2019
■Full range of MURAISM
++++
「よーう、おじちゃんが来たよー」
軽快なノリでサークル室にやってきたのは、村井のおじちゃんこと4年生の村井博正さんですね。MMPの前代表会計で、インターフェイスナンバーワンミキサーとも呼ばれた先輩です。技術的に凄い人であることには違いありませんが、如何せんノリが。
実は私とは同じ小笠原ゼミの先輩でもあります。ただ、真面目に勉強をしている様子ではなく、勉学に対して不真面目組……菜月先輩や土田さんに近いものを感じますね。現在は4年生らしく就活中だそうで、今日遊びに来たのは気紛れですかね。
「――って菜月、圭斗は?」
「圭斗なら今日は定例会で留守ですよ」
「あンの野郎~…! 騙しやがったな!」
「ああ、圭斗からのメールはこういうことだったんですね」
「何か聞いてた?」
「今日のサークルには招かれざる客が来るかもしれないけど、的なことを」
「あの野郎人を先輩だと思ってねーな!」
「そんなの今更じゃないですか。それで、今日は何の用事で」
「いや、特に用事っていう用事はないんだけど、単純に見に来ただけ」
「それなら、ミキサー陣の様子くらい見ていってくださいよ。如何せんアナウンサーばかり3人いても1・2年生の育成がなかなか」
「それじゃあちょっとだけ見て行こうかな~」
今の3年生は3人が全員アナウンサー。2年生は4人中3人がミキサーなんですが、如何せん1つ上の学年にミキサーがいないということで自分たちで何とかしないといけないんですね。自分たちがどうにかする分にはそれでいいんですが、1年生の指導というのがなかなかに難しく。
“ゲッティング☆ガールプロジェクト”から1週間と少し、春風の似合うぽわぽわして癒される女子かどうかはわかりませんが、1人の女子がサークルに加入しました。岡島奈々という、きゃっきゃとしたような感じの女子です。
奈々が加入したことで菜月先輩はご機嫌ですが、ミキサー志望であるということでその技術的な指導は私たちで協力してやらないといけないんですね。野坂さんと土田さんとも話していましたが、果たして私たちにそのようなことが出来るのかと。出来る出来ないに関わらずやらないといけないんですが。
「ということだからカンザキ、村井サンの相手よろしく」
「投げましたね!?」
「いや、ミキサーの指導を受けられる貴重な機会としてだな」
「貴重な機会であることは否定しませんけど、面倒なおじちゃんの相手を投げたようにしか見えないんですよね」
「神崎お前ー、誰が面倒なおじちゃんだ」
「え~? 誰のことだろう~? わかんなぁ~い」
「安定のウザさだな」
「ウザドルにウザいは褒め言葉ですっ」
村井さんが解体してバラバラにした機材と配線を、2年生ミキサーが1人ずつ順番に組み立てていくだけのタイムトライアル。機材の組み立てはミキサーにとっての必須技能ですからね。MMPで使っているのはアンプ、コンプレッサー、ミキサー、CDデッキ2台、MDデッキ2台、それからスピーカーですね。
ただ組み立てるだけでなく音や電気の流れ方を考えてやらないと向島以外の機材に対応できないという風には教わりました。この村井さんというおじちゃんは、昨年行われたインターフェイスの初心者講習会で講師をやっていたんですね。それくらいの実力者です。
「と言うか村井サン、圭斗とは何てやり取りしてたんですか?」
「いや、LINEでさ、今日遊びに行くよって。そしたら「お待ちしてます」って言ってたじゃんな。そう返ってきたらいると思うよな! いねーし!」
「普通に留守ですね」
「あの野郎絶対許さねー。ホント覚えとけよ」
「基本的に圭斗は人を小馬鹿にしてますからね。性質が悪いんですよ」
「定例会っつーことは家には帰って来るんだよな」
「帰って来るんじゃないです?」
