2019

■四次元胃袋の暗躍

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 緑ヶ丘大学社会学部メディア文化学科佐藤久ゼミ。エリア一、全国でも指折りのサブカル・メディアゼミを自称している緑大社会学部の花形ゼミだ。……というのがヒゲの言ってることね。でも実際大学のど真ん中にあるセンタービルのど真ん中にガラス張りのラジオブースとか作っちゃってるもんね。
 座学もやるけど実践型メディア学習っていうのに興味があってアタシは佐藤ゼミに入った。ヒゲの人間性は本当にクズだしゴミだって思ってるけど、それを抜きにして勉強はちゃんとやると決めている。まだまだ入ったばっかりだからラジオブースには入ったことないんだけどね。
 昼のラジオは主に3年生が担当していて、曜日によってテーマが違う。月曜日が時事、火曜日がスポーツ……みたいな感じで。その番組を持てるのも選ばれた人……と言うかヒゲのお気に入りだけなんだとか。番組は持ちたいけどヒゲに媚は売りたくないなあと今からそんなことを心配している。

「ところで君たち、そろそろバーベキューのことも話し合いなさいよ。岡山君、君ちょっと司会してくれる」
「何を決めたらいいですか」
「お金の使い道だね。予算は各学年2万円。それ以内だったら何に使ってもいいけど2年生はお酒禁止ね。一応バーベキューが終わってから打ち上げするのも自由だけど、問題は起こさないように。炭や調理道具なんかは現地にあるから、用意するのは口に入る物だけでいいよ。例年2年生は食材余らせちゃうから、割合なんかも考えとくといいかもね」

 佐藤ゼミでは春に全学年合同のバーベキュー大会が行われる。正規のゼミの時間にやるんじゃなくて、水曜日の4限とかに非公式でやってるゼミの課外活動の枠があって、そこで。このバーベキューに関しても来るのは全学年だけど網とかは独立してるから、2年生は2年生でって感じらしい。
 話し合いを学生に投げたヒゲは、ゼミ室として占拠しているスタジオ教室の奥にある防音仕様の録音室に籠ってしまった。特に何か作業があるでもなく、単にネサフしてるんだと思うけど。一応小窓からこっちのことは見てるみたいだから下手なことも出来ない。

「それではバーベキューの話し合いを始めたいと思います。まず、幹事ですけど誰かやりたい人はいますか」
「桃華、幹事やったら買い出し王になっていいってことだよね?」
「果林以外で誰かいますかー?」
「ちょおっとお! 何で無視した!」
「アンタが買い出し王なんかになったら間違いなく荒れる。誰か、一般的な感覚と胃袋を持った人で幹事やりますって人はいますかー?」

 この岡山桃華がね。高校の頃からの付き合いだけにアタシのいろんなことを知ってて頼もしいやら今回のケースに関しては腹立たしいやら。だってバーベキューだよ? しっかり買い物してこないとすぐ食べ物なくなっちゃうじゃん。

「はい、じゃあ俺やります」
「それじゃあ小田君に幹事をお願いします。それでいい人は拍手をお願いします」

 パチパチと拍手が鳴り、バーベキューの幹事は小田ちゃんに決まった。いくら2か月前にゼミ合宿に行ったからって言って、2年生のこの段階で誰がどんな人かなんか全然わかんないよね。元々友達とか知ってる人ならともかく。まだ名前覚えてない人とかも全然いるし。
 小田ちゃんはその友達のひらっちゃんと一緒にゼミ合宿のときにご飯食べてるからちょっと知ってるんだよね。って言うかアタシが用意してた非常食取られたし。取られっぱなしじゃいられないからその後でその分返してもらったけどさ。

「それでは改めまして、幹事になりました小田です。よろしくお願いします。これから食材について決めていきたいと思います。とりあえず食べたい物を挙げてもらって、そこから絞って行きましょう」
「はいはーい!」
「はい、千葉さん」
「塊肉買いましょう!? それを切ったり漬けこんだりして加工してコストダウンを図るの!」

 これにみんなざわついちゃってるけど、これっくらいはやらないと安く量を確保出来ないですよねー。大人しくアタシを買い出し王にしておけばよかったのに。回りくどいことするから桃華はー。

「……あの、岡山さん、千葉さんの発言って拾っていくべき?」
「基本無視で、使えそうなのがあれば拾えばいいよ。果林アンタ、塊肉買って加工して? 誰がどこでやるの」
「えっ、アタシが上の給湯室とかでやればいっかなーって」
「中毒とか出さないよね?」
「ちゃんと焼いて食べるから問題なくない? ねえひらっちゃん」
「なして俺に振った!?」
「ひらっちゃんいっぱい食べそうだなーと思って」
「千葉ちゃんほどは食わんよ!?」

 完全に体の大きさだけの印象で言ってるよね。ひらっちゃんゼミの中でも背高い方だし体も大きいし。太ってるワケじゃないしバリバリの体育会系ってワケでもないけど、体大きい人は食べそうな印象。あっ、アタシが小さい方だから説得力ないか。

「えっと、塊肉の他に何かありますか」
「焼きそばとか?」
「俺は肉の他に海鮮も欲しいな。イカとかエビとか」
「ひらっちゃんそれならホタテも焼こう」
「お~、いいね小田ちゃん、日本酒欲しくなるね~。禁止なのツラいな~」
「そうだ、打ち上げにはいくらほど回そうか。えっ、もしかしてバーベキューの幹事って打ち上げの幹事も兼任?」
「……になるんだろうねえ」
「そうか~……わかったぁ~」

 ここでの発言はごくごく普通に、使われそうな普通の案を出していけばいい。買い出しについて行ったときに量を増やせばいいだけのこと。暗躍する時と場所は考えなきゃね。それが食糧戦争を生き抜くコツですよ。例年2年生は食材を余らせる? 今年は余らないんですよねー、アタシが食べちゃうから。

「はいはいはーい!」
「はい、千葉さん。怖いけどどうぞ」
「フランクフルトとかあったら楽しいと思いまーす!」
「あ、それはいいね」
「でしょ!? ですよねー」


end.


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公式学年+1年でない佐藤ゼミの話はナノスパが始まってから地味にほとんどやっていません。
純粋に2年生の果林たちがきゃっきゃしてるんだけど、まあこうなるわなあ。秋には店長が店長になる件とかやりたいですね
パパと娘がきゃっきゃしてるの楽しいからどんどんやっていきたい。CP構想にならないこういうきゃっきゃしてるのかわいすぎ問題

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