2018(05)
■はじめてのコムギハイツツアー
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周りは本当に山だから。そう言われてやって来た緑ヶ丘大学の麓は、本当に山を切り開いた学園都市のようだった。緑ヶ丘大学は向島エリア有数のマンモス校で、学生数も多いし設備も最先端という印象がある。
今日は最寄駅からスクールバスに乗って来たからそんな学内を突っ切る形で目的の場所に向かっている。だけど、これはナビがないと絶対に迷って歩けない気がする。何回も来れば慣れるのかな。少し不安だ。
「凄いね、学内に郵便局がある」
「あ、使うトコないと思うけど銀行ATMはあっちな」
「学内にATMがあるの!?」
「えっ、青女はないのか?」
「ないよ!」
「郵便局は?」
「ないない!」
どうしてボクが緑ヶ丘大学に来ているのかというと、何と、今日は類の部屋でおうちデートというヤツなんです…! 何やかんやあって無事にLと付き合うことになって、2人の時は下の名前で、類と呼ばせてもらうことになった。
自分たちは一応定例会の議長と委員長という立場もあるから、その辺のメリハリはしっかり付けてという意味もある。それはそれ、これはこれでしっかりやっていかないといけないところだから。きっちりと気を引き締めていく。定例会議長を支えるのがボクの仕事だから。
見慣れない施設を見る度にボクはきょろきょろして「あれは何」「スポーツ用品店だよ」とか、「あれは何」「サークル棟だよ」などと観光案内を受けながら学内を突っ切っていく。広い学内を突っ切ったその先には、山と田んぼが広がっていた。その中にアパートが立ち並んでいる。
「類の家はどのアパート?」
「あれ。あのパステルグリーンの、左の方」
「本当に大学から近いね」
「徒歩5分だから、原付だったら1、2分くらいかな」
本当に大学から徒歩5分のところにあるコムギハイツという可愛い名前のアパートにやってきた。各棟4部屋からなるコムギハイツは広い駐車場を挟んで2棟あって、類はそのふたつ目の棟の方に住んでいるらしい。
「あの、本っ当に生活音が響くアパートだから周りからいろいろ聞こえるかもしんないけど」
「どれくらい聞こえるの?」
「テレビの音はデカけりゃ普通に聞こえるし、蛇口捻る音とか、壁際だったら今引き出し開けたなとかそんな感じ」
「結構聞こえるんだね」
「大学から近いっつーこともあって溜まり場になりやすくてさ。人が集まってるなって感じの声とか」
「確かにこれだけ近いと集まりやすそうだね」
「はい、大して面白くもない部屋だけど、どうぞ」
「お邪魔します」
部屋に入ると、類の部屋だなあという感動を覚えた。好きな人の部屋にいるとかそういう類の感動じゃなくて、いかにも類っぽい、シンプルで掃除がしやすそうな家具の配置だなあっていう印象。凹凸を作らないようにしてるなっていうのがわかる。
机の上にも物が無いし、電気配線もすっきりしている。床にもラグのようなマットすら置いてなくて、必要な時に座布団を出して来るというスタイルのようだ。今出してくれたその上に座らせてもらう。
「凄いね、本当に片付けの出来る人の部屋ってこうなってるんだ、勉強になる」
「あ、何か思ったより面白い感じ?」
「うん、面白いよ。他の場所も見ていい? あと、良かったらポイントや工夫なんかも教えてもらえると」
「いいよ。でも、お前変わってるよな。大体俺のそういうのを聞いたら潔癖だとか何とか言って引かれるんだけど」
「掃除や片付けの出来る人って仕事のタスク整理も出来そうでカッコよくない?」
「本当に出来ればな」
「うわっ、お風呂場も凄いピカピカ!」
おうちデートって何だっけ。でも、これはいい学習の機会だなって。ABCのサークル室の衛生管理にも生かせるだろうし。……ってそうじゃないそうじゃない。おうちデート! でもインテリアの工夫を見るのが楽しくてやめられない…!
