2019

■見ない振りした壁の高さは

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「定例会です」

 18時15分、星港市の中心街・花栄にある某所ビル6階中会議室で始まる会議。15分押しなのは、ウチのカズ先輩のやらかしだ。5分から15分程度の切り捨てられない程度のプチ遅刻をやらかしがちなカズ先輩だ。その原因は大体「どこどこで迷った」っていう、方向音痴。
 これは、向島インターフェイス放送委員会という組織の定例会。向島エリアにある放送系団体の有志が集まっているんだ。加盟しているのは緑ヶ丘大学を含めた7校。当然、それぞれに大学ごとのカラーがあるし、メインとなっている活動も違う。ただ、今のインターフェイスはラジオの活動が主となっている。
 この定例会を束ねる議長が向島の圭斗先輩。今の3年生の中では圧倒的な政治力を背景に、文句なしの議長選出。その脇を支える委員長がウチのカズ先輩。そして副委員長が青女のヒビキ先輩だ。他には会計とか機材管理とか、細々とした役職があるとかないとか。
 定例会の任期は2年間だ。だから各校の代表は2年生の時から会議に出席している。だけど今年の2年生は人数が少ない。パッと見でも俺、浅田類と星大の羽咋信輝、それから青女の宮崎直という3人しかいない。各校の事情で2年生が出せなかったりすることもあるんだそうだけど、既に来年が不安だ。

「さて、ファンフェスの話だね。今年は7班編成で、一応班長は定例会から5人と高崎と山口君にお願いすることになっているけど……朝霞君、今ならまだ間に合うよ。本当にいいんだね?」
「ああ」
「じゃあそういうことで話を進めます」

 ファンフェス……ファンタジックフェスタというのは5月第2週の土日にこの近くにある大通り公園で行われる野外イベントだ。公園内には様々なブースやステージが建ち並び、ちょっとしたお祭りのようになる。IFではここでDJブースを出してラジオの公開生放送をやるんだ。
 少し前までは、IFでは山浪にあるスキー場で実際に営業中のゲレンデに流れるラジオ番組をやらせてもらっていた。それを運営するための、技術向上対策委員というIF内の組織もある。だけどそのスキー場は不景気やら暖冬の煽りを受けて営業中止になってしまって、今の3年生がスキー場に行った最後の世代になる。
 スキー場DJがなくなってしまった今では、このファンフェスが向島インターフェイス放送委員会として唯一の対外的な放送の機会だ。それだけに、このイベントはしっかりやらないとという感じで会議に次ぐ会議が行われる。定例会ではスキー場に代わる場所を探すという仕事もやってるそうだけど、本当にやってるのかな。

「ん、それじゃあパズルの時間だよ。ヒビキ、書記を頼むよ」
「はーい」

 “パズル”というのは班決めのことだ。ファンフェスでは3、4人の班を組んで1時間番組を作り上げていく。アナウンサー2人にミキサーが1人か2人。学年やパートのバランス、それから学校の特色などを見ながら班編成をしていかなければならないそうで、これがなかなか難しいんだとか。
 たとえば、ウチや向島といったバリバリのラジオ系大学ならともかく、星ヶ丘のようなステージ系の大学や青敬のような映像系の大学はラジオにほとんど接する機会がない。そんな大学から出ている人の扱いが肝になる。星大は一応ラジオ系の学校だし、青女はステージ系ではあるけどラジオもやるから何とかなるという扱いだそうだ。
 ただ、問題になるのはラジオに不慣れな人ばかりではないらしい。カズ先輩と圭斗先輩がその名前を眺めて大きな溜め息を吐いている。便宜上6班と名付けられた班の長、高崎先輩だ。高崎先輩は向島のなっち先輩と並んで“アナウンサーの双璧”と呼ばれる実力者。そう、上手すぎて誰が相手をするんだという問題が発生したのだ。

「高ピーは一応相手を見た班運営も出来るとは思うけどなー、でもなぁ~!」
「インターフェイス的には、華は華らしく、魅せたいよね。見栄じゃないけど」
「そうなんだよ。どうせやるならね!」
「だから高崎の能力を殺さずに」
「かつ高ピーの圧にビビらない度胸のあるミキサー」

 ぶっちゃけ、そんなモンがどこにいるんだよと思う。オフの時の高崎先輩は無愛想だけど優しい兄貴みたいな感じだ。でも、サークルの時はそれはもう厳しい厳しい。要求してくることのレベルが高すぎると言うか。自分が出来るんだから他の連中もやれば出来るって思ってるんじゃないかっていう節はある。
 それに、正直に言えばあの人は無愛想だ。それらしい笑顔なんか酒や飯を前にした時くらいしか見せてくれない。あと、実家の犬の話をしてる時。そんな人に無愛想で厳しく、淡々と班を運営されてみろ。で、ミキサーとしてペアを組んでいろいろ要求されて……怖いなんてモンじゃないぞ。まあ俺は緑ヶ丘だしセーフでしょう。

「圭斗、出来れば向島から出して欲しい」
「ん、そうだね。ウチの連中なら技術的には一応問題ないしね、ウチから出そう。で、高崎にビビらない度胸ね。誰かいたかな」
「野坂とかどう?」
「いや、アイツはああ見えてビビりだし緊張に弱い。行事に平気で毎回遅刻をしてくる度胸はあるけどそれ以外がノミだ」
「えっと圭斗さん? どうして俺の目を見てまっすぐ言うんですかね?」
「ん、心当たりがあるんじゃないかな」
「定例会に毎回遅刻してきてサーセンした!」
「わかればいいんだよ。次回は迷わないように」
「いや、グーグルマップがクソ化したじゃんかな」
「元から地図を信用しないクセによく言うね。まあ、野坂は星ヶ丘班にぶち込む駒だと思っているよ」
「こーたかりっちゃん? で、高ピーとの相性……」
「りっちゃんじゃないかい?」
「だな。異議なし」

 大人の事情で埋められていくパズルを眺めて、こんな風に班って作られていくんだなーと他人事のように眺めるだけの仕事。まあ、律は頑張れ。で、俺は誰の班になるんだろうなあ。怖くない人だったらいいなあ。って、怖い人なんてあの人くらいしか……いや、忘れてたけどもう1人いた。目の前でパズルを組んでる直属の人の職権濫用が一番怖いんだ。ひー、どうしよう無茶振りとか飛んできたら。


end.


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定例会です。現時点ではただ黙って座っているだけのLです。ここから年度末に向けて成長していくんだなあ
ここ最近は菜月さんどうこうのことを言ってましたが双璧とかいう懐かしいワードが出てきたよ。今年ってもしかしてりっちゃん年か?(ニッチ過ぎる)
ところで某マップがクソ化したと少し前に話題になりましたが、いち氏はそもそも地図を信用しなかったので支障ありませんでしたね

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