2019
■覆すアンラッキースター
++++
「かんな、あやめ。どうだ? バイトには慣れてきたか?」
「はい、おかげさまで少しずつですけど慣れて来てます」
「です」
「そうか、それならよかった」
「それも教育係がいいからです、さすが越谷さんです」
「です」
「おだてても何も出ないぞ」
同じ背格好に同じ服、違うところがあるとすれば髪留めの色と喋り方くらいの一卵性双生児、諏訪かんな・あやめ姉妹。俺はこの2人の教育係として同じバイト先で働いている。このオフィスでの仕事内容というのが、結婚式場で流す映像制作になる。
俺は単純にこういう仕事もあるんだな、楽しそうだなと思って始めたクチだけど、諏訪姉妹はガチだ。2人は青敬の映像系の学部に在籍していて、サークルも放送サークルに入ったらしい。青敬のサークルっつったら映像メインだってことは知識としてはある。
学校でもサークルでも映像編集をやって、さらにバイトでまでやるとか本当に好きなんだなあと感心したのも束の間、社員さんから「じゃあ越谷君2人の教育係ってことでよろしくね」と有無を言わさず決められてしまったのだ。まあ、言われたからにはやるけど。
「そう言えば、越谷さんて星ヶ丘ではどんなことを勉強してるんですか?」
「ですか?」
「こないだ自分たちのことばっかり喋ってて聞くの忘れたんです」
「です」
「俺か? 俺は人体の構造と義肢についての勉強を主にしてる」
「義肢ですか。越谷さんスポーツ好きそうですし、パラスポーツとかも見るんです?」
「です?」
「そうだな、オリンピックも好きだけど興味はパラリンピックの方が強いかな。最近はどんな種目があるのかを調べるのが好きかもしれない」
映像編集なんかをやっていると前のめりになりがちで本当に疲れる。だから適度に休憩を挟みながらの作業になる。6月に向けた映像の注文なんかもたくさんあるし、しばらくは忙しいんだろうなと。甘めの缶コーヒーを手に、諏訪姉妹のお喋りを聞く。
ちなみに、長めの文章で喋るのが赤い髪留めをした姉のかんな。そして、かんなの後に「です」とか「ます」と続けて言葉の威力を二乗するのが紫の髪留めをした妹のあやめだ。口数が少ないものの、別に長文で喋らないわけではない。かんなと同じことを言いたいときに言葉を借りる感覚なんだとか。
「それはそうと、越谷さんが今作ってるのって、6月8日分じゃないですか」
「そうだな」
「仏滅に結婚式をやるんだーって、少しビックリしたですよ」
「です」
「ああー、六曜な。確かに大安の日が一番縁起がいいっていう風に言われて結婚式も一番多いけど、最近はそれを気にしない人もいるにはいるんだ」
「所詮占いだからです?」
「です?」
「わかんないけど、時代なのかもしれないな。でも仏滅に結婚式をやろうって人は少ないから結婚式場の値段が安かったり、競合しないから予約しやすかったりするっていうメリットがあるとは聞いたことがある」
「へー」
「へー」
冠婚葬祭では六曜を目安にいつ何をしようと決めることもまあある。友引に葬式をしないとか。結婚式は大安がいいとか。まあ、言っても占いだから当たるも八卦当たらぬも八卦なんだよな。宝くじを大安に買うとかそんなレベルのゲン担ぎだ。
何だかんだ結婚式は好きな時にやればいいんだ。確かに、親やその他の身内からの理解を得なきゃいけないんだろうけど、みんなが一番集まりやすい日がたまたま仏滅だったというだけのことでその日を諦めるのもなと。どういう式にしたいかで決めるべきものだと思う。
まだまだ俺が結婚式どうこうを自分がやるとするならという立場で考えるには早いけど、仕事という面で考えても、六曜どうこうを抜きにして精一杯作品を作ってお膳立てできればなと。と言うか、下手に結婚式とかそんな単語を出そう物ならどこかの誰かが飛んで来そうでうかうか口にも出来ないっていう。
「でも、結婚式……憧れますー」
「おっ、やっとちゃんと喋ったかあやめ。結婚式に憧れるって、女子って感じだな」
