2018(05)

■朝は天も地も平等に灼く

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 星ヶ丘大学は明日が入学式。そこで新入生の勧誘活動が始まるということで幹部と各班の班長が集められていた。部長の柳井を中心に始められた会議では、ビラを配ることの出来る場所や、2日以降の活動についての説明がされている。

「――というワケで、ここに明日から配るビラが400枚ある。それから、学内6ヶ所にポスターの掲示。もちろん文化会の認可掲示物であることを証明する文化会の判、それから学生課からの判子も押下済みだ。ここまでで何か。特にないなら本日は解散する。明日は午前11時半に正門前に集合。以上だ」

 解散と言われるや否や、もうここに用事のない班長達はぞろぞろとミーティングルームを出ていく。だけどアタシはそこから動くことなくジッとこの人の波が引くのを待っていた。そしてそれは部長の柳井も同様に。部屋にはアタシと柳井、それから白河の3人が残された。

「ビラとポスターの判子を部長直々に取りに行かせたツケはどこで払ってもらおうか、白河。もとい、監査」
「それは正直申し訳ないと思ってる」
「ホントに。インターフェイスの活動はもう始まってんのにさ。どこに報告したらいーんすか、監査サマ」
「様はやめてくれ、俺は役職には就いたけど偉くはない」
「嫌味で言ってんのはさすがにわかるっしょ?」
「まあな。戸田が本気で力のある奴を敬う“様”なんかつけるはずない」

 アタシと柳井は「監査は誰だ問題」に頭を抱えていた。柳井はクソ日高よりも自分で仕事をするし、出来るタイプの部長だ。だけど部長の独裁を防ぐためのチェック機関としての監査に委ねられる仕事もまあ多いらしい。ちなみに先代は部の仕事を全部監査がやってたよね。
 アタシはアタシでインターフェイスのことを報告するという仕事がある。アタシ自身は対策委員の活動に一区切りがついて新しい委員にはゲンゴローが就いたことや、定例会にはマリンが出ていてファンフェスの話も始まってますよ、ということなんかを。
 だけど、代替わりで部の次期幹部が発表されても監査だけは後日伝えますと伏せられたままだったのだ。少し前までは柳井がある程度仕事が出来るから困っていなかったけど、監査の判子や何かをもらわなければならなくなってさあ困ったぞ、と。
 昨日、伏せられていた監査人事をダメ元で朝霞サン(現役ン時から水面下で宇部恵美と繋がってたらしい)に聞いてみたら、監査は白河だと返って来た。まさかの人事にアタシと柳井は心底驚いた。そこで、明日の班長会議でとっつめてやろうということで昨日は終わり、現在に至る。

「俺が今まで自分が監査だと黙っていたのは前の監査、宇部さんからの指示だ。そこまではいいかな」
「それは昨日、戸田が聞いてくれたから知っている。その理由を聞きたい」
「部の役員は文化会の名簿の方に登録されるらしくて、それが確定するのが4月1日付けらしいんだ」
「なるほどな。つまり」
「部長の独断で白河の首を切って、都合のいい人間を監査にすることを防ぐため」
「……そう考えるのが自然だろう。チッ、アンタにマークされてるのがわかってて俺がそんなにわかりやすいことをするかよ」
「おーこわっ」
「戸田、茶化すな」
「部長サマサーセ~ン。一応は直属の先輩からちっとも信用されてねーなお前、と思って」
「それが放送部を束ねるということだ。覚悟はしている。そしてそれが監査という職だ」

 それが放送部を束ねるということ。放送部という組織自体が文化会からは信用されていないのだ。文化会監査……今なら宇部恵美だし、その前なら萩裕貴。お上が放送部の部長に対して目を光らせているということか。
 そして、白河を幹部に据えたのも、宇部恵美の考えがあってのことだそうだ。まずは幹部とも反体制派ともつかず離れずの中立派だということが一点。誰の肩も持たず、淡々と部を律して欲しいと言われたそうだ。

