2019
■人畜無害な羊島
++++
「ファンフェスの班が決まったよー」
「おー! いいねともちん、どうなった?」
「今から発表するねー」
昨日の定例会で決まったファンフェスDJブースの班編成を、さっそく持ち帰ってUHBCでの発表が始まる。UHBCというのは星港大学放送サークルの名称で、定例会にも出ている大石先輩が娯楽班班長としてまとめてるっていう感じ。
UHBCは緑ヶ丘や向島といった他のラジオ系大学さんとはちょっと毛色が違う。まず、娯楽班とドキュメント班っていう2つの班から構成されている。どっちも30分から1時間のラジオ番組を作ることには違いないんだけど、番組の趣旨と言うかテーマかな。
だけど、社会問題や真面目な話のドキュメンタリーを作ってたドキュメント班はここしばらく人がいなくて、何でもやる娯楽班の名前だけが残ってるような感じ。がっつりした番組制作をしてた時の名残で、サークル内のパートもアナウンサーとミキサーだけじゃなくてプロデューサーやディレクターもある。
「えっと、紙も貼っとくけど一応口頭でも。千尋は高崎の班で、ミキサーにりっちゃんがいる3人班だね」
「えー!? 何でそんなトコにぶちこまれたんだよー!」
「しょうがないよ、大人の事情だもん」
「もうちょっと抵抗してよともちーん!」
班編成に対して大石先輩に詰め寄ってるのが、アナウンサーの坂井千尋先輩。大人しいとかまったりした性格の人が多いUHBCでは珍しく気が強い感じの先輩。趣味は虫取りだから、春になってからはサークルよりそっちの方に忙しくしてるような感じ。
そんな千尋先輩に詰め寄られてるのが、俺と一緒に定例会に出ているプロデューサーの大石千景先輩。ほわ~っとしたような感じで、仏のPって言われるくらい。他校には“鬼のP”と呼ばれる人もいるから、対比でそんな表現がされてるみたい。ちなみに千尋先輩からのあだ名が「ともちん」なのは名前の漢字を間違えて覚えてたかららしい。
UHBCでは例年3年生になるといろんな理由で幽霊部員化する人が増えるそうだ。今年の3年生も例に漏れず。研究もしたいしあまり来れなくなるという話は石川先輩も言っていた。ミキサーのことはお前が中心になって頑張ってくれ、とも。
「テル、他に何かあったっけ。テルメモに何か書いてない?」
「そうですね、今回のファンフェスでは去年のように突然時間の変更があっても、どこか特定の班に任せるのではなく各班で平等に分け合うというスタンスにはなりましたね」
「あ、そうそう、そうだったね」
他の子はこんな感じの班ですということも大石先輩から発表があって、その都度俺が手元のメモを見ながら情報を補完していくという感じ。何がどこで必要になるかわからないから、俺は話を聞きながら常にメモを取ってる。それが役に立つととても嬉しい。
ファンフェスというのは基本的に2・3年生が参加するイベントになっている。1年生にとっては何が何だかという状態だから、これについても説明が入る。今いる1年生はアナウンサーが2人にミキサーが1人。まあ上々なペースだと思う。
「とりあえず、インターフェイスやファンフェスについて改めて説明しようか」
「大石先輩、それじゃあ今日のおやつ配りますね」
「うん、こまっちゃんおねがーい。それじゃあ食べながらみんな聞いてねー」
UHBCでは打ち合わせや活動報告のときによくこうやってお菓子が配られる。油断するとすぐお茶会のようになるから乾燥剤やジップロックがサークル費で用意されてるくらいだ。今日は加奈がチョコパイを配ってくれている。チョコ系のお菓子は暑くなると管理が大変だし、今のうちに食べないとね。
「わー、高級なお菓子だー!」
「ミドリ、よくあるチョコパイだよ」
「でもこれ箱で買ったら結構高いじゃないですかー! 加奈先輩ありがとうございまーす!」
「あっ」
「アオちゃん大丈夫? 取り換えようか?」
「いえ、落としたのは袋のままなので大丈夫です」
チョコパイにいいリアクションをしている丸眼鏡の男子がアナウンサーのミドリだ。ほわほわした性格が大石先輩に通じる物を感じる。だけどこう見えてミドリはかなり度胸があるんだ。なんてったってバイト先があの情報センター。あそこに飛び込むなんて並大抵じゃない。
