2019
■バーガーバーガーたまにチーズ
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金曜日の深夜、緑ヶ丘大学4号館の401教室は人でごった返してバタバタしていた。どうして日付も変わろうかというこんな時間に学生がバタバタと走り回っているのか。それは、明日から3日間の日程で行われる文化会発表会という行事のため。
アタシは今年入学して美術部に入ったばかりだけど、いるなら準備を手伝えと駆り出されている。文化会発表会というのは緑大の文化部が集まって日頃の活動の成果を発表するという、その名前通りの行事なんだけど、新入生勧誘イベントも兼ねているとか。
美術部は当日壇上で何かを発表するワケじゃなくて事前に制作した作品を展示する。だけど作品の運搬や展示はもう済んでるから、これから手伝うのは全体のこと。でも特に指示がないから教室の中でバタバタ走り回る人たちを眺めるだけになっている。
「あれ、あずみんちゃん」
「あ、関さん。どーも」
ヒマしてたアタシに声を掛けて来たのは出版部の3年生、関さん。こないだウチの部室に部誌の表紙を取り立てに来たときに少し話したくらいの間柄だけど。この人大人しそうな見た目だけど案外コミュ力高いんだね。
「出版さんは当日何かあるんですか」
「ウチはほらあ、冊子でおしまいですからあ」
「ああ、何か配るんでしたっけ」
この発表会では、来場者に文化部の紹介冊子を配布することになっている。その冊子を作ったのが出版部で、出版部はその配布を活動報告に代えるらしい。美術部とタイプは似てる感じだね、当日はほとんど何もしなくていいっていう。
ちなみに当日はいろんな部活の発表を座って見てる感じになるらしいんだけど、演劇部や軽音部はそれこそ壇上でのパフォーマンスだし、鉄道研究会や考古学研究会なんかはスライドでの発表になったりするらしい。スライドか、起きてられる自信ないし。
「関さん例によって出版の部長さんに駆り出されてる感じです?」
「ですよ! も~う、金曜日の夜なんて一番楽しい時なのにい!」
「バイトもない日の前の夜って多少夜更かししても余裕ですもんね。アタシアニメ消化とかゲームとかで徹夜しますし」
「あたしは読書と録画した番組の編集かなあ」
こないだ少し話して察したんだけど、関さんはこっち側の人間のようだ。こっち側、というのは一般人かオタクかで言えばオタク側の人間であるということ。アタシとジャンルかぶりがあるかどうかまではわかんなかったけど、少なくともパンピーではない。
今だって、読書だの録画した番組の編集だのって言ってるけどその“読書”がどんな本を意味するのか、録画した番組はどんな番組なのかは闇の中だ。まあ、文学部だけあって本当の本当にガチガチの本かもしれないけど。
「おーい、夜食来たぞー!」
教室の入り口の方で、誰かの叫び声が響く。夜食が出て来るということは、作業はまだまだ続くということ。って言うかぶっちゃけ関さんと喋ってるだけで何もしてないしアタシ帰ってもそんなに影響なくない? 的な。
「出たよ、今年も」
「何かあるんです?」
「見ればわかるよ。毎年夜食はこれだから」
夜食を買い出しに行っていたらしい人たちが、それを机の上にドサドサと置いて中身を並べていく。丸い形をした紙の包みが延々と積み重ねられていって、ピラミッドか何かを彷彿とする三角形が完成しつつある。
「何あれ」
「ああ、いた。安曇野、お前も夜食もらいに行けよ」
「美和さん買い出し隊だったんですか」
「チーズバーガーが欲しいなら早く行かないと無くなるぞ、あんまり数がないから。ああ、関さんどうも」
「あずささんお疲れ様です」
「何か、安曇野の面倒を見てもらってるみたいで」
「あたしの暇潰しに付き合ってもらってるんですよお」
「関さんも夜食どうぞ。例年通り2種類しかないですけど」
「ですよねえ。それじゃあお言葉に甘えて。あずみんちゃん、お夜食もらいに行こう」
例の三角形が築かれた机まで教室の傾斜を上っていくと、どんどん匂いが強くなってくる。なるほど、ハンバーガーね。ハンバーガーが100個とか200個というレベルで積み重ねられている。その中に少しだけ混ぜられたチーズバーガーの包みだ。本当に少ししかないし。
アタシはチーズバーガーを、関さんはハンバーガーをひとつもらって元いた席へと下っていく。でも、どこにこれだけいたんだって人が夜食に群がって来てるから、文化部の規模も案外凄いらしい。緑大と言えば体育会系が注目されがちだけどね。
「てかぬるっ」
「これだけたくさんあったら待ち時間もまああるだろうからねえ。このぬるさも文化会発表会ですよ」
「毎年これ?」
「毎年これ」
このハンバーガーのタワーかピラミッドが積まれると、発表会前夜だなあという感じがするそうだ。アタシも来年はそんな風に思うのだろうか。来年は多分がっつり作品を作って展示してるだろうから今年よりは実感もあるんだろうけど。
「……帰りたいよお…! SDXの通知が、通知が…!」
「出版の部長さんが帰してくれますかねえ」
「ムリい~…!」
end.
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緑大の文化会発表会前夜です。昨年度末くらいにミソノがバーガータワーを作っていましたが、それならやっとかんとな、と。
何か今年度あずみんとみなもちゃんがやたら仲良し。まあ、この段階でまだミソノおらんしな。そんなモンか
と言うかみなもちゃんよ、スマートフォンがあるならSDXの動画は見られるんじゃないのかい?
