2019
■地獄の業火より熱く
++++
「おい! 日高はいるか!」
物凄い剣幕でミーティングルームに殴り込んで来たのは、朝霞だ。その様子は常軌を逸していると言うのが正しいかもしれない。怒りに打ち震えている、そんな感じ。元々“鬼のプロデューサー”なんて呼ばれておっかないと言われているけど、そんなモンじゃない。修羅だ。
俺は自分の班、鎌ヶ谷班のブースからその様子をチラリと窺っていた。朝霞の怒号と、その朝霞を挑発するような日高の応酬。幹部系の班だろうと、反体制派だろうと誰も近付けない空気だ。近付いたが最後、流れ弾を食らうのは自分たちだからだ。
「トラさん、どうなってんすか外」
「部でファンフェスにステージを出す件で朝霞がキレたって考えるのが自然だな。朝霞班にその話は伝わってなかったから」
「えっ、マロ先輩、怖いんですけど…!」
「俺も怖い。トラさん、大丈夫なんすか。俺たちも何かされたりしませんよね?」
「大丈夫だ。……とはまだ言い切れないな。とりあえず、しばらくお前たちは外に出ないでここで静かに待機しててくれ」
放送部には現在7つの班がある。部長の日高の日高班、監査の宇部の宇部班、書記だったかな、確かそんな役職を持ってたはずの菅野が束ねる菅野班。ここまでが幹部系の班って言われる括りだ。菅野は厳密には幹部ではないけど、系統的にはこっち寄りだろう。
俺、世界のシゲトラこと鳴尾浜茂虎が班長として束ねてるのがどこまで行っても中立を極める鎌ヶ谷班だ。班長が鳴尾浜なのに班の名前が鎌ヶ谷なのは話すと長くなるけど、Pの鎌ヶ谷響人の名前を取ってあるんだ。一言で言うと、一緒に頑張ろうなっていう約束的な。
あとは幹部とは少し距離を置いてる須賀班、幹部なんざクソだぶっ潰すってスタンスの魚里班。それから、流刑地と呼ばれたはみ出し者集団・朝霞班の7つの班がある。こんな部活なだけに、須賀班、魚里班、朝霞班の処遇は良くない。特に朝霞班は日高の私怨で嫌がらせをされ続けている。
「どうしてファンフェスでステージを出すことを言わなかった」
「部の活動を疎かにしてインターフェイスなんかに現を抜かしてる奴に言う必要なんかないよなあ!」
今回のファンフェスステージの件にしても、一説には日高の朝霞に対する嫌がらせのために組まれたスケジュールだと言われている。朝霞は三度の飯よりステージというタイプの奴だ。だけどこのファンフェスにはインターフェイスの側でラジオブースに参加することになっている。
当然、朝霞だけじゃなくて洋平や戸田といった朝霞班の班員がみんなインターフェイスの側で出る以上ステージをやることは物理的に不可能だ。そもそも、ステージをやるということを俺たちが告げられた会議にも日高の指示で朝霞は呼ばれていなかったのだ。
ファンフェスの件でいろんな班の奴と話したけど、みんなどうして急にって困っている様子だった。幹部系だろうと反体制派だろうと。部長の日高がワガママ放題な奴なのは周知の事実だけど、その日高が癇癪を起こすと部全体が巻き込まれるのだ。
「……ちょっと、外見てみるわ」
「トラさん、気を付けてください」
再びブースの外を窺うと、朝霞が部長席に踏ん反り返る日高を睨み下ろしていた。今にも掴み掛らんとするのではないか、先程よりもさらに一触即発な空気が濃くなっている。最早この状況をどうこう出来る奴なんかこの場にはいなかった。
いや、いるとすれば2人だけだろう。まず、監査の宇部だ。部長の右腕ポジションとして、それから実質的部長として部を切り盛りしている宇部であればこの2人の間には入れるだろう。それから、洋平だ。洋平は謎に日高から気に入られている。洋平ならはいは~いって感じでこの空気の中でも立ち回れるはずだ。
「誰が部の活動を疎かにしてるって?」
「お前以外にいないよなあ! ひゃっひゃっひゃ!」
「ナメてんじゃねーぞこの野郎…! 部の活動を疎かにしてるのは、お山の上で権力振り翳してるだけのお前だろ!」
