2019

■ライブ番組恐るるに足らず

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「うう……胃が痛い」
「それくらいで何言ってやがんだL」
「でもなっち先輩相手に1人で1時間回すとかヤバくないすか?」
「ちーちゃんのピンもあるからなっちさんが喋るのは45分だし、別に誰が相手だろうとそんなモンは関係ない」
「カズ先輩の職権濫用ヤバいっしょマジで」
「あ? せっかくMBCCにいないタイプの人とやれる機会だっつーのにそれをめそめそめそめそとお前はよ」
「おい伊東、言いたいことには同意するが一応それくらいにしといてやれ」
「高ピーに免じて今日はこれ以上は言わないけど、次まためそめそしてやがったらぶっ飛ばすからな」

 こないだの定例会でファンフェスの班が決まったらしく、参加する面々にはそれぞれの班長からよろしくお願いしますというメールなりLINEなりで連絡が入った。その班編成の都合なのか、俺たちの目の前ではLがカズ先輩にこってりと絞られている。カズ先輩はLにだけ異様に厳しいんだ。

「って言うか、先輩の立場が完全に逆転してますよねー」
「それな。普段は高崎先輩をカズ先輩が止めてんのに完全に逆転してっじゃんな」
「そう言えばゴティって誰の班だったの?」
「俺? 俺はねー、青女のヒビキ先輩が班長で、あとは向島の三井サンがいるわ」
「え、よくわかんない班だね」
「お前は?」
「アタシは星ヶ丘の朝霞P先輩が班長で、青敬の先輩とこーたがいるよ」
「あ、それ完全に3年生を2年でカバーするヤツだ」
「ですよねー」

 ゴティこと俺、五島真一郎もLと同じく緑ヶ丘の2年ミキサーとしてファンフェスに出ることになっている。過去の傾向からすると、インターフェイスの活動では2年以上になるとラジオをあんまやらない大学さんのサポートっちゅーか、リードしていかなきゃならないみたいでさ。緑ヶ丘・向島の宿命かね。
 ただ、俺の班は別にラジオに特別不慣れな人がいるってワケじゃないし、まあ何かなるっしょ的な。向島の三井サンがめんどくさい人だっていうのは聞いてるけど、ただめんどくさいだけなら適当にスルーしとけばオッケーだし。青女さんはステージメインとは言え生でやることには慣れてるからね。
 一方、果林は班に2人いる定例会の3年生が2人とも普段はラジオをやらない人たち。でもって2年のミキサーが向島のこーたということで、あからさまにそういう“役割”を期待されてんのねっていうのがわかる班編成。自分1人ならともかく、他の人をリードして行かなきゃならないことに戸惑っている様子。
 で、さっきからめそめそめそめそしてたLだ。インターフェイスでアナウンサーの双璧と呼ばれる向島のなっち先輩のいる班で、1時間を1人で回せという鬼仕様。Lの叫びから推測するに、定例会でカズ先輩が委員長職権でぶち込んだのだろう。MBCCには「ミキサーは実践で育てろ」という慣わしがある。その流れだ。

「そもそも、Lはなっち先輩相手に1時間でわーわー言ってるけど、カズ先輩は去年高崎先輩となっち先輩の2人を相手に1人で100分回してんだから理屈の上でも勝てるワケがない」
「そう聞くと、いっちー先輩って凄いですよねー」

 高崎先輩となっち先輩が“アナウンサーの双璧”と呼ばれるきっかけになったのが去年のファンフェスでやった番組だったと言われている。さすがに当時は今より少し荒削りだったそうだけど、60分番組が大人の事情で90分になり、90分が前の番組の都合で10分延びた結果の100分番組は伝説として語られている。
 如何せんラジオの性質的にアナウンサーばかりが取り上げられがちだけど、この伝説の100分番組を1人で回していたのが当時2年生のカズ先輩だ。カズ先輩もまた先の定例会議長でMBCC機材部長だった城戸咲良サンに定例会でムチャ振りをされてかの番組に至ったとか。機材部長は一番期待してる奴を鬼のように扱く文化なのかね。俺? ほどほどでいいっす。

「時間が延びてもやることは一緒だからね。いかに集中力を切らさないかだけだよ」
「カズ先輩、聞いてたんすか」
「そりゃこれだけ狭い部屋だもん、聞こえるよ」
「いっちー先輩いっちー先輩、朝霞P先輩ってどんな人ですか? 何か怖い人っていうイメージなんですけど大丈夫ですかね?」
「大丈夫だよ果林。カオルが鬼なのはステージのプロデューサーの時だけだから。今回はラジオのアナウンサーだし、気のいい話しやすい感じのモードで来てくれるはずだよ」
「だといいんですけど」
「IFサッカー部情報だけど、カオルは班の方針とかステージの段取りとかを班員にしっかり共有してくれるタイプの班長らしいから、カオルの作った骨組みに果林が肉付けしてあげる感じで行けば大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございまーす」
「IFサッカー部情報って。それ完全に山口先輩情報じゃないすか」
「そーね。そもそもカオルのことを熟知してるのってよっぺしかいねーし」

 ま、要はここであーだこーだ言っても始まらないっつーコトね。別にぶっつけ本番でやるワケじゃないし、それまでに顔合わせやら打ち合わせの機会はある。そこでいかに形にしていくかっていうこともまた能力なのかね。俺は下手したらLより存在感薄いかもだけど、ほどほどに頑張りまーす。

「あ、そうだ伊東」
「はいはい?」
「俺の班のミキサーが律になった経緯からするに、容赦なく行っていいんだな」
「りっちゃんなら大丈夫だと定例会議長が太鼓判を押しました」
「よーし、久々に本気出すか」
「……高ピー先輩がアップを始めましたよねー」
「つかこわっ」


end.


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定例会での話を持ち帰ったあと、緑ヶ丘で2年生3人がきゃいきゃいしてる話はちょこちょこありました。ゴティ先輩視点。
アナウンサーの双璧だの、100分番組だの懐かしい要素がいっぱいの今年度です。実はいち氏が密かにすごい定期
朝霞P先輩のことを対策委員などの人の話でしか知らなければそら鬼のPの部分が際だちますよねー。IF仕様のロイさんは気のいいあんちゃんです

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