2019
■MMP Spring Direction
++++
「しかしまあ、難しいね」
「何を優先するべきか、っていう話だろ」
昔はサークル室や宿泊施設としてしっかりと利用されていた向島大学サークル棟の3階だけど、今では人の出入りが頻繁にあるワケでもなく、大学祭前の大きな作業やちょっとした打ち合わせでロビーを使うくらいになってしまっている。
閑散として心なしかひんやりとした3階ロビーでうちは圭斗と紙を広げて話し合いをしていた。何を決めているのかというと、5月から始めるMMP昼放送の枠とペアだ。いつだってペア編成には事情が絡む。インターフェイスだろうとMMPだろうとそれは変わらない。
MMPでは昼休みに食堂で昼放送を流させてもらっている。去年の春までは生放送でやってたんだけど、夏休みの間に機材が変わって生放送が出来なくなり、現在では収録スタイルを採用して。つまり、ペア編成にはオンエア日と収録日の都合が合わなければならないのだ。
春学期は基本的に2・3年生の活動になる。だから今いるメンバーの履修表やバイトの予定なんかと睨み合いながらペアを組んでいくことになるんだけど……それがなかなか難しい。極力あまり組んだことのないペアで、などと言っていると決まらなくなるくらいには。
「理系2年の扱いが難しいね」
「――というと、ノサカとヒロか」
「如何せん授業がギチギチに詰まってるだろ。まあ、ヒロはまだアナだからオンエア日に関してはミキサーに任せてもいいんだけど、問題は野坂だ。収録にしろオンエアにしろ空きがありゃしない」
「まあ、文系と比べるのもな」
「菜月、そこでだ」
「うん」
「今期も菜月・野坂ペアで行こうと考えてるんだよ僕は」
「2期連続になるぞ」
「ん、それはわかってる。だけど、収録の都合だね。平日に予定がつかない以上、昨クールと同じく土曜編成で行ってもらうしかないだろう」
去年の秋、うちはノサカとペアを組んでいた。平日には履修の都合やらでなかなか収録の予定が付かなかったんだけど、2人とも現状バイトをしていないということで土曜日に収録するという形でやっていた。圭斗はその形を採ろうというのだ。
「ちなみに、ノサカと他のアナウンサーの予定は合わないのか?」
「見事なまでに合わないんだよ」
「ヒロなんか、ほぼ一緒の履修なんだから合いそうなモンだけど」
「ヒロはバイトの都合もあるからね。学生ニートとは違うんだよ」
「ニートって言うな、エデュケーションはしてるぞ」
「野坂はね」
「失礼なヤツだな、サボりの頻度は学年が上がって下がってるんだぞ」
「今は梅雨時に向けてストックしてる段階なんじゃないのかな」
「む」
うちだって好きでバイトをしてないんじゃない。最近じゃWEB申し込みフォームだって充実してるけど、最終的に採用不採用と決めるのは面接だ。電話が出来ない上に人と接することが極度に苦手な人間がバイトの面接に行けるはずもなく現在に至っている。如何せんバイトは客商売が多すぎるんだ。
それはそうと、仮にこのままノサカとペアになったとして、まーたオンエアの度に授業はサボるなだの光熱費はちゃんと払えだのと説教を垂れ流されるのも非常によろしくない。アイツはいちいち小うるさいんだ、それでお前にどんな迷惑がかかってるっていうんだ。
「とりあえず、組み合わせの真新しさよりペアの数を優先するっていう方針はわかった」
「ん、理解いただけて助かるよ。如何せん、組んだことの有り無しを優先にするとサークル活動の本質が消えてしまうからね」
「まったくだ」
平日は月から金までの5日間ある。だけど、現状4人のアナウンサーと3人のミキサーで出来るペアは3ペアになる。履修登録の都合はともかく、ペアを組んだことの有無なんかを優先にしてしまうとただでさえ少ない人数の中から選択肢を削ってしまうことになって、組めるペアが無くなるのだ。
サークル活動の維持という圭斗の意思は理解したところで、改めてうちとノサカペア以外の組み合わせを考えていくんだ。残るアナウンサーは圭斗、三井、ヒロの3人。そしてミキサーはカンザキとりっちゃんだ。
「と言うか、三井は適当に泳がせておいて問題なくないか? いつだって僕はマルチでだって出来るんだよとか何とかってイキってるんだから」
「そもそもミキサー陣と予定が合わないからね、最初からそのつもりだったよ。僕とりっちゃんを金曜日に、ヒロと神崎をまあ……木曜日辺りに入れるのがカレンダー的には無難かなと。ところで菜月、サボれない授業は何曜日に入れてるんだい?」
「火曜日だ」
「じゃあ、菜月・野坂ペアは火曜日オンエアで行こう」
「助かります」
サークルがあるからどうせ大学には来なきゃいけない。そういう理由づけをしてサボれない授業はサークル活動日の午後や昼放送のオンエア日に固めるようにしていた。それがうちの授業出席率を上げる秘訣なのだ。
と言うか、社会学部のメディアコースは社学の他のコースと違って学年がある程度上がらないと興味ある授業が増えないのがキツい。それを知りもしないであのヘンクツ理系男はまあ言いたい放題だなと。現社コースのりっちゃんだの、福祉コースのカンザキと一緒にするなと。
「よし、とりあえずはこれで決定ということで、今日のサークルで発表するのでいいかな」
「いいでーす」
end.
