあ、俺これからバイトがあるんで失礼します。お疲れっした」
「お疲れー」
バイトに行くというLを見送り、打ち合わせをしていたドーナツ店にはうちと大石が残された。今日の打ち合わせで大まかな番組の枠なんかは決めたから、このままアナウンサーだけで出来る話し合いを続けるのか、はたまた解散するのかは班長次第。
「ところでなっちって実家には帰らないの? 連休長いけど」
「帰る予定はないな。一応地元が観光地だから、今からだとバスも電車も取れないと思う」
「緑風だっけ?」
「ああ。連休はひたすら引き籠もってる予定だ。大石は、バイトとかか?」
「連休中は2日と3日しかバイトがないんだよね。他はお休み」
「倉庫だっけ」
「うん。例年この連休くらいまでが繁忙期で、稼ぎ時なんだ」
「学費を自分でも払ってるって凄いよなあ」
「全部じゃないよ。そもそもが大学の制度で安くしてもらってるし、兄さんの負担を少しでも軽くしたいからね。自分で払える分は払わなきゃ」
大石の両親は既に亡くなっていて、今はバーをやってる女装家の兄貴と2人暮らしをしている。そんなこともあって働けるときにはガンガン働くというスタンスだし、無駄遣いもあまりしないようにしているとか。大学の学費もある程度は自分でも払っているそうで。
せっかくの休みなのにバイトが出来ないなんてもったいない、と大石は有り余る時間の使い方を悩んでいる様子だ。うちだったら延々とゲームをやって過ごせるけど、遠出をする予定もないそうだし、特筆するような趣味がなければただ長い休みは怠いよなあと。
「なっちは、引き籠もって何するの?」
「まあ……ゲームとかになるのかなあ。パソコンで延々とスパイダーソリティアをやったり、スマホを持つようになってからはツミツミとか」
「えっ、なっちもツミツミやってるの?」
「嗜む程度にな」
「へー、そうなんだね。俺は他のゲームはあんまりやらないんだけど、ツミツミはやってるんだ」
ツミツミというパズルゲームは面白いと思う。ツミというブロックを指でなぞって繋げて消すというタイプのパズルゲームで、60秒のうちにどれだけ消してスコアを伸ばすかが問われる。これがなかなかのめり込んじゃうんだよなあ。集中し過ぎた時はこれで頭が痛くなる。
「歴は長いのか?」
「3年くらいかなあ」
「じゃあ結構やってるんだな。えっと、見せてもらうことって」
「いいよー。あっ、俺もなっちのゲーム画面見せてもらっていい?」
「じゃあ、交換するか」
スマートフォンを交換して、お互い何種類のツミを持っているのか、どれだけのイベントをこなしてきたのかなどをまじまじと見る。と言うか、大石の友達が表示されるランキングがとんでもない。
ツミツミのランキングはLINEの友達の中でツミツミをやっている人が反映される仕様なんだけど、今週2700万ほどのスコアを叩き出している大石のさらに上がいるのだ。ちなみに星大の子たちだと思われる面々もツミツミをやっているようで、300万点前後で団子状態になっている。
大石自身とそのさらに上を行く……塩見さんという人がかなりハイレベルなランカーのようだ。って言うかこの人本当に凄いな。今週は5000万か。うちは今週2500万くらいだったと思うから、まだまだ全然太刀打ち出来ない。上には上がいるモンだなあ。
「って言うかなっち、凄いね! 2500万点って」
「2700万に言われると嫌味みたいだぞ」
「ごめん、そんなつもりはなかった。でも過去最高は3400万でしょ? 俺はそこまでは出したことないもん」
「えっ、それどうやってみるんだ?」
「ここのアイコンを押すと出るよ。ランキングに載ってる友達のも見れるよ、ほらこうやって」
「へー、いいことを聞いた。じゃあさ大石、お前のランキングの1位のさ、塩見さん? て人の過去最高点なんかは見れるのか?」
「塩見さんはね、雲の上の存在だよ。あっ、俺がバイトしてる会社の社員さんなんだけどさ」
そう言って表示してくれたスコアは今週の5000万が準備体操のように見えてしまうほどのスコアで。って言うか何なんだ、1億点て。バカなんじゃないのか。曰く、そういうスコアを出せるツミというのがあって、1億はそれを猛練習して出したスコアだけど普段は使わないそうです。
「大石、多分うちらは同じようなレベルなんだと思うんだよ、ツミツミで」
「そうだね、平均2500万前後って感じで」
「ちょっと、互いに切磋琢磨をしたいと思う。良かったらLINEを」
「えっ、いいの? なっちってLINEあること実は公にしてないでしょ?」
「そうだけど、ツミツミの話となればなあ」
「わかった。それじゃあよろしくお願いします。えっと、LINEの件は言わない方がいいよね」
「そうですね、その方向でお願いします」
こうしてスマホの上でも友達として繋がると、明日からの新しい目標が出来るんだ。やっぱり、似たようなレベルの相手の数字があると熱くなると言うか。これで連休の過ごし方はほぼ決まったようなものだ。
「でもなっち、3400万点出したことある人が「嗜む程度」っていうのは違わないかな」
「細かいことを気にしてはいけない」
end.
