2019
■雪崩れ込む情報と詰め込む食事
++++
緑ヶ丘大学に入学して最初の1週間が過ぎようとしている。大学生になるということで星港市内で一人暮らしも始めたし、生活が何から何まで変わって本当に新鮮だ。日々の食事や洗濯に掃除、一連の家事も今のところはまだ頑張れている。
授業は来週からで、今週は各種ガイダンスのために登校している。さっそくサークルにも入った。MBCCという放送サークルだ。元々メディアに興味があって社会学部のメディア文化学科に入ったんだけど、佐藤ゼミのブースでビラをもらって「これだ」と思って。
「さあみんな、どんどん食べてね」
「やったーいっちー先輩のご飯ー!」
「果林、一応高木のことは考えてやれよ」
「あっタカちゃん、ご飯は積極的に取りに行かなきゃなくなっちゃうからね」
「あ、はい」
今日は2回目のサークルだった。それが終わって、先輩たちからご飯に誘われたから、どんな感じなんだろうと思ってついて行ってみる。場所は、機材部長の伊東先輩が住んでいるマンション。泊まってもいいし、徒歩圏内に駅があるから俺の帰りも楽だろうと。これが俗に言う宅飲みというヤツなのか。
テーブルには伊東先輩の作る盛りだくさんのご飯と大量のお酒。確かにサークルに入るときに高崎先輩から「酒はイケる口か?」と聞かれたけど、なるほど……あれはこういうことだったのかと納得。まあ、ある程度は飲めるのでそれはむしろ楽しみなんですけど。
「タカちゃん何食べる? ポテト? サラダ?」
「えっと、とりあえずポテトをいただきます。でもすごい山盛りポテトですね」
「これくらいすぐ食べちゃうでしょ?」
1つ上の果林先輩からはタカちゃんと呼ばれている。俺の名前が高木隆志で、名字で取っても名前で取ってもそう呼べるから便利、とのことでそんな風に呼ばれている。果林先輩とは学科も同じだし、先輩は佐藤ゼミ生ということで今後とてもお世話になるだろうとは高崎先輩。
如何せん学部や学科が同じだと授業に関する情報交換もしやすいし、場合によっては教科書を譲り合ったりすることも出来るそうだ。人によっては出席をあれこれ工面したり。……まあ、これはあまりやる機会もないだろうけど。飲みは始まったばかりだけど、既に大学生活のいろいろな話が聞けてとてもためになっている。
「伊東先輩は飲まないんですか?」
「俺は弱いから、ご飯を作るのが仕事だよ。こうしてる方が長くみんなと楽しめるからね」
「そうなんですね」
「いっちー先輩のご飯は本当に絶品だからどんどん食べてタカちゃん!」
「欲しいモンはさっさと食わねえと果林に食い尽くされるぞ」
「タカシ、果林もだけど高ピーも何気にめっちゃ食べるからね。欲しい物の早めのキープは正しいけど」
「うるせえよ、俺は男としては平均くらいだろ」
「いやー、食べる方だし飲む方だよ」
「飲む方なのは認める」
「高ピー先輩の酒量は確かに多いですけど、いっちー先輩のご飯があったら進んじゃいますよねー」
MBCCではこんな感じで小規模飲み会をやる機会がまああるらしい。会場は伊東先輩の部屋だったり、高崎先輩の真上の部屋に住んでいるという先輩(まだ会ったことはない)の部屋だったりとまちまちだそうだけど。
伊東先輩の茹でてくれたパスタを食べながら、ただただいろいろな話を聞いている。大学のこと、アルバイトのこと、それから他校の事情らしい話など、いろいろ。登場人物の名前やその関係は覚えられないけど、話を聞いているだけでも本当に楽しいなあ。
「伊東、宮ちゃんは例によって引きこもってんのか」
「引きこもってはいるけど、一応まだGREENsの新歓で忙しくしてるみたいだから外には出てる」
「授業始まったら引きこもるパターンじゃねえか。どうせまだ履修多いんだろ」
「そうだね、文系3年の割に多いとは。高ピーといくつか授業かぶってないかなって言ってたとはお伝えしておきます」
「タダでとは言わねえよなって、アイツのヤツじゃねえか」
文系だと、よほどのことがない限り学年が上がるにつれ授業の数はどんどん減っていくらしい。伊東先輩や高崎先輩は単位を順調に取り進めていて、丸一日休みの“全休”というヤツもあるそうだ。1年だとまださすがに春学期から全休はなかなか作れないかな。