「まあ、俺も日高体制下の悪政には辟易としていた。俺が部長になるからには今よりも部を良くして見せる。白河、そのための手伝いをしてほしい」
「それはもちろん」
「口ではいっちょ前に言うけど、ホントにやんの?」
「と言うか、どれだけ頑張ってもあれよりも腐りきった部長になるのは無理がある」
「逆にね」
「ああ。だが、俺が部長になるからには、戸田、お前のこともただ好き勝手には泳がせない」
「あーほら出た部長の圧力がさ」
「俺はお前がディレクターだからとか流刑地と呼ばれた班の班長だからマークをするのではない。お前だからマークするとは言っておく」
「いいねえ、そう来なくっちゃ。誰よりも筋が通ってるよ。アタシ自身が荒くれ者だからマークする、上等だ」
「おいおい柳井、戸田、いきなり火花散らすなよ」

 もちろんアタシも成長はしている。ただ売られたケンカを買うのではなく、言っていいことと悪いこと、言っていい状況とダメな状況くらいは弁えている。アタシ1人だったら何をしたって問題ない。だけどアタシの後ろにはゲンゴローとマリンがいる。
 アタシと柳井の間で共通している認識は「この部活は腐っている」ということだろう。多分だけど、戦い方が違う。柳井自身部長になってから権力振りかざして腹は立つんだけど、歴代でもステージをちゃんとやる方の部長であることには違いない。今日のところは大目に見てやろう。

「アタシは別にアンタの首を取ろうなんて考えてないんだよ」
「そう言って油断させる算段か」
「いーや。パートだの班の名前だのでステージの機会さえ奪わなきゃそれでいい。枠は実力に応じて相応の分だけくれるんだろ、監査」
「そっか、ステージの枠を決めるって仕事もあったな…!」
「役職に就いたのだからどんな仕事があるかくらい責任を持って確認しておけ」
「すみません」
「俺は監査ではないが、ステージの枠は実力に応じてというスタンスには賛同する。今後、枠はそのように決めてくれ」
「わかった」
「白河、お前の目指す監査像を聞いておこう」
「……そうだな。今までの監査は孤高と言うかエリートって感じで近付き難かったから、俺は話しやすい監査でありたいと思う。どんな立場の人からでも、どんな小さな報告でもすぐに受けられるような。もちろん、立場関係なく言うことは言う。時にはみんなに協力を願うこともあると思う」
「それで部が良くなるなら俺は協力しよう」
「うん、アタシも。筋が通ってればね」

 3人が3人、立場も違えば置かれた状況も違う。だけどこの腐った部活を何とかしたいとか、ここで何とか戦ってやるっていう気持ちはあるらしい。少なくとも、ステージはやれそうだ。柳井のことはやっぱりいけ好かない奴だとは思ってるけど、時と場合と言い方によっては協力してやらないこともない。

「あっそうだ、アンタインターフェイスのこともある程度わかってる監査じゃん。ゲンゴローとマリンの報告もちゃんと聞いてやってよ」
「それはもちろん」
「インターフェイスか。戸田、そう言えばファンフェスはどうなっている」
「ファンフェスはアタシじゃなくてマリンの管轄。そっちに聞いてどうぞ。あ、ステージで出るなら先言ってよね。アタシは拳割りたくないから」
「あ~、やめろ戸田、物騒だ」
「心配しなくても今年は出ない。あんな突貫クオリティのステージを出せるか。しかし、お前如きがあの鬼の剣幕で迫れるか?」
「殴り込んでやんよ、ブレザーにビビってるペーペー部長がよ」
「何だと。やるか?」
「あ、そっちこそやんのか?」
「おーい戸田、柳井! やめろ~!」


end.


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昨年度のこの時期に監査は誰だ問題についての話をやったのですが、うん、こうなるよね
今年はネタばらしからスタート。部長とつばちゃんから挟み撃ちにされるマロ、お気の毒に。
つばちゃんと柳井がケンカしながらも何やかんや似たような方向向いてるのが好き。でもケンカしてるのがよきかな

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