++++
菜月さんとちーちゃんはLINEでも繋がっているという話はちょっとしていましたが、経緯がね。
塩見さんの名前もチラリと出て来てナノスパのこれからの盛り上がりを感じさせますね()
ナツちーは2年前か3年前?くらいのブームだったけど、今じゃすっかり定番化したなあ。しょうがないよねかわいいは正義なんだから
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ファンタジックフェスタに向けた班の打ち合わせは、多分この連休中に精力的に行われるんだと思う。この大連休で実家に帰る人もいるにはいるんだろうけど、うちはそんな予定ないし。って言うか実家は観光地が近いし人でごった返す。そんなところに帰るよりはこっちでのんびりしたい。
定例会の大人の事情とやらで班長を回避できたうちは、大石が班長を務める班に属することになった。ミキサーの決め方こそ伊東の職権濫用が激しかったとは圭斗が言っていた。緑ヶ丘の機材部長に代々伝わる「ミキサーは実践で育てる」の一環だとか。
班長の大石とうちがアナウンサー。そして緑ヶ丘の2年生ミキサーのLこと浅田類とかいう朝に弱そうな名前の縦に長くてひょろい男で構成された班だ。今年のインターフェイスは3年がアナに、2年はミキに人数が偏っている。その都合で能力があるとか鍛えたい2年生ミキサーは1人で1時間番組を回すことになるそうだ。
「それじゃあ、俺これからバイトがあるんで失礼します。お疲れっした」
「お疲れー」
バイトに行くというLを見送り、打ち合わせをしていたドーナツ店にはうちと大石が残された。今日の打ち合わせで大まかな番組の枠なんかは決めたから、このままアナウンサーだけで出来る話し合いを続けるのか、はたまた解散するのかは班長次第。
「ところでなっちって実家には帰らないの? 連休長いけど」
「帰る予定はないな。一応地元が観光地だから、今からだとバスも電車も取れないと思う」
「緑風だっけ?」
「ああ。連休はひたすら引き籠もってる予定だ。大石は、バイトとかか?」
「連休中は2日と3日しかバイトがないんだよね。他はお休み」
「倉庫だっけ」
「うん。例年この連休くらいまでが繁忙期で、稼ぎ時なんだ」
「学費を自分でも払ってるって凄いよなあ」
「全部じゃないよ。そもそもが大学の制度で安くしてもらってるし、兄さんの負担を少しでも軽くしたいからね。自分で払える分は払わなきゃ」
大石の両親は既に亡くなっていて、今はバーをやってる女装家の兄貴と2人暮らしをしている。そんなこともあって働けるときにはガンガン働くというスタンスだし、無駄遣いもあまりしないようにしているとか。大学の学費もある程度は自分でも払っているそうで。
せっかくの休みなのにバイトが出来ないなんてもったいない、と大石は有り余る時間の使い方を悩んでいる様子だ。うちだったら延々とゲームをやって過ごせるけど、遠出をする予定もないそうだし、特筆するような趣味がなければただ長い休みは怠いよなあと。
「なっちは、引き籠もって何するの?」
「まあ……ゲームとかになるのかなあ。パソコンで延々とスパイダーソリティアをやったり、スマホを持つようになってからはツミツミとか」
「えっ、なっちもツミツミやってるの?」
「嗜む程度にな」
「へー、そうなんだね。俺は他のゲームはあんまりやらないんだけど、ツミツミはやってるんだ」