「家に乗り込んでやる」
「サークルに危害さえ加えないのならお好きにどうぞ」
「菜月お前~、この人畜無害なおじちゃんがサークルに危害を加えるように見えるってか~!?」
「村井サンの悪乗りは本当に厄介ですし」
村井さんの悪乗りはそれはもう性質が悪いんですよね。バカなことを本気でやると言うか、冗談が通じないと言うか。MMP訳“抹殺”を意味する“ラブ&ピース”の他に、村井さんの悪乗りには“ムライズム”という名称が付いていますね。
「村井さん、出来ました」
「おっ、野坂出来たか。よーしじゃあ見ていくよ」
「……こうしてる分にはいい先輩なんだろうけどなあ」
「菜月先輩、悲壮感がとんでもないですよ」
「何だろうなあ……うちにはわからない。でも、村井サンの扱いは圭斗なんだよなあ」
菜月先輩から漂う悲壮感の理由はわかりませんが、菜月先輩ではイマイチ村井さんの扱いには困るということなのでしょう。一応先輩だけに、圭斗先輩がするようにボコボコにするわけにもいきませんしね。
「ところで菜月ー」
「何ですか」
「ファンフェスってどうなってんの? 班とか」
「圭斗はそれを決めに行ってるんですよ」
「あっそう、そーゆーコトね。ならなおさら圭斗ン家に突撃しねーとな! 最新情報を握るぜ~!」
「あー、それはうちも気になりますね。うちは今回班長じゃないらしいんで情報が来るのが遅いんですよ」
「えっ、お前班長じゃねーの対策委員の前議長なのに」
「まあ、何か定例会にも大人の事情があるみたいですよ」
end.
++++
急遽村井のおじちゃんがサークルにお遊びに来ました。圭斗テメー!といういつもの件はお預け。留守です。
きっと今の2年生が1年生の時には村井のおじちゃんがミキサーのあれこれを教えてたんだろうけど、深刻に考え始めたのはきっと今。
菜月さんでは村井サンの扱いに困るというのは、ほら、菜月さんは極悪三人衆とは違うからね、仕方ないね
.
++++
「よーう、おじちゃんが来たよー」
軽快なノリでサークル室にやってきたのは、村井のおじちゃんこと4年生の村井博正さんですね。MMPの前代表会計で、インターフェイスナンバーワンミキサーとも呼ばれた先輩です。技術的に凄い人であることには違いありませんが、如何せんノリが。
実は私とは同じ小笠原ゼミの先輩でもあります。ただ、真面目に勉強をしている様子ではなく、勉学に対して不真面目組……菜月先輩や土田さんに近いものを感じますね。現在は4年生らしく就活中だそうで、今日遊びに来たのは気紛れですかね。
「――って菜月、圭斗は?」
「圭斗なら今日は定例会で留守ですよ」
「あンの野郎~…! 騙しやがったな!」
「ああ、圭斗からのメールはこういうことだったんですね」
「何か聞いてた?」
「今日のサークルには招かれざる客が来るかもしれないけど、的なことを」
「あの野郎人を先輩だと思ってねーな!」
「そんなの今更じゃないですか。それで、今日は何の用事で」
「いや、特に用事っていう用事はないんだけど、単純に見に来ただけ」
「それなら、ミキサー陣の様子くらい見ていってくださいよ。如何せんアナウンサーばかり3人いても1・2年生の育成がなかなか」
「それじゃあちょっとだけ見て行こうかな~」
今の3年生は3人が全員アナウンサー。2年生は4人中3人がミキサーなんですが、如何せん1つ上の学年にミキサーがいないということで自分たちで何とかしないといけないんですね。自分たちがどうにかする分にはそれでいいんですが、1年生の指導というのがなかなかに難しく。
“ゲッティング☆ガールプロジェクト”から1週間と少し、春風の似合うぽわぽわして癒される女子かどうかはわかりませんが、1人の女子がサークルに加入しました。岡島奈々という、きゃっきゃとしたような感じの女子です。