「高木、必修は1年のうちにちゃんととっとけよ。特に英語と第二言語は。あ、社会学入門とかも後々になって受けるのは恥だ」
「そう言えば、アタシ秋学期体育落としたんですよ」
「何やってんだよ」
「寝坊が続いたんで、これじゃ出席が足りなくなるって判断して早々に捨てましたよねー」
「寝坊で単位を落とすこともあるんですね……」
「いや、むしろそういうのの積み重ねでしか落とさねえ。今はまだ大丈夫だろうけど、一人暮らしはゴールデンウィークが過ぎた頃から堕落が始まるからそこからが要注意だな」
「わかりました」
一人暮らしはゴールデンウィークが過ぎた頃から要注意、と。なるほど、1ヶ月が過ぎて大学生活にもほどほどに慣れてきた上長い休みの後で体も鈍ってる上に中だるみが出てくる時期ということか。うーん、つまりここが生き残れるか否かの分水嶺。がんばりたいとは思っている。
「ところでタカシってさ、住んでるマンション星港市内だって言ってたよね。通学大変じゃない?」
「そうですね、地下鉄とバスを乗り継いで45分なので結構大変ですね」
「近いトコ住んどきゃ良かったじゃねえか」
「足がないのと、生活のしやすさを優先しました」
「原付の免許くらいだったらすぐ取れるのにな。まあ、その辺は個人の都合もあるんだろうけどよ」
「高崎先輩の部屋は大学のすぐ近くですよね。2限からの日だと何時起きくらいになるんですか?」
「10時20分で余裕だ」
――という話を聞いてしまうと近いアパートもいいなあと思ってしまうけど、もう通学に45分かかるマンションに住んでしまったのでその環境で暮らしていくしかない。徒歩圏内に生活に必要な施設がほぼ揃ってるし。
「アタシタカちゃんの部屋にも遊びに行ってみたいなー」
「あ、ぜひ。事前に言ってもらえればきれいにします」
「おっ、それじゃあ俺も邪魔するかな」
「俺も俺もー」
end.
++++
酒はイケる口か?からのヤツ。MBCCメイン4人の話も久しぶり。
今はまだ気を張って生活しているTKGだけども、これがどんどん堕落していくのである。そう、救いがない
TKG宅にお邪魔した先輩たちのリアクションもぜひ見てみたいですね。特にコムギハイツとのグレードの差よ
.
++++
緑ヶ丘大学に入学して最初の1週間が過ぎようとしている。大学生になるということで星港市内で一人暮らしも始めたし、生活が何から何まで変わって本当に新鮮だ。日々の食事や洗濯に掃除、一連の家事も今のところはまだ頑張れている。
授業は来週からで、今週は各種ガイダンスのために登校している。さっそくサークルにも入った。MBCCという放送サークルだ。元々メディアに興味があって社会学部のメディア文化学科に入ったんだけど、佐藤ゼミのブースでビラをもらって「これだ」と思って。
「さあみんな、どんどん食べてね」
「やったーいっちー先輩のご飯ー!」
「果林、一応高木のことは考えてやれよ」
「あっタカちゃん、ご飯は積極的に取りに行かなきゃなくなっちゃうからね」
「あ、はい」
今日は2回目のサークルだった。それが終わって、先輩たちからご飯に誘われたから、どんな感じなんだろうと思ってついて行ってみる。場所は、機材部長の伊東先輩が住んでいるマンション。泊まってもいいし、徒歩圏内に駅があるから俺の帰りも楽だろうと。これが俗に言う宅飲みというヤツなのか。
テーブルには伊東先輩の作る盛りだくさんのご飯と大量のお酒。確かにサークルに入るときに高崎先輩から「酒はイケる口か?」と聞かれたけど、なるほど……あれはこういうことだったのかと納得。まあ、ある程度は飲めるのでそれはむしろ楽しみなんですけど。
「タカちゃん何食べる? ポテト? サラダ?」
「えっと、とりあえずポテトをいただきます。でもすごい山盛りポテトですね」
「これくらいすぐ食べちゃうでしょ?」
1つ上の果林先輩からはタカちゃんと呼ばれている。俺の名前が高木隆志で、名字で取っても名前で取ってもそう呼べるから便利、とのことでそんな風に呼ばれている。果林先輩とは学科も同じだし、先輩は佐藤ゼミ生ということで今後とてもお世話になるだろうとは高崎先輩。
如何せん学部や学科が同じだと授業に関する情報交換もしやすいし、場合によっては教科書を譲り合ったりすることも出来るそうだ。人によっては出席をあれこれ工面したり。……まあ、これはあまりやる機会もないだろうけど。飲みは始まったばかりだけど、既に大学生活のいろいろな話が聞けてとてもためになっている。
