2019
■法をすり抜ける盾を背に
++++
「MBCCでーす、お願いしまーす」
入学式が過ぎれば次に始まるのは新入生ガイダンス。学部の班ごとに学内をツアー形式で回りながら、大学生活に必要なことを学んでいくという日。入学式に並んでサークルの新入生勧誘活動が盛んな時と言っても過言じゃない。
私立緑ヶ丘大学、向島エリアでも有数の総合大学で、一言で言えばマンモス校。向島の中心・星港市からは少し離れてるけど、豊葦市というそこそこの街にドンと学舎を構えている。まあ、豊葦はそこそこの街だけど、大学があるのは切り開かれた山の中ですよねー。
「千葉君、サークルのビラ配りもいいけどそろそろ時間だよ」
「はーい」
通りすがりのヒゲ教授に声を掛けられ時間を確認すれば、もうすぐお昼の1時。危ない危ない、ゼミの仕事に遅れるところだった。だけど手元には大量のビラが残ってる。これを誰かに預けてかなきゃね。
アタシが籍を置いているMBCCは、ラジオみたいなことをやってる放送サークル。昼に食堂で番組をやらせてもらってたり、コンテストに作品を出したりもしてるかな。他校の人との交流もしてたりして結構楽しくやらせてもらってる。
さっき通って行ったヒゲはMBCCの名前だけの顧問だったりする。その辺の事情は話せば長くなるけど、ヒゲゼミの研究領域とMBCCの活動内容が少し重なっているというのが主な理由。星の数ほどサークルのある緑大の、公認サークルは顧問を置かなきゃいけないっていう決まりがあるからね。
「あっ、いたいた。高ピーせんぱーい」
「おう果林、どうした」
「アタシそろそろゼミの方に行かなきゃいけないんで、このビラ預けていいですか?」
社会学部のガイダンスでは、ヒゲが誇るガラス張りのラジオブースもそのツアーコース内に入っている。さすがにアタシはゼミに入ったばかりだからガイダンスでラジオブースの中に入ることはないけど、周りを固めるスタッフとして配置されることになっているのだ。
「ガイダンスか」
「そうですね」
「じゃ、一定数は配れるな」
「――ってちょっ、高ピー先輩!?」
「何遍でも言うが、使える物は使え。ヒゲが6枚目のポスターを貼れって言って来たんだから、ビラを配るのも黙認するだろ」
ビラを預けに来たアタシの手にさらにビラを乗せて来たのがMBCCのアナウンス部長で実質的なサークルのトップ、高ピー先輩。高ピー先輩、もとい高崎先輩という人は本当に……なんだろ、シビアとかドライとか、合理的とか? そんな物の考え方とか実行の仕方をする人だなあと。
本来指定場所以外でのビラ配りは規則で禁止されているし、学内に掲示出来るサークルのポスター類は5枚まで。だけどMBCCは脱法的に6枚目のポスターを掲示している。その6ヶ所目というのが、佐藤ゼミのラジオブース前に設置されているコルクボード。
活動の性質的に、MBCCに興味のある層は佐藤ゼミに興味を持つ。だから、MBCCにある程度人数が入ればその分佐藤ゼミのラジオブースで即戦力になる人間が増えるということ。ヒゲゼミのためのMBCCではないんだけど、使える物は使えというスタンスで利用だけしている。
「って言うか高ピー先輩ビラ配ってて手応えありますか?」
「どうだろうな。ビラは数配るだけでスルーされるモンだろ。その他大勢のサークルと同時にやってちゃどうしても興味は分散する」
「ですよねー」
「効率だけで考えるなら社学ガイダンスで配るのが一番いいんだ」
「一応、規則には反しますけどねー」
「法的拘束力はねえし、ヒゲが誤魔化すに賭ける。一番いいのはお前が何か佐藤ゼミの資料を配る係なら、それに乗じてこう」
一応、新歓は最初の3日間が最盛期だけど、それ以降にも地道に行われる。休み時間になると学内の道には机が並び、そこに構えられたブースでサークルの説明会が開かれたりもする。他には、大学祭実行委員会の主催するサークル説明会っていう行事とかね。
「何かこう、MBCCですってババンと打ち出せる何かがあればいいんですけどねー」
「言ってラジオだから、視覚に頼ることは出来ねえしな」
「あっ、ナルミー先輩でも招集しますか? 一応人気の生放送主ですし」