類もボクが楽しいならそれでいいかとインテリアの解説をしてくれている。シャンプー台を廃止して吊り下げ方式にすることで床の滑りを抑えられるし掃除もしやすいとか、鏡の掃除の仕方に水垢を防止する方法まで教えてもらっちゃって。
そんな感じで楽しんでいたら、後ろの方からドンドンドンと強い音がした。インターホンもなしに突然のことでビックリして。ドアがノックされているのだと気付いた次の瞬間には、もうドアが開いてたんだ。
「おーいL、掃除機貸してくれ。うちのがぶっ壊れやがった」
「ちょっ、それはいいんですけどインターホンくらい鳴らしてくださいよ…!」
「いや、いるってわかってたからよ」
「ええっ!? 高崎先輩!」
「言ってなかったっけ、真下が高崎先輩の部屋だって」
「噂に聞いたことがある程度だよ!」
類と高崎先輩はインターホンもなしにドアのノックくらいで部屋に上がれるくらいの間柄なのか。あ、でも多分逆は出来ないんだろうけど。あれっ、でもいるってわかってたってことは、真下に生活音が聞こえてるってことですよね…?
「あの、もしかしてボク、うるさくしちゃいましたか」
「あ? 直か。誰かいるんだろうなとは思ってたけど、つか何でお前が」
「高崎先輩、俺ら付き合い始めたんすけど、この件はくれぐれもカズ先輩にはまだ内密にお願いします」
「交換条件は掃除機と餃子な」
「了解っす。いつがいいすか」
「掃除機は今。餃子はお前の都合が付くときでいい」
「類、餃子って、たまに作ってるっていうヤツ?」
「ああ、それ」
「私が今日食べたいです! 高崎先輩も一緒にどうですか」
「でも直、せっかくのデートなんだろ。俺がいていいのか」
「こういう学生のノリと言うか、近所付き合いみたいなのも体験してみたかったんです」
「おっ、話がわかるじゃねえか」
「わかりましたよ、作らせていただきます。……となると、買い物から始まるのか」
確かに想像してたおうちデートとはいくらか違う形にはなったんだけど、これはこれで貴重な経験には違いないし、きっと楽しいだろうから。恋人らしい雰囲気はこれからでも積み重ねられるけど、今しか出来ないことはその時にちゃんとやっておきたい。
「あっ、そうだ高崎先輩」
「あ?」
「掃除機持ってくるときに、先輩の布団掃除機貸してもらっていいすか」
end.
++++
L直に関して直クンが焦ってるような話はあったけど、くっついた話をやってなかったのでこうなった。
やっぱりムギツーの話になると高崎に乱入させたくなるなあってこんな展開になりがち。
でも、直クンが案外天然と言うか、真面目にインテリアと掃除の勉強を始めちゃうし、下宿生のノリで高崎と餃子食べたいって言っちゃうし。まあ、かわいいね!
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周りは本当に山だから。そう言われてやって来た緑ヶ丘大学の麓は、本当に山を切り開いた学園都市のようだった。緑ヶ丘大学は向島エリア有数のマンモス校で、学生数も多いし設備も最先端という印象がある。
今日は最寄駅からスクールバスに乗って来たからそんな学内を突っ切る形で目的の場所に向かっている。だけど、これはナビがないと絶対に迷って歩けない気がする。何回も来れば慣れるのかな。少し不安だ。
「凄いね、学内に郵便局がある」
「あ、使うトコないと思うけど銀行ATMはあっちな」
「学内にATMがあるの!?」
「えっ、青女はないのか?」
「ないよ!」
「郵便局は?」
「ないない!」
どうしてボクが緑ヶ丘大学に来ているのかというと、何と、今日は類の部屋でおうちデートというヤツなんです…! 何やかんやあって無事にLと付き合うことになって、2人の時は下の名前で、類と呼ばせてもらうことになった。
自分たちは一応定例会の議長と委員長という立場もあるから、その辺のメリハリはしっかり付けてという意味もある。それはそれ、これはこれでしっかりやっていかないといけないところだから。きっちりと気を引き締めていく。定例会議長を支えるのがボクの仕事だから。
見慣れない施設を見る度にボクはきょろきょろして「あれは何」「スポーツ用品店だよ」とか、「あれは何」「サークル棟だよ」などと観光案内を受けながら学内を突っ切っていく。広い学内を突っ切ったその先には、山と田んぼが広がっていた。その中にアパートが立ち並んでいる。
「類の家はどのアパート?」
「あれ。あのパステルグリーンの、左の方」
「本当に大学から近いね」
「徒歩5分だから、原付だったら1、2分くらいかな」
本当に大学から徒歩5分のところにあるコムギハイツという可愛い名前のアパートにやってきた。各棟4部屋からなるコムギハイツは広い駐車場を挟んで2棟あって、類はそのふたつ目の棟の方に住んでいるらしい。