++++
MMPの昼放送のペア決めの話ですが、何か菜月さんがノサカに文句言ってばっかり。でもこの時期って多分本来そんな感じ。
圭斗さんの方針には特に文句もなくするりと納得したようです。サークルや放送に関するスタンスは近い2人です。
そう言えばナツノサっていうゴールデンペアのオンエア日ってそんな事情で決まってるんでしたね……
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「しかしまあ、難しいね」
「何を優先するべきか、っていう話だろ」
昔はサークル室や宿泊施設としてしっかりと利用されていた向島大学サークル棟の3階だけど、今では人の出入りが頻繁にあるワケでもなく、大学祭前の大きな作業やちょっとした打ち合わせでロビーを使うくらいになってしまっている。
閑散として心なしかひんやりとした3階ロビーでうちは圭斗と紙を広げて話し合いをしていた。何を決めているのかというと、5月から始めるMMP昼放送の枠とペアだ。いつだってペア編成には事情が絡む。インターフェイスだろうとMMPだろうとそれは変わらない。
MMPでは昼休みに食堂で昼放送を流させてもらっている。去年の春までは生放送でやってたんだけど、夏休みの間に機材が変わって生放送が出来なくなり、現在では収録スタイルを採用して。つまり、ペア編成にはオンエア日と収録日の都合が合わなければならないのだ。
春学期は基本的に2・3年生の活動になる。だから今いるメンバーの履修表やバイトの予定なんかと睨み合いながらペアを組んでいくことになるんだけど……それがなかなか難しい。極力あまり組んだことのないペアで、などと言っていると決まらなくなるくらいには。
「理系2年の扱いが難しいね」
「――というと、ノサカとヒロか」
「如何せん授業がギチギチに詰まってるだろ。まあ、ヒロはまだアナだからオンエア日に関してはミキサーに任せてもいいんだけど、問題は野坂だ。収録にしろオンエアにしろ空きがありゃしない」
「まあ、文系と比べるのもな」
「菜月、そこでだ」
「うん」
「今期も菜月・野坂ペアで行こうと考えてるんだよ僕は」
「2期連続になるぞ」
「ん、それはわかってる。だけど、収録の都合だね。平日に予定がつかない以上、昨クールと同じく土曜編成で行ってもらうしかないだろう」
去年の秋、うちはノサカとペアを組んでいた。平日には履修の都合やらでなかなか収録の予定が付かなかったんだけど、2人とも現状バイトをしていないということで土曜日に収録するという形でやっていた。圭斗はその形を採ろうというのだ。
「ちなみに、ノサカと他のアナウンサーの予定は合わないのか?」
「見事なまでに合わないんだよ」
「ヒロなんか、ほぼ一緒の履修なんだから合いそうなモンだけど」
「ヒロはバイトの都合もあるからね。学生ニートとは違うんだよ」
「ニートって言うな、エデュケーションはしてるぞ」
「野坂はね」
「失礼なヤツだな、サボりの頻度は学年が上がって下がってるんだぞ」
「今は梅雨時に向けてストックしてる段階なんじゃないのかな」
「む」
うちだって好きでバイトをしてないんじゃない。最近じゃWEB申し込みフォームだって充実してるけど、最終的に採用不採用と決めるのは面接だ。電話が出来ない上に人と接することが極度に苦手な人間がバイトの面接に行けるはずもなく現在に至っている。如何せんバイトは客商売が多すぎるんだ。
それはそうと、仮にこのままノサカとペアになったとして、まーたオンエアの度に授業はサボるなだの光熱費はちゃんと払えだのと説教を垂れ流されるのも非常によろしくない。アイツはいちいち小うるさいんだ、それでお前にどんな迷惑がかかってるっていうんだ。
「とりあえず、組み合わせの真新しさよりペアの数を優先するっていう方針はわかった」
「ん、理解いただけて助かるよ。如何せん、組んだことの有り無しを優先にするとサークル活動の本質が消えてしまうからね」
「まったくだ」
平日は月から金までの5日間ある。だけど、現状4人のアナウンサーと3人のミキサーで出来るペアは3ペアになる。履修登録の都合はともかく、ペアを組んだことの有無なんかを優先にしてしまうとただでさえ少ない人数の中から選択肢を削ってしまうことになって、組めるペアが無くなるのだ。
サークル活動の維持という圭斗の意思は理解したところで、改めてうちとノサカペア以外の組み合わせを考えていくんだ。残るアナウンサーは圭斗、三井、ヒロの3人。そしてミキサーはカンザキとりっちゃんだ。
「と言うか、三井は適当に泳がせておいて問題なくないか? いつだって僕はマルチでだって出来るんだよとか何とかってイキってるんだから」
「そもそもミキサー陣と予定が合わないからね、最初からそのつもりだったよ。僕とりっちゃんを金曜日に、ヒロと神崎をまあ……木曜日辺りに入れるのがカレンダー的には無難かなと。ところで菜月、サボれない授業は何曜日に入れてるんだい?」
「火曜日だ」
「じゃあ、菜月・野坂ペアは火曜日オンエアで行こう」
「助かります」
サークルがあるからどうせ大学には来なきゃいけない。そういう理由づけをしてサボれない授業はサークル活動日の午後や昼放送のオンエア日に固めるようにしていた。それがうちの授業出席率を上げる秘訣なのだ。
と言うか、社会学部のメディアコースは社学の他のコースと違って学年がある程度上がらないと興味ある授業が増えないのがキツい。それを知りもしないであのヘンクツ理系男はまあ言いたい放題だなと。現社コースのりっちゃんだの、福祉コースのカンザキと一緒にするなと。
「よし、とりあえずはこれで決定ということで、今日のサークルで発表するのでいいかな」
「いいでーす」
end.
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MMPの昼放送のペア決めの話ですが、何か菜月さんがノサカに文句言ってばっかり。でもこの時期って多分本来そんな感じ。
圭斗さんの方針には特に文句もなくするりと納得したようです。サークルや放送に関するスタンスは近い2人です。
そう言えばナツノサっていうゴールデンペアのオンエア日ってそんな事情で決まってるんでしたね……
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