「何だと? 朝霞のクセに口答えするな!」
「よく言うな。自分の思い通りにならなきゃ暴れ散らして人を傷付けるだけの簡単な仕事か、部長なんてのは」
「この部は俺の物だ! 駒も、金も、全部俺の所有物だ! 俺の思うままに動け! 俺を楽しませろ!」
「ふざけるな! お前みたいなクズのために誰が動くか!」
ちょっと、想像以上にマズいな。これは相当マズいと判断して、こっそりとミーティングルームの外に出る。そこでやることは、洋平への緊急連絡だ。
「もしもし洋平、お前今どこにいる?」
『つばちゃんと寿さし屋だよ~、どうかした~?』
「朝霞がヤバい。今すぐミー室に戻って来い」
『えっ、ヤバいってどうヤバいの? メグちゃんは?』
「朝霞がキレて日高に殴り込んでて、とにかくヤバい! 宇部はまだ来てねーし、お前しか何とか出来る奴がいねーんだよ!」
『わかった、すぐ戻る!』
「あっ、戸田は置いて来た方がいいぞ! 事態が悪化するだけだからな!」
『わかってる、すぐ行くね!』
俺が出来ることなんて、本当にこれくらいだ。洋平の足なら5分以内には来るだろうけど、それまで持ちこたえられるか。あ~……何か俺までめっちゃそわそわしてきた。
「……鳴尾浜? どうしたのそんなところで」
「あっ、宇部! ヤバいんだよ、早く朝霞と日高の間に入ってくれ!」
end.
++++
久々に朝霞Pが謹慎になった件をやってるんですが、話の中ではまだ謹慎になってないっていうね。今からですね
今回は永世中立班・鎌ヶ谷班班長、世界のシゲトラ視点でお送りしています。班員はしっかりと守っていくスタンス。
そしてつばちゃんを置いてくることを勧めるシゲトラマジ世界。つばちゃんが来たらそら大変なことになりますわ 現場に血が流れる
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「おい! 日高はいるか!」
物凄い剣幕でミーティングルームに殴り込んで来たのは、朝霞だ。その様子は常軌を逸していると言うのが正しいかもしれない。怒りに打ち震えている、そんな感じ。元々“鬼のプロデューサー”なんて呼ばれておっかないと言われているけど、そんなモンじゃない。修羅だ。
俺は自分の班、鎌ヶ谷班のブースからその様子をチラリと窺っていた。朝霞の怒号と、その朝霞を挑発するような日高の応酬。幹部系の班だろうと、反体制派だろうと誰も近付けない空気だ。近付いたが最後、流れ弾を食らうのは自分たちだからだ。
「トラさん、どうなってんすか外」
「部でファンフェスにステージを出す件で朝霞がキレたって考えるのが自然だな。朝霞班にその話は伝わってなかったから」
「えっ、マロ先輩、怖いんですけど…!」
「俺も怖い。トラさん、大丈夫なんすか。俺たちも何かされたりしませんよね?」
「大丈夫だ。……とはまだ言い切れないな。とりあえず、しばらくお前たちは外に出ないでここで静かに待機しててくれ」
放送部には現在7つの班がある。部長の日高の日高班、監査の宇部の宇部班、書記だったかな、確かそんな役職を持ってたはずの菅野が束ねる菅野班。ここまでが幹部系の班って言われる括りだ。菅野は厳密には幹部ではないけど、系統的にはこっち寄りだろう。
俺、世界のシゲトラこと鳴尾浜茂虎が班長として束ねてるのがどこまで行っても中立を極める鎌ヶ谷班だ。班長が鳴尾浜なのに班の名前が鎌ヶ谷なのは話すと長くなるけど、Pの鎌ヶ谷響人の名前を取ってあるんだ。一言で言うと、一緒に頑張ろうなっていう約束的な。
あとは幹部とは少し距離を置いてる須賀班、幹部なんざクソだぶっ潰すってスタンスの魚里班。それから、流刑地と呼ばれたはみ出し者集団・朝霞班の7つの班がある。こんな部活なだけに、須賀班、魚里班、朝霞班の処遇は良くない。特に朝霞班は日高の私怨で嫌がらせをされ続けている。
「どうしてファンフェスでステージを出すことを言わなかった」