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金曜日の深夜、緑ヶ丘大学4号館の401教室は人でごった返してバタバタしていた。どうして日付も変わろうかというこんな時間に学生がバタバタと走り回っているのか。それは、明日から3日間の日程で行われる文化会発表会という行事のため。
アタシは今年入学して美術部に入ったばかりだけど、いるなら準備を手伝えと駆り出されている。文化会発表会というのは緑大の文化部が集まって日頃の活動の成果を発表するという、その名前通りの行事なんだけど、新入生勧誘イベントも兼ねているとか。
美術部は当日壇上で何かを発表するワケじゃなくて事前に制作した作品を展示する。だけど作品の運搬や展示はもう済んでるから、これから手伝うのは全体のこと。でも特に指示がないから教室の中でバタバタ走り回る人たちを眺めるだけになっている。
「あれ、あずみんちゃん」
「あ、関さん。どーも」
ヒマしてたアタシに声を掛けて来たのは出版部の3年生、関さん。こないだウチの部室に部誌の表紙を取り立てに来たときに少し話したくらいの間柄だけど。この人大人しそうな見た目だけど案外コミュ力高いんだね。
「出版さんは当日何かあるんですか」
「ウチはほらあ、冊子でおしまいですからあ」
「ああ、何か配るんでしたっけ」
この発表会では、来場者に文化部の紹介冊子を配布することになっている。その冊子を作ったのが出版部で、出版部はその配布を活動報告に代えるらしい。美術部とタイプは似てる感じだね、当日はほとんど何もしなくていいっていう。
ちなみに当日はいろんな部活の発表を座って見てる感じになるらしいんだけど、演劇部や軽音部はそれこそ壇上でのパフォーマンスだし、鉄道研究会や考古学研究会なんかはスライドでの発表になったりするらしい。スライドか、起きてられる自信ないし。
「関さん例によって出版の部長さんに駆り出されてる感じです?」
「ですよ! も~う、金曜日の夜なんて一番楽しい時なのにい!」
「バイトもない日の前の夜って多少夜更かししても余裕ですもんね。アタシアニメ消化とかゲームとかで徹夜しますし」
「あたしは読書と録画した番組の編集かなあ」
こないだ少し話して察したんだけど、関さんはこっち側の人間のようだ。こっち側、というのは一般人かオタクかで言えばオタク側の人間であるということ。アタシとジャンルかぶりがあるかどうかまではわかんなかったけど、少なくともパンピーではない。
今だって、読書だの録画した番組の編集だのって言ってるけどその“読書”がどんな本を意味するのか、録画した番組はどんな番組なのかは闇の中だ。まあ、文学部だけあって本当の本当にガチガチの本かもしれないけど。
「おーい、夜食来たぞー!」
教室の入り口の方で、誰かの叫び声が響く。夜食が出て来るということは、作業はまだまだ続くということ。って言うかぶっちゃけ関さんと喋ってるだけで何もしてないしアタシ帰ってもそんなに影響なくない? 的な。
「出たよ、今年も」
「何かあるんです?」
「見ればわかるよ。毎年夜食はこれだから」
夜食を買い出しに行っていたらしい人たちが、それを机の上にドサドサと置いて中身を並べていく。丸い形をした紙の包みが延々と積み重ねられていって、ピラミッドか何かを彷彿とする三角形が完成しつつある。
「何あれ」
「ああ、いた。安曇野、お前も夜食もらいに行けよ」
「美和さん買い出し隊だったんですか」
「チーズバーガーが欲しいなら早く行かないと無くなるぞ、あんまり数がないから。ああ、関さんどうも」
「あずささんお疲れ様です」
「何か、安曇野の面倒を見てもらってるみたいで」
「あたしの暇潰しに付き合ってもらってるんですよお」
「関さんも夜食どうぞ。例年通り2種類しかないですけど」
「ですよねえ。それじゃあお言葉に甘えて。あずみんちゃん、お夜食もらいに行こう」
例の三角形が築かれた机まで教室の傾斜を上っていくと、どんどん匂いが強くなってくる。なるほど、ハンバーガーね。ハンバーガーが100個とか200個というレベルで積み重ねられている。その中に少しだけ混ぜられたチーズバーガーの包みだ。本当に少ししかないし。
アタシはチーズバーガーを、関さんはハンバーガーをひとつもらって元いた席へと下っていく。でも、どこにこれだけいたんだって人が夜食に群がって来てるから、文化部の規模も案外凄いらしい。緑大と言えば体育会系が注目されがちだけどね。
「てかぬるっ」
「これだけたくさんあったら待ち時間もまああるだろうからねえ。このぬるさも文化会発表会ですよ」
「毎年これ?」
「毎年これ」
このハンバーガーのタワーかピラミッドが積まれると、発表会前夜だなあという感じがするそうだ。アタシも来年はそんな風に思うのだろうか。来年は多分がっつり作品を作って展示してるだろうから今年よりは実感もあるんだろうけど。
「……帰りたいよお…! SDXの通知が、通知が…!」
「出版の部長さんが帰してくれますかねえ」
「ムリい~…!」
end.
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緑大の文化会発表会前夜です。昨年度末くらいにミソノがバーガータワーを作っていましたが、それならやっとかんとな、と。
何か今年度あずみんとみなもちゃんがやたら仲良し。まあ、この段階でまだミソノおらんしな。そんなモンか
と言うかみなもちゃんよ、スマートフォンがあるならSDXの動画は見られるんじゃないのかい?
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