ツミツミというパズルゲームは面白いと思う。ツミというブロックを指でなぞって繋げて消すというタイプのパズルゲームで、60秒のうちにどれだけ消してスコアを伸ばすかが問われる。これがなかなかのめり込んじゃうんだよなあ。集中し過ぎた時はこれで頭が痛くなる。
「歴は長いのか?」
「3年くらいかなあ」
「じゃあ結構やってるんだな。えっと、見せてもらうことって」
「いいよー。あっ、俺もなっちのゲーム画面見せてもらっていい?」
「じゃあ、交換するか」
スマートフォンを交換して、お互い何種類のツミを持っているのか、どれだけのイベントをこなしてきたのかなどをまじまじと見る。と言うか、大石の友達が表示されるランキングがとんでもない。
ツミツミのランキングはLINEの友達の中でツミツミをやっている人が反映される仕様なんだけど、今週2700万ほどのスコアを叩き出している大石のさらに上がいるのだ。ちなみに星大の子たちだと思われる面々もツミツミをやっているようで、300万点前後で団子状態になっている。
大石自身とそのさらに上を行く……塩見さんという人がかなりハイレベルなランカーのようだ。って言うかこの人本当に凄いな。今週は5000万か。うちは今週2500万くらいだったと思うから、まだまだ全然太刀打ち出来ない。上には上がいるモンだなあ。
「って言うかなっち、凄いね! 2500万点って」
「2700万に言われると嫌味みたいだぞ」
「ごめん、そんなつもりはなかった。でも過去最高は3400万でしょ? 俺はそこまでは出したことないもん」
「えっ、それどうやってみるんだ?」
「ここのアイコンを押すと出るよ。ランキングに載ってる友達のも見れるよ、ほらこうやって」
「へー、いいことを聞いた。じゃあさ大石、お前のランキングの1位のさ、塩見さん? て人の過去最高点なんかは見れるのか?」
「塩見さんはね、雲の上の存在だよ。あっ、俺がバイトしてる会社の社員さんなんだけどさ」
そう言って表示してくれたスコアは今週の5000万が準備体操のように見えてしまうほどのスコアで。って言うか何なんだ、1億点て。バカなんじゃないのか。曰く、そういうスコアを出せるツミというのがあって、1億はそれを猛練習して出したスコアだけど普段は使わないそうです。
「大石、多分うちらは同じようなレベルなんだと思うんだよ、ツミツミで」
「そうだね、平均2500万前後って感じで」
「ちょっと、互いに切磋琢磨をしたいと思う。良かったらLINEを」
「えっ、いいの? なっちってLINEあること実は公にしてないでしょ?」
「そうだけど、ツミツミの話となればなあ」
「わかった。それじゃあよろしくお願いします。えっと、LINEの件は言わない方がいいよね」
「そうですね、その方向でお願いします」
こうしてスマホの上でも友達として繋がると、明日からの新しい目標が出来るんだ。やっぱり、似たようなレベルの相手の数字があると熱くなると言うか。これで連休の過ごし方はほぼ決まったようなものだ。
「でもなっち、3400万点出したことある人が「嗜む程度」っていうのは違わないかな」
「細かいことを気にしてはいけない」
end.
++++
菜月さんとちーちゃんはLINEでも繋がっているという話はちょっとしていましたが、経緯がね。
塩見さんの名前もチラリと出て来てナノスパのこれからの盛り上がりを感じさせますね()
ナツちーは2年前か3年前?くらいのブームだったけど、今じゃすっかり定番化したなあ。しょうがないよねかわいいは正義なんだから
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