「部の活動を疎かにしてインターフェイスなんかに現を抜かしてる奴に言う必要なんかないよなあ!」
今回のファンフェスステージの件にしても、一説には日高の朝霞に対する嫌がらせのために組まれたスケジュールだと言われている。朝霞は三度の飯よりステージというタイプの奴だ。だけどこのファンフェスにはインターフェイスの側でラジオブースに参加することになっている。
当然、朝霞だけじゃなくて洋平や戸田といった朝霞班の班員がみんなインターフェイスの側で出る以上ステージをやることは物理的に不可能だ。そもそも、ステージをやるということを俺たちが告げられた会議にも日高の指示で朝霞は呼ばれていなかったのだ。
ファンフェスの件でいろんな班の奴と話したけど、みんなどうして急にって困っている様子だった。幹部系だろうと反体制派だろうと。部長の日高がワガママ放題な奴なのは周知の事実だけど、その日高が癇癪を起こすと部全体が巻き込まれるのだ。
「……ちょっと、外見てみるわ」
「トラさん、気を付けてください」
再びブースの外を窺うと、朝霞が部長席に踏ん反り返る日高を睨み下ろしていた。今にも掴み掛らんとするのではないか、先程よりもさらに一触即発な空気が濃くなっている。最早この状況をどうこう出来る奴なんかこの場にはいなかった。
いや、いるとすれば2人だけだろう。まず、監査の宇部だ。部長の右腕ポジションとして、それから実質的部長として部を切り盛りしている宇部であればこの2人の間には入れるだろう。それから、洋平だ。洋平は謎に日高から気に入られている。洋平ならはいは~いって感じでこの空気の中でも立ち回れるはずだ。
「誰が部の活動を疎かにしてるって?」
「お前以外にいないよなあ! ひゃっひゃっひゃ!」
「ナメてんじゃねーぞこの野郎…! 部の活動を疎かにしてるのは、お山の上で権力振り翳してるだけのお前だろ!」
「何だと? 朝霞のクセに口答えするな!」
「よく言うな。自分の思い通りにならなきゃ暴れ散らして人を傷付けるだけの簡単な仕事か、部長なんてのは」
「この部は俺の物だ! 駒も、金も、全部俺の所有物だ! 俺の思うままに動け! 俺を楽しませろ!」
「ふざけるな! お前みたいなクズのために誰が動くか!」
ちょっと、想像以上にマズいな。これは相当マズいと判断して、こっそりとミーティングルームの外に出る。そこでやることは、洋平への緊急連絡だ。
「もしもし洋平、お前今どこにいる?」
『つばちゃんと寿さし屋だよ~、どうかした~?』
「朝霞がヤバい。今すぐミー室に戻って来い」
『えっ、ヤバいってどうヤバいの? メグちゃんは?』
「朝霞がキレて日高に殴り込んでて、とにかくヤバい! 宇部はまだ来てねーし、お前しか何とか出来る奴がいねーんだよ!」
『わかった、すぐ戻る!』
「あっ、戸田は置いて来た方がいいぞ! 事態が悪化するだけだからな!」
『わかってる、すぐ行くね!』
俺が出来ることなんて、本当にこれくらいだ。洋平の足なら5分以内には来るだろうけど、それまで持ちこたえられるか。あ~……何か俺までめっちゃそわそわしてきた。
「……鳴尾浜? どうしたのそんなところで」
「あっ、宇部! ヤバいんだよ、早く朝霞と日高の間に入ってくれ!」
end.
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久々に朝霞Pが謹慎になった件をやってるんですが、話の中ではまだ謹慎になってないっていうね。今からですね
今回は永世中立班・鎌ヶ谷班班長、世界のシゲトラ視点でお送りしています。班員はしっかりと守っていくスタンス。
そしてつばちゃんを置いてくることを勧めるシゲトラマジ世界。つばちゃんが来たらそら大変なことになりますわ 現場に血が流れる
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