「……いや、アイツはMBCCサイバー支部とやらを自称してるがあくまでそれは趣味の活動で、MBCCとは関係ねえ。つかアイツの名前を岡崎の前では出すなよ」
「はいはーい、了解でーす。って言うかいっちー先輩を見ない気がするんですけど」
「一応来てはいるんだけどな。どっかでサボってんじゃねえのか、晴れだし」
「春ですしねー」
なんて話していたら、遠くの方から大きなくしゃみが。あっ、いっちー先輩いた。優しい機材部長のいっちー先輩だけど、重度の花粉症で春は活動能力が落ちちゃうんですよねー。普段は頼れるんだけど、こればっかりはどうにもこうにも。高ピー先輩も諦めてる様子。
「あっ、高ピーいた。ゴメン、俺もうムリ。ちょっと休んで来る」
「休憩は30分だぞ」
「あーい。えっくし! あっ、そーだ、ヨシも目しんどいっつってサークル室で休んでるから」
「アイツは仕方ねえけどお前はいい加減マスクなりメガネなりの対策をしろ」
「ごめ……えーっくしょい!」
「うるっせえな」
「いっちー先輩フルフェイスのメットあるんですからそれかぶりながらビラ配ったらいいんじゃないですか?」
「花粉多い日はあんまバイク乗らないから。危ないし。そーゆーことだから果林、これよろしく」
「ちょっといっちー先輩まで!」
「そういうことだから果林、ガイダンスでばら撒いて来い」
「そういうことならやってやりますよねー!」
手元には、2人の先輩から押し付けられたビラの束。効率を考えるなら確かにここが一番いい。だけど本来堂々とやっちゃダメなことだから、そこをいかにして潜り抜けていくかが問われますよねー。こんな時は名前だけの顧問を盾にするしかないですよねー。さ、MBCCにカモーン!
end.
++++
今年度のMBCCは果林視点! って言うか果林視点で始まるって結構珍しいなあ。大体高崎だからね
さて、高崎は高崎で安定だよね。使える物は使えっていういつもの。今回はヒゲゼミを使えるだけ使って行くよ!
そしてさらっとユノ先輩とナルミーのあれこれに触れられてるけど、お話の上でやるのかどうかはまだわからないんだ!
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「MBCCでーす、お願いしまーす」
入学式が過ぎれば次に始まるのは新入生ガイダンス。学部の班ごとに学内をツアー形式で回りながら、大学生活に必要なことを学んでいくという日。入学式に並んでサークルの新入生勧誘活動が盛んな時と言っても過言じゃない。
私立緑ヶ丘大学、向島エリアでも有数の総合大学で、一言で言えばマンモス校。向島の中心・星港市からは少し離れてるけど、豊葦市というそこそこの街にドンと学舎を構えている。まあ、豊葦はそこそこの街だけど、大学があるのは切り開かれた山の中ですよねー。
「千葉君、サークルのビラ配りもいいけどそろそろ時間だよ」
「はーい」
通りすがりのヒゲ教授に声を掛けられ時間を確認すれば、もうすぐお昼の1時。危ない危ない、ゼミの仕事に遅れるところだった。だけど手元には大量のビラが残ってる。これを誰かに預けてかなきゃね。
アタシが籍を置いているMBCCは、ラジオみたいなことをやってる放送サークル。昼に食堂で番組をやらせてもらってたり、コンテストに作品を出したりもしてるかな。他校の人との交流もしてたりして結構楽しくやらせてもらってる。
さっき通って行ったヒゲはMBCCの名前だけの顧問だったりする。その辺の事情は話せば長くなるけど、ヒゲゼミの研究領域とMBCCの活動内容が少し重なっているというのが主な理由。星の数ほどサークルのある緑大の、公認サークルは顧問を置かなきゃいけないっていう決まりがあるからね。
「あっ、いたいた。高ピーせんぱーい」
「おう果林、どうした」
「アタシそろそろゼミの方に行かなきゃいけないんで、このビラ預けていいですか?」
社会学部のガイダンスでは、ヒゲが誇るガラス張りのラジオブースもそのツアーコース内に入っている。さすがにアタシはゼミに入ったばかりだからガイダンスでラジオブースの中に入ることはないけど、周りを固めるスタッフとして配置されることになっているのだ。
「ガイダンスか」
「そうですね」
「じゃ、一定数は配れるな」
「――ってちょっ、高ピー先輩!?」