「自分が挙げたいとかじゃなくて、結婚式場とか花嫁さんの写真を撮りたいんです」
「あ、そっちか」
諏訪姉妹は趣味でも作品制作をしているんだとか。あやめは写真を撮るのが趣味で、住んでいるマンションの近くを散歩しては被写体を探しているそうだ。かんなは家に籠ってコマ撮りアニメを制作中らしい。作品制作のスタンスは双子と言えども少々異なるようだ。
「かんなはどうだ? 結婚式は」
「まあ……いつかは、と思わないこともないですけど、今はイメージ出来ないですね」
「まあそうだよな、そんなモンか」
「越谷さんはどうなんですか!?」
「です!」
「彼女とか!」
「あー残念。彼女はいないし結婚式どうこうも自分のことは考えたことなんかないからな」
「越谷さん優しいのに本当に彼女いないんです?」
「です」
今の俺にはまだまだ結婚式なんてバイトの上での行事でしかないし、周りで誰かが結婚するとかしないとかっていう話もなかなか聞かない。言ってもまだ大学生だし結婚なんてまだ先の話だろう。そりゃあ、俺もいつかは結婚をするんだろうけど、今はまだイメージ出来ない。
「優しいだけじゃ彼女は出来ないんだ。ほら、そろそろ仕事戻るぞ」
「はーい」
「はーい」
逃げと言われるかもしれないけど、本当にそうなんだから仕方ない。その時が来てから考え始めたって遅くはないはずだ。
end.
++++
久々にこっしーさんと諏訪姉妹です。ですー。何だか久し振りね。つまり今年はファンフェスでのターンがあるのかしら
さて、仏滅どうこう、六曜のお話も少し。この話を書くにあたって少し調べたのですが、仏滅なりの利点もあるようですね。かしこくなった
昨日の水鈴さんが真面目な感じだったので、いつものアレな水鈴さんの話も近々にやりたいですねw
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「かんな、あやめ。どうだ? バイトには慣れてきたか?」
「はい、おかげさまで少しずつですけど慣れて来てます」
「です」
「そうか、それならよかった」
「それも教育係がいいからです、さすが越谷さんです」
「です」
「おだてても何も出ないぞ」
同じ背格好に同じ服、違うところがあるとすれば髪留めの色と喋り方くらいの一卵性双生児、諏訪かんな・あやめ姉妹。俺はこの2人の教育係として同じバイト先で働いている。このオフィスでの仕事内容というのが、結婚式場で流す映像制作になる。
俺は単純にこういう仕事もあるんだな、楽しそうだなと思って始めたクチだけど、諏訪姉妹はガチだ。2人は青敬の映像系の学部に在籍していて、サークルも放送サークルに入ったらしい。青敬のサークルっつったら映像メインだってことは知識としてはある。
学校でもサークルでも映像編集をやって、さらにバイトでまでやるとか本当に好きなんだなあと感心したのも束の間、社員さんから「じゃあ越谷君2人の教育係ってことでよろしくね」と有無を言わさず決められてしまったのだ。まあ、言われたからにはやるけど。
「そう言えば、越谷さんて星ヶ丘ではどんなことを勉強してるんですか?」
「ですか?」
「こないだ自分たちのことばっかり喋ってて聞くの忘れたんです」
「です」
「俺か? 俺は人体の構造と義肢についての勉強を主にしてる」
「義肢ですか。越谷さんスポーツ好きそうですし、パラスポーツとかも見るんです?」
「です?」
「そうだな、オリンピックも好きだけど興味はパラリンピックの方が強いかな。最近はどんな種目があるのかを調べるのが好きかもしれない」
映像編集なんかをやっていると前のめりになりがちで本当に疲れる。だから適度に休憩を挟みながらの作業になる。6月に向けた映像の注文なんかもたくさんあるし、しばらくは忙しいんだろうなと。甘めの缶コーヒーを手に、諏訪姉妹のお喋りを聞く。