「あの、本っ当に生活音が響くアパートだから周りからいろいろ聞こえるかもしんないけど」
「どれくらい聞こえるの?」
「テレビの音はデカけりゃ普通に聞こえるし、蛇口捻る音とか、壁際だったら今引き出し開けたなとかそんな感じ」
「結構聞こえるんだね」
「大学から近いっつーこともあって溜まり場になりやすくてさ。人が集まってるなって感じの声とか」
「確かにこれだけ近いと集まりやすそうだね」
「はい、大して面白くもない部屋だけど、どうぞ」
「お邪魔します」
部屋に入ると、類の部屋だなあという感動を覚えた。好きな人の部屋にいるとかそういう類の感動じゃなくて、いかにも類っぽい、シンプルで掃除がしやすそうな家具の配置だなあっていう印象。凹凸を作らないようにしてるなっていうのがわかる。
机の上にも物が無いし、電気配線もすっきりしている。床にもラグのようなマットすら置いてなくて、必要な時に座布団を出して来るというスタイルのようだ。今出してくれたその上に座らせてもらう。
「凄いね、本当に片付けの出来る人の部屋ってこうなってるんだ、勉強になる」
「あ、何か思ったより面白い感じ?」
「うん、面白いよ。他の場所も見ていい? あと、良かったらポイントや工夫なんかも教えてもらえると」
「いいよ。でも、お前変わってるよな。大体俺のそういうのを聞いたら潔癖だとか何とか言って引かれるんだけど」
「掃除や片付けの出来る人って仕事のタスク整理も出来そうでカッコよくない?」
「本当に出来ればな」
「うわっ、お風呂場も凄いピカピカ!」
おうちデートって何だっけ。でも、これはいい学習の機会だなって。ABCのサークル室の衛生管理にも生かせるだろうし。……ってそうじゃないそうじゃない。おうちデート! でもインテリアの工夫を見るのが楽しくてやめられない…!
類もボクが楽しいならそれでいいかとインテリアの解説をしてくれている。シャンプー台を廃止して吊り下げ方式にすることで床の滑りを抑えられるし掃除もしやすいとか、鏡の掃除の仕方に水垢を防止する方法まで教えてもらっちゃって。
そんな感じで楽しんでいたら、後ろの方からドンドンドンと強い音がした。インターホンもなしに突然のことでビックリして。ドアがノックされているのだと気付いた次の瞬間には、もうドアが開いてたんだ。
「おーいL、掃除機貸してくれ。うちのがぶっ壊れやがった」
「ちょっ、それはいいんですけどインターホンくらい鳴らしてくださいよ…!」
「いや、いるってわかってたからよ」
「ええっ!? 高崎先輩!」
「言ってなかったっけ、真下が高崎先輩の部屋だって」
「噂に聞いたことがある程度だよ!」
類と高崎先輩はインターホンもなしにドアのノックくらいで部屋に上がれるくらいの間柄なのか。あ、でも多分逆は出来ないんだろうけど。あれっ、でもいるってわかってたってことは、真下に生活音が聞こえてるってことですよね…?
「あの、もしかしてボク、うるさくしちゃいましたか」
「あ? 直か。誰かいるんだろうなとは思ってたけど、つか何でお前が」
「高崎先輩、俺ら付き合い始めたんすけど、この件はくれぐれもカズ先輩にはまだ内密にお願いします」
「交換条件は掃除機と餃子な」
「了解っす。いつがいいすか」
「掃除機は今。餃子はお前の都合が付くときでいい」
「類、餃子って、たまに作ってるっていうヤツ?」
「ああ、それ」
「私が今日食べたいです! 高崎先輩も一緒にどうですか」
「でも直、せっかくのデートなんだろ。俺がいていいのか」
「こういう学生のノリと言うか、近所付き合いみたいなのも体験してみたかったんです」
「おっ、話がわかるじゃねえか」
「わかりましたよ、作らせていただきます。……となると、買い物から始まるのか」
確かに想像してたおうちデートとはいくらか違う形にはなったんだけど、これはこれで貴重な経験には違いないし、きっと楽しいだろうから。恋人らしい雰囲気はこれからでも積み重ねられるけど、今しか出来ないことはその時にちゃんとやっておきたい。
「あっ、そうだ高崎先輩」
「あ?」
「掃除機持ってくるときに、先輩の布団掃除機貸してもらっていいすか」
end.
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L直に関して直クンが焦ってるような話はあったけど、くっついた話をやってなかったのでこうなった。
やっぱりムギツーの話になると高崎に乱入させたくなるなあってこんな展開になりがち。
でも、直クンが案外天然と言うか、真面目にインテリアと掃除の勉強を始めちゃうし、下宿生のノリで高崎と餃子食べたいって言っちゃうし。まあ、かわいいね!
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