「何遍でも言うが、使える物は使え。ヒゲが6枚目のポスターを貼れって言って来たんだから、ビラを配るのも黙認するだろ」
ビラを預けに来たアタシの手にさらにビラを乗せて来たのがMBCCのアナウンス部長で実質的なサークルのトップ、高ピー先輩。高ピー先輩、もとい高崎先輩という人は本当に……なんだろ、シビアとかドライとか、合理的とか? そんな物の考え方とか実行の仕方をする人だなあと。
本来指定場所以外でのビラ配りは規則で禁止されているし、学内に掲示出来るサークルのポスター類は5枚まで。だけどMBCCは脱法的に6枚目のポスターを掲示している。その6ヶ所目というのが、佐藤ゼミのラジオブース前に設置されているコルクボード。
活動の性質的に、MBCCに興味のある層は佐藤ゼミに興味を持つ。だから、MBCCにある程度人数が入ればその分佐藤ゼミのラジオブースで即戦力になる人間が増えるということ。ヒゲゼミのためのMBCCではないんだけど、使える物は使えというスタンスで利用だけしている。
「って言うか高ピー先輩ビラ配ってて手応えありますか?」
「どうだろうな。ビラは数配るだけでスルーされるモンだろ。その他大勢のサークルと同時にやってちゃどうしても興味は分散する」
「ですよねー」
「効率だけで考えるなら社学ガイダンスで配るのが一番いいんだ」
「一応、規則には反しますけどねー」
「法的拘束力はねえし、ヒゲが誤魔化すに賭ける。一番いいのはお前が何か佐藤ゼミの資料を配る係なら、それに乗じてこう」
一応、新歓は最初の3日間が最盛期だけど、それ以降にも地道に行われる。休み時間になると学内の道には机が並び、そこに構えられたブースでサークルの説明会が開かれたりもする。他には、大学祭実行委員会の主催するサークル説明会っていう行事とかね。
「何かこう、MBCCですってババンと打ち出せる何かがあればいいんですけどねー」
「言ってラジオだから、視覚に頼ることは出来ねえしな」
「あっ、ナルミー先輩でも招集しますか? 一応人気の生放送主ですし」
「……いや、アイツはMBCCサイバー支部とやらを自称してるがあくまでそれは趣味の活動で、MBCCとは関係ねえ。つかアイツの名前を岡崎の前では出すなよ」
「はいはーい、了解でーす。って言うかいっちー先輩を見ない気がするんですけど」
「一応来てはいるんだけどな。どっかでサボってんじゃねえのか、晴れだし」
「春ですしねー」
なんて話していたら、遠くの方から大きなくしゃみが。あっ、いっちー先輩いた。優しい機材部長のいっちー先輩だけど、重度の花粉症で春は活動能力が落ちちゃうんですよねー。普段は頼れるんだけど、こればっかりはどうにもこうにも。高ピー先輩も諦めてる様子。
「あっ、高ピーいた。ゴメン、俺もうムリ。ちょっと休んで来る」
「休憩は30分だぞ」
「あーい。えっくし! あっ、そーだ、ヨシも目しんどいっつってサークル室で休んでるから」
「アイツは仕方ねえけどお前はいい加減マスクなりメガネなりの対策をしろ」
「ごめ……えーっくしょい!」
「うるっせえな」
「いっちー先輩フルフェイスのメットあるんですからそれかぶりながらビラ配ったらいいんじゃないですか?」
「花粉多い日はあんまバイク乗らないから。危ないし。そーゆーことだから果林、これよろしく」
「ちょっといっちー先輩まで!」
「そういうことだから果林、ガイダンスでばら撒いて来い」
「そういうことならやってやりますよねー!」
手元には、2人の先輩から押し付けられたビラの束。効率を考えるなら確かにここが一番いい。だけど本来堂々とやっちゃダメなことだから、そこをいかにして潜り抜けていくかが問われますよねー。こんな時は名前だけの顧問を盾にするしかないですよねー。さ、MBCCにカモーン!
end.
++++
今年度のMBCCは果林視点! って言うか果林視点で始まるって結構珍しいなあ。大体高崎だからね
さて、高崎は高崎で安定だよね。使える物は使えっていういつもの。今回はヒゲゼミを使えるだけ使って行くよ!
そしてさらっとユノ先輩とナルミーのあれこれに触れられてるけど、お話の上でやるのかどうかはまだわからないんだ!
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