他には、石川先輩の連れて来たミキサーの女子、アオこと高山蒼希さんがまたちょっとキツめな感じなんだよなあ。たまにドジをやらかしても表情一つ変えないし、自分のルーティンや予定が乱れるとすごく機嫌が悪くなるのが怖い。場合によっては鉄拳制裁も辞さないっていうタイプらしいし。
そして、もう1人いるアナウンサーの女子は、つば広帽をかぶったモモこと美浜桃李。彼氏が34歳っていうインパクトが凄すぎて他の情報があまり入って来なかった。本人は1年生にしては落ち着いてるけど意外に年相応。加奈と恋バナをよくしているみたいで、時折俺に突き刺さる視線が怖い。
「インターフェイスやファンフェスに関してはこんな感じ。他校の人と一緒に番組を作って一般の人にも聞いてもらうんだ。1年生のみんなもこれからインターフェイスの活動に参加することになると思うから」
「わー、他校の人とも仲良くなれたら楽しいだろうなー」
「ミドリは前向きだな」
「えっ、ツカサ先輩もしかして俺、不用心過ぎましたかね」
「いや、何にでも恐怖ポイントを見つけておどおどしてるよりはいいと思う」
「ツカサ~…! 俺のこと言ってるだろ~…! だって怖い物は怖いんだ!」
「まあ、情報センターでバイトしようとしたのに面談にも行けないくらいだもんな」
「情報センターの怖さはガチなんだって。俺もお前も理系だから知らなさ過ぎたんだ」
「それじゃあそれぞれ今日の活動に入って行きましょう」
「はーい」
チョコパイの包み紙を片付けたら、いよいよ本格的に今日の活動が始まる。ファンフェスについては動けるのが顔合わせをしてからだろうし、作りかけの番組も特にない。さて、何をしよう。
end.
++++
UHBCだよ! 兄さんや美奈といった幽霊部員以外は大体揃ってるような感じですね。1年生までしっかりと。今回はテル視点。
あと、しれっとモモちゃんについても紹介されてますね。昨年度の夏合宿、山口洋平さん無双のときにLと組んでた子として名前がチラッと出ましたが。
何かアレですね。ツカサとテルの関係性と言うか、絡ませ方がスガカンに近いような物を感じるぞ?
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「ファンフェスの班が決まったよー」
「おー! いいねともちん、どうなった?」
「今から発表するねー」
昨日の定例会で決まったファンフェスDJブースの班編成を、さっそく持ち帰ってUHBCでの発表が始まる。UHBCというのは星港大学放送サークルの名称で、定例会にも出ている大石先輩が娯楽班班長としてまとめてるっていう感じ。
UHBCは緑ヶ丘や向島といった他のラジオ系大学さんとはちょっと毛色が違う。まず、娯楽班とドキュメント班っていう2つの班から構成されている。どっちも30分から1時間のラジオ番組を作ることには違いないんだけど、番組の趣旨と言うかテーマかな。
だけど、社会問題や真面目な話のドキュメンタリーを作ってたドキュメント班はここしばらく人がいなくて、何でもやる娯楽班の名前だけが残ってるような感じ。がっつりした番組制作をしてた時の名残で、サークル内のパートもアナウンサーとミキサーだけじゃなくてプロデューサーやディレクターもある。
「えっと、紙も貼っとくけど一応口頭でも。千尋は高崎の班で、ミキサーにりっちゃんがいる3人班だね」
「えー!? 何でそんなトコにぶちこまれたんだよー!」
「しょうがないよ、大人の事情だもん」
「もうちょっと抵抗してよともちーん!」
班編成に対して大石先輩に詰め寄ってるのが、アナウンサーの坂井千尋先輩。大人しいとかまったりした性格の人が多いUHBCでは珍しく気が強い感じの先輩。趣味は虫取りだから、春になってからはサークルよりそっちの方に忙しくしてるような感じ。
そんな千尋先輩に詰め寄られてるのが、俺と一緒に定例会に出ているプロデューサーの大石千景先輩。ほわ~っとしたような感じで、仏のPって言われるくらい。他校には“鬼のP”と呼ばれる人もいるから、対比でそんな表現がされてるみたい。ちなみに千尋先輩からのあだ名が「ともちん」なのは名前の漢字を間違えて覚えてたかららしい。
UHBCでは例年3年生になるといろんな理由で幽霊部員化する人が増えるそうだ。今年の3年生も例に漏れず。研究もしたいしあまり来れなくなるという話は石川先輩も言っていた。ミキサーのことはお前が中心になって頑張ってくれ、とも。