奈々が加入したことで菜月先輩はご機嫌ですが、ミキサー志望であるということでその技術的な指導は私たちで協力してやらないといけないんですね。野坂さんと土田さんとも話していましたが、果たして私たちにそのようなことが出来るのかと。出来る出来ないに関わらずやらないといけないんですが。
「ということだからカンザキ、村井サンの相手よろしく」
「投げましたね!?」
「いや、ミキサーの指導を受けられる貴重な機会としてだな」
「貴重な機会であることは否定しませんけど、面倒なおじちゃんの相手を投げたようにしか見えないんですよね」
「神崎お前ー、誰が面倒なおじちゃんだ」
「え~? 誰のことだろう~? わかんなぁ~い」
「安定のウザさだな」
「ウザドルにウザいは褒め言葉ですっ」
村井さんが解体してバラバラにした機材と配線を、2年生ミキサーが1人ずつ順番に組み立てていくだけのタイムトライアル。機材の組み立てはミキサーにとっての必須技能ですからね。MMPで使っているのはアンプ、コンプレッサー、ミキサー、CDデッキ2台、MDデッキ2台、それからスピーカーですね。
ただ組み立てるだけでなく音や電気の流れ方を考えてやらないと向島以外の機材に対応できないという風には教わりました。この村井さんというおじちゃんは、昨年行われたインターフェイスの初心者講習会で講師をやっていたんですね。それくらいの実力者です。
「と言うか村井サン、圭斗とは何てやり取りしてたんですか?」
「いや、LINEでさ、今日遊びに行くよって。そしたら「お待ちしてます」って言ってたじゃんな。そう返ってきたらいると思うよな! いねーし!」
「普通に留守ですね」
「あの野郎絶対許さねー。ホント覚えとけよ」
「基本的に圭斗は人を小馬鹿にしてますからね。性質が悪いんですよ」
「定例会っつーことは家には帰って来るんだよな」
「帰って来るんじゃないです?」
「家に乗り込んでやる」
「サークルに危害さえ加えないのならお好きにどうぞ」
「菜月お前~、この人畜無害なおじちゃんがサークルに危害を加えるように見えるってか~!?」
「村井サンの悪乗りは本当に厄介ですし」
村井さんの悪乗りはそれはもう性質が悪いんですよね。バカなことを本気でやると言うか、冗談が通じないと言うか。MMP訳“抹殺”を意味する“ラブ&ピース”の他に、村井さんの悪乗りには“ムライズム”という名称が付いていますね。
「村井さん、出来ました」
「おっ、野坂出来たか。よーしじゃあ見ていくよ」
「……こうしてる分にはいい先輩なんだろうけどなあ」
「菜月先輩、悲壮感がとんでもないですよ」
「何だろうなあ……うちにはわからない。でも、村井サンの扱いは圭斗なんだよなあ」
菜月先輩から漂う悲壮感の理由はわかりませんが、菜月先輩ではイマイチ村井さんの扱いには困るということなのでしょう。一応先輩だけに、圭斗先輩がするようにボコボコにするわけにもいきませんしね。
「ところで菜月ー」
「何ですか」
「ファンフェスってどうなってんの? 班とか」
「圭斗はそれを決めに行ってるんですよ」
「あっそう、そーゆーコトね。ならなおさら圭斗ン家に突撃しねーとな! 最新情報を握るぜ~!」
「あー、それはうちも気になりますね。うちは今回班長じゃないらしいんで情報が来るのが遅いんですよ」
「えっ、お前班長じゃねーの対策委員の前議長なのに」
「まあ、何か定例会にも大人の事情があるみたいですよ」
end.
++++
急遽村井のおじちゃんがサークルにお遊びに来ました。圭斗テメー!といういつもの件はお預け。留守です。
きっと今の2年生が1年生の時には村井のおじちゃんがミキサーのあれこれを教えてたんだろうけど、深刻に考え始めたのはきっと今。
菜月さんでは村井サンの扱いに困るというのは、ほら、菜月さんは極悪三人衆とは違うからね、仕方ないね
.