「伊東先輩は飲まないんですか?」
「俺は弱いから、ご飯を作るのが仕事だよ。こうしてる方が長くみんなと楽しめるからね」
「そうなんですね」
「いっちー先輩のご飯は本当に絶品だからどんどん食べてタカちゃん!」
「欲しいモンはさっさと食わねえと果林に食い尽くされるぞ」
「タカシ、果林もだけど高ピーも何気にめっちゃ食べるからね。欲しい物の早めのキープは正しいけど」
「うるせえよ、俺は男としては平均くらいだろ」
「いやー、食べる方だし飲む方だよ」
「飲む方なのは認める」
「高ピー先輩の酒量は確かに多いですけど、いっちー先輩のご飯があったら進んじゃいますよねー」
MBCCではこんな感じで小規模飲み会をやる機会がまああるらしい。会場は伊東先輩の部屋だったり、高崎先輩の真上の部屋に住んでいるという先輩(まだ会ったことはない)の部屋だったりとまちまちだそうだけど。
伊東先輩の茹でてくれたパスタを食べながら、ただただいろいろな話を聞いている。大学のこと、アルバイトのこと、それから他校の事情らしい話など、いろいろ。登場人物の名前やその関係は覚えられないけど、話を聞いているだけでも本当に楽しいなあ。
「伊東、宮ちゃんは例によって引きこもってんのか」
「引きこもってはいるけど、一応まだGREENsの新歓で忙しくしてるみたいだから外には出てる」
「授業始まったら引きこもるパターンじゃねえか。どうせまだ履修多いんだろ」
「そうだね、文系3年の割に多いとは。高ピーといくつか授業かぶってないかなって言ってたとはお伝えしておきます」
「タダでとは言わねえよなって、アイツのヤツじゃねえか」
文系だと、よほどのことがない限り学年が上がるにつれ授業の数はどんどん減っていくらしい。伊東先輩や高崎先輩は単位を順調に取り進めていて、丸一日休みの“全休”というヤツもあるそうだ。1年だとまださすがに春学期から全休はなかなか作れないかな。
「高木、必修は1年のうちにちゃんととっとけよ。特に英語と第二言語は。あ、社会学入門とかも後々になって受けるのは恥だ」
「そう言えば、アタシ秋学期体育落としたんですよ」
「何やってんだよ」
「寝坊が続いたんで、これじゃ出席が足りなくなるって判断して早々に捨てましたよねー」
「寝坊で単位を落とすこともあるんですね……」
「いや、むしろそういうのの積み重ねでしか落とさねえ。今はまだ大丈夫だろうけど、一人暮らしはゴールデンウィークが過ぎた頃から堕落が始まるからそこからが要注意だな」
「わかりました」
一人暮らしはゴールデンウィークが過ぎた頃から要注意、と。なるほど、1ヶ月が過ぎて大学生活にもほどほどに慣れてきた上長い休みの後で体も鈍ってる上に中だるみが出てくる時期ということか。うーん、つまりここが生き残れるか否かの分水嶺。がんばりたいとは思っている。
「ところでタカシってさ、住んでるマンション星港市内だって言ってたよね。通学大変じゃない?」
「そうですね、地下鉄とバスを乗り継いで45分なので結構大変ですね」
「近いトコ住んどきゃ良かったじゃねえか」
「足がないのと、生活のしやすさを優先しました」
「原付の免許くらいだったらすぐ取れるのにな。まあ、その辺は個人の都合もあるんだろうけどよ」
「高崎先輩の部屋は大学のすぐ近くですよね。2限からの日だと何時起きくらいになるんですか?」
「10時20分で余裕だ」
――という話を聞いてしまうと近いアパートもいいなあと思ってしまうけど、もう通学に45分かかるマンションに住んでしまったのでその環境で暮らしていくしかない。徒歩圏内に生活に必要な施設がほぼ揃ってるし。
「アタシタカちゃんの部屋にも遊びに行ってみたいなー」
「あ、ぜひ。事前に言ってもらえればきれいにします」
「おっ、それじゃあ俺も邪魔するかな」
「俺も俺もー」
end.
++++
酒はイケる口か?からのヤツ。MBCCメイン4人の話も久しぶり。
今はまだ気を張って生活しているTKGだけども、これがどんどん堕落していくのである。そう、救いがない
TKG宅にお邪魔した先輩たちのリアクションもぜひ見てみたいですね。特にコムギハイツとのグレードの差よ
.