ちなみに、長めの文章で喋るのが赤い髪留めをした姉のかんな。そして、かんなの後に「です」とか「ます」と続けて言葉の威力を二乗するのが紫の髪留めをした妹のあやめだ。口数が少ないものの、別に長文で喋らないわけではない。かんなと同じことを言いたいときに言葉を借りる感覚なんだとか。
「それはそうと、越谷さんが今作ってるのって、6月8日分じゃないですか」
「そうだな」
「仏滅に結婚式をやるんだーって、少しビックリしたですよ」
「です」
「ああー、六曜な。確かに大安の日が一番縁起がいいっていう風に言われて結婚式も一番多いけど、最近はそれを気にしない人もいるにはいるんだ」
「所詮占いだからです?」
「です?」
「わかんないけど、時代なのかもしれないな。でも仏滅に結婚式をやろうって人は少ないから結婚式場の値段が安かったり、競合しないから予約しやすかったりするっていうメリットがあるとは聞いたことがある」
「へー」
「へー」
冠婚葬祭では六曜を目安にいつ何をしようと決めることもまあある。友引に葬式をしないとか。結婚式は大安がいいとか。まあ、言っても占いだから当たるも八卦当たらぬも八卦なんだよな。宝くじを大安に買うとかそんなレベルのゲン担ぎだ。
何だかんだ結婚式は好きな時にやればいいんだ。確かに、親やその他の身内からの理解を得なきゃいけないんだろうけど、みんなが一番集まりやすい日がたまたま仏滅だったというだけのことでその日を諦めるのもなと。どういう式にしたいかで決めるべきものだと思う。
まだまだ俺が結婚式どうこうを自分がやるとするならという立場で考えるには早いけど、仕事という面で考えても、六曜どうこうを抜きにして精一杯作品を作ってお膳立てできればなと。と言うか、下手に結婚式とかそんな単語を出そう物ならどこかの誰かが飛んで来そうでうかうか口にも出来ないっていう。
「でも、結婚式……憧れますー」
「おっ、やっとちゃんと喋ったかあやめ。結婚式に憧れるって、女子って感じだな」
「自分が挙げたいとかじゃなくて、結婚式場とか花嫁さんの写真を撮りたいんです」
「あ、そっちか」
諏訪姉妹は趣味でも作品制作をしているんだとか。あやめは写真を撮るのが趣味で、住んでいるマンションの近くを散歩しては被写体を探しているそうだ。かんなは家に籠ってコマ撮りアニメを制作中らしい。作品制作のスタンスは双子と言えども少々異なるようだ。
「かんなはどうだ? 結婚式は」
「まあ……いつかは、と思わないこともないですけど、今はイメージ出来ないですね」
「まあそうだよな、そんなモンか」
「越谷さんはどうなんですか!?」
「です!」
「彼女とか!」
「あー残念。彼女はいないし結婚式どうこうも自分のことは考えたことなんかないからな」
「越谷さん優しいのに本当に彼女いないんです?」
「です」
今の俺にはまだまだ結婚式なんてバイトの上での行事でしかないし、周りで誰かが結婚するとかしないとかっていう話もなかなか聞かない。言ってもまだ大学生だし結婚なんてまだ先の話だろう。そりゃあ、俺もいつかは結婚をするんだろうけど、今はまだイメージ出来ない。
「優しいだけじゃ彼女は出来ないんだ。ほら、そろそろ仕事戻るぞ」
「はーい」
「はーい」
逃げと言われるかもしれないけど、本当にそうなんだから仕方ない。その時が来てから考え始めたって遅くはないはずだ。
end.
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久々にこっしーさんと諏訪姉妹です。ですー。何だか久し振りね。つまり今年はファンフェスでのターンがあるのかしら
さて、仏滅どうこう、六曜のお話も少し。この話を書くにあたって少し調べたのですが、仏滅なりの利点もあるようですね。かしこくなった
昨日の水鈴さんが真面目な感じだったので、いつものアレな水鈴さんの話も近々にやりたいですねw
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