「テル、他に何かあったっけ。テルメモに何か書いてない?」
「そうですね、今回のファンフェスでは去年のように突然時間の変更があっても、どこか特定の班に任せるのではなく各班で平等に分け合うというスタンスにはなりましたね」
「あ、そうそう、そうだったね」
他の子はこんな感じの班ですということも大石先輩から発表があって、その都度俺が手元のメモを見ながら情報を補完していくという感じ。何がどこで必要になるかわからないから、俺は話を聞きながら常にメモを取ってる。それが役に立つととても嬉しい。
ファンフェスというのは基本的に2・3年生が参加するイベントになっている。1年生にとっては何が何だかという状態だから、これについても説明が入る。今いる1年生はアナウンサーが2人にミキサーが1人。まあ上々なペースだと思う。
「とりあえず、インターフェイスやファンフェスについて改めて説明しようか」
「大石先輩、それじゃあ今日のおやつ配りますね」
「うん、こまっちゃんおねがーい。それじゃあ食べながらみんな聞いてねー」
UHBCでは打ち合わせや活動報告のときによくこうやってお菓子が配られる。油断するとすぐお茶会のようになるから乾燥剤やジップロックがサークル費で用意されてるくらいだ。今日は加奈がチョコパイを配ってくれている。チョコ系のお菓子は暑くなると管理が大変だし、今のうちに食べないとね。
「わー、高級なお菓子だー!」
「ミドリ、よくあるチョコパイだよ」
「でもこれ箱で買ったら結構高いじゃないですかー! 加奈先輩ありがとうございまーす!」
「あっ」
「アオちゃん大丈夫? 取り換えようか?」
「いえ、落としたのは袋のままなので大丈夫です」
チョコパイにいいリアクションをしている丸眼鏡の男子がアナウンサーのミドリだ。ほわほわした性格が大石先輩に通じる物を感じる。だけどこう見えてミドリはかなり度胸があるんだ。なんてったってバイト先があの情報センター。あそこに飛び込むなんて並大抵じゃない。
他には、石川先輩の連れて来たミキサーの女子、アオこと高山蒼希さんがまたちょっとキツめな感じなんだよなあ。たまにドジをやらかしても表情一つ変えないし、自分のルーティンや予定が乱れるとすごく機嫌が悪くなるのが怖い。場合によっては鉄拳制裁も辞さないっていうタイプらしいし。
そして、もう1人いるアナウンサーの女子は、つば広帽をかぶったモモこと美浜桃李。彼氏が34歳っていうインパクトが凄すぎて他の情報があまり入って来なかった。本人は1年生にしては落ち着いてるけど意外に年相応。加奈と恋バナをよくしているみたいで、時折俺に突き刺さる視線が怖い。
「インターフェイスやファンフェスに関してはこんな感じ。他校の人と一緒に番組を作って一般の人にも聞いてもらうんだ。1年生のみんなもこれからインターフェイスの活動に参加することになると思うから」
「わー、他校の人とも仲良くなれたら楽しいだろうなー」
「ミドリは前向きだな」
「えっ、ツカサ先輩もしかして俺、不用心過ぎましたかね」
「いや、何にでも恐怖ポイントを見つけておどおどしてるよりはいいと思う」
「ツカサ~…! 俺のこと言ってるだろ~…! だって怖い物は怖いんだ!」
「まあ、情報センターでバイトしようとしたのに面談にも行けないくらいだもんな」
「情報センターの怖さはガチなんだって。俺もお前も理系だから知らなさ過ぎたんだ」
「それじゃあそれぞれ今日の活動に入って行きましょう」
「はーい」
チョコパイの包み紙を片付けたら、いよいよ本格的に今日の活動が始まる。ファンフェスについては動けるのが顔合わせをしてからだろうし、作りかけの番組も特にない。さて、何をしよう。
end.
++++
UHBCだよ! 兄さんや美奈といった幽霊部員以外は大体揃ってるような感じですね。1年生までしっかりと。今回はテル視点。
あと、しれっとモモちゃんについても紹介されてますね。昨年度の夏合宿、山口洋平さん無双のときにLと組んでた子として名前がチラッと出ましたが。
何かアレですね。ツカサとテルの関係性と言うか、絡ませ方がスガカンに近いような物を感じるぞ?
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