2019

■ありあわせのある朝のこと

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「冴ー、サーエー。遅れヤすよー」

 今日もバイトだから起こせと言われて起こしてみるものの、起きる気配がちーともありャしやせん。大体、大学の近くに下宿してるンすからわざわざ通学に1時間半以上かかる実家に帰ってくる必要がドコにあるのやら。
 向島エリアの北にある山浪エリア、その奥の奥にある小さな村……尤も、今じャ市町村大合併の結果、名ばかりの市になってヤすが、山奥の小さな村に自分の住む土田家がありヤす。地元がどれくらい山かと言うと、バスが1日2本とかで、その辺の人がみんな知り合いとかそんな。
 自分はこの家から2時間ほどをかけて向島大学まで通ってヤすが、姉2人は星港大学に通ってるンで大学近くにアパートやらマンションやらを借りて生活していヤす。長姉の怜は帰っても盆正月かたまに用事が出来たとき。ただ、自分の双子(二卵性双生児)の姉・冴は2週に1回はぐーたらするために戻って来やがるンすわ。

「サーエー、起きろー」

 ま、冴がバイトに遅れようが自分の知ったこっちゃないスわ。大体通学する時間を考えたら下宿先にいた方が圧倒的にラクだったハズなんすけどね。バカなのか何なのか。自分がそこまで一生懸命起こしてあげることもないスわ。

「リ~ツ~……もっと早く起こせよ~」
「ヤ、自分は6時から起こしてたけどガン無視したのはお前スわ」
「そンなに早く起こされても眠りが浅くなって目覚めが悪くなるだろ」
「ホント勝手スわ」

 冴は大学の情報センターという、パソコン自習室でバイトをしている。元はと言えば松本恵夢という、自分らのイトコがそこでバイトしてたンすけど、ある日突然冴を自分の身代わりにしてシフトをブッチし始めた。それが去年のコト。まーァ、エムはエムで自由というか奔放スからね。
 今日は一応9時からのシフトらしーンすけど既に8時半過ぎ。諸々の支度をしてこれから大学に行けば11時前にはなりヤすかね。シフトも何もあったモンじゃないスわ。それでも冴だから仕方ないみたいな扱いをされてるらしーンで、そのバイト先がどんだけ緩いのかと。
 時間にルーズと言えば、自分のサークル・MMPも大概でしたわ。菜月先輩以外全員ルーズにも程がありヤすし、野坂とかいう筆舌に尽くし難い悪質な遅刻魔も。野坂は昼放送の収録で待ち合わせてる菜月先輩を1時間2時間待たすのは当たり前とかで。ヤ、菜月先輩は野坂をラブピしていースわ。

「リーツー、ご飯はー?」
「なンでそこまで面倒見ねーとイケねーのか」
「顔洗ッて来るし、作っとけ」
「あンだコラ、テメーで作れや!」

 全く。冴は勝手で困りヤすね。顔を洗ってくると言って着ていた物を全部脱ぎ散らかして行きヤしたけど、最終的にそれを片すのも自分スわ。そろそろいー加減にせーよと思いヤす。一人暮らしをしている部屋の状況は見るまでもなく明らかスわ。
 まァ、どーせ自分もこれからバイトに行くのに朝食にはするつもりだったのもありヤす。野菜スープと目玉焼きの分量をそれぞれ2人前にするだけの簡単な仕事。自分は一応サ店バイトなンで、簡単な料理くらいは出来ヤす。一応トーストも焼きヤしょう。
 バイト先は自分の家からは少し下ったところにあるサ店なンすけど、コーヒーへのこだわりがトンでもない知る人ぞ知る名店ス。場所の割に結構繁盛してるンすよね。評判を聞きつけてくる余所の人もいヤすけど、基本的には村の憩いの場スね。なンで常連連中が好き勝手な注文をしてくるンすわ、筑前煮を作れとか。
 古き良きサ店のメニューなんスよ、基本的には。鉄板で出すナポリタンとか、ミックスサンドイッチとか。でも、如何せん村の憩いの場なンで何にでも対応できるようになった結果、有り合わせで作る料理の腕ばっかりめきめきと上がってヤすね。リツ坊の料理をご指名いただくのはいーンすけど、コーヒーを淹れる腕を上げたいスわ。

「サーエー、メシー」
「うーい」
「あっ、服は着て来いよ」
「今着てる」

 如何せん冴は開放的な奴なンで、裸で家をうろうろするとかも全然フツー。一応は今年ハタチで年頃なンすから、脱ぐのは自分の部屋でだけにしてもらいたいスわ。曰く、肌が弱いから下着や肌着で締め付けられるのがイヤとかで。

「おー! 美味そー! さすがリツ!」
「誉めても何も出ヤせんぜ」
「そうそう、朝だからと言ってあっさり過ぎず、かと言ってガッツリ過ぎない絶妙なバランスすわ」
「野菜スープと目玉焼きとトーストでそこまで言うか?」
「このベーコンがいい」
「母さんが買うだけ買って冷蔵庫の肥やしにした結果、期限切らしたヤツすわ」
「ペッペッ! リツお前期限切れのモン食わすな!」
「加熱してッから問題ねーわ! そもそも自分らが1週間期限が切れただけのベーコンで死ぬタマかよ」

 つーか冴は9時からバイトっつってんのに9時前に朝飯を食ってて本当に大丈夫なンすかねェ。自分は10時からなンで余裕スけど。

「お前一応急ぐ素振りくらいしろよ、完全に遅刻なンだから」
「そもそも今日はそんなに人来ないしヨユーっしょ」
「そういう問題じゃナイっつの。一緒に入る人に迷惑だろ」
「あ~、そんなの今更スわ。そもそもがエムの身代わりスよ? きっちりした仕事は期待されてヤせーん」
「ったく、どいつもこいつも」

 さ、メシが終わったら洗い物をして、自分も出かける支度をしヤしょうかね。今日は村の集まりが12時からスから、それに向けた準備で忙しいンすわ。冴に構ってたら自分も遅れちまいヤすわ。


end.


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土田双子のとある朝の話です。っていうか冴さんwww 時間通りに行こうという気が皆無。
そしてりっちゃんの日常生活についても少し。料理は上手ですね。MMPでは多分圭斗さんとトントンくらい。村の人からはリツ坊って呼ばれてるのね。
多分情報センターでは「土田に期待するだけ無駄だ」的なコトが言われてるんだろうなあ

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