2019

■暗愚王の陰謀

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「部長、お待たせしました」
「監査、遅いぞ」
「すみません。ところで、話というのは」
「ああ、そうだ。ファンタジックフェスタに出ることにしたぞ」
「ファンタジックフェスタ? と言いますと、5月第2週にある屋外イベントの」
「ああそうだ、そのファンタジックフェスタにステージで出るぞ」

 話があると部長に呼び出され、受けた通達がこれ。ファンタジックフェスタへのステージ出展。ファンタジックフェスタというのは5月第2週の土日に花栄中心街にある公園で行われるイベント。この時期になってもステージの枠がまだあったというのにも驚きだけど、部長の行動の意味がわからない。
 星ヶ丘大学の放送部はステージイベントの運営や司会などを主に行っている部活で、部長の日高隼人以下60人余りの部員がいる。星ヶ丘大学文化会に属する部の中でも群を抜いて大所帯で、文化会的に言えば割り当てられる部費なんかも比較的大きい。それはコンスタントに活動をして、結果を出してきたからこその結果。
 部長が突然「ファンタジックフェスタに出る」と言い始めたことに私は驚きを隠せなかった。部の大きな行事と言えば、8月に丸の池公園で行われる丸の池ステージと、10月下旬か11月上旬頃に行われる大学祭でのステージ。その2つが主な舞台だと思っているから、他に大きなステージが割り込んでくるとは考えていなかったのだ。
 ファンタジックフェスタのステージという大きな舞台に、準備期間を3週間しか与えられないというのはどこの班にとっても大問題。しかも、年間を通して使い方が決まっていた部費も、このステージのためにある程度は割かなければならない。今後の部の運営方針にも関わってくる。

「部長、確認しますがそれは何時間の枠になりますか」
「朝から晩までだ、当然だろう」
「……となると、7班……いえ、朝霞班はインターフェイスの側で出るのでこちらの活動は出来ないとなると6班で枠を分割して……」
「細かいことはいい。何か運営側から文字だらけの紙を寄越されたが面倒だから読んでない。お前が読んでおけ」
「わかりました」
「それから」
「何でしょうか」
「この話は金曜日に開く班長会議で発表する。それまで口外するな」
「しかし、この日程ですと1日も早く公表して準備させた方がいいのでは」
「口答えをするな! 俺がそうしろと言ったらそうしろ! ったく、頭の固い監査だな。あと、班長会議に朝霞は呼ぶな。インターフェイスなんかに現を抜かす奴に知らせる必要はない。ああ、思い出すだけで腹が立つ。大体、柄が悪いんだ。気に入らないことがあればすぐ人を睨みつけて。俺に逆らうだなんて反社会的な奴だ。ヤクザか何かじゃないのか。警察は何をしている」

 部長の言っていることは無茶苦茶だけど、一度受けてしまった案件だけにこれを何としてもこなさなければならない。正直、各班1時間の枠をこの時間で準備しろというのはかなり酷なこと。それも、これまでに立ったことのない場所の舞台でやる想定の本を一から用意しなくてはならないのだから。
 どんなに頑張っても大成功はまずあり得ない。各々授業もあるし、大成功出来るだけのクオリティの物を作るだけの時間は取れない。それどころか、大失敗してイベントやイベントのスポンサーに迷惑をかける可能性の方が大きい。見ている人を不快にさせるかも。リスクは考えれば考えるだけキリがない。
 だけど、部長がやれと言えばやらなければならないのだ。部長の言うことに逆らえば、次の瞬間激烈な嫌がらせが始まる。部長の掲げる体制に寄っているとされる人間もそれは例外ではない。嫌がらせくらいなら好きにすればいいけれど、それでは今後が立ち行かなくなる。今はまだ我慢の時。

「どうにかして朝霞を潰せないか」
「そんなに朝霞が憎いなら部長が自ら手を下せばよろしいかと」
「そうか! 俺には力があるんだ! アイツを退部にだって出来るじゃないか! もっと早く言え、監査!」
「尤も、然るべき手順を踏んでいただく必要がありますが。その上でその申請を通すかどうかを決めるのは私です。私がその申請を通した上で文化会にそれを上げた場合に、文化会監査から事情は聞かれるでしょう」
「どうして俺が部長なのにお前が出てくるんだ」
「私が監査だからです。部長、今一度申し上げますが、監査というのは誰の味方でも敵でもありません。目の前で起こった事実と部員の申請に対して部を監督し、審査する、それが私の仕事です。部長とて、私の前では一部員に変わりありません。朝霞であろうと部長であろうと、私の前では同じ立場であることをお忘れなきよう」

 私が表情を変えることなく部長に言えば、部長はその顔を醜く歪める。どうやら今言ったことが相当気に入らないのだろう。今年の独裁は異常にしても、代々部長が大きな力を持つ部であることには違いない。だからこそ、部長殺しの力を持たされる存在がある。それが監査。

「監査ごときが偉そうに」
「部長は確かに放送部の部長ですが、文化会からは部長として認識されていないということも忠告しておきます。先日お願いした始末書もそろそろ提出していただかないと」
「うるさい! 俺はそんなものに出ている暇はないんだ! お前がやれよ全部! いちいち俺に持ってくるな!」
「では今後はそのように。文化会関係の資料に部長記名欄があった場合、宇部恵美と、私の名前を記入すれば問題ありませんか」
「どうしてお前が部長になるんだ。俺が部長なんだから俺の名前を書けよ。でも文化会なんかと付き合って何かあっても責任は取らないからな。お前のせいだぞ」


end.


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日高絡みの回は胸糞回にしたいと思ってるんですね。宇部P頑張れ、まだ爪隠してるけど
ところでファンフェスの乱を久しぶりにちゃんとやりたいんですね。やれるかな、そわそわ。死神の大鎌が見たいんだ
って言うか書類に宇部Pの名前を書いたところで絶対日高にはバレないんだよなあ! 